■□■□■□■□■□■□■□■  若狭ネット第21号(1996/1/28)  ■□■□■□■□■□■□
 
根底から揺らぎ始めた原発耐震設計審査指針
 
 私たちが昨年10月30日の科技庁交渉で指摘した「原発耐震設計審査指針での地震動の近距離カット」の話は一体どうなったのでしょう?この「カットの暴露風」は、翌日の朝日新聞をにぎわし、福井県下はもとより全国各地にさわやかな旋風を巻き起こしました。この旋風は未だにやまず、科技庁と原子力安全委員会の懐を震え上がらせながら、吹き続けています。この2ヶ月の間に私たちが知り得た情報は、耐震設計審査指針の根拠をますます揺るがせ、指針が「倒壊寸前」であることを確信させるに足るものばかりです。今回は、その一部を紹介します。
 
「最大速度のカット」を認めた科技庁
 
 10月30日の交渉で「審査指針は、震央距離が短くなると地震動の最大速度をカットしている(以下「近距離カット」と呼ぶ)」と指摘され、「カットした覚えはない」とうろたえていた科技庁はその後、カットしている事実を正式に認めました。しかも、「1979年に大崎順彦氏が発表した基準地震動評価に関するガイドライン」でそうなっているというのです。これは今村修衆議院議員による11月10日付質問主意書への総理大臣回答(12月22日)として出された見解です。
 私たちは、事実を確かめるため、この「大崎のガイドライン」のコピーを出すよう、科技庁に資料請求しましたが、2週間以上たった今なお出てきません。11月6日付で科技庁に提出した「最大速度の近距離カット」の根拠を出すよう求めた資料請求にも、なしのつぶてです。
 
大崎氏は最大速度をカットしていない
 
 では、地震動の最大速度の近距離カットは耐震工学では常識なのでしょうか?「大崎の方法ではもともと最大速度を近距離カットするようになっている」というのは本当でしょうか?どうも、そうとは限らないようです。
 大崎氏自身が一昨年に出版した著書「新・地震動のスペクトル解析入門」(鹿島出版会)に掲載されているプログラムを見て下さい。このプログラムでは最大速度は一切カットされていませんし、本文中のどこにも近距離カットの話は書かれていないのです。しかも、大崎氏が「ガイドライン」を出した2年後の1981年に「コンクリート工学」(19巻7号,pp.11-16)という雑誌に大崎氏が寄稿した論文では最大速度を近距離カットしない図をわざわざ掲載しているのです。これらの事実は「最大速度の近距離カットは耐震工学の常識ではない」ことを大崎氏自身が認めていることになります。
 
指針では「直観的にカット」した?
 
 ところが、ここにおもしろい資料があります。近距離カットについて福井県と交渉した昨年11月22日に県が出した英文資料(文献参照)です。これは原子力発電所耐震設計技術指針JEAG4601(1987)に大崎の手法の参考文献として「大崎のガイドライン」と共にあげられているものです(ちなみに、技術指針にも近距離カットの話は一言も書かれていません)。この英文資料には次のような趣旨のことが書かれています。
 地震で倒壊した墓石の幅を高さで割った値に重力加速度を掛けると、この墓石を倒すに必要な加速度が得られ、倒壊した墓石に働いた地震動の最大加速度がこの値以上であることがわかる。そこで、福井地震(1948,M7.3)、伊豆地震(1974,M6.9)、大分地震(1975,M6.4)の墓石倒壊データを見ると、「ある距離内の震央域(震央からある一定距離以内の領域)では最大加速度は一定値に留まり、この距離を超えると徐々に弱まる傾向にある。」「最大加速度の打ち切られる(カットされる)範囲をここでは『近距離』と言う。」
 これは余りに乱暴な議論です。倒壊した墓石からは「これ以上の加速度が作用した」としか言えず、実際にはもっと大きかった可能性があります。これだけでは「震央距離が短くなると最大加速度をカットする」根拠にはなり得ません。また、最大加速度をカットできるからと言って最大速度がカットできるわけでもありません。加速度の継続時間(地震波の周期)によって最大速度が変わるからです。つまり、倒壊墓石では最大速度を推定できないのです。最大速度については地震波のデータ(スペクトル特性)が必要です。ところが、中・遠距離の地震動記録はありますが、近距離ではこれがないのです。英文資料には次のように書かれています。
「4)近距離パラメータへの外挿:実際には、この提案(引用者注:岩盤での地震動による施設の応答スペクトルの提案)の中で定義されているような近距離岩盤での地震動のスペクトル特性に関して、利用できる情報は全くない。これらの資料がないため、極めて直観的な判断が求められることは避けられない。」
 すなわち、「大崎のガイドライン」が発表された1979年当時、震央近くの地震動データは全くないこと、したがって、震央距離が短くなると最大速度を(最大加速度も)カットしてよいという根拠に乏しく、全く直観的な判断によらざるを得ないことを、大崎氏自身が公言しているのです。
 これですべての謎が解けました!科技庁は、最大速度の近距離カットの根拠を出したくても出せないのです。まさか、耐震設計の偉い先生たちが寄り集まって、文殊(もんじゅ)の知恵を絞り「直観的にカットした」とはとても言えないでしょう。
 
誰が責任をとるのか?
 
 大崎氏は、原子力安全委員会に請われて1979年のガイドラインを「私案」として出し、「最大速度のカット」を直観的に判断したのかも知れません。しかし、先述のように、その大崎氏は最近の著書で、その判断には一切触れず、最大速度をカットしないプログラムを掲載することで近距離カットを事実上撤回しています。大崎氏の私案を指針に格上げしたのは原子力安全委員会なのではないでしょうか。だとすれば、その責任は原子力安全委が負わねばなりません。原子力安全委は「最大速度の近距離カット」の根拠を出すべきです。出せないのであれば、カットが誤りであることを素直に認めるべきです。
 
根本が揺らぐ耐震設計審査指針
 
 これだけでも、今の耐震設計審査指針は根本から崩れます。なぜなら、全原発・核施設で想定している「マグニチュード 6.5の直下地震」をはじめ近距離地震に対する地震動評価が大きく変わるからです。「剛構造」の原発がこの近距離地震に最も弱いことを考えると、事は重大です。また、今の原発・核施設が阪神・淡路大震災級の直下地震に耐えられないことも、最大速度をカットしない大崎スペクトルを使って示せます。しかも、松村組技術研究所で得られた阪神・淡路大地震の観測記録からは、この大崎スペクトルでも実際の地震動を過小評価していることを示しているのです。
 
指針の根拠が次々と覆る
 
 指針策定時の地震学者の見解が、当の地震学者自身の手で撤回された例は他にもあります。直下地震の規模をM6.5に限定する根拠となった経験則が、今ではM6.5からM7.0に引き上げられています。考慮すべきB・C活断層を5万年前までに限るとした根拠も揺らいでいます。
 原子力安全委による1981年の耐震設計審査指針策定以来、この10数年間に得られた新たな知見が全く顧みられず、阪神・淡路大震災も何ら教訓にされていないのです。
 科技庁、原子力安全委、電力会社を追及し、耐震設計審査指針や原発・核施設の設置許可申請書(ここにも近距離カットの話は書かれていない)を徹底的に批判し、今の原発・核施設が阪神・淡路大震災クラスの直下地震に耐えられないことを暴露しましょう。すべての原発・核施設の建設・計画・運転の中止を求めましょう。
 
文献:Hisada,Ohsaki,Watanabe & Ohta:Design Spectra for Stiff Structures on Rock, Proc. the Int.Conf.on Microzonation, Nov.1978