■□■□■□■□■□■□■□■  若狭ネット第26号(1996/9/7)  ■□■□■□■□■□■□
 
何と無責任! 薬害エイズ事件よりひどい!
原発耐震設計の根拠を問われ、逃げ回る政府
 
 阪神・淡路大震災から1年8ヶ月。その後も宮城県など各地で地震が多発。「日本は地震の活動期に入った」と、誰もが実感しています。次に起こるのは一体どこ?不安は募るばかりです。中でも一番心配なのは、高速増殖炉もんじゅを含め、全国に51基もある原子力発電所。しかも、その立地点は大地震が起こると予想されている所ばかり‥‥。
 
 原発の直下、またはその近くで大地震が起きたら?地震で原発の機器・配管が壊れ、広島型原爆何百発分もの放射能が放出されたら‥‥?チェルノブイリでは数百キロ離れていても放射能で極度に汚染され、住民が避難しています。立地点周辺はもとより、日本のどこに住んでいても、原発重大事故による放射能災害から逃れることはできないのです。
 
 阪神・淡路大震災から1年8ヶ月の短い間に、私たちは全国の皆さんと共に、2回の科技庁交渉をもち、科技庁への3回の資料請求を行い、関西電力に公開説明会を開かせました。その間に、今村修衆議院議員が質問主意書を2回出し、総理大臣から答弁書が出されています。
 
 国や電力会社は言います、「原発の耐震設計は十分だ」と。ところが、「本当ですか?」とつぶさに聞くと、返ってくるのは曖昧な答えばかり。結局、明らかになったのは、今の耐震設計には次のように重大な欠陥があること、にもかかわらず、その責任を誰もとろうとしていないことでした。
 
岩盤に建つ原発は、直下地震や近距離地震による短周期のビビリ振動に弱い
 
 「原発は岩盤の上にしっかり固定されているから、揺れが小さく安全だ」というのは大嘘でした。
 地震による破壊現象では、揺れの大きさだけでなく、揺れの周期が重要なのです。この揺れの周期が建物の固有周期に近いと、小さな揺れでも建物を大きく揺さぶり、壊してしまうのです。ちょうど、ブランコの周期に合わせてうまくこげば、ブランコが大きく揺れるように。原発の建屋や機器の固有周期は一般家屋より小さく、0.1〜0.4秒です。もし、この短周期の大きなビビリ振動が原発を襲うと、建屋や機器はひとたまりもなく壊れてしまいます。
 
 ところで、地震による揺れ(振動)は色々な周期の揺れが合わさったものです。地震による揺れのうち、どの周期の揺れが大きいかによって建物や機器の揺れ具合が全く違ってきます。
 揺れの周期によって揺れの伝わり方も違います。低い声は遠くまで届きますが、甲高い声はあまり遠くへは届きません。これと同じように、周期の短い揺れはあまり遠くへ伝わりません。だから、遠距離地震では長い周期の揺れが大きく、直下地震や近距離地震では短い周期の揺れが比較的大きいのです。
 
 この揺れの伝わり方は地盤の性質によっても違います。短い周期の揺れは固い岩盤ではよく伝わりますが、軟らかい地盤ではあまりよく伝わりません。ところで、原発は「固い岩盤」の上に立っていますので、短周期の揺れが原発によりよく伝わるのです。
 だから、「固い岩盤」にしっかり固定された原発は直下地震や近距離地震に一層弱いのです。
 
原発周辺の地下深く隠れた活断層を地表調査等で発見できる保証はない
 
 では、直下地震や近距離地震をもたらす活断層が原発周辺の地下十数kmに存在し、大地震を起こす恐れはないのでしょうか。
 
 実は、地下十数kmの伏在活断層を直接確認する方法はないのです。このことは国も認めました。その代わりに、大地震が起こると地表や地形などにその「痕跡」が残るから文献調査や現地調査でわかると国は主張してきました。
 
 ところが、この百年間ほどの間に内陸で起きたM6.5以上の大地震23例のうちほぼ半数の12例(M6.5〜M7.0の7例とM7.0〜M7.5の5例)で地震を起こした活断層が地表に現れませんでした。そこで、国に、これらの地震例ではどのような「痕跡」から伏在断層をどのように推定できるのか問いただしました。すると、「詳しく調べていないから痕跡の具体的な証拠は示せない」、「推定の仕方を具体的に説明することもできない」との「回答」でした。つまり、何の根拠もなく「地震の痕跡から伏在断層を推定できる」と口から出任せを言っていたのです。
 
隠れた活断層を見逃す恐れがあるから
M 6.5 の直下地震を想定しているが、それで十分だという根拠はない
 
 今の技術では地下十数kmに存在する活断層を見つけ出せるという保証がありません。そこで、国は、このような活断層を見逃す可能性を考慮して、すべての原発にM6.5の直下地震を想定しています。ところが、「M6.5以上の地震をもたらす活断層を見逃さない」という保証は何もないのです。
 
 すでに明らかなように、M6.5を超えた地震23例中12例で地表に活断層が頭を出していません。国も、M6.5以上の地震でも地震断層が現れない場合があることを認めました。しかし、地震が起こったことがはっきりしており、地震断層が現れていない12例の地震に対して、伏在活断層の「痕跡」も、その痕跡から伏在活断層を推定する方法も何ら明らかにされていないのです。これでは、「M6.5以上の地震をもたらす伏在活断層は見逃さない」と言えないのです。
 
 すべての原発でM6.5の直下地震を想定するだけでは決定的に不十分です。少なくとも、阪神・淡路大震災のようなM7.2の直下地震が原発の直下で起こっても耐えられるようにすべきではないでしょうか。なぜそうしないのか、国は全く説明できないままです。
 
 
M 6.5 の直下地震による揺れは震央から7km 圏内で変わらない」
とは原子力委員会で決めていない!?
 
 起こりうる直下地震の規模(マグニチュード)が過小評価されているだけではありません。直下地震による揺れの大きさも過小評価されています。具体的には、原発の直下でM6.5の地震を想定してはいますが、そこでは、震央に相当する原発での揺れと、そこから7km離れた位置での揺れとが全く同じと評価されているのです。すなわち、震央から7km圏内はどこでも地震による揺れは変わらないとされているのです。これにより、M6.5の直下地震による震央での揺れは16.9cm/秒となるはずが、13.4cm/秒と80%以下に小さく評価されるのです。
 
 普通に考えれば、地震の震源に近いほど揺れは大きいはずです。地震の揺れが震源断層から離れて遠くへ伝わっていくほど、地震のエネルギーは拡散されますから、地震の揺れは小さくなるはずです。最近の地震学界でも、このように評価されています。
 
 ところが、国は、このような立場をとらず、M6.5の直下地震の揺れは震央から7km圏内で変わらないと評価しています。一体なぜなのでしょう。このことを国に問いつめると、「耐震設計審査指針ではそのような評価をするよう決めてはいない」と逃げる始末。では、どこで誰がこのように決めたのでしょう。国の回答によれば、個々の原発の設置許可申請書の審査で必要に応じてそれを確認しているとのこと。責任は原子力(安全)委員会にはなく、個々の安全審査をした委員にあるとでも言うのでしょうか。
 
原発に不利な直下地震や近距離地震の揺れは大幅に過小評価されている
 
 直下地震の揺れの過小評価は、実は、「大崎のガイドライン」と呼ばれる方法の注記に基づいて揺れを求めるとそのようになることがわかっています。
 
 この大崎のガイドラインの注記には、地震の規模(マグニチュード)に応じて「震央域外縁距離」を定め、その圏内では、地震の揺れが震央域外縁距離の位置での揺れと同じと「見なしてもよい」と曖昧な表現で書かれています。ところが、どのような条件でならこうしてよいのかについては何も書かれていません。それもそのはずで、このガイドラインが書かれた時代には、大きな揺れを記録できる地震計(強震計)も少なく、墓石の倒壊記録だけしかありませんでした。だから、条件を示しようがなかったのです。本当にこのように見なしてよいのかどうかについても、確たる根拠は何もないのが実状です。だから、「どちらでもよい」という曖昧な表現になっているのです。
 
 このガイドラインは学界でも全く引用されず、「震央域外縁距離」という用語も地震関係のどの事典にも、どの学術論文にも出てきません。「大崎のガイドライン」と科技庁が呼んでいる文書には、奇妙なことに、著者名がなく、本文のない「付録」という体裁になっています。しかも、英語で書かれているにもかかわらず、どの国際会議にも発表されず、どの学術雑誌にも掲載されていません。だから、引用のしようがないのです。科技庁は、「これは大崎順彦氏が書いたものだ」と言っていますが、当の大崎氏(2000年現在は故人)は、最近の著書で、震央域外縁距離内でも震央に近いほど揺れが大きくなるプログラムを用い、震央域外縁距離という言葉さえ使っていません。
 
 このように現在では大崎氏自身も使わず、学界でも全く使われず、死語になっているものが耐震設計ではなぜか生き続け、直下地震や近距離地震を過小評価する根拠になっているのです。しかも、地震の規模が大きいほど、震央域外縁距離が大きくなるため、地震の揺れが一層大幅に過小評価されます。例えば、M7.2の直下地震では震央域外縁距離は12kmになり、本来なら震央で29.5cm/秒の揺れが震央距離12kmでの21.7cm/秒に置き換えられ、3/4以下の揺れに過小評価されるのです。
 
 国はこの大崎のガイドラインを原発の安全審査に用いておきながら、その根拠を詳しく問いつめられると、原子力委員会でも原子力安全委員会でも「これを一般的に用いることは決めていない」と逃げ出しました。その妥当性は個々の安全審査で「必要に応じて確認されている」というのです。ところが、個々の原発設置許可申請書にはどこにもそれを確認したという記述はありません。責任逃れもいい加減にしてほしいものです。
 
 より正確に言うと、耐震設計審査指針の「解説」の中では、「実測結果に基づいた経験式は、地震のマグニチュードに応じた震源域の外ではその適用可能性も実証されているが、一般に震源域内では大き目の値を与えることもあり、震源域内では震源近傍の地震動の諸特性を考慮して補正あるいは震害状況から地震の強さを推測する等の方法によることは差し支えない」と書かれています。この補正の仕方を書いた資料は大崎のガイドラインしか存在しないのですが、これが擁護しきれなくなることを予想してかどうかわかりませんが、「震源域内で揺れを補正する」ということだけ決め、大崎のガイドラインで補正することは決めなかったというのです。
 
地震が起こるまでは、地表活断層のどこが震源になるかわからないから
活断層の中央に震央を設定する!?
 
 原発の耐震設計では、活断層が原発周辺に存在していても、その活断層によって引き起こされると考えられる地震の震央は、原発に最も近い位置ではなく、活断層の中央に設定されています。その理由は、地震前には震央を特定できないからだといいます。つまり、国は、確認された活断層のどこに震央がきてもおかしくないことを認めているのです。それなら、最悪の場合を想定して、活断層の上で原発に最も近い位置に震央を設定すべきではないでしょうか。
 
 実際、過去の地震例を調べると、既知の活断層の中央に震央が来るのはまれです。既知の活断層からかなりはずれた位置や、活断層が何も確認されていないところに震央がきている場合が多いのです。したがって、既知の活断層の中央に震央を想定する今の方法では、多くの場合、起こりうる地震を過小評価していることになるのです。少なくとも当該活断層の最も原発に近いところを震央とすべきではないでしょうか。
 
耐震設計審査指針の根拠が揺らいでいる
 
 国や電力会社に対する1年8ヶ月の追及で、耐震設計審査指針および安全審査が近距離地震とりわけ直下地震を大幅に過小評価していることがわかりました。このことは原発の耐震設計にとっては致命的です。
 
 それは、最初に述べたとおり、
@原発の重要施設・建物の固有振動数が0.1〜0.4秒であり、このような短周期の揺れの強い地震動に弱いこと、
A近距離地震ほどこのような短周期の揺れが強いこと、
B原発の建つ「固い岩盤」は短周期の揺れをよく伝えること、
したがって、岩盤の上に建つ原発は直下地震に弱いからです。
 
 このことから、耐震設計審査指針では、全原発でM6.5の直下地震を限界地震として想定しており、多くの原発ではこの地震動が短周期側での事実上の設計用基準地震動になっています。ところが、このM6.5の直下地震の地震動が根拠の示せない「大崎の方法」で過小評価されていること、直下地震の規模をM6.5に限定する根拠も薄弱であることがはっきりしたのです。
 
 また、地震の震央についても、周辺の活断層の「原発に最も近い位置」ではなく「原発から離れた活断層の中央」に設定していますが、これも恣意的で根拠がないこと、これによっても地震動が過小評価されていることがはっきりしました。
 
 原発は起こりうる直下地震や近距離地震に耐えられる保証がない ---- これがこれまでに得られた結論です。
 
 阪神・淡路大震災を教訓とするのなら、直下地震に弱い全原発の運転を即刻止める以外にないのです。
 
参考文献
[1] 内閣総理大臣橋本竜太郎:衆議院議員今村修君提出「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」における地震動策定法と活断層評価法に関する質問に対する答弁書,内閣衆質136第25号(1996.8.12)
[2] 内閣総理大臣村山富市:衆議院議員今村修君提出「平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会」の報告書に関する質問に対する答弁書,内閣衆質134第11号(1995.12.22)
[3] 科学技術庁原子力安全調査室(担当:吉岡):資料請求に対する回答,1996.5
[4] 原子力委員会:発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(1978.9.26)
[5] 原子力安全委員会:発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(1981.7.20)
[6] 大崎順彦:新・地震動のスペクトル解析入門,鹿島出版会(1994.5.25)
[7] 原子力安全委員会・平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書(1995.9)
[8] 池田安隆・島崎邦彦・山崎晴雄:活断層とは何か,pp.165,東京大学出版会(1996.1)
[9] 山科健一郎・松田時彦・有山智雄:「1984年長野県西部地震による地変」,東京大学地震研究所彙報,pp.249-279,60巻(1985)
[10]松田時彦:「最大地震規模による日本列島の地震分帯図」,東京大学地震研究所彙報,pp.289-319,65巻(1990)
[11]JAPAN GUIDELINE FOR EVALUATION OF BASIC DESIGN EARTHQUAKE GROUND MOTIONS,OCTOBER 1979