2001年3月21日
福井県知事 栗田 幸雄 様
 
高速増殖炉「もんじゅ」の安全審査入りを
事前了解しないで下さい
 
若狭連帯行動ネットワーク
 
 3月21日に閉会される県議会では、高速増殖炉「もんじゅ」に関する議論が尽くされていません。貴職も、このままでは「もんじゅ」改造工事の安全審査入りに事前了解を与えることなどできないはずです。私たちは少なくとも下記の5点について、議会や公開討論会などの場で県民の声を十分に聞き、論議を尽くすべきだと考えます。それなしには絶対事前了解しないよう強く要請いたします。
 
1.「もんじゅ」の原子力開発利用長期計画(長計)における位置づけは曖昧なままです。
 貴職は「長計でもんじゅの位置づけは明確に示された」と評価しています。しかし、事故前とは異なり、「もんじゅ」路線では経済性の見通しが全くなく、これを改良したトップエントリー型の実証炉計画も中止され、高速増殖炉の実用化時期も事実上無期延期されています。文部科学省の今村努研究開発局長は2月16日の県会説明会後に「段階ごとの評価の結果によっては撤退もあり得る」と語っているほどです。貴職もご存じの通り、国際的な流れは高速増殖炉開発からの撤退なのです。
 新型転換炉「ふげん」では、先の長計で実証炉計画につながる明確な位置づけが与えられていたにもかかわらず、長計確定後すぐに実証炉計画が中止され、「ふげん」も廃炉が決まり、宙ぶらりんになりました。「もんじゅ」も結局は「ふげん」と同じ道をたどるのではないでしょうか。「やっぱりダメだった」ということを確認するために、危険極まりない「もんじゅ」をわざわざ動かす意味が一体どこにあるのでしょうか。撤退するのであれば早いほうが傷口が小さくて済みます。
 福井県はこれまで、危険な核施設を建てて実験し途中で放棄するという身勝手な原子力政策に翻弄されてきました。この歴史を「もんじゅ」でくり返すのはやめてください。福島県のように、原子力政策に貢献してきた自治体として、国の原子力政策や電力会社の電源開発計画に振り回されるのではなく、エネルギー政策と原発に頼らない地域振興を独自に検討し、「もんじゅ」再開中止を提言して下さい。
 
2.「もんじゅ」は立地点の地域振興につながりません。
 昨年末の県議会では、もんじゅ再開の取引条件として「福井空港拡張工事」や「北陸新幹線の福井県への延長」が持ち出され、「もんじゅ」事前了解をめぐる議論が棚上げにされました。今回の県議会ではこの続きが議論されると県民は密かに「期待」していたのですが、一体どうなったのでしょうか。県知事や県議会は、22万人署名に込められたもんじゅ再開反対の県民の声を真摯に受け止めず、取引条件をつり上げるために利用しているのではないでしょうか。
 県会議長は3月13日、「もんじゅが本当に安全なら地域振興はいらない」と発言しています。しかし、危険なものと「地域振興」を取り引きするという発想は、県民を愚弄するものです。他方、県は「もんじゅ」再開に対する地域振興は安全審査の後で考えるとしていますが、安全審査で国が「安全」だと保証するのですから、「地域振興」など問題にならないはずです。「もんじゅ」が地域振興の妨げになるというのであれば、「もんじゅ」再開を拒否し、地域振興のために廃炉を求めるのが最善ではないでしょうか。一体どのような理由付けで「もんじゅ」再開の「地域振興」を求めるつもりなのでしょうか。また、福井空港拡張工事や北陸新幹線の福井県への延長が「もんじゅ再開」や嶺南地方の地域振興とどのような関係にあるのでしょうか。地域振興という観点から議論するのであれば、「もんじゅ」の建設・試運転・操業開始・事故により立地点がどのような影響を受けたかをまず総括すべきではないでしょうか。その上に立って、県民の立場から、地域振興につながらない「もんじゅ」再開の中止を国に提言して下さい。
 
3.核燃料サイクル開発機構は旧「動燃」の体質を引きずっています。
 「もんじゅ」を改造し運転するのは、旧「動燃」の看板を掛け替えただけの「核燃料サイクル開発機構」(核燃機構)です。危険なもんじゅを改造し運転する技術的能力や技術者倫理、社会的管理能力が核燃機構に保証されていると言えるのでしょうか。
 蒸気発生器細管検査装置の開発不備問題など、自分に不都合な情報が内部告発を通じてでなければ出てこないという実態をみれば、旧動燃の事故隠しの体質はほとんど変わっていません。全面的な情報の公開とオープンな議論でこの問題が目に見える形で「解決」される必要があります。東海再処理工場の爆発事故で明らかになった核施設管理能力の欠陥、JCO事故で明らかになった最終溶解工程での違反行為を助長するブレンディング要求など核燃機構の体質には横柄で手前勝手な体質が散見されます。「もんじゅ」改造工事の安全審査の申請書類は、核燃機構が作成し提出するわけですから、自分に都合の良いデータしか出さず、また、記述しないのではないかという疑念が浮かびます。核燃機構が信頼できるということを、県民が納得できる目に見える形で示されることが不可欠です。
 
4.国の安全審査は信頼できません。
 原子力施設の安全審査を行う文部科学省・経済産業省および原子力安全委員会の審査能力に、みな疑問を持っています。「もんじゅ」のナトリウム漏えい火災事故では、温度計のずさんな設計上の欠陥を見抜けませんでした。安全審査に違反する運転操作が運転マニュアルに記載されていても、それを見抜けませんでした。JCO事故では、審査指針を整備しないまま「審査」が行われ、事故の起こった最終溶解工程の安全審査そのものが行われませんでした。実際の工程に無理があることを見抜けず、違法行為が行われる素地を作った責任は国の安全審査にもあります。
 原子力安全委員会の貧弱な体制では、基本設計しか審査できず、詳細設計は審査対象外だとされ、行政による「設計工事認可」任せになっています。事務局が内閣府に移っても、現在の審査体制では安全は確保されえません。国の安全審査体制がもんじゅ事故とJCO事故の後でどのように変わったのか、国は県民に十分説明する義務があり、県は国に説明を求める義務があります。
 仮に「もんじゅ」が安全審査に入った場合に設置するとしている県独自の専門委員会には、原子力規制上の権利は何もありません。結局は、国の審査結果を確認するだけのセレモニーに終わるのではないかと県民は見ています。国の安全審査体制を専従審査員制度に代え、安全基準を抜本的に厳しくするよう国に求めて下さい。また、安全審査途中で全情報を公開し、審査結果を出す前に、県独自の専門委員会での議論や県の公開シンポジウムで出た意見を国が十分検討し、疑問点を十分説明するよう求めて下さい。そのため、これらを安全審査上に明確に位置づけるよう、国に求めて下さい。
 
5.住民は被ばくさせられ損です。
 JCO事故では、中性子線に被ばくした周辺住民が公衆の年被ばく線量限度1mSvを超えて被ばくしているのに、国は「事故時にはそれを超えても違法ではない」として切り捨てています。これでは、「もんじゅ」で事故が起きたとき、住民は被ばくさせられ損です。急性障害で苦しむほどに被ばくしなければ、「心配ない」と切り捨てられるのです。国と自治体はJCO事故以降あわてて防災訓練を行い始めましたが、公衆の被ばく限度以上に被ばくさせることが前提になっています。国の実際に行っている被ばく者救済措置は極めていい加減です。福井県は、公衆の被ばく限度を超えては被ばくさせないという観点から退避・避難基準を過去に作っていますが、国の退避・避難基準に合わないため「初期活動開始指標」というわけのわからないものにさせられています。これでは国の防災計画や救済措置を信頼できません。少しの被ばくでも数十年後にはガンや白血病になる危険が増します。とくに、赤ん坊や子供の健康が心配です。原発事故による一切の被ばくに最後まで責任を持ち、住民救済措置を明確にするよう国に求めて下さい。
−以上−

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