■□■□■□■□■□■□■□■ 若狭ネット第48号(1999/3/9) □■□■□■□■□■□■□
 
長計改訂に向け、
諸勢力が新たな原子力政策を画策
 
反原発の立場から
原発推進・プルトニウム利用を徹底して批判しよう!
 
 
 現行長計の改訂に向け、電力独占、原子力産業界、科技庁、通産省などが動きを強め、それぞれの利害から主張を張り合うツバぜりあいが始まっています。電力は電力中央研究所本部に原子力政策室を設置し昨年から政策転換の提言を出し始めました。科技庁は原子力産業会議に論点のとりまとめを委託し、あくまで高速増殖炉路線を継続しようとしています。
 これら諸勢力の主張とその真の狙いを明らかにし、それらを厳しく批判していくことが重要となっています。ここでは現在の状況をおおまかにまとめました。3月27日のTMI20周年の討論集会で、この点について、より深く議論するよう呼びかけます。
 
最初からつまずき破綻していた現行長計
 
 現行長計は原子力委員会によって1994年6月に策定され、軽水炉の推進と高速増殖炉の2030年実用化を原子力政策の基本としています。
 しかし、1995年8月には新型転換炉実証炉計画からの撤退が決まってしまい、最初から長計はつまずいてしまいました。   
 しかも、その年末には当時の動燃のもんじゅが想定外のナトリウム火災事故を起こし、動燃解体という主張が政府・与党からも出される事態に陥りました。そのうえ、97年3月には動燃東海村の再処理工場の使用済み燃料アスファルト固化施設で爆発事故が起こってしまい、続くふげんの重水漏れ事故、ウラン廃棄物ズサン管理、予算流用事件等も相次ぎ、日本の核燃料サイクル推進が破綻してしまいました。
 大蔵省からは、膨大な予算の負担からもんじゅ開発中止の意見も出てきました。通産省も再処理や廃棄物処理処分の巨額な資金を問題視しこれらの技術開発について厳しくチェックする必要性を訴えました。
 現行長計は通用し得ない所まで追い込まれたのです。
 
巻き返しに転じる科技庁・原子力委員会
 
 これに対して、科技庁・原子力委員会は巻き返しを図り、まず、97年8月に出された動燃改革検討委員会の検討結果では、動燃を解体ではなく改組によって存続させる方向を打ち出すことに成功しました。10月の高速増殖炉懇談会の最終報告書では、「もんじゅ」を生き返らせただけでなく、破綻した長計をも生き返らせました。最終報告書は、現行長計にうたっている「高速増殖炉の2030年頃の実用化」を既定路線として再確認し、もんじゅの研究開発の中断は「大きな損失」だと断定しています。
 9月30日の原案の段階では、高速増殖炉の実用化見通しの判断は「尚早」として「2030年頃実用化」とする現行長計を基本的に否定するものになっていました。そして高速増殖炉の研究開発計画を「見直して修正する」という選択肢にまで言及していました。それが、10日後の最終報告書では長計を全面支持するものに様変わりしたのです。科技庁・原子力委員会の巻き返しが功を奏した形です。
 
山地らは、電力の利害から原発長寿命化・プルトニウム政策転換を主張
 
 この巻き返しに対する電力サイドからの逆の巻き返しがすぐに始まりました。
 山地憲治氏をはじめ6名からなる原子力未来研究会が1997年12月から月刊誌「原子力工業」(現「原子力eye」)に連載を始めたのがそれです。これは翌年9月まで続きました。(これに加筆されたものが日刊工業新聞社から「どうする日本の原子力」として昨年11月に発行さ
れた)
 山地氏は東大教授になる前の約17年間、電力中央研究所で研究職にありました。電中研は電力各社の資金で運営され、電力の意向を直接反映しています。
 また、他の5名は大学、研究所、シンクタンク、電力会社の中堅層であり、彼らも電力の意向を強く反映しています。
 彼らの主張ははっきりしていて、高速増殖炉は「『夢の原子炉』ではない」とし、実証炉計画は「白紙に戻し」、増殖性能の保険としての「もんじゅ」の期限付運転を提唱しています。プルトニウムの「供給ありき」の従来の政策から、「需要に合わせて再処理を行う政策に転換すべき」と断言し、六ヶ所再処理施設の再考を提言しています。
 プルサーマルは余剰プルトニウムが発生する場合の選択肢として容認していますが、電力会社にとって経済的メリットがないことから電気料金制度改訂やMOX輸送への国のバックアップを求めています。使用済燃料については再処理のための戦略的貯蔵に加え、それを超える分の直接処分の可能性を探るよう提言しています。
 クリアランスレベル導入を目指す電力を代表して、彼らは放射性廃棄物を「原子力問題として特別視せず」、「一般の有害廃棄物と整合的に扱うべきだ」と断じています。
 原発の新規立地にも積極的で、地域振興策の見直しで立地が促進されるよう提言しています。
 また卸電力の自由化が進む中、既存の原発については他電源との競争力があると断定し、原子炉延命化を打ち出しています。
 彼らの主張は関電などが原子力推進策に対して持っている、本音を代弁するものになっています。つまり、いまある原発をできるだけ長期にわたって強硬運転し、減価償却が終わった原子炉から莫大な利益を上げようという経済性最優先の姿勢です。プルトニウム利用は保険に留めて、使用済燃料など核廃棄物対策に重点を置くよう求めているのです。
 
電中研は、プルトニウム利用に含みを持たす方向にも配慮する主張
 
 原子力未来研究会の連載が終わると電力中央研究所による全面的な政策提言が続きました。
 1997年7月に電力中央研究所本部に原子力政策室が設置され、1年間の検討結果を室長の平岡氏がまとめ、原産新聞に「原子力の課題と今後の改革に向けて」と題する見解を98年10〜11月に発表したのです。
 その見解は、原子力推進を基層と上層の2層に区分し、基層としてワンススルーと一部プルサーマルを基本とする自己完結的な軽水炉路線を押し進め、上層としては再処理、高速炉、海水ウランなどの経済性のある革新的な要素技術の研究を行うというものです。そして上層については2020年頃に見極めを行い、基層との整合をはかるというのです。上層の実用化の時期の判断を事実上20年先送りしています。しかも、上層は国が主体となって進めるよう提言しています。
 六ヶ所再処理施設を使用済燃料対策の面から持ち上げてはいますが、計画の完遂が望ましいとあいまいです。プルサーマルについては海外再処理分を2010年頃までは続けるとしていますが、その後六ヶ所の再処理については具体的には触れていません。
 平岡氏の見解が再処理、高速増殖炉を完全否定しないのは、使用済燃料の(中間)貯蔵を六ヶ所など立地点に受け入れてもらう口実を残すため、核燃料サイクル開発が断念されていないとの「証左」を掲げておくために過ぎません。
 
反原発の立場から新長計に向け批判を強めよう
 
 今、原子力産業会議が原子力独占体の立場から原発輸出をもにらんだ核燃料サイクル政策を検討しており、4月には報告書が出ます。どの主張も軽水炉を運転し、使用済燃料を環境中に捨て、危険なプルサーマルや高速炉開発を推進するものです。違いはどこに主眼を置き、だれの利害に立っているかだけです。原発推進に変わりありません。
 私たちは、これらを厳しく批判し、反原発・反プルトニウム政策を具体化していくことが大事だと考えます。
 ほころびを見せ始めた日本の原子力政策の弱点が顕在化しつつあります。新長計策定に向け、批判の論点を明確にするため多数お集まり下さい。3.27の討論集会で議論したいと思います。