■□■□■□■□■□■□■□■ 若狭ネット第48号(1999/3/9) □■□■□■□■□■□■□
 
「世界一の原発長寿国」
=60年運転は許せない
 
 
動きだした軽水炉の60年寿命化
 
 原子力安全委員会は昨年11月19日、「軽水炉(BWRとPWR)について60年程度の長期間運転でも健全性に対して安全上の裕度は有する」との判断を下しました。「60年という評価対象期間は技術評価のための条件として工学的に無理のない範囲で設定した期間であり、本技術評価は60年の運転を前提としたものではない」とは言うものの、関西電力、東京電力、日本原子力発電は美浜1号(営業運転開始1970.11)、福島第一1号(同1971.3)、敦賀1号(同1970.3)の60年運転に向け、2月8日には通産省へ「長期保全計画」を出すなど具体的に動き始めました。
 現時点での軽水炉原発の最長営業運転記録は、現在米国で運転中の超小型原発ビッグロックポイント(BWR7万kW、営業運転開始1963.3)を除けば、1992年に閉鎖された米国のヤンキーロー原発の30年8ヶ月(実際の運転期間は30年未満)であり、他の軽水炉はすべて30年を待たずに閉鎖されています。敦賀1号より古い軽水炉は、1969年に営業運転を開始したドイツのオブリハイム(PWR34万kW)、米国のオイスタークリーク1号(BWR62万kW)、ナインマイルポイント1号(BWR61万kW)、スイスのベズナウ1号(PWR35万kW)の4基だけです。これらの原発ではさらに30年も運転を続けるような計画は見られません。日本は文字通り「世界一の軽水炉原発長寿国」(英国10万kW級小型ガス炉は30年以上運転有)に
なろうとしているのです。
 これに対し、美浜1号、福島第一1号、敦賀1号は歴史的に事故を多発させ、それぞれに個別の技術的問題を抱えた原発であり、福井県を初め立地自治体は60年運転継続に慎重な態度を示しています。私たちは、原発のこのような寿命延長を許さず、東海原発の廃炉を契機に、すべての原発を一日も早く廃炉にするよう求めていきたいと思います。
 
電力会社の寿命延長のねらい
 
 軽水炉原発の60年寿命化を進める電力会社の狙いは次の点にあります。
 第1に、原発の新・増設が困難であり、原発の建て替えと同等以上の効果を寿命延長で生み出そうとしているのです。
 第2に、新増設が可能であっても新設原発の発電原価はLNGや石炭など最新鋭火力発電と競合しており、電力自由化の下で原発の経済性を確保するため、耐用年発電原価方式でさらに耐用年数を伸ばそうとしているのです。
 第3に、蒸気発生器、圧力容器上蓋、シュラウドなど大型構造物を本来の減価償却期間(原発の今の耐用年数16年相当)終了後の寿命半ばで取り替えたため、これらの原発の寿命を延長して「追加投資」を回収し、一層の利益を引き出そうとしているのです。
 
圧力容器の照射脆化が進む
 
 60年寿命化は次のような諸点において原発重大事故の危険を一層高めます。
 まず第1に、圧力容器の中性子脆化や応力腐食割れなどの劣化が進みます。圧力容器だけでなく、格納容器や建屋など取り替えられない超大型構造物でも材料の劣化が進み、強度や放射能を閉じこめる能力が落ちます。
 例えば、美浜事故(1991.2の蒸気発生器細管破断事故)やTMI事故のように中小口径の配管が破断したり、弁が開いたままになるような大事故が起こると、原子炉容器内の圧力が高いまま低温の緊急炉心冷却水が圧力容器内へドッと流れ込むため、強い「加圧熱衝撃」が加わり、脆化の進んだ圧力容器が破壊されるおそれがあります。
 また、1次系の大口径配管が破断すると高温の1次冷却水が大量の蒸気となって格納容器の圧力を高めるため、劣化した格納容器が破壊されるおそれがあります。
 さらに、耐震強度も小さくなり、老劣化した構造物では、より小さな地震で破壊されやすくなります。
 
大事故の頻度が増える
 
 第2に、原発の運転年数が増えるに従って、さまざまな事故の発生確率が高まり、美浜事故や福島事故(1989.1の再循環ポンプ破損事故)など老劣化による大事故の発生頻度も増えます。世界的に未経験の原発システムの老劣化による事故は予測できない形で発生します。1991年の美浜事故を契機に「高経年炉」の「維持基準」や「定期検査項目の見直し」が原子力安全委員会で指摘されながら、定期安全レビューが行われるだけで、具体的には何も進んでいません。
 
あらかじめ検出できない劣化の進行
 
 第3に、ECCSなど重要なシステムを構成する配管、弁、ポンプ、ディーゼル発電機、バッテリー、電気・制御ケーブルなどの機器の老劣化が見えない形で進行します。これらは事故時以外ではほとんど使わないため、老劣化が表面化せず、通常状態の試験では高温・高圧・高放射線下の過酷な重大事故の環境下で求められる能力の低下を検出できないのです。定期点検の検査項目や内容を切り縮め、保守点検・補修費を抑制し、できるだけ長期の連続運転を追求する最近の運転管理体制下では、原子力安全委員会の求めている「定期点検等を介して取替も含めた適切な保守管理が行われるという前提」は成り立ちえません。その結果、さまざまな欠陥が蓄積されていき、さまざまな事故の発生時に、それらが重大事故への発展を促す触媒となる可能性が高いのです。
 
応力腐食割れや疲労破断は予測できない
 
 第4に、応力腐食割れや腐食が伴う疲労破断については、現象そのものが複雑であり、未解明な部分が多く、正確に予測できないため、通常の保全管理では対応できません。原子力安全委員会もこれらについては「一層の点検・検査を充実することが必要」だと不安げですが、配管や機器の材料を一部切り取って、破壊試験や顕微鏡観察を行うような検査は事実上できませんから、破断が起こる前にこれらの進行を検知するのは極めて困難です。また、短期化・縮小された定期点検では、非破壊検査で発見できる程度に進展したひび割れすら見逃される可能性があります。また、長期化した運転期間中にできるだけ止めない長期連続運転を志向する下では、ひび割れが進展して突然破断する危険性が一層高まります。応力腐食割れや疲労破断、さらに炭素鋼の全面腐食・減肉による破断などについては、大破断の前に小さな漏れがあるからその時点で対応すれば十分だという今のLBB(破断前漏洩)による管理手法は必ずしも成り立ちません。美浜事故や福島事故では事前の定期検査で異常を全く検出できなかったのです。
 
投資回収のためにムチ打つ運転
 
 第5に、老朽原発を廃炉にするか、補修して運転を継続するかは、もっぱら利益が得られるかどうかという経済的判断に依存することとなり、老劣化に伴う補修・取替の必要性が過小評価されることにつながります。また、大型構造物の取替には建設費の10〜20%もの追加投資を必要とし、これを早期に回収するための稼働率アップの強硬運転が追求されます。
 細管破断事故を起こした美浜2号の蒸気発生器(2基)取替工事には 約200億円、これを含めて、第1世代蒸気発生器21基(美浜1〜3、高浜1・2、大飯1・2の7炉SG21基)すべての取替には約1800億円、百万kW級原発建設費1炉分の約6割にも相当します。これらの原発ではさらに圧力容器上ふたも取り替えたため(美浜1・2と大飯1は1999年度実施予定)、各原発での改修費はこれらだけでも各建設費の1割になります。システム全体が老劣化しており、事故でいつ閉鎖になるかも知れないことを考えると、5年程度の一層短期間での投資回収へと拍車がかかり、老劣化の進んだシステム全体がムチ打たれ、一層の無理がかかるのです。
 とくに、取り替えられた新構造物は、最初から老朽原発の高放射線環境や腐食環境の下に置かれ、初期故障を多発させたり、老劣化が促進されたりします。現に、圧力容器上ふたの取り替えられた大飯2号ではこの1月、一緒に取り替えられた制御棒駆動機構が調整運転中に原因不明の異常をきたし、制御棒6本が落下あるいはスリップなどの動作不良を起こしました。
 さらに、旧構造物の取替は保守・点検費を削減する目的でも行われるため、取り替えられた新構造物の検査は「新品だ」という理由で一層簡略化され、異常が検出されにくくなるのです。
 
「原発長寿国」化を許すな
 
 TMI事故やチェルノブイリ事故は比較的新しい原発での重大事故でした。美浜事故や福島事故は老劣化原発における重大事故の発生を予感させる大事故です。これらの大事故を教訓として、取り返しの付かない重大事故を起こす前に原発を止めることが求められています。ましてや、欧州での脱原発の流れの中で、日本が「世界一の原発長寿国」となるような事態は余りにも恥ずかしいことです。日本で重大事故を起こせば、日本だけでなく、脱原発を進めた諸国にも放射能災害がもたらされるのです。人の寿命にも迫る「原発の60年寿命化」を阻止しましょう。