■□■□■□■□■□■□■□■ 若狭ネット第50号(1999/6/20) □■□■□■□■□■□■□
 
1999年5月18日
福井県知事 
栗田幸雄様
 
原発・プルトニウム政策に関する公開質問状
                           
若狭連帯行動ネットワーク
 
 4月11日の知事選で再選されるや、貴職は、プルサーマル計画容認、敦賀3・4号炉増設容認を示唆する発言を続けておられます。これに対し私たちは憤怒の気持ちを禁じ得ません。「プルサーマル計画受け入れについては、6月議会までに判断する」との意向を発表されていますが、選挙後のあまりにも性急な態度表明は私たち福井県民を愚弄するものであり、断じて受け入れられません。
 1994年から1998年にかけて二度の署名運動がありました。敦賀3・4号増設に反対する「これ以上の原発はいらない」県民署名が21万名、「もんじゅを二度と動かさないで」の県民署名が22万名も集まり、福井県民の大多数が「もう原発建設はいらない」「できれば原発に頼らない社会へと変わってほしい」と願っていることを明らかにしています。
 今回の選挙結果が示すとおり、貴職への支持は約56%で、前回と比べて25%も大幅に落ち込んでいることは明白です。
 貴職はこの事実を謙虚に受け止め、原発増設やもんじゅを拒否している福井県民の大多数の意志を尊重すべきです。福井の将来の世代からも怨まれないような行政姿勢が望まれているのです。
 私たちは、このような中にあって貴職に直接お会いして、質問に答えていただきたいと考えています。以下の通り質問書を提出しますので、後日県庁にてご回答いただけるようお願いします。
 
高浜3・4号のプルサーマル計画承認問題について
 
@高浜3・4号のプルサーマル計画事前了解について、6月議会までに判断するとの見解を栗田知事は表明されました。
 しかし、関西電力の強引な7月プルサーマル実施計画が破綻し、MOX燃料等の欠陥輸送容器データ改ざん事件、MOX燃料海上輸送による核拡散の危険、六ヶ所再処理工場建設の大幅遅延など、プルサーマルをめぐる諸問題が顕在化した今、白紙に戻し、抜本的に検討し直すべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 使用済MOX燃料の再処理・処分法も未確立のままで、六ヶ所再処理工場も2年半、6回目のなし崩し的延期になるなど、「プルトニウム・リサイクル」という宣伝文句自体が、空文句に過ぎないことはもはや明らかです。
 1997年2月4日の閣議了解による強引なプルサーマル推進をやめ、破綻した原子力開発利用長期計画を抜本的に見直すよう政府に強く提言すべきではありませんか。
 
Aユーゴスラビアのコソボ問題やインド・パキスタンの核実験・ミサイル開発競争など、今日の新たな政治的軍事的対立は、核拡散の危険を高めています。
 関西電力のプルサーマル計画など日本のプルトニウム利用は、日本の核武装準備を客観的に押し進め、また、核拡散の危険を高めます。
 ドイツやベルギーが再処理を中止してプルサーマルから撤退し始め、英仏でも再処理による余剰プルトニウムの蓄積が政治問題化している今日、日本も再処理を中止し、プルトニウム利用を中止して世界の核不拡散と核軍縮に貢献すべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
Bプルサーマル受け入れの見返りに核燃料税の増額を福井県が求めているとも伝えられます。核燃料税増額等と引き替えに、危険なプルサーマルを引き受けるというこれまで通りのやり方で県民合意が得られるとお考えなのですか。
 
C英国では、北欧諸国が北海への放射性物質放出をゼロに近づけるよう強く求めており、セラフィールドMOX燃料加工工場の建設許可が延び延びになっています。日本の使用済燃料の再処理が北海等を放射能で汚し続けているのです。県知事として、このことを深刻に受け止め、関西電力に再処理契約を破棄するよう提言すべきではありませんか。
 幸い、関電が英国と契約した軽水炉用再処理についてはまだ2割弱(2700t中500t)しか実施されておりません。ソープ再処理工場は事故で止まっており、大半は未処理のままです。英との再処理契約を破棄するチャンスです。
 また、フランスとの再処理契約分は、大部分(2900t中2300t)が再処理されていますが、プルトニウムを無理に利用するのをやめ、ガラス固化するよう関西電力に申し入れるべきではないでしょうか。
 
県の「回答」(6月11日)は……
 
 原子力長期計画の見直し作業が開始され、これからの我が国の原子力開発利用の全体像の論議が始まったところである。論議の透明性を確保した上で、国民各界各層からの意見聴取を行い、国民に信頼される長期計画が策定されることに期待している。
 現時点においては、ウラン資源の有効利用や核不拡散等の観点から、最も確実な利用方法であるプルサーマルによりプルトニウムを利用していくことは必要と考えている。
 県は、安全が確保されること、地域住民の理解と同意が得られること、地域に恒久的福祉がもたらされることの三原則を基本に取り組んでおり、プルサーマル計画についてもこの原則に従い対処しているところである。
敦賀1号のシュラウド交換計画と原発の寿命延長策について
 
@2000年に予定されていた敦賀1号のシュラウド交換を、本年8月の定期検査に繰り上げて行う方針であることが、日本原電から発表されています。シュラウド交換では、原子炉容器内に入って作業する労働者が高線量で大量の放射線をあびます。そのため福島第一原発3号では、シュラウド交換作業に外国人労働者が投入されました。シュラウド交換にともなう非人道的な労働者被曝は許されないと私たちは考えます。この被曝問題をどのようにお考えですか。
 
Aシュラウド交換には、数十億円もの費用がかかります。シュラウド交換は減価償却のための寿命延長を前提としており、このようななし崩し的な原発寿命延長策は認めるべきではないと私たちは考えますが、いかがですか。
 
B高さ6.3メートル、直径3.5メートルもの大型機器の交換でもあり、本来なら当然事前了解の対象になると思いますが、それを黙認されるおつもりですか。
 
県の「回答」は……
 
 5月28日に安全協定に基づく事前了解願いが提出された。県としては、本計画は今後の運転における設備の予防保全策として実施するものであると考えているが、工事の内容・方法及び作業員の被曝管理等の安全性を確認するとともに、県議会での議論や敦賀市の意見を踏まえ、適切に対処していく。
 なお、同日、「敦賀1号機を今後10年程度、十分な安全確保の基に運転を継続する」との運転方針が示されている。
 
美浜1号の上蓋交換計画と原発の寿命延長策について
 
@美浜1号は1970年の運転開始から来年11月で30年を迎えます。今年末の定期検査後に運転を開始すると31年目に突入する事態となります。当初、関西電力は美浜1号の圧力容器上蓋交換を1999年度中に行う計画でした。つまり今年末の定検時に上蓋交換しようと狙っていたのです。これは、なし崩し的な原発寿命延長です。
 「原発の寿命は30年」と説明されてきた経緯を無視し、どさくさに紛れて原発の寿命延長を図ろうとする関電の姿勢は許されません。寿命延長につながる今年末の定検実施はすべきでない、と私たちは考えますがいかがですか。
 一方、1月に大飯2号で起こった制御棒落下事故のため美浜1・2号と大飯1号の上蓋交換は延期されました。新品の上蓋に交換された大飯2号で、上蓋を貫通する制御棒駆動装置に異常を生じたことは重大です。美浜1号で上蓋を新品に取り替えても同様の事故が起こらない保証はありません。また、美浜1号の上蓋交換にかかったコストの減価償却を、なし崩し的な寿命延長でやり遂げようとすることに対して、県としてはどのように考えますか。黙認されるおつもりですか。
 
A美浜1号では圧力容器の脆性遷移温度が急上昇しており、現在既にほぼ100℃に達していると考えられます。美浜2号で起きた蒸気発生器細管破断事故のような場合、ECCSなどによる緊急冷却水の注入で圧力容器の破壊が起こりかねません。脆性遷移温度を計測する監視試験片は、運転開始時には数カプセルしか用意されず、美浜1号ではすでに運転開始後3カプセルを使用したため、残りの試験片では延長された寿命の途中で脆性遷移温度を計測できなくなる事態も考えられます。関西電力は、試験で一度破壊した監視試験片をもう一度使ってしのぐ等の方針を出していますが、このような強引でいい加減な寿命延長策は認めるべきでないと私たちは考えますが、いかがでしょうか。
 
県の「回答」は……
 
 美浜1号機の原子炉容器上蓋交換については、関電が総合的予防保全対策として実施するものであると考えている。
 また、原子炉容器の中性子照射脆化の影響については、適切な試験計画により健全性が確認されている。なお、一度使用した試験片を装荷するとの関電の方針は承知していない。
 
敦賀3・4号炉増設問題について
 
@知事は就任会見において、日本原電の敦賀3・4号の環境事前調査が今秋完了したのち、(1)「ふげん」廃炉に伴い15基体制とする、(2)「ふげん」廃炉プラス敦賀3・4号建設で16基体制に変える、(3)敦賀1号と「ふげん」の廃炉で敦賀3・4号を建設し数字合わせで15基体制を維持するとの方針を検討すると、踏み込んだ発言をしました。これは敦賀3・4号増設を認める発言だ、と私たちは考えますが、いかがですか。
 
A選挙戦中、敦賀3・4号増設については「現時点では全く白紙の状態です(福井新聞3月31日の『争点チェック』)」と答えています。選挙運動の舌の根も乾かぬうちに、就任会見で原発増設容認の発言を行ったのは、選挙民を愚弄する行為ではありませんか。
 
B計画されている敦賀3・4号は出力153万kwであり、世界にも例のない大規模な原発です。しかも、製造・開発に携わるのは「斜陽化」した原子力メーカーである三菱重工とウェスチングハウス社であり、まさに福井県は新たな巨大原発開発のための実験場となってしまいます。このような原発実験場をこれ以上認めるべきでないと私たちは考えますが、いかがですか。
 
C敦賀3・4号増設に反対する「これ以上の原発はいらない」の署名は21万にも達しました。署名に結集した県民の意志は、原発の更新も新たな原発も認めないというものです。この21万の声をどう受けとめておられるのですか。
 
県の「回答」は……
 
 現時点では白紙であることには変わりはない。
 
中間貯蔵施設計画について
 
@現在実施されている、若狭の原発敷地内の使用済燃料貯蔵増強策では総計で約5000トン分の貯蔵容量が予定されており、これは六ヶ所再処理工場の貯蔵プール3000トンの約2倍です。県は貯蔵増強策了承の条件として中間貯蔵施設の県外設置をあげていますが、中間貯蔵施設ができる保証はなく、できたとしても膨大な量の使用済燃料が県内に貯蔵され続けます。
 
A敦賀3・4号は153万kwもの出力が計画されており、古い他の原発との入れ替えだと言い訳しても、一旦運転が始まれば従前と比較してより膨大な使用済燃料が発生し続けます。プルサーマルの使用済MOX燃料も引き受け先がありません。高燃焼度の使用済ウラン燃料も再処理が困難で福井県に押しつけられる危険が極めて高いものです。
 
 Bやっかいな使用済燃料対策は、その発生源を断つことであり、県内外のどこかに危険を押しつけ合うことではないと私たちは考えますが、いかがですか。
 
県の「回答」は……
 
 原子力発電所はすでに全国発電量の1/3を超えており、我が国の重要な電源であると考えている。その利用により発生する使用済燃料については適切に処理・管理されるべきであり、今国会で中間貯蔵事業に係る原子炉等規制法の改正が成立したところと考えている。2010年までに確実に中間貯蔵施設の運用開始ができるよう国や事業者に求めている。
 
県の防災計画について
 
@昨年3月に発表された福井県防災会議の原発事故に際しての防災計画の原案では、退避基準を政府方針より厳しく設定していました。しかし今年2月に策定された計画では退避基準が原子力安全委員会の基準に沿って緩められています。この1年弱の間にどのようにしてそうなったのか、その経過を明らかにして下さい。
 
A新防災計画によれば、原発事故時にコンクリート建屋内等に県民を閉じこめることを想定しています。それでいいと考えていますか。また、このことについて県民に広く説明されましたか。
 
B昨年の原案の段階では、労働者の被曝線量限度(50mSv)を超えると予測される地点では、公衆の被曝線量限度(5mSv)未満と予測される地点まで退避することになっています。その時県内では数十万人規模の退避が必要になります。県としては、海岸線の若狭地方を中心にそのような規模の退避が可能と考えますか。もし、不可能と見なすのなら、退避基準を緩めるのではなく原発を停止するのが県民の安全にとってはよりよい選択だと私たちは考えますが、いかがですか。
 
C福井県や関西地方は活断層が多く、地震災害も心配されています。若狭の原発が地震で事故を起こし、放射能が放出されれば、「1995年の阪神・淡路大震災のときのようにたくさんのボランテイアが福井県にも来てくれるだろうか」「放射能汚染地帯に閉じ込められる」「ヘリコプターで救援物資を落とすのがせいぜい。私たちは見殺しにされる」と福井県の中学生が心配していることが、兵庫県南部地震のあと話題になりました。もし、地震災害と原発災害が重なってしまったら県はどのように対処されますか。
 
県の「回答」は……
 
@福井県地域防災計画原子力防災編については、平成10年3月26日開催の福井県防災会議において修正案が承認され、平成11年2月2日内閣総理大臣の承認を得たものである。退避・避難基準については、乳幼児・児童・妊婦と成人の区別をなくすとともに、国の「原子力安全委員会」の防災指針の指標の「第1レベル」の下限に福井県独自の「第1レベル」を追加し、以下「第1レベル」を「第2レベル」として順次繰り下げて定めたものである。
 これは、退避・避難の実効性を図るとともに、より安全な側面に立って、外部環境に及ぼす影響の小さな段階から関係機関の立ち上げや必要な応急対策の実施を行おうとするものであり、質問の退避基準を緩めたものではない。
 
A国の防災指針でも定めるとおり、一定基準未満からの退避で住民の安全を確保することができるものである。
 本県では、より住民の安全側に立って、国の基準以下の段階から退避・避難を行うこととしているものである。
 住民の周知については、今後、県の原子力防災計画修正に伴う関係市町村の原子力防災計画の修正がされたうえで、住民に対して普及・啓発を図っていきたい。
 
B福井県地域防災計画原子力防災編では、より安全な側面に立って、外部環境に及ぼす影響の小さな段階から関係機関の立ち上げや必要な応急対策の実施を行おうとする観点から、退避・避難基準を定めたものであり、これは影響の小さな段階から対応することで、地域の特性を考慮した効果的な防護対策を行おうとするものである。
 
C原子力安全委員会は、「防災指針改訂に係る基本的考え方について」の中で、「地震と原子力災害が同時に起こる可能性は無視し得るほど小さいと考えられることから、それを前提とした防災計画は必要はないものと考えられる」とされている。
 
原発の2000年問題について
 
@コンピュータの2000年問題が原発の機器でも心配です。特に運転監視記録系でトラブルが起こると、中央制御室のモニターが消えるなど、原子炉を監視できず、運転操作を誤るおそれが高まり、大事故に直結しかねません。2000年問題に関して、県として15基の原発で何も起こらないと確信できますか。銀行では2000年問題への不安に対応して、1999年の年末から2000年の年始にかけて5連休を実施する方針が打ち出されています。関西電力と日本原電、核燃サイクルに対し、2000年問題に対応して今年の年末に原発停止に入り、2000年問題で事故が起きないとの確証が得られるまで運転を再開しないよう申し入れるつもりはありませんか。
 
県の「回答」は……
 
 原子力発電所の2000年問題については、各事業者とも取り組んでおり、また国も調査委員会等を設置し、確認作業を行っている。
 県としては、確実な対策の実施がなされるよう、国や事業者に強く要請していく。
 
もんじゅについて
 
@栗田知事は、もんじゅについてはこれまで「判断する時期にない」との姿勢をとってきました。しかし、核燃料サイクル開発機構の竹内・敦賀本部長は「県に受け取ってもらえる情勢になれば、早い時期に事前了解願を出したいと思っている(福井新聞4月20日)」と語っておられます。もんじゅについては、県はどのような条件が整えば「判断」されるつもりですか。
 
県の「回答」は……
 
 「もんじゅ」を含めた高速増殖炉開発の位置付けを原子力長期計画の中で明確にし、国民合意を確認していただくことが先決であると考えている。