■□■□■□■□■□■□■□■ 若狭ネット第50号(1999/6/20) □■□■□■□■□■□■□
 
【連載第2回】欧州での脱原発の動き:TMI事故20年討論集会報告から
 
イギリスでも顕在化し始めた再処理の矛盾
 
 今年の3月28日で、米スリーマイル島(TMI)原発事故から20年を迎えました。この20年間に欧米では脱原発の動きが一層強まっています。前号に続き TMI事故20年討論集会での報告に基づく連載記事を掲載します。
 
高速増殖炉計画から撤退
 
 イギリスは、欧州高速増殖炉EFRプロジェクト(仏・英・独共同開発)から1993年3月に撤退、自国原型炉 PFR(270MWe,600MWt;運開1976.8)も1994年3月に閉鎖しました。プルサーマル計画を持たないイギリスは、再処理で回収したプルトニウムを全く消費できなくなったのです。
 イギリスには35基の原発がありますが、日本とは異なり、加圧水型軽水炉1基を除き、すべてガス炉です。そのうち、マグノックス炉 GCRと呼ばれる20基の旧式の小型ガス炉は金属燃料のため再処理しないと早期に腐食が進み、ぼろぼろになります。14基の改良型ガス炉 AGRでは再処理しない乾式貯蔵も可能だと言われています。もちろん、軽水炉の使用済核燃料でも何百年、何千年と腐食せずに持つわけではありません。軽水炉で抱えている使用済核燃料の問題がより短期間で現れる点がガス炉の宿命なのです。
 英国王立科学アカデミー報告「分離プルトニウムの管理」(1998.2)によれば、民生用プルトニウム在庫量が 54t(1996年末)にも達しています。同報告はさらに、FBR の実用化がもはや現実的な前提ではないにもかかわらず再処理が継続されるため2000年までに100tに達し、放射能と核拡散リスクの両面から望ましくないとし、「信頼性、性能面で、原子炉級プルトニウムは兵器級に比べ劣るが、経験のある兵器設計者であれば、十分信頼性をもつ設計が可能である。したがって、テロリストや核兵器製造をたくらむ国家にとって原子炉級プルトニウムも目標となりうる」と明言し、@ワンススルー、A既存原子炉へのMOXリサイクル、BMOX燃焼専用新規軽水炉の建設、C海外原子炉でのMOX燃焼の各代替案を総合的に評価すべきと政府へ提言しています。
 このうち、@は改良型ガス炉で追求されており、Aはイギリスで1基だけ運転中の加圧水型炉でのプルサーマルであり、Bはその新・増設です。Cは海外への事実上のプルトニウム「売却」です。イギリスは北海油田を有し、天然ガス・コンバインドサイクル発電が原発より安価なため、原発新増設は他の欧州諸国以上に困難です。高くつくプルサーマルがイギリスで実現する見通しも少ないでしょう。@とCだけが現実的であり、Cは日本への「売却」に注意しなければなりません。皆さんも容易にお気づきの通り、最も有効な選択肢が「全原発の運転停止」であることは言うまでもないのですが ・・・・。
 
ソープの操業維持に必至
 
 海外顧客用の再処理工場ソープTHORPは 2003年までのベースロード契約以降については海外契約がなく、ベースロード契約についても日本に次ぐ最大の顧客であるドイツが1994年末に一部を解約し、他についても解約の可能性を追求しています。このような事態に直面したBNFLは、長期的な展望を持たないまま、ソープの操業を維持するため、近視眼的なつじつま合わせを行ったのです。BNFLが1992年2月にスコティッシュ・ニュークリアSNL社と結んだ 15年間契約では、改良型ガス炉AGR の使用済み核燃料の一部だけを再処理し、3/4 以上をサイト内に乾式貯蔵する方針でしたが、1995年3月にはスコティッシュ・ニュークリアSN社にトーネス原発(AGR63万kW2基)とハンターストン原発(AGR58万kW2基)の乾式貯蔵施設建設を中止させ、再処理委託と2006年までの新燃料供給の抱き合わせ契約を締結させたのです。さらに、ニュークリア・エレクトリックNE社ともAGR 10基(2004年まで)とマグノックス炉12基(2009年まで)の使用済燃料の再処理、2000年までの AGR用新燃料供給の抱き合わせ契約を締結させました。プルトニウム利用政策を持たないイギリスでの、このように場当たり的な再処理工場延命政策は、回収プルトニウムの一層の蓄積を招き、核拡散上の問題点を一層深刻にせざるをえないでしょう。
 
4割も行方不明の海中放出プルトニウム
 
 英セラフィールドにある天然ウラン用再処理工場B205やソープ再処理工場などによる放射能汚染は極めて深刻な状態です。放出された放射能は、アイリッシュ海に沈殿しただけでなく、長年にわたって海中を拡散し、ノルウェーなど北欧諸国の海岸に沿う海底土にも蓄積され、とりわけテクネチウム99の蓄積量が増え続けていることが明らかにされています。
 最近の報告(New Scientist 24 April 1999)では、1952〜1995年にセラフィールドからパイプでアイリッシュ海へ放出されたプルトニウムの総量は182kg(放射能量で717TBq)に上り、520回の大気圏内核実験で北大西洋全域にばらまかれたプルトニウム降下量の約半分にも及びます。しかも、英政府科学者の調査によると、プルトニウムの36%、さらに、その娘核種アメリシウムの40%(387TBq)が行方不明(Unaccounted for)になっているのです。モナコにある国際原子力機関IAEAの海洋環境研究所所長を最近退職したマードック・バクスター氏によれば、「これまで何十年もの間、放出プルトニウムのほとんどすべてがアイリッシュ海に堆積物として滞留していると主張し続けてきたが、すべての努力を払い、時間がたった後、今ではそのうち40%がどこにあるかわからないと言っている。」事実は頑固です。いつかはウソが暴かれるのです。調査した海底土の深さ25cmより深い所の荒砂にまぎれている可能性やアイリッシュ海からスコットランドやスカンジナビアへ運ばれた可能性が指摘されていますが(J. of Environmental
Radioactivity,Vol.44,p.191,1999)、事実はまだ「不明」です。バクスター氏は4月22日のBBCラジオ「トゥデイ」で、あろう事か、BNFLがプルトニウム放出量を過大評価している可能性に言及しています。「放射能環境に反対するカンブリア住民」は逆に、182kgの放出プルトニウム量は過小評価で、実際は500kgだと主張しています。放出量すら「不明」なのですが、海中へ大量にプルトニウムが放出され、海流にのって拡散し、汚染を深刻化させていることだけは確かなようです。
 
6月下旬のOSPAR会議で英再処理等が焦点化
 
 このような深刻化する海洋の放射能汚染を減らすため、デンマーク・ノルウェー・アイルランドなどを中心に、セラフィールドの再処理工場やMOX燃料加工工場(能力120tMOX/年、ウラン試験を認められた段階、操業認可はまだ出ていない)の操業を中止させる圧力が高まっています。1998年7月23日のオスロ−パリ委員会OSPAR(欧州15ヶ国;1992年設立)では、各国政府閣僚出席の下、欧州北西海域の放射能濃度を自然放射能レベル近くへ下げると共に、「20年間に利用可能な技術水準を勘案して」という条件付きで再処理施設等からの放出放射能をゼロにすることで合意しました。その結果、英政府は、@2000年までに放射能放出を実質削減または除去するよう働くこと、A2020年までに放射性物質の放出、排出、喪失量を、海洋環境中の歴史的レベルを超える追加的蓄積量がゼロ近くにまで削減することが委託されました。しかし、英政府は、今年1月の放射性物質ワーキンググループに何も提案できませんでした。その代わりに、英環境庁はセラフィールド再処理工場からのテクネチウム放出量の1992年のOSPAR合意レベルへの認可改定を提案していますが、これでは実質削減にならず、アイルランドや北欧諸国は受け入れがたいとしています。
 放射能放出量を今ゼロにしても、北欧諸国沿岸での放射能蓄積量は数年間は高まっていきます。そのため、2020年までに追加的蓄積をゼロにするには2000年までに放出量の漸次的削減計画を出す必要があるのです。5年毎に開かれる閣僚級会議は2003年ですが、それに向けて6月21〜25日に開かれるOSPAR年次会議でこの問題が焦点にされるのは必至です。
 
父親の被曝で小児白血病が発生
 
 セラフィールド再処理工場による放射能汚染に関しては、1980年代後半から再処理工場周辺での小児白血病等の増加が観測されるようになり、1990年にはガードナー博士らが再処理工場等での労働者被曝が原因で子供に白血病が生じた可能性があるとの論文を発表しました。これを契機に大論争が展開され、英政府委託の「環境放射線の医学的側面に関する委員会COMARE」が1996年4月に再処理工場との因果関係を否定する第4次報告書(第1次報告は1986年)を発表、10年余の調査終結を宣言し、決着したかに見えました。ところが、この5月に出された英政府委託のより包括的な調査報告書では、妊娠前に被曝した父親から生まれた小児の白血病発生率は被曝しなかった父親から生まれた小児の2倍であり、累積線量が100mSvを超えて被爆した父親の場合は小児白血病発生率が約6倍も高いことを認め、父親の被曝と小児白血病発生の関連を暗に認めています。つまり、ガードナー報告は政府委託研究レベルでも否定できないとされ、生き返ったのです。この研究は、英政府保健省と健康安全局の委託で、リード大学と衛生・熱帯医療ロンドン学校の研究グループによる、かつてない最も包括的な調査であり、ガードナー理論を検証するために行われたものです。セラフィールド、ドーンレイ、アルダーマストンを含む15の原子力サイトで働く18,131人の労働者から生まれた39,557人の子供を調査しています。(British Medical Journal Vol.318, pp.1443-
1450, May 1999; New Scientist 29 May 1999)
 
事故続きのソープ再処理工場
 
 再処理工場ソープは、事故で停止状態が続いています。1995年2月の操業開始後4年間に目標の半分しか達成できず、昨年度は3割増の目標を立てていましたが、昨年4月に溶解槽から出るパイプに穴が開き、5ヶ月間停止、ようやく運転を再開したところ昨年末の12月17日に今度は溶解槽から出るパイプで原因不明の詰まりが生じ、再び停止。5月3日にようやく運転を再開しましたが、問題点が解決したわけではありません。昨年度は結局、再処理目標の半分しか達成できず、今年度以降に一層の強硬運転が画策されています。
 このような事故の多発とそれによる稼働率の低下=収益の悪化はソープによる再処理の是非をめぐる国内外の対立を一層先鋭化させるでしょう。放射能汚染や重大事故を防ぐには、操業停止が一番です。事故続きのため、日本の英への軽水炉用再処理委託量は、1998.3現在、まだ2割弱(2700t中500t)しか済んでいません。解約するには絶好のチャンスではないでしょうか。
 
 
閉鎖予定のドーンレイも危険
 2003〜2004年に閉鎖される予定の英ドーンレイ再処理工場でも、日本の「ふげん」のような手抜き事故が頻発しています。
 1998年5月に再処理区域の16時間停電事故が起きたため英政府安全規制当局が緊急調査を実施しました。その結果、「4年前に一部事業を民営化するなど、組織改革を実施して以来、英原子力公社UKAEA は管理体制と技術基盤が非常に弱体化し、2003年に予定されている同サイトの廃止措置という主要な作業を遂行する上で支障が生じている」と指摘し 142項目の改善勧告を出しました。民営化による営利主義や閉鎖決定による運転目標喪失が危険な老朽核施設での放射能汚染や重大事故の危険を高めているのです。一日も早く閉鎖すべきです。