高浜3号用MOX燃料は作り直し ・・・・・・・
 
高浜4号用MOX燃料はそのまま使う
 
・・・・・・・ 同じ作り方でなぜ違う?
 
 関西電力はプルトニウムとウランを混合して作ったMOX燃料を来月から高浜原発で使おうとしています。この「プルサーマル」と呼ばれるMOX燃料利用は「石油ストーブにガソリンを入れて燃やす」ようなもので、非常に危険です。その上、このMOX燃料ペレットに欠陥がないかどうかを調べる「品質管理」の過程でデータがねつ造されていたことがわかったのです。
 このMOX燃料ペレットは外径約8mm、長さ約1cmの円筒形ですが、外径が大きすぎると燃料被覆管が傷つきやすくなり、小さすぎると燃料ペレットから熱が伝わりにくくなります。ですから、外径が8.179〜8.204mmの許容範囲内、その差わずか0.025mmという狭い範囲内に正確に収まるように作られる必要があるのです。これをチェックするのが品質管理の役割でした。ここでデータがねつ造されていたのです。
 検査員らは外径データを正確にチェックすることの重要性を全く知らされないまま、「時間短縮」等のためにデータをねつ造したのです。まるで、東海臨界事故で作業員らが犯した「過ち」と同じではないでしょうか。
 
高浜3号用は作り直し、4号用はそのまま使う!???
 
 高浜3号用MOX燃料ペレットでは品質管理用データのねつ造が確認され、最初から作り直しになりました。このため、来年の定期点検で予定されていた3号炉へのMOX燃料装荷=プルサーマル実施が先送りになるのは避けられなくなっています。ところが、東海臨界事故のどさくさにまぎれて搬入した高浜4号用MOX燃料について、関西電力は「データに不審な点はない」として、そのまま4号炉へ装荷し年内にもプルサーマルを実施したいというのです。高浜4号用のMOX燃料ペレットは3号用より先に作られており、3号用と同じ品質管理態勢でした。にもかかわらず、3号用はダメで、4号用は良いというのは納得できません。
4号用MOX燃料の「P824ロット」にもデータねつ造の疑いがあり、さらに4号用 199ロットのすべてで品質管理がデタラメであったことを私たちが暴露し追及しているにもかかわらず、関西電力は強硬姿勢をとり続けているのです。
 
データねつ造疑惑を否定する関電の根拠
 
 関西電力が「4号用のデータには不審な点がなかった」と主張する根拠は、次の4つです。
 
@3000個の自動外径測定データと抜取検査データ200個の平均値と標準偏差を互いに比較した結果、データねつ造疑惑のあるP824ロットの平均値と標準偏差が199ロットの変動の範囲内に入っていた。
 
A模擬的に200個のデータを1万回ランダムにサンプリングした結果、疑惑のあるP824ロットの検査データは模擬的にサンプリングした結果と類似しており、自動外径測定データと平均値やばらつきが類似している。
 
B念のため、自動外径測定、選別が適切に行われていることを確認した。
 
CP824ロットの検査員がねつ造を否定している。
 
 これらのうちBとCは根拠になり得ません。
 Cは「自白がない」というだけで、データねつ造がないという客観的証拠ではありません。
 Bの「自動外径測定、選別」は、製造した燃料ペレットの外径を製造工程の出口で自動的に測定し、許容範囲外のものを選別して再加工するためのものです。ここから出てきたペレット約3千個の集まりを「ロット」と呼びます。その中から200個を無作為に取り出し、製造工程内と同じレーザー測定器を使い、手動で外径を測定し、許容範囲外の不良品が5個以内なら合格、6個以上なら不合格(「5/6判定」と言う)としています。この品質管理を「計数調整型1回抜取検査」と言います。不合格になったロットは製造工程に戻され、「自動外径測定、選別」をやり直し、再び抜取検査を受けます。この2回目の検査では「不良品が3個以下で合格、4個以上で不合格」(3/4判定)というより厳しい判定基準を用いています。これらの「品質管理」が問題になっているのですから、製造工程内の「自動外径測定、選別」に問題がなくても「品質管理に問題がない」とは言えないのです。
 
抜取データは全数データとは全く別物
 
 結局、@とAが問題です。関西電力の報告書を詳しく分析すると、これらはデータねつ造を否定する根拠になるどころか、むしろ、データねつ造の疑いをますます色濃くさせます。そればかりか、品質管理そのものが全くデタラメに行われていた可能性が浮き上がってきます。つまり、データねつ造疑惑のあるP824ロットなど一部のロットだけでなく、これまでに作られたすべてのMOX燃料ペレットにおいて、その品質が全く保証されないのです。これは「データねつ造」以上に深刻であり、重大です。
 Aの主張が正しいかどうかは図1を見れば一目瞭然です。この図1は、P824ロットの約3千個の自動外径測定による全数データ、200個の抜取検査データ、模擬的に1万個サンプリングしたうちで抜取データによく似ていると関電が言っている模擬データをグラフ化したものです。模擬データは全数データと比較的よく一致していますが、抜取データは右へ大きくずれています。平均値が大きく、標準偏差が小さく、分布形状も外径の大きいところで大きく歪んでいます。このグラフから、一体どうして、全数データや模擬データと抜取データの「平均値やばらつきが類似している」と言えるのでしょうか?
 
図1.P824ロットの外径データの分布
 
図2.200個のデータの平均値の分布
 
 少し難しくなりますが、統計学的に言えば、P824ロットから無作為に取った200個の抜取データの平均値は、図2のようにデータの99.7%が8.192〜8.194mmの範囲に入らなければなりませんが、実際には8.196mmと大きくずれています。また、抜取データの標準偏差は0.003mmですから、全数データの標準偏差は90%が0.0028〜0.0033mmの範囲に入らなければなりませんが、実際には0.004mmと大きくずれています。平均と標準偏差(ばらつき)がこれほどずれていれば、「全数データと抜取データは全く別物だ」という結論しか得られません。図1の1万回の模擬データから取った一例は、平均値8.194mm、標準偏差0.004mmであり、「模擬データは全数データから無作為に取られたデータだ」と統計的に言えます。しかし、抜取データは全数データや模擬データと類似しているどころか、全く一致しないのです。
 関西電力は、同じデータを使って全く逆の結論を出しています。類似しているとすれば、分布形状が2山になる点だけです。それでも、2山がなぜ外径の許容範囲の上限近くで不自然に大きく歪んでいるのか、その説明が必要です。200個がランダムに抜き取られ、データのねつ造もなければ、抜取データは模擬データのように全数データの分布に重なるように分布するはずであり、大きくずれることはあり得ません。
 ですから、P824ロットのデータねつ造疑惑は晴れるどころか、ますます疑わしくなります。仮に、ねつ造がないとすれば、抜取検査で200個のペレットがランダムに抜き取られず、恣意的だった可能性があります。こうなると、品質管理そのものがインチキであり、品質検査で合格になっても、全く信用できません。品質管理をすべて最初からやり直す必要があるのです。
 
199ロットの大半で品質検査がデタラメ
 
 これを裏付けているのが、@です。実は、関電報告書でのねつ造否定の最大の根拠がこれなのですが、皮肉なことに、これこそが、品質管理のデタラメさを示してくれているのです。
 図3と図4は、P824ロットを含めた199ロットについて、全数データと抜取データの平均値の差の分布と標準偏差の差の分布を関電が自ら示したものです。
 図3では、標準偏差が0.003〜0.004mmであれば、99.7%が±0.0009mmの範囲になければなりませんが、この範囲に入っているのはごく一部にすぎません。
 
図3.高浜4号用ペレット外径の全数データと抜取データの平均値の差の分布
 
図4.高浜4号用ペレット外径の全数データと抜取データの標準偏差の差の分布
 
 図4でも、抜取データの標準偏差が0.003mmなら、全数データの標準偏差との差は、その90%が−0.0003〜+0.0002mmの範囲になければいけないのですが、大半が範囲外です。
 つまり、平均値と標準偏差で判断して「199ロットのうち全数データと抜取データの分布が一致するものはごく一部にすぎない」ということなのです。この原因は「データが一貫してねつ造されてきた」か、「品質管理におけるペレットのサンプリングが無作為(ランダム)になっておらず恣意的に行われてきた」か、のいずれかです。そのいずれであっても、品質管理はデタラメです。品質管理のやり方を根本的に変えて、最初からやり直す以外にありません。
 関西電力が@で「P824ロットの平均値と標準偏差が199ロットの変動の範囲内に入っていた」と言うのは、データねつ造疑惑を晴らす根拠になるどころか、全くその逆です。「199ロットの抜取検査のほとんどすべてがデタラメであり、P824もそのデタラメなものの範囲内に入っており、やっぱりデタラメだった」と言うに他ならないのです。
 
関西電力の苦しい言い訳
 
 私たちはこれらの内容を東海臨界事故の起こる直前、9月29日付の公開質問状で関西電力に提出していました。文書回答が得られたのは1ヶ月後の11月5日でしたが、関電は全数データと抜取データに食い違いがあることを事実上認め、「測定系が異なること、外観検査によりはねられるものがあること等から、平均値や標準偏差が異なる可能性はあるものと考えており、このことが正しい抜き取りがされていないことに直接結びつくものとは考えておりません」と英核燃料会社BNFLを弁護しているのです。
 しかし、これらは言い訳にもなりえません。まず、全数データと抜取データとで「測定系が異なる」というのであれば、測定誤差が出ないようにゼロ点を較正するはずです。体重を測る場合にも体重計によって値がバラバラでは体重の管理ができないでしょう。それと同じです。外径測定は精度0.1ミクロンの高精度なレーザー測定器を使っています。にもかかわらず、測定器の精度の数十倍もの測定誤差があるというのは信じられません。測定系によってこれほどバラバラな結果になるのであれば、それこそデータに信頼がおけません。これだけでも、品質管理がデタラメだと言えるのです。
 また、仮に、測定系に差があるとしても、図2の抜取データ200個の平均値の分布は、左右へ平行移動するだけで、図3のように平均値の分布が大きく広がったりしません。「測定系の差」では抜取データの平均値と標準偏差の大きなバラツキを説明できないのです。
 「外観検査ではねられるものがある」との説明も、外径の小さなペレットは外観が悪いというような相関関係がなければ成り立たない説明です。しかも、外観検査で数十%ものペレットがはねられるという異常事態が起こらなければ、これほど大きく分布が変わることもあり得ません。P824ロットは全数外観検査をパスしていますから、はねられたペレットは少ないはずです。
 結局、関西電力は全数データと抜取データの分布が大きく食い違う理由を説明できていないのです。これを正しく説明できるのは、(a)品質管理におけるペレットの抜き取りが無作為(ランダム)になっておらず、恣意的な抜き取りになっている、もしくは、(b)検査員がデータをねつ造している、のいずれかです。両方とも同時に作用している可能性もあります。
 関西電力はこの件については「被害者」です。「加害者」の英BNFLの責任をなぜ厳しく追及しないのでしょう。関電自身が原発関連の品質検査で同じようにデタラメな検査をやっているため強い態度に出られないのかも知れません。通産省も原子力安全委員会も、東海臨界事故でそのチェック機能に疑問が出されていますが、今回もチェック能力がないのかも知れません。
 
数千個の欠陥ペレットが混入
 
 では、デタラメな品質管理によってどれだけの欠陥ペレットが混入しているのでしょうか。
 高浜4号用MOX燃料集合体は8体、約60万個のペレットが入っています。BNFLの品質管理では「検査水準U」でサンプル数を200個とし「なみの厳しさ」で合格品質水準(AQL)を1%に設定し、5/6判定を行っています。この検査方式では、不良率が1%以下のロットが合格する確率は98%と高くBNFLにとっては有利ですが、不良率3%のロットでも半数が合格してしまいます。プルサーマルという危険なことをやろうとしているのに、通常の産業製品と同程度の検査しか行わないのは問題です。英国には元々プルサーマル計画がなくプルサーマルに関する国内安全規制もないため、「日本から発注された通りに加工するだけだ」と居直っているのです。
 この5/6判定で不合格になったロットは、製造工程で「全数自動測定、選別」をやり直し、3/4判定で抜取検査を行っています。この3/4判定のロットが199ロット中15ロットもありますが、5/6判定で不良品が何個出たのか、報告書には一切書かれていませんので、製造工程の不良率が正確にはわかりません。おまけにランダムサンプリングでないため、抜取検査データだけから欠陥ペレットの数を推定すると過小評価になります。それを承知で敢えて推定すれば、欠陥ペレット数はMOX燃料集合体8体に2000〜3000個、またはそれ以上になります。これは平均ですから、不良率の高いロットが合格している可能性があり、欠陥ペレットが特定のMOX燃料集合体に集中している可能性もあるのです。これで大丈夫だとなぜ言えるのでしょう。
 
関西電力の責任を追及しよう
 
 品質管理がデタラメに行われ、欠陥ペレットが多く含まれる、このようなMOX燃料を使わせてはなりません。私たちは、関西電力から11月5日に文書回答を受け取るや、その翌日に再質問状を提出しました。11月30日の東海臨界事故2ヶ月目の抗議行動で回答を求めるつもりです。BNFLのずさんな品質管理を野放しにし、危険なプルサーマルを私たちに押しつけようとする関西電力の責任を共に追及しましょう。