■□■□■□■□■□■□■□■ 若狭ネット第53号(1999/12/25) □■□■□■□■□■□■□
 
  ルーツは同じ!JCO東海臨界事故と
     関西電力の欠陥MOX燃料使用中止
 
    なぜ日本で発見できなかった?
 
 関西電力の高浜4号炉用MOX燃料ペレットにおける新たなデータねつ造の発見は国内初のプルサーマルの延期という一大衝撃となりました。もっとショックだったのは、今回の発見は、ずさんな品質管理をやっていた英国BNFLによって行われ、それをチェックする側の日本の三菱重工業、関西電力、通産省、原子力安全委員会では発見できなかったことです。英国原子力施設検査局NIIは日本大使館への11月8日付書簡の中でデータねつ造の可能性を示唆し、日本へ輸出されたMOX燃料ペレットは英国では使わないため、その「品質保証検査を行うことは当検査局の権限の範囲内にはないことを再度強調したい」とボールを日本側へ投げているのです。
 しかし、11月1日に最終報告をまとめていた日本側は12月中旬まで何もしませんでした。英国ではBNFLが品質管理データの再検査を行い、新たなデータねつ造を発見したのです。この背景には、BNFLを解雇された3名の検査員が解雇を不服として告訴を準備していると伝えられ、他のロットでのデータねつ造やBNFLの会社全体としての品質管理のずさんさが内部事情を熟知している3名によって暴かれる可能性から先手を打ったとも推定されています。
 結果として、今回のねつ造データは、日本では発見できませんでした。その背景には、もんじゅ事故の後、強引に進めてきたプルサーマル計画を何としても今年度内に実施したいという関電と通産省の意向が品質管理データの手抜きチェックにつながり、ずさんな品質管理を示唆する統計データを自ら作成していながら、それに気付かないという状態に陥っていたのではないかと推定されます。さらに、MOX燃料がコスト高であり、品質管理が厳しすぎるとさらにコスト高になるため、緩い検査で済まそうというBNFLの検査姿勢を関電が追認してきたのではないか、そして、関電自身が原発の長期連続運転や定期検査期間短縮など最近のコスト削減競争の中で品質管理に手を抜く姿勢を強めているのではないかと推測されます。つまり、今回のデータねつ造事件では、BNFLの体質が暴露されただけでなく、三菱重工業や関西電力自身の原発の安全管理姿勢が暴かれたとも言えるのです。
 
  原子力を襲うリストラとコストダウン
 
 これは、今日の電力・原子力産業の置かれた現状を反映しており、簡単に克服できるものではありません。品質管理を厳しくすれば、納期を守れなくなったり、コスト高になったりして、原発の他電源に対する競争力が落ちることは必死です。原発の新規発注が大幅に減少し、原子力産業では原子力部門を維持することすら困難になっており、また、来年3月の大口電力自由化を控えて電力会社もリストラとコストダウンを余儀なくされているという厳しい現実があるのです。これを見なければ、MOX燃料ペレットデータねつ造もJCO事故も正しく評価できないのです。
 東京電力が来年2月に福島第一原発3号炉でプルサーマルを始めるために輸入したMOX燃料ペレットでも、工程内全数検査を実施せず、43万個のペレットのうち抜取検査されたのはたった2852個、0.66%にすぎないことが発覚しています。製造会社はべルギーのベルゴニュークリア社ですが、BNFLより品質検査が甘かったのです。BNFLでは工程内全数検査を行った後に約3千個の各ロットから200個、6.6%を抜き取って検査していますが、合格判定基準は不良率1%と緩く、データをねつ造したり、ずさんな品質管理でした。また、BNFLが1996年にスイスのベツナウ原発に輸出し、装荷されたMOX燃料では製造ミス等による異常に高い放射線漏れが1年後に発見され、回収され、高浜用MOX燃料のデータねつ造が発覚し今年9月より前に再装荷されましたが、大問題になっています。その燃料検査は高浜4号炉用MOX燃料ペレットのデータをねつ造した検査員らが検査したものでした。2年前に発覚したずさんな品質検査をBNFLは何ら改善するどころか「通常のよくある出来事だ」と居直ったのです。BNFLも英国内にプルサーマル計画がなく、国外のプルサーマル計画も縮小気味で、MOX燃料加工市場の拡大に展望を見出せず、検査の手抜きで「安い」MOX燃料製造を売り物にする以外になかったのでしょう。日本の電力・原子力産業もBNFLと同じ穴のむじなではないでしょうか。
 規制当局もこの影響を受けています。 通産省は電力の自由化を進め、かつ、原発を推進する立場から、電力・原子力産業に対する安全規制を厳しくできず、原発の経済性追求のための設計・運転・検査を追認するしかないのです。現に、定期検査での検査項目や内容の合理化を次々と認めています。原子力安全委員会も法律で「原子力利用に関する行政の民主的な運営を図るため、総理府に」設置されており、原子力利用に支障をきたすような規制は元々できないのです。JCO事故を受けて、来年には省庁再編を前倒しで、事務局を科技庁から総理府へ移し、人員を増員すると言われていますが、今の基本的な枠組みは変わりません。
 
    JCO事故も根本原因は同じ
 
 JCO事故でも同じことが言えます。最近の国内外の電力・原子力産業が置かれたリストラとコストダウンの嵐の中で、そのしわ寄せがJCOという弱い環に集中的に現れたと言えます。JCOはウラン燃料の再転換コスト引き下げを電力・原子力産業から迫られ、海外企業に市場を奪われつつありました。原発立地難による国内ウラン燃料市場の閉息と安価で品質の良い技術を開発して攻勢をかけてくる海外企業を前にして、再転換専業のJCOは新技術を導入する資金的余裕もなく、当面はリストラと現設備での効率化を図る以外になかったのです。2003年の新技術導入で起死回生を図ろうとJCOが2年前に提携した相手がBNFLであったのは歴史の皮肉かも知れません。
 
    JCO事故報告書のずさんさ
 
 JCO東海臨界事故の原子力安全委員会事故調査委員会の最終報告書が12月24日に出されました。9月30日の事故発生から3ヶ月足らずという超スピード。JCO事故は1900年代の事故として消し去り、2000年には忘れ去りたいという願望の現れでしょう。原子力施設で大事故が多発しているため、事故調査報告書の作成技術に習熟した「成果」も現れているのでしょう。しかし、これまでにも事故調査報告書は何回か書かれ、そのたびに事業者の安全管理や国の安全審査のずさんさが問題にされ、「改善」が課題として上がりながら何も変わっておらず、むしろ悪化していることがJCO事故で具体的に暴かれたのです。なぜそうなっているのか、それが現在の電力・原子力産業と政府の審査体制を前提にして変えられるのかが最大の問題点なのですが、最終報告書には、その分析が何も書かれていません。その代わり、提言には、次のように書かれています。
 
 第一に、いわゆる原子力の「安全神話」や観念的な「絶対安全」という標語は捨てられなければならない。事故は起きるものであり、大切なことは、それが大きな被害をもたらさないように予め技術的手段が講じられていたり、事後的であっても必要な災害防止策が準備されているかであることが、関係者の間はもとより、国民的にも理解される必要がある。このことは「絶対安全」から「リスクを基準とする安全の評価」への意識の転回を求めている。リスク評価の思考は欧米諸国において既に定着しつつあるが、我が国においてもそのことに関する理解の促進が望まれる。
 
 これを読んで、原子力の安全神話の崩壊を政府がやっと認めたと喜ぶ方がおられるかも知れません。ちょっと待って下さい。もう少し注意して、上の文章をもう一度読み直してほしいのです・・・・事故は起きるものであり、国民はもはや原子力に絶対安全を期待してはいけない。原発重大事故も自動車事故等と一緒に、ある確率で起こりうるリスクとして受け入れなければならないと言うのです。これが原子力安全委員会事故調査委員会が出したの第一の提言なのです。そして、第二が以下のように続きます。
 
 第二に、規制する側とされる側との間に健全な緊張関係があってはじめて自己責任の安全原則が効力を発揮するという点である。一方的規制強化は、場合によって、事業者の自主的保全努力や新たな安全に関する提案権を奪うものになりかねず、また、際限なき規制緩和が安全規律の劣化を招き易いことは過去の例により明らかである。規制する側とされる側との間の健全な緊張関係が含意するところは、申請と審査、あるいは検査と報告という行為を通して状況が常に改善され進化していくという循環的関係であることを認識すべきである。
 
 JCO事故で原子力への規制強化が声高に求められていますが、それを拒否し、現状での緊張関係を対置しているのです。要するに、日本の原子力安全委員会が米国原子力規制委員会NRC並に強化されるようなことがあれば、スリーマイル島事故後米国で規制が強まったために原子力が立ち行かなくなったことを日本で繰り返すことになりかねないと恐怖しているのです。原子力安全委員会の事故調査委員会がこのような認識なのですから、どうしようもありません。
 JCO臨界事故のような放射能放出事故を二度と繰り返さないためには、やはり、下からの大衆的な声を署名に結集して、電力・原子力産業や政府に原子力政策の一つ一つを力ずくで止めていく以外にないようです。署名を武器に、私たちは、プルサーマルの息の根を止め、原発新増設や使用済核燃料中間貯蔵施設の立地計画を阻止し、原発の寿命延長を阻止するために頑張りたいと思います。ご協力をお願いします。