■□■□■□■□■□■□■□■ 若狭ネット第54号(2000/1/30) □■□■□■□■□■□■□
2000年1月24日
関西電力株式会社社長
石川博志様                     
 
関西電力のプルサーマル計画の延期決定
に関する公開質問書
 
若狭連帯行動ネットワーク
 
 貴社は昨年12月、高浜4号で使う予定だったMOX燃料集合体8体の使用を中止しました。
 1999年春には開始したいとしていた当初のプルサーマル計画は1年以上も延期となりました。「なぜ今プルサーマルか」と、何度も何度も問い詰めてきた私たちの疑問に対して、「プルサーマル延期」という現実の答えが返ってきたわけです。
 今回の事態は、日本のプルトニウム政策の破綻した姿を如実に表すものです。どれを取っても、一つもうまく行っていないプルトニウム政策が、またここでとん挫しました。1997年10月24日に関電が私たちに対して「プルサーマルに関する安全審査結果が出なくても、関西電力がリスクを負ってMOX燃料の製造を発注することもあり得る」といみじくも答えた結末が、今回の延期です。
 行き当たりばったりの日本の原子力政策と電力会社の原子力推進が、プルトニウム政策の面から崩れ始めているのです。貴社は一刻も早くプルサーマル推進から脱却し、原発廃棄へと進むべきです。
 JCOの臨界事故で被曝した大内さんが昨年末に亡くなったことは、貴社にとっても人ごとでは済まされません。自らがJCOなどに強いてきた核燃料のコスト削減策が引き起こした悲劇だからです。貴社は今でも原発労働者や福井県民に放射能を押しつけています。今回のJCO事故をはじめ日常的にも労働者被曝などで放射線をあびて亡くなる犠牲者は後を絶ちません。貴社はこの際猛省し、JCO事故を引き起こした責任をわびるべきです。
 昨年12月17日に約束した公開討論会を速やかに開くよう重ねて申し入れます。また、データねつ造問題に限らず、1998年の6月以来この2年間、私たちが回答を求め続けている質問に対しても真摯に答え、納得できるまで何度も公開討論会を開いていただきたいと考えます。ここに以下の公開質問書を提出します。討論の場での真摯な回答を強く求めます。
 
1.BNFLとの加工契約について
 
(1)貴社は1997年以降これまで、「1999年春には高浜原発4号でプルサーマルを開始する」と主張し、強い反対の声をないがしろにして、福井県・高浜町だけでなく世界各地で強引な推進策を推し進めてきました。
 その内容はおもに次の5点です。これら一つ一つについて貴社は厳格に責任を取るべきです。事実経過をくわしく釈明し、これら一つ一つについて福井県民や国民、海外諸国などに謝罪して下さい。
@1998年1月20日、国民的合意を得るどこ
ろか、地元福井県への事前了解願いすら提出できない中、様々な反原発団体が「若狭を新たな原発の実験場にするな」などと、プルサーマル反対の要請を貴社に行っていたさなかに、BNFLへのMOX燃料加工を見切り発車で発注したこと。
 この後貴社が「自分で決めたことを自分で責任を持ってやる」のが「自己責任」だと居直ったこと。
AMOX燃料等の輸送容器内のレジンのホ
ウ素含有量、水素含有量に関するデータ改ざん・ねつ造事件において、貴社が1998年10月7日の事件発覚後、MOX燃料輸送容器の設計基準を製造欠陥に合わせて「改ざん」し、同年12月24日欠陥輸送容器のまま設計承認の再申請を行い、使用したこと。
BMOX燃料海上輸送ルートの沿岸諸国の
輸送反対の声を無視し、核拡散の危険を冒してまで昨年7月19日に英国からMOX燃料輸送船を出港させ輸送したこと。
CJCO臨界事故の発生直後の昨年10月1
日、MOX燃料輸送船の高浜原発への着岸を強行したこと。
D昨年10月20日に、高浜4号のMOX燃料
ペレットのデータにもねつ造の疑いがあることをBNFLから連絡を受けながら、隠していたこと。
 また、データねつ造や品質管理のズサンさを市民団体から指摘されながら無視し、新たなねつ造を自分で見出せなかったこと。
 
(2)貴社は、BNFLから昨年10月20日に、「英国原子力施設検査局(NII)が高浜原発の2つのロットに関心を持っている」ことを知らされていながら、国や福井県、高浜町に報告していなかったと報道されています。
 私たちの昨年10月26日反原発デーの関電申し入れ、11月30日の申し入れ、12月13日の本社交渉、12月17日の抗議行動において、貴社は一貫して「BNFLからそのような連絡は受けていません」と回答しています。全国的にプルトニウム政策と原子力政策に関心が強まっているこの時期に、国民・住民にとって決定的に重要な情報を秘匿するとは重大な反社会的行為です。
 私たちだけでなく福井県民や国民に即刻謝罪すべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 BNFLからの連絡を隠した件について、いつ、だれが、どのような理由で秘匿を決定し命令したのか、明らかにして下さい
 
(3)高浜3・4号のペレットのデータねつ造問題は、BNFLのMOX燃料ペレット製造過程それ自身の品質管理上の欠陥を明らかに示しています。
 MOX燃料ペレットのデータに関する昨年の貴社の報告書にあるBNFLの全数測定データと品質管理用データの平均と標準偏差の差の分布図から、品質管理データの多くが全数測定データと大きくくい違っていることは明らかです。
 これは品質管理がデタラメであるか、データをねつ造しているかのいずれかです。
 このような品質管理でMOX燃料を製造してきたBNFLは信用できません。
 貴社はMOX燃料加工契約および再処理契約の貴社とBNFLとの単独契約分について「1月17日から本問題が解決するまでの間指名停止」し、再転換など「その他の契約については4ヶ月間の指名停止」を行いました。それにとどまらず、単独契約分以外の契約を含め、BNFLとのMOX燃料加工契約、再処理契約、再転換など一切の契約を破棄すべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(4)スイスのベズナウ原発に納入されたMOX燃料から、過剰な放射線が漏れていたため、1997年に回収されていたことが昨年末に明らかにされましたが、貴社はBNFLのずさんなMOX燃料製造が相次いでいることについて、どのように受け止めていますか。
 BNFLの新しい商業用MOX燃料加工工場SMPの最大の顧客は関西電力です。SMPの本格操業認可をめぐり北大西洋諸国の政府が操業中止を求めています。
 セラフィールドの核施設では労働者やその子供たちの健康への影響が出ています。企業倫理の問題として、このようなBNFLとのMOX燃料加工契約は許されません。
 BNFLとはMDFでの加工契約を破棄するとともにSMPとも一切契約すべきでないと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(5)1998年4月5日福井県武生市で行われた私たちとの公開討論会で貴社は、MOX燃料からのリーク事故について「BNFLのMDFという工場、我々が今つくろうとしているんですが、そこはないということで、合計9件ですね」と、説明しています。
 明らかに、スイスのベズナウ原発でMOX燃料棒の過剰放射線漏れ事故が発覚していた時点で、貴社は事実と異なる回答をしていたことになりますが、福井県民と私たちに謝罪すべきではありませんか。
 
(6)プルサーマル計画が破綻し高速増殖炉計画も立ち行かなくなった今、貴社は使用済燃料の再処理を中止し、英・仏との再処理契約や国内再処理契約を破棄すべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
2.余剰プルトニウムについて
 
(1)昨年12月3日に日本原燃は六ヶ所村で再処理事業を開始しました。プルサーマル計画が延期され、MOX燃料製造そのものでの欠陥が露呈し、日本のプルトニウム政策が破綻したいま、再処理事業を開始するというのは非常識極まりません。
 日常的放射能汚染と重大事故の危険に加え、「余剰プルトニウム」を生み出す再処理事業は中止すべきです。
 貴社は日本原燃への出資者として、これをどう考えますか。
 
(2)貴社は福井県下で配布したリーフレットに、「なお、軽水炉で得られるプルトニウムは核兵器に転用することは困難であるとされています」と記しています。
 1994年の米エネルギー省の報告では、1962年のネバダでの核実験で原子炉級プルトニウム(非核分裂性プルトニウムが19%以上)が使われ、広島・長崎に相当する20キロトン以下の威力が得られたことが暴露されています。
 私たちは、貴社のこのリーフレットが真実を偽っており、県民にデマを広げようとする悪質なものであることから謝罪広告を地元の新聞に掲載せよと要求してきました。
 しかし、今のところ貴社は自らのウソのタレ流しを放置したままです。
 旧動燃もんじゅ・再処理工場事故や厚生省エイズ事件にも見られた、旧動燃や厚生省関係者と同様の、恥知らずな態度を貴社も取り続けるつもりですか。それとも、近日中に福井県民に謝罪しますか。
 
(3)日本と違って、アメリカでは解体核兵器から生じる原子炉級プルトニウムをガラス固化する方針です。
 貴社は使用済燃料の再処理をやめ、英・仏・日で貯蔵されている原子炉級プルトニウムはガラス固化すべきではありませんか。そうすれば、「余剰」だと貴社が言う原子炉級プルトニウムへの国際的な非難は解消できるのではありませんか。
 
3.核物質輸送について
 
(1)現在英国から、使用済燃料の高レベル廃棄物が日本に海上輸送されています。この危険な海上輸送はMOX燃料輸送と一体のものであり、使用済燃料の再処理にともない不可避的に生じるものです。
 今後英・仏から計2〜4回/年の頻度で高レベル廃棄物が輸送される計画だとみられます。その上、中レベル廃棄物の日本への海上輸送も加わるものと思われます。関電として、輸送ルート周辺諸国の反対の声を1年中踏みにじりながら、毎年毎年海上輸送を強行するつもりですか。
 
(2)核物質の海上輸送の際に、海難等で核物質輸送キャスクが海中に沈んでしまったとき、どのような方法でこれを安全に引き揚げるつもりですか。有効な手段があれば示して下さい。また、IAEAの基準を満たしていても、長時間の火災や深海底への沈没に輸送キャスクが「健全」であるという保証はありません。安全だというのなら実証データを示して下さい。
 
4.プルサーマルによる「リサイクル」について
 
(1)貴社は最近大阪府下をはじめ都市部でも、「プルサーマルって何だろう〜原子燃料のリサイクル〜」との見出しをつけた宣伝リーフレットを配布しています。
 その中で、「一度使った燃料から燃え残りのウランやプルトニウムを取り出します」、「95%はリサイクル可能!!」と大きく強調した太文字の解説を加えています。
 しかし、実際のプルサーマルでは使用済燃料の再処理によってリサイクルされるのは、1%のプルトニウムと再濃縮後の10数%の減損ウランだけです。「95%はリサイクル可能!!」というのは大ウソです。
 しかも、使用済燃料の再処理の結果膨大な量の核廃棄物が生み出され、再処理工場の周辺では日常的に深刻な放射能汚染が進んでいます。東海再処理工場での爆発事故など重大事故の危険も避けられません。
 これを、ガラス瓶などのリサイクルと同列に論じるのは常識はずれです。
 その上、使用済燃料からMOX燃料へのリサイクルは回収プルトニウムが劣化するため、1回がせいぜいであるとプルサーマル推進の立場からも指摘されているほどです。
 貴社は、プルサーマルに関する「リサイクル」論を撤回し、訂正広告を出すべきではありませんか。
 
(2)高浜4号のプルサーマル延期決定後の昨年12月17日、貴社が関西の市民団体の追及を受けた際に、広報の庄野副部長は「プルサーマルはウランの有効利用ができる」として、プルサーマル計画そのものの中止は言明せず、居直りました。
 一方、貴社は1998年4月5日に武生市で開いたプルサーマル公開討論会で、若狭ネットの追及に対し、日本がすべての使用済ウラン燃料を再処理してプルサーマルをやったとしても、ウランの可採年数73年が1年延びるだけだという事実を認めています。
 世界中で高増殖炉開発が破綻し、プルサーマルを強硬に推進しようというのは日本だけであり、ドイツ、ベルギー、スイスなど各国がプルサーマルから撤退し、フランスもプルサーマルを現状で凍結する中で、プルサーマルでウランが節約できるという主張は、根拠を失っています。
 プルサーマルによってウランを有効利用できるとした、昨年12月17日の貴社の庄野副部長の発言を撤回すべきですが、どうですか。
 
5.プルサーマルの経済性について
 
(1)貴社は武生市の公開討論会で、ウランの燃料費は1kWh当たり0.8円であることを示しました。MOX燃料加工費についてはウラン燃料の1.5〜2倍だと答えています。
 そうすると、MOX燃料加工費は1kWh当たり1.2〜1.6円ということになります。
 MOX燃料加工費は、これでいいでしょうか。
 
(2)使用済燃料の再処理費用については1997年6月、大阪での説明会で英仏で行えば1kWh当たり0.75円で、六ヶ所村で行った場合1.05円になると答えています。
 核廃棄物処分費は1kWh当たり0.15円だとしています。 
 これらも、間違いないでしょうか。
 
(3)OECD/NEAの評価によれば、使用済燃料の直接処分費は核廃棄物処分費の1.7倍としているので、多めに見積もって2倍の0.3円と仮定します。
 MOX燃料加工費の1.2〜1.6円から直接処分費の0.3円を引いた、0.9〜1.3円がプルトニウムと回収ウランの取得費となります。
 使用済燃料100tを再処理して、プルサーマル用MOX燃料と再濃縮減損ウラン燃料が合計25tできるとの貴社の仮定によれば、新燃料のための再処理費は新燃料による発電量1kWh当たり3.6〜5.2円となり、これにMOX燃料加工費を加えると、ウラン燃料の約6〜8倍にも達します。
 貴社は武生市の公開討論会で、この計算の論理は「それでいい」と認めています。
 では、この計算結果はこれで認めますか。どうですか。
 
6.プルサーマルの安全性について
 
(1)美浜1号でのプルサーマル少数体実証試験では4体のMOX燃料集合体を使い、核分裂性プルトニウムの富化度平均3.1%、燃焼度2.3万MWD/tの条件で行われたのに対し、高浜3・4号では、プルトニウムの富化度6.1%、燃焼度4.5万MWD/tという、条件が約2倍も違うプルサーマルが計画されています。
 しかし、こういった条件でプルサーマルが行われたことは世界に例がありません。実証データもなしに大丈夫だという根拠を示すべきですが、どうですか。
 
(2)フランスに4.5万MWD/tで行ったプルサーマルの実績があると、貴社が主張するのはグラブリーヌ原発での実績と思われますが、これはMOX燃料を炉心に置かず、炉の周辺部に置いて行った結果に過ぎません。
 周辺部と炉心では出力密度が極端に異なりますから、比較の対象になりません。
 4.5万MWD/tの実績を支持する根拠が他にあれば挙げて下さい。
 
(3)フランスでの実績では4万MWD/tを超えると、核分裂生成ガスの放出率が急激に増加しています。この放出率はウラン燃料に比べて格段に大きなものです。
 これは核分裂生成ガスの大量の生成・結合による、MOX燃料ペレットの膨れを促す危険なものです。MOX燃料ペレットは、その直径の精度を厳しく要求されます。BNFLのデータねつ造問題を通じても明らかになっている問題です。
 貴社としては、4万MWD/tを超えた場合の核分裂生成ガスの大量放出の問題をどう捉えているのですか。
 
(4)プルサーマルの場合制御棒の効きが悪い例として、プルトニウム富化度約4%のMOX燃料でのホウ素価値(約−4pem/ppm)がウラン燃料の場合(−8〜−9pem/ppm)の半分程度しかないことが知られています。(三菱原子力工業、MAPI、1078、1985年)プルトニウム富化度が平均6.1%と高い場合のデータを示して下さい。
 
(5)MOX燃料の融点は含まれるプルトニウムの富化度に比例して、ウランだけの場合の融点2800℃から低下します。そのため高浜原発のMOX燃料では2730℃となります。
 そのうえ、燃焼度が1万MWD/t上昇する度に融点が32℃ずつ低下するため、4万MWD/tを過ぎると融点は2600℃を下回ることになります。
 異常時には、燃料棒の温度が融点を超える危険があります。
 さらに恐いのは、ペレットの中でプルトニウムの濃度が均一でないことです。MOX燃料の致命的欠点はこのようなプルトニウム・スポットでの異常な燃焼です。
 ペレット外周にプルトニウム・スポットが存在し、かつ外周部が中性子線をあびて、燃焼度が異常に高まる核的リム効果によりそのプルトニウムスポットの温度が融点を超える危険があります。
 しかし、貴社はコンピュータ解析でさえこの点を無視しています。なぜなのでしょうか。
 
7.使用済MOX燃料の処分について
 
(1)使用済MOX燃料の処分法については、原子炉設置変更許可申請書(1998年5月11日)では、「再処理されるまでの間、適切に貯蔵・管理する。再処理の委託先の確定は、燃料の炉内装荷前までに行い、政府の確認を受けることとする。ただし、燃料の炉内装荷前までに使用済燃料の貯蔵・管理について政府の確認を受けた場合、再処理の委託先については、搬出前までに政府の確認を受けることとする」とされています。
 従来は、再処理されるまでの間貯蔵・管理するとは決めていませんでした。
 しかも、再処理の委託については「再処理の委託先の確定は、燃料の炉内装荷前までに行ない、政府の確認を受けることとする」とされており燃料装荷前の「確定」が義務づけられていました。
 しかし、今回は装荷前に貯蔵・管理の確認さえ受ければ、再処理委託先は装荷したのちに、搬出時までに「確認」さえすればいいことになっています。
 高燃焼度の使用済MOX燃料の再処理は世界中で実績がありません。つまり高浜原発でプルサーマルが強行された場合、この原子炉設置変更許可申請書の内容では、高浜原発が行き場のない使用済MOX燃料の最終処分場になることは避けられなくなるのです。
 福井県民をだまして若狭現地に核のゴミまで押しつけるプルサーマルはやめるべきだと私たちは考えますが、どうですか。