■□■□■□■□■□■□■□ 若狭ネット第57号(2000/5/22) ■□■□■□■□■□■□
 
  英国核燃料会社BNFLにダブル・パンチ!! 
 

 関西電力に英仏再処理契約を破棄させ、
   高浜原発プルサーマルをやめさせよう

 
 プルサーマル用MOX燃料の品質検査データねつ造問題を契機に企業全体の「手抜き文化」が問われている英国核燃料会社BNFLで、追い打ちをかける出来事が相次いでいます。
 その一つは、BNFLの再処理事業における英国内最大の顧客であるブリティッシュ・エナジー(BE)社が5月10日、BNFLに対し「再処理契約額の3分の2削減」を具体的に申し入れ、再処理契約の貯蔵契約への切り替え交渉に入ったことです。BNFLにとって、これは再処理契約の3分の1を失い、貯蔵契約に切り替えても約4500億円の損失になります。
 もう一つは、BNFLが再処理に加えて力を入れている高レベル廃液のガラス固化事業で、米国政府と結んでいた核兵器工場除染契約が5月9日に破棄されたことです。この契約は米国内のハンフォードなど核兵器工場のタンクに貯蔵されている高レベル廃液をガラス固化し除染するという契約でした。BNFLにとっては8000億円(仮契約額)ないし1兆7000億円(再評価額)もの損失です。
 BNFLの昨年度の総売上高は14.9億ポンド(約2500億円)で、前年度比10.9%増でした。昨年度はソープ再処理工場が事故続きで収入が落ち込んだのですが、その分を米政府との核兵器工場除染契約でカバーしていたのです。ところが、今回のダブルパンチは、再処理の落ち込みを回復不可能なものにし、落ち込みをカバーしてきた米政府との契約も破棄されるというものであり、瀕死のBNFLにとっては極めて厳しいものです。
 BNFLを民営化しようともくろんできた英国政府も極めて厳しい選択を迫られます。2002年の総選挙後に先送りしたBNFLの一部民営化計画そのものが危機的状態に陥っているのです。英国の3月27日付ガーディアン紙は、5月末に英政府の出すグリーンペーパーでは使用済核燃料の再処理から貯蔵への転換が勧告されるとの見込みを報道しています。関西電力など日本の電力会社は、米国もサジを投げた瀕死のBNFLを抱き起こすために再処理契約を維持し、再処理し続けるのでしょうか。それともブリティッシュ・エナジー社のように貯蔵契約への変更を行うのでしょうか。私たちは、再処理契約そのものの破棄とプルサーマルなど一切のプルトニウム利用の中止を関西電力に強く求めていきたいと思います。
 
BE社:選択の余地なき貯蔵契約への変更
 
 英ブリティッシュ・エナジー(BE)社にも余裕があるわけではありません。BE社の株価は半年で半分以下へ下がり、電力自由化の下でもはや余裕がないのです。BE社が昨年、BNFLに支払った再処理費は約3億ポンド(約500億円)にものぼります。これをもし再処理せずに貯蔵したとすれば1億ポンド(約170億円)ですんだはずだとBE社のピーター・ホリンズ社長ははじいています。
 もともと、BE社には再処理しても回収したプルトニウムや減損ウランを再利用する計画があるわけではありません。そのため使用済核燃料を乾式貯蔵するための施設を建設する計画を立てていました。ところが、1994年末にドイツの電力会社がソープとの再処理契約を一部破棄し、海外顧客だけではベースロード契約が満たせなくなったため、1995年2月のソープ操業開始に伴い、BNFLが使用済核燃料貯蔵施設の建設を強引に中止させ、核燃料供給契約とワンセットで再処理契約に切り替えさせたのです。BE社は国有原発を民営化してできた会社ですから、国有企業のBNFLには余り強く言えないところがあったのでしょう。
 ところが、実際に再処理費を支払う段階になると、BE社にとっては無駄でよけいな出費になり、これを削る以外に生き残れなくなったのです。BE社のマイケル・キルワン経理部長によれば「再処理は経済的に無意味であり、直ちにやめるべきである。」
 BE社はBNFLと約40億ポンド(約7000億円)の再処理契約をしており、ソープ再処理工場のベースロード契約の3分の1を占めています。BE社は今回のBNFLのMOX燃料事件を契機に再処理契約の見直しを公言し始め、遂に5月10日、この契約を26億ポンド(約4500億円)削減するよう具体的に求め、そのために再処理契約を使用済核燃料貯蔵契約へ変更するように求め始めたのです。
 ホリンズ社長は、インディペンデント紙のインタビューに応じ、BNFLとの交渉は極めてセンシティブであり、交渉決着までどれくらい時間がかかるか分からないが、「BNFLは最終的には適切な商業的観点に立つと我々は信じている。原子力発電産業が完全に競争条件下にあることを彼らは認識する必要がある。我々は理性的で前向きに話し合ってきている」と語っています。BNFL会長のヒュー・カラム氏も先月のインタビューで、再処理は望ましい戦略であることを強調しながらも、「考えられないことを考え」セラフィールドでの再処理を終える必要があるかも知れないと認めています。
 
  英仏再処理契約に占める日本の位置

 

  イギリス

  フランス

日本
ドイツ
スイス
ベルギー
小 計

2673トン
  969トン
  422トン
   −
4064トン

2944トン
4127トン
  562トン
  592トン
8225トン

自国分
 

2158トン
 

6647トン
 
引用者注:朝日新聞調べ(4/12)。仏の自国分は昨年末までの国内向けUP2工場での軽水炉用再処理済量、海外顧客用はUP3での契約量。英はソープの2004年までの契約量だが、海外顧客分が増えないため自国分を強引に増やした経緯がある。他に、日本は東海村ガス炉分1500トンを英に委託。
 
米国政府:BNFLには任せられない!!
 
 BE社との再処理見直し交渉が始まる直前の5月9日、BNFLは米子会社から悲痛な連絡を受け取りました。米政府が核兵器工場の除染契約を破棄してきたのです。
 この契約は、米国のハンフォード核兵器工場の177基のタンクにたまっている5400ガロン(24.5m)の高レベル放射性廃液のうち約10%を2018年までにガラス固化するという世界最大規模の除染契約です。BNFLの米子会社が1998年7月に米政府と契約し、2年間でガラス固化施設の設計を終え、建設・操業費の見積もりを出すことになっていました。BNFLの米子会社は当初、約70億ドル(46億ポンド、約8000億円)と見積もっていましたが、設計を終えた先月の推計では約152億ドル(約1兆7000億円)へ2倍以上に急増したのです。米国のワシントン時間で5月8日の夜遅く、米エネルギー省がBNFLとのハンフォード契約を白紙に戻すと宣言したのです。
 インディペンデント紙によれば、米エネルギー省のビル・リチャードソン長官は、この決定は「BNFLの提案により、コスト、スケジュール、管理、経営方針を含む多くの領域で深刻な憂慮が持ち上がったことを受けて出された。その技術的設計は良いが、保守的すぎ、契約者が負担すべきリスクを米政府に転嫁させるものだ」と語っています。グローシア・エネルギー省副長官も「こんなことになって、なぜ我々が彼らの入札を信用できるのか。我々は彼らの評価に非常にがっかりした。我々は残念だがこうせざるを得ないし、今となっては方針を変えるしかない。」
 BNFLはこれまでの設計作業等に米政府から3億ドル(1.96億ポンド、約330億円)を受け取っています。これがソープ再処理工場の事故による売り上げの落ち込み分をカバーしていました。それが急に中止に追い込まれたのです。BNFLは「再入札に応じる」と意気込んでいますが、仏国営コジェマなども関心を示しており、BNFLが再入札で契約を獲得するのは極めて難しい状況です。
 BNFLは1998年6月、米国系モリソン・ヌードセン社の合弁会社と共に米ウェスチングハウス社の原子力部門を買収し、米国政府との核兵器工場の除染契約に食指を延ばしていました。今回白紙に戻されたハンフォード契約はその最大の契約であり、コロラド、アイダホ、サウスカロライナ、テネシーの核兵器工場を含むパッケージの中で最も利益の上がる契約でした。
 BNFLは昨年12月末にも、米国のABB社コンバション・エンジニアリング(CE)の原子力事業部門を4.85億ドル(505億円)で買収しています。こうしてできたBNFLの子会社(WH/ABB社)が、米国の燃料および原子力サービスで1位となり、欧州では2位となったばかりでした。
 今回のハンフォード契約破棄により、BNFLのグローバル企業への急速な移行に疑問符が付き、米国内での他の一連の除染契約も危うくなってきました。米エネルギー省は、BNFLのMOX燃料加工工場の品質管理記録を見直しており、5月初めには調査チームがセラフィールドへ派遣されています。
 BNFLの使用済核燃料再処理事業と高レベル廃液処理事業のグローバル化戦略が全面的な見直しを迫られているのです。
 
BNFL広報部の陰謀と英政府の汚い癒着
 
 このような経済的打撃に加えて、BNFLは政治的な打撃も受け始めました。BNFLの秘密内部文書がリークされ、4月13日にガーディアン紙とチャンネル4特別番組がそれをすっぱ抜いたのです。
<汚い手口その1>
 
 アイルランドの無所属議員であるフォックス女史は、アイルランド政府と共に、セラフィールドにある再処理工場がアイリッシュ海へ放射能をたれ流し続けていることに抗議し、原子力事故の危険性を警告し、セラフィールドの閉鎖を求めるキャンペーンに長年取り組んでいました。ブレアー氏が1997年に首相になったとき、フォックス女史は彼に手紙を書き、地滑り的圧勝を祝し、改めてセラフィールド原子力施設に関する憂慮を表明し、公衆の安全と生活に脅威を感じるため、この工場を閉鎖する段階的措置をとるよう丁重に求めました。後日、英国下級エネルギー大臣のジョン・バトル氏から返書が届けられましたが、その中身はBNFLの宣伝パンフそのものであり、「非常に攻撃的で恩きせがましいもの」だったのです。
 実は、彼女の手紙は、首相サイドから貿易産業省へ回され、そこからBNFLへ回されました。そこで、BNFLが返書の草案を書き、ほとんどそのまま彼女に返書として出されたのです。しかも、返書に際しては、首相や貿易産業大臣ではなく「より下級の大臣が返書を出すべきだ」とBNFLが英政府に助言し、その通りになったというのです。
 貿易産業省の広報担当者は、取材に答え、「バトル氏の返書はBNFLから提供された資料を引用しているが、セラフィールドで達成された安全基準については参照しないように修正した」と弁明しています。
 よく似たことが日本でも起きているのではないでしょうか。電力会社の作成した報告書がそっくりそのまま政府の報告書になっていたりして・・・・
 
<汚い手口その2>
 
 BNFLの広報部は、セラフィールドからの放射能放出に関するミーチャー環境大臣の公開調査計画をつぶそうとし、使用済核燃料積載列車の待機線停泊計画に反対しているヴィス議員をつぶすため、さまざまな陰謀を企てていました。
 環境大臣の公開調査計画をつぶすための陰謀は、BNFL自身が部分自由化に先だって進めている子会社の分割・人員削減計画を撤回するという「過激な提案」と引き替えに、人員削減に反対しBNFLに圧力をかけていた一般の労働党議員たちをミーチャー大臣にたきつけて公開調査をやめさせるという代物でした。BNFL広報部長のラパート・ウィルコックス・ベイカーが1997年8月14日に書いたそのメモには「安い取り引きだろう?」とあります。BNFLと一般労働党議員との会合はメモ通りにもたれましたが、メモにある「過激な提案」は、会合に出席した議員たちの記憶にはなく、結局なされなかったようです。その代わり、BNFLは子会社の売却を予定通りに進め、環境大臣の公開調査も行われました。しかし、メモで弄ばれた議員たちは「そのようなことを彼らが考えていたとは非常にショックだ」とガーディアン紙に述べています。
 もう一つの陰謀は、ロンドン北部の駅ホームの外の待避線に使用済核燃料輸送列車を停泊させようというBNFLの計画に労働党一般議員であるルディ・ヴィスが強く反対していたため、彼の姿勢を変えさせるため、選挙区で影響力のあるユダヤ人社会のリーダーを担ぎ出そうとしたものです。昨年3月に書かれたメモによれば、「ルディ・ヴィス氏と何回も会合を持ち、彼がクリックルウッドから我々を追い出し、使用済核燃料の輸送を阻止しようと決めていることがはっきりした。彼は個人的に原子力のすべてに憎悪を抱いていると我々に公言している。」「我々が老ユダヤ人を味方につけようという提案については、私には少し疑問がある。実際、ルディ・ヴィスはユダヤ人ではないし、彼の父親は先の戦争でユダヤ人家族を助けている。」結局、ユダヤ人の有力者を使ってヴィス議員をたぶらかす陰謀は失敗に終わったのです。
 どこの広報部も同じなのかもしれませんね。
 
<汚い手口その3>
 
 BNFLは昨年、各原発サイトからセラフィールドへ使用済核燃料を運ぶ列車の速度を時速45マイル(約70km/h)から時速60マイル(約96km/h)へ引き上げる提案を貿易産業省にしています。この列車は毎週定期的に、旅客列車と同じ路線で人口密集地を通ります。ところが、貿易産業省と相談の上、マスコミがかぎつけた場合の公式声明を準備し、列車の速度に関する情報が公衆には秘密にされたのです。メモには情報を故意に「葬った」とあります。BNFLマネージャーが昨年4月に書いた貿易産業省への秘密メモによれば「あなたのコメントを反映して」「規定時間外では、列車の運転に違いがあるだろう」と草案を書き直したとされています。
 貿易産業省の広報担当者は「BNFLメモの言葉使いや『葬った』という言葉は明らかに貧弱で問題だが、BNFLの責任だ」と逃げています。別の秘密メモでは貿易産業省はBNFLに事故や他の危険な事象を報告し損なったことについては黙っておくように促しています。
 どこかで聞いたような癒着の実態です。
 
 日本もイギリスも「同じ穴のムジナ」ではどうしようもありません。このような状態を野放しにせず、断固たる姿勢で関西電力や日本政府を追及していきたいものです。