■□■□■□■□■□■□■□ 若狭ネット第57号(2000/5/22) ■□■□■□■□■□■□
 
電力部分自由化がもたらす原発の経済的競争力の喪失
 
原発重大事故の危険性となりふり構わぬ原発推進攻勢
 
電力の自由化とは
 
 2000年3月21日から電力の部分自由化がスタートしました。昨年の11月に電気事業法が改正され、使用電力2000kW以上、受電電圧2万V以上の特別高圧需要家は、10電力会社以外の発電業者から電気を直接買うことができるようになりました。自由化の対象となる受電者は、大規模工場や大病院、デパート、オフィスビル等であり、販売電力量の30%を占め、年間3兆円にもなります。
 電力の自由化による電力市場にはガス会社や商社、外資系の会社が参入し、NTT、大阪ガス、東京ガスによる共同出資会社、丸紅や三菱商事等の商社、外資系のエンロン、オリックスによる合弁会社などが名乗りを上げています。これらの会社は、送電線は新設せず、電力会社の送電線を使って電力を販売し、送電料を10電力会社に払うことになります。
 また同時に電力会社の兼業規制が撤廃されました。関西電力は、ガス専門商社と合弁で会社を設立し、来年(2001年)から液化天然ガス(LNG)の小売り事業を行うなど、電力会社の経営の多角化も進んでいます。
 
なぜ自由化が必要か
 
 自由化の背景には、日本の電力価格は欧米に比べて高く、国際競争力を失うことが理由としてあげられています。日本の電力会社は地域独占で、価格決定には総括原価主義がとられ、かかった諸費用が電気料金に転嫁できること、また、夏のピーク時の需要が大きいため設備が過剰になること等が電力料金の高い理由と考えられています。
 自由化の下では、競争が行われることにより発電コストが低下し、また、電力消費地での電源立地や送電料金の地域別、時間別の割引がおこなわれ、電力料金が低下するというのです。その結果、天然ガス発電など発電コストの安い発電方式が採用され、送電料があまりかからない電力消費地での立地が促進されるということです。
 今回の電力自由化は電力需要の3割を占める大口電力に限られ、中・小電力は対象外です。もともと、大規模工場の電気料金は家庭用電気料金の半分でしたが、これをさらに安くしようというのです。今回自由化の対象外になる中・小規模工場はこれまで通りの割高な電気料金(家庭用電気料金よりは安い)を強いられます。
 通産相の諮問機関である電気事業審議会は、今回の大口小売り自由化による効果について3年後をめどに検証するとしています。
 
原発の経済性
 
 1999年12月、第70回総合エネルギー調査会原子力部会において、1994年の電気事業審議会需給部会の原発の発電単価の見直しを行い、「原子力発電の経済性について」を発表しました。従来の耐用年発電原価(減価償却の終わる16年間の平均コスト)では、LNG火力に負け、石炭火力と同等です。そのため「運転年発電原価」方式を新たに持ち出しました。これによれば、原発の発電原価は運転年数40年、設備利用率80%で1キロワット時あたり5.9円、LNG火力は6.4円と試算されて、原発の経済性が強調されています。しかし、設
備利用年(運転年数)が27年以上でないとLNG火力より安くなりません。このようなトリックを使わなければ原発の経済性を主張できないところまで追い込まれているのです。電力会社による実際の収支計算では数年〜十数年の短・中期的な収支が問題であり、新規原発建設は電力会社にとって大きな負担になるのです。電気料金制度や原子力予算など政府の保護政策がなければ、原発の新規建設はできない状態になっているのです。
 電力消費地から遠く離れた場所に立地しなければならない原子力発電所には、厖大な送電費用がかかります。東北電力八島社長によれば、東通1号の新設だけなら既存の発電網を強化するだけで対応できますが、東電の東通1・2号や電源開発の大間原発が新設されると新たに50万Vの大送電系統が必要となり、5000億円規模の設備投資が必要になると言います。これを考慮すれば、原発の経済性はますます失われます。
 さらに、原発コスト計算から、電源三法など国の原発関連予算や電力会社が「地元協力金」の名目で支払う立地点買収費は除外されています。中部電力での脱税が発覚したように数十億円〜数百億円の漁業補償金も「隠れ資金」になり、原発のコスト計算には入ってきません。
 関西電力等が計画している珠洲原発予定地の買収に清水建設など大手ゼネコンが関与し、関係会社を使って巧みに土地を買収させていましたが、これら関係5社から、現在の森首相が支部長を務める選挙区支部と森首相自身の資金管理団体「春風会」に1995年以降4年間に約800万円の政治献金がなされていました。ちょうど土地買収の前後に献金されていました。これらの「黒い金」も原発のコスト計算から除外されています。
 これらの原発立地のための買収費用を考慮すると原発の経済性は成り立たなくなります。国の電力自由化の大口電力限定と中・小口電力での総括原価方式電気料金制度の維持および原子力関連予算により、原発の経済性はかろうじて保たれているのです。
 
部分自由化の下での原発
 
 今回の自由化は部分自由化とはいえ、販売電力の3割は自由化され、販売価格は自由競争で決まります。自由化に伴ってエネルギー戦略の再構築が課題になっています。少しでも生産コストの安い発電方式をとらざるを得なくなります。新規参入により、10電力会社の電力の販売量は自由化以前に比べ減少すると考えられます。そのため、10電力の既存設備の過剰状況が生じます。まして、新たな設備投資を行うことは過剰設備を抱えることになり、設備投資は抑制せざるを得なくなります。その結果、電力各社は2000年度の設備投資計画では石油火力発電の休止、新規の設備についての先送り等を行いました。
 立地から建設、稼働まで長期間を要し、資本費が高く、間接コストのかかる原発は、価格競争に勝てず、原発の新増設は抑制されざるを得ません。他方で減価償却の済んだ原発は、コストが安いので寿命を延長して運転されることになります。また、コスト削減策として定期検査の昼夜突貫工事や定期検査項目の削減などによる定期検査期間の短縮が競って行われる(平均100日以上から40日へ)など原発の安全性が切り捨てられています。原発の長寿命化・コスト削減策と安全性の切り捨てにより重大事故が起こる危険性が増しています。JCO事故やMOX燃料のデータねつ造事件は、そのことを事実で示しています。
 
競争力を失う原発新増設
 
 アメリカでは1998年から自由化が行われていますが、1979年のスリーマイル島原発事故以降、原発の新設は行われず、新設の8割をコストの安い天然ガス発電が占めています。米国原子力産業会議によれば、既設の原子力発電所は発電原価が石炭火力と同等であり、LNG火力より安くなっています。これは減価償却が済んでいるからです。新規原発では逆に建設中の金利や物価上昇率を無視しても建設費が火力発電の2〜3倍になり、競争力を失います。
 政府の原発20基計画は立地難から事実上破綻したものの、原発増設の姿勢は変わっていません。増設予定の敦賀3・4号炉原発では2基で建設費8300億円もかかり、発電開始当初は設備の減価償却費がかさむため、1キロワット時当たりの発電単価は10円になるとされ、発電をはじめる10年後に割高な電気が売れるかどうかが問題となることも考えられます。しかし、敦賀3・4号炉を計画している日本原子力発電は電力・原子力メーカーによる共同出資の子会社であり、原発の電気だけを電力会社に供給する会社です。自らの存在と国の原発推進策の後押しで増設を押し進めようとしています。また、コスト削減策として、耐震設計の切り捨てやコンクリートの手抜き工事などが行われ重大事故の危険が一層増すと考えられます。
 
なりふりかまわぬ原発立地推進攻勢
 
 福井県の栗田知事は増設「白紙」から積極的な検討姿勢へ転換しました。自民党は、原発の新増設を円滑に進めるための原発立地市町村への新たな買収策を盛り込んだ議員立法「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法案」を今国会で成立させようとしています。これらに反対し、全国各地の原発新増設反対運動と連帯し、新増設を阻止しなければなりません。
 2005年頃には燃料電池の実用化が進むと言われ、天然ガスを利用したマイクロガスタービンの実用化も進んできています。これらを利用した小型電源と排熱の暖房利用などで熱効率を高め省エネ対策にも利用できます。これらは今回の部分自由化の対象外となっている7割の中・小口需要家に拡がり、総括原価方式の電気料金体系を崩していく可能性があります。原発を中心とする大規模集中型発電からこれらを利用した小規模分散型発電への移行が促進されことになるだろうと考えられます。それは新規原発建設をますます困難にしていくでしょう。今回の「原発立地地域振興法案」は、これらに対するなりふり構わぬ巻き返しにほかなりません。
 
関電の原発推進を止めさせよう
 
 関電は3月27日に設備投資の削減と経営の効率化を柱とした2000年度の設備投資計画を発表しました。それによると、火力の和歌山や御坊第二をはじめとする新設予定の発電所計1200万kW分の運転開始時期を1〜5年先送りすることにより、設備投資の削減をおこなうとしています。また、経営の効率化の方策として、@小規模火力発電所10基の運転停止、A原発の稼働率80%以上の維持、B変電所の工事費や設備の修繕費の削減、C新規採用の抑制をはじめとする人員削減を打ち出しました。
 関電は、小規模火力を停止する一方で、プルサーマルの推進、原発の寿命延長、定検の期間短縮、高燃焼度運転による強硬運転、日本原電敦賀3、4号炉増設計画の後押しなど原発推進の姿勢は変わっていません。重大事故が起こる危険性がますます高まっています。重大事故が起こる前に、原発の運転、新増設を止めさせなければなりません。