■□■□■□■□■□■□■□■ 若狭ネット第58(200/8/26) ■□■□■□■□■□■□
 
欧州での脱原発・脱プルトニウムの流れを受け、
日本での反原発運動を粘り強く大衆化しよう
 
 欧州では、この1ヶ月の間に脱原発・脱プルトニウムの流れが急速に進展しています。
 英国最大の原子力発電会社ブリティシュ・エナジーBE社は再処理から使用済核燃料貯蔵への方針転換を打ち出し、BNFLは英ガス炉閉鎖計画を発表しました。ドイツ政府と電力会社が脱原発に合意し、オスパー会議では再処理中止勧告が決議されました。これらがBNFLのMOX燃料品質管理データねつ造事件に続いて起きています。これらの背景には、チェルノブイリ事故による放射能汚染、再処理工場による海洋の日常的な放射能汚染、反原発と結合した大衆的で粘り強い反核運動、原発立地難と新規原発の経済性喪失、小型で安価なコンバインドサイクル・ガスタービン発電の登場とEU内での電力自由化の動きがあります。
 原発先進国の中で日本だけが原発新増設推進と高速増殖炉によるプルトニウム利用推進を掲げています。しかし、日本もこれら欧州の流れの影響を受けないわけには行きません。英仏再処理工場が存続するか否かのカギを日本が握っており、日本でも原発立地難で計画変更を余儀なくされ、新規原発の経済性が失われ、電力自由化が部分的にではあれ、始まったからです。
 他方で、敦賀3・4号増設を容認するかのような福井県知事の言動、島根3号増設の島根県知事による容認など原発増設攻勢が続き、実用化につながらない「もんじゅ」の運転再開やプルサーマルをあくまで強行しようとする動きが続いています。これらに対する大衆的な反撃を、欧州の経験に学びそれを日本に生かしながら、粘り強く組織し、一層強化する以外に、日本で脱原発・脱プルトニウムへの流れを生み出すことはできないでしょう。
 
英仏再処理中止の鍵は日本が握っている
 
 BNFLは5月23日、同社が保有するマグノックス原発6サイト16基の閉鎖と、2サイト4基の運転認可期間延長を発表しました。
 6サイト16基は1956〜66年に運転開始したマグノックス炉GCRで、認可年数が40年または50年でした。今回の決定はこの認可年数を更新せず閉鎖するというもので、1965年に運転開始したヒンクレイポイントA-1とA-2の2基は現在停止中で、まず、この2基が閉鎖されます。遅いものでも、チャペルクロス4号は10年後に閉鎖となります。
 4基の運転認可期間延長は、今の天然ウラン金属燃料をセラミックス燃料に切り替えられた場合の選択肢であり、2003年に決定される予定です。
 ガス炉の閉鎖に伴いセラフィールドのマグノックス再処理工場も2012年までに閉鎖される予定であり、セラフィールドからアイリッシュ海への全放出放射能量の3分の2が減るとBNFLは主張しています。
 この再処理費用の負担は軽減されますが、それでも廃炉コストは100億ポンドにも達すると見積もられています。
 これらのガス炉は元々マグノックス電力の所有だったのを2年前にBNFLが同社を併合した結果、BNFL所有になったのですが、政府管理チームによれば、併合後のBNFLの特別負債が90億ポンド(約1.5兆円)に達します。累積では360億ポンド(約6.1兆円)という途方もない数字になります。これはセラフィールドの除染費用70〜90億ポンド(1.2〜1.5兆円)が重くのしかかっているせいだと言われています。
 さらに、BNFLにとって逆風となっているのはブリティッシュエナジーBE社が5月10日、同社所有の原発(新型ガス炉AGR14基と軽水炉PWR1基)の使用済燃料について再処理契約を貯蔵契約に変更することをBNFLに要求したことです。
 BE社がBNFLと結んでいるソープでの再処理契約は約40億ポンド(約7000億円)にのぼり、昨年は3億ポンド(約500億円)を払っています。これを貯蔵契約に変更すれば1/3の1億ポンド(170億円)で済むとし、全契約額の2/3に当たる約26億ポンド(約4500億円)の削減を要求したのです。
 これによりソープの2004年末までのベースロード契約6222t(海外顧客含む)の1/3、2158tが失われることになります。BE社が貯蔵契約になれば、残りの6割強を占める日本がソープ存続の鍵を握ることになります。
 BE社がこのような強硬手段に出たのには、経済的な背景があります。新しいガス発電所の発電価格が1.9ペンス/kWh(3.2円/kWh)になることが、英国上院の電力事業改正法案の審議で明らかにされ、これでは既設の原発でも競争できなくなることが明確になったからです。英国ではすでに高速増殖炉計画を放棄し、プルサーマル計画もないため、貯蔵できないマグノックス炉の使用済核燃料以外は再処理する意味がありません。そのため、BE社は経済性のない再処理よりコストダウンできる貯蔵を選択したのです。日本では、使用済核燃料の搬出先を確保するために、経済性のない危険なプルサーマルが強引に進められようとしているのです。
 
影響大きい脱原発と再処理中止のドイツ合意
 
 ドイツ連邦政府と電力各社の間で6月14日、ドイツ国内の全原発について閉鎖時期の合意が確定しました。オブリハイム原発は最も早い2002年12月31日に閉鎖され、最も遅いと思われるエムスランド原発も2033年には閉鎖されます。1998年末に成立した社民党と緑の党の政権発足時の原発廃棄方針が、電力会社とのジグザグした譲歩の過程を経てやっと合意に達したものです。原発新増設はしないことは最初から合意済みでしたから、運転中の原発について、緑の党の即時閉鎖から電力会社の35〜40年運転までの間の妥協を計る闘いでした。結局、ドイツにおける現在の力関係を反映して、平均32〜34年運転で全原発を廃止することが合意されたのです。
 また、2005年7月1日以降は再処理のための輸送を認めないことも合意されました。原子力法を改正して「原子力利用を整然と終了」と明記する方針も合意されました。
 原発先進国ドイツでこれらの脱原発・脱プルトニウムが合意されたことは画期的です。それは英、仏、日本の原子力政策に大きな影を落としています。
 しかし、脱原発合意には落とし穴もあります。残された運転期間の年平均利用率は96.6%とみなされており、定期点検もそこそこに運転することが想定されています。また、10年ごとの安全検査も、「3年以内に閉鎖」を明言すれば行わなくても良いとか、閉鎖が近づくにつれて手抜きが心配になります。ちょうど日本の新型転換炉「ふげん」の廃炉が決まった途端にミスが頻発し、所長が嘆くような事態が心配されます。また、原発サイト近くに速やかに中間貯蔵施設を設置するため、政府と電力がその運転準備が5年以内に整うようにすることも合意しています。将来の廃炉をたてに危険な原発の運転と使用済燃料の貯蔵が住民に押しつけられるのでは、たまったものではありません。
 ドイツでは1979年のスリーマイル島原発事故以降、大衆運動が盛り上がり、数万人単位の行動が連続して取り組まれてきました。中距離核反対などの1982年をピークとする国際的な反核運動と結合して反原発運動は確固とした地位を占めていました。1986年のチェルノブイリ事故で運動はさらに活性化し、大衆運動が議会内の活動を支える決定的な勢力となっていったのです。それが社民党と緑の党との脱原発の合意を引き出す潜在的な力となったことは言うまでもありません。
 私たちも、このような大衆的な反原発運動の前進を粘り強く追求していかねばならないと思います。
 
オスパー会議で再処理中止勧告を決議
 
 欧州の16ヶ国(EUを含む)が加盟するオスパー会議は6月29日、以下の画期的な決議を行いました。
「原子力再処理諸施設からの放射性物質の排出および放出に関する現在の認可は、優先の課題として、国内主務官庁により、とりわけ次の目的を持って、見直されるべきである。・使用済核燃料を適切な施設で管理するため
の非再処理選択肢(例えば乾式貯蔵)を実施する。
・諸事故による汚染のリスクを最小化するた
めの予備的手段を講じる」
 「北東大西洋の海洋環境保護のため」と銘打った今回の決議は、英セラフィールドと仏ラ・アーグの再処理工場閉鎖を英仏両国に求めるものです。
 これに16ヶ国中12ヶ国が賛成しました。棄権したのは当事者の英仏とEUの3者だけでした。ルクセンブルグは欠席し、プルサーマルを実施しているドイツとスイス、再処理契約のあるスウェーデン、仏に国内原子力産業とマスコミを牛耳られているベルギーも賛成しました。英仏は「この決定は受け入れられない」と文書で通知すれば、この決議に拘束されませんが、賛成諸国は拘束されます。
 英仏再処理工場は2004〜2005年にベースロード契約を終えます。その後、日本が契約しなければ海外顧客がなくなり、英は顧客を完全に失い、仏は国内顧客(仏電力公社EDF)だけになります。この意味でも日本が英仏再処理の命運を握るキー国なのです。
 
日本でも始まった電力自由化の流れ
 
 電力自由化の流れは日本でも例外ではありません。日本では、すでに発電部門は自由化され、この3月から一部の大口需要家に対する小売部門も自由化されました。日本の電力需要家は次の7種類に分類されます。
@特高産業用(2.2万v以上、2000kW以上)、
A高圧B(6600v、500〜2000kW)、
B高圧A(6600v、50〜500kW)、
C低圧(200v、50kW未満)、
D特高業務用(2.2万v以上、2000kW以上)、
E高圧業務用(6600v、50〜2000kW)、
F電灯(100v、50kW未満)
 @は大規模工場と鉄道向けで、Cが小規模工場とコンビニ向け。AとBは工場の規模の違いによります。Dはデパート、大病院、オフィスビル、Eはスーパーと中小ビルが対象です。Fは一般の家庭用です。
 ことし3月に自由化されたのは@とDの2万v以上、2000kW以上の需要家です。1996年の実績では、国内の電力量の28%、電力収入で20%に当たります。実は、この電力需要家の3割自由化という数字は、フランスと同じです。日本はフランスと同様に原子力推進政策をとっており、発電コストだけで他電源と競争する全面自由化の下では、原発を推進できなくなると、日本政府も電力会社も認めているのです。フランスは国営企業が全原発を保有していますが、日本の商業用原発は民間の九電力会社と日本原電が保有しています。実は、原発への投資がかさんだため、これら日本の電力会社の自己資本比率は製造業平均の半分以下でしかなく、利払いに追われ、グローバル化で海外から電気事業が参入してくれば競争できない状況に置かれているのです。自由化を3割に制限するとの方針は原発推進と直結しているのです。
 しかし、それも今後3年を目途に実施状況を検討するとなっており、中小の製造業やコンビニ業界から日本の電気料金の高コスト構造への批判が噴き出せば、自由化の対象が広がる可能性もあります。
 
発電コストをごまかす運転年数発電原価
 
 電力自由化の中で原発が高いコストを逃れられないことがあからさまとなってきており、原発を強く推進する通産省・資源エネルギー庁は、各電力のコスト計算をゴマ化して原発のコストが低いかのような宣伝を行おうとしています。
 1999年12月16日付けの総合エネルギー調査会原子力部会資料「原子力発電の経済性について」の中で、原子力は5.9円/kWh、LNG火力は6.4円/kWh、石炭火力は6.5円/kWhなどとして原発の発電コストの優位性を誇示しています。ところが、これらは、前号でも述べたように、これまでの「耐用年発電原価」(原発では16年)を「運転年数発電原価」(同40年)へ切り替えて計算した結果です。
 これまでのように原発の設備利用率70%、耐用年数16年で計算していては、発電コストが原発7.7円/kWh、LNG7.0円/kWhとなり、原発ではガス発電と競争できません。そこで、設備利用率を80%に引き上げ、原発の運転年数を40年に延ばして計算すれば、原発の方が安くなったというのです。
 原発では建設費が高く、格納容器など発電施設に莫大な費用がかかるため、その発電施設をムリヤリ長く使えば、その分コストが下がるというわけです。全くの子供だましの手口です。電力会社はこのからくりを十分知っており、「原発は安くない」と公然と認めています。そのため、東電や関電は、立地難だけでなく、原発の経済性の面からも新増設計画を数年延期しているのです。
 注意しておかなければならないことは、日本での電力自由化の動きが、原発推進にとって困難な状況を生み出すだけでなく、だからこそ、原発重大事故の危険性を一層拡大させているということです。
 電力各社は一斉に、人員削減計画を打ち出し、昼夜の突貫工事や検査内容の削減で原発の定期点検期間を短縮し、400日を超える長期連続運転を図り、高濃度・高燃焼度の核燃料を使うようになっています。自由化と規制緩和の中で、経済効率の追求が極限にまで行われ、それは原子力の安全管理を手抜きさせるところまで進んでいるのです。
 JCO事故はその典型例でした。BNFLのMOX燃料品質管理データねつ造もその一環でした。関電がBNFLの不正を見抜けなかった根本原因もそこにあります。問題点が見えていても見えない状態に陥っているのです。
 
電力と政府の原子力推進と対決しよう
 
 欧州では、原発重大事故による放射能汚染と重大事故の脅威が大衆運動をとらえ、その強化・拡大が、原発の経済性喪失と電力自由化の流れと相まって、脱原発の流れを作り出しています。日本でも、JCO事故という日本の原子力史上最悪の重大事故が起きました。国民世論の大半は原子力に批判的です。ところが、反原発運動は労働組合運動の後退と諸政党の離合集散の結果、分散的な状態を強いられています。他方では、原発の経済性喪失と電力の自由化が否応なしに進む一方で、税金を湯水のように投入する原発立地策動が執拗に目論まれ、経済性のないプルサーマルが強行されようとし、未来のない「もんじゅ」の運転再開がねらわれています。
 その意味では、第二、第三のJCO事故がいつ起きても不思議でない状況が、日本にあるのです。
 私たちは、分散化された闘いを余儀なくされている全国各地の闘いを結びつけ、各地で電力会社の原発推進と対決し、脱原発を勝ち取る大衆的な力を粘り強く築いていかねばならないと考えています。重大事故が起きる前に原発を止めるため、共に頑張りましょう。