■□■□■□■□■□■□■□■ 若狭ネット第58(200/8/26) ■□■□■□■□■□■□
 
投稿 汚染された金属スクラップ
 
大阪 向井千晃
 
 3ヶ月前の4月26日、住友金属和歌山製鉄所でコンテナから放射線が検出された。このコンテナには、三井物産がフイ リピンから輸入したステンレス・スクラップが入っていた。
 また、5月8日には、神戸製鉄加古川製鉄所で、鉄屑取扱業者・島文のトレーラー(鉄スクラップ搭載)から放射線が検出された。トレーラーはそのまま追い返され、神戸市内の島文の敷地内に戻った。
 いずれの場合もトレーラーがゲート式放射線検知器の間を通過した際に、ガンマー線が検出されて初めて、スクラップの放射性物質の混入や放射能汚染が発覚した。
 しかし、このゲート式検知器は、感度がよいとは言え、放射線を検出し損なう場合もある。たとえば、医療用機器など放射性物質が組み込まれた機器類では、医療従事者や作業員が被曝しないよう密閉・遮蔽されているため、容器が破損しない限り放射線は検出されない。また、放射能で汚染された鉄スクラップが入っていても、汚染されていない鉄スクラップが周りを取り囲んでいれば、放射線が遮られるため、検知されにくくなる。さらに、スクラップを積んだトレーラーがゲート式検知器の間をゆっくり進んだとしても、小さく揺れるため放射線が検知されにくくなる。
 汚染スクラップが検出されずに溶解されてしまった例は実際にアメリカで起きている。それはテキサス州の製鉄所で1993年に起きた出来事だ。溶鉱炉でできたスラグ(溶解鉄の表面に浮く不純物を集めた廃物)を工場外へ搬出しようとしたとき、突然、検知器のアラームが鳴った。なぜ、スクラップ搬入時に検知されなかったのか。いつ、汚染スクラップが搬入されたのか。細かい時期などは全くわからない。この事件は関係者に広く強いショックを与えた。汚染されているはずの製品は今、どこに使われているのか?追跡調査は可能か?汚染はどの程度なのか?・・・・
 1985年〜1995年の10年間に、放射能汚染スクラップの溶解炉混入事故はわかっているだけで35件もある。そのうち24件は米国で起きたものだが、鉄鋼関連施設が放射線検知器を設置し終える以前の事故であり、検知されないまま放置された事故がどれだけ起きていたかはわかっていない。
 米国以外では、メキシコ、台湾、ブラジル、イタリア、アイルランド、インド、ロシア、カザフスタンなどでも汚染事故が見つかっている。これらの国では放射線探知対策は行われていない。これらの国の製鉄所は鉄鉱石を直接溶かす溶鉱炉とは異なり、電気炉(電炉)である場合が多い。電気炉の溶解原料の大半が、人工的な汚染物質の混入しにくい鉄鉱石ではなく医療用機器などの鉄スクラップであるため、放射性物質の混入や汚染スクラップによる汚染事故が起こりやすいと推測される。
 その後も、1995年には台湾で汚染事故が発覚し、1998年にはスペインの製鉄所で放射性物質混入事件が起きた。日本鉄鋼連盟および各金属溶解現場が相次ぐ汚染事故に危機感を募らせた結果、日本でもこの2年間でゲート式検知器が急いで設置された。
 スクラップへの放射性物質混入事件が4月28日、5月8日と、日本では急に現れたように見えるが、決してそうではない。今まで見逃されていた混入放射性物質や汚染スクラップが監視網にかかるようになったということだ。すなわち、日本でも身の回りの鉄骨など金属製品に汚染がないはずはないということである。医療分野、鉱業検査機器など放射能利用は非常に多くなったが、それらの管理については全世界的にズサンである。
 次に汚染金属の輸出入についてふれよう。
 米国の原発廃棄物はかなり前から台湾に輸出され、ボイラー、電線、変圧器は高雄のコンビナート内の金属保管場に運び込まれていた。1984年、米国で4基の原発を修理した際、冷却系の鋼パイプが大量に発生した。リサイクルのため米国内で除洗されたが、法定線量を超えていたにもかかわらず、2000tもの汚染鋼パイプが台湾や韓国へ輸出された。表向きには、台湾当局は汚染スクラップ輸入を許可していない。また、台湾国内でも原発廃棄物の金属スクラップの売買を許可していない。しかし、実際は売買されている。また、米国の原発廃棄物も表向きは輸出許可されていないが、取扱業者の書類上の操作により「輸出」されている。例えば、放射性廃棄物を他の州へ移す。州間を移動しているうちに放射性廃棄物が単なる金属スクラップに化けてしまうから驚きだ。
 輸入スクラップの放射線検査をしている国もある。スウェーデン税関は1991年から実施しているが、オランダ、スペイン、中国など実施国はかなり少ない。1992年、スウェーデンはエストニアから鋼を輸入したが、放射線が検出され、結局送り返した。
 中国は検査をしているものの放射能汚染スクラップの輸出入の歯止めになっていない。中国は1990年代初頭、ウクライナから数百トンの金属スクラップを輸入した。その中には汚染スクラップが混入していた。旧ソ連の原子力潜水艦、軍艦からの汚染スクラップである。ウクライナは旧ソ連崩壊後、経済状況悪化により輸入したものを含めて大量のスクラップを輸出した。その一部が中国へ流れたのだ。中国は、製鉄コストが上昇したため、海外の安価なスクラップに手を出し、旧ソ連からの汚染スクラップだけでなく、米国からの原発廃棄物も輸入されていた。
 米国では、汚染スクラップや汚染製品の輸入があると、情報がかなり公開され、マスコミにもとりあげられる。溶解炉に放射性物質や汚染スクラップが混入したときも報道された。米原子力規制委員会NRCは、少ない予算と少ない人員では国内のすべての放射能関連の事件を把握できないと言っている。ところが、汚染スクラップを輸出した事件が発覚しても、輸出した国で報道されることは全くない。それは、米国に限らずどこでも同じだ。
 「この問題について、我々の知っていることは氷山の一角にすぎない。しかも、この氷山はどれほどの深さにまでもぐり込んでいるか、我々にははかり知ることが出来ない。」と、NRCの内部資料にある。