■□■□■□■□■□■□■□■  若狭ネット第60(2000/9/25)  ■□■□■□■□■□■□
 
9・10若狭ネット講演会報告
 
美浜町初の原発問題講演会で会場が満杯に
 
松下 照幸 
 
 「電力だって自由化!だいじょうぶ?原子力発電」--- ちょっと風変わりなタイトルですが、私たち若狭連帯行動ネットワークは、美浜町においてこのようなタイトルで講演会を行いました。かっては美浜町で原発に関する講演会を行うということなど、とても考えられなかったのですが、今ではこの通り、元気なタイトルを付けて行えるようになりました。住民の意識が変わり、気持ちに余裕ができてきたからです。
 原子力の安全は、引き続く事故によってその信頼を失ってきました。それでは「なぜ原発増設」なのか?地方では、原発を増設することで不況から抜け出したいと考えてしまうのです。地場産業が原発に痛めつけられますから、原発が長いこと運転を続けている現地では、「原発しか考えられなくなる」のです。経済がグローバル化し、経済構造を変えることが求められているのに、一部の人たちはまだ旧態依然の発想しかできないようです。
 電力の一部小売り自由化が始まり、電力会社は地域独占を外されました。競争体力を付けることが最大の課題となり、体質改革を強く迫られています。原発にもコスト削減の圧力が加わり、定期点検短縮と長期連続運転が強行されています。原発にぶら下がっていた地域の小さな産業は、受注単価を切り下げられたり、仕事が少なくなったりと、とても厳しい状況になっています。
 「原発はもう先がない」と多くの町民は考えているでしょう。電力会社による地元の新規雇用も減り、電力会社の悪口をよく聞くようにもなりました。敦賀市や美浜町に住んで
そのことを強く感じられるようになったからこそ、このような講演会のタイトルが生まれたのです。
 
時代は変わりつつある
 
 講師は飯田哲也さんにお願いしました。「北欧のエネルギーデモクラシー」など多くの著書で飯田さんの名は知られています。ヨーロッパ諸国での電力自由化事情、自然エネルギーの導入と脱原発に向かう世界の潮流、それらを踏まえた日本におけるエネルギー政策の必要性を語っていただきました。
 現地からということで、「敦賀3・4号機増設問題」と「原子力の未来、美浜町の未来」について私たちが報告をいたしました。飯田さんのお話の後でちょっと気が引けましたが、現地での焦点を紹介出来たかと思っています。
 飯田さんのお話の中で、二日前に自民党の橋本龍太郎氏から呼ばれていろいろと話されたことを伺いました。「時代は変わりつつあるな」という実感を持つことが出来ました。
 原発は非合理であること、不経済であり、不安であり、古い経済であること、そして、「原発は過去の象徴である」とも述べられました。スウェーデンやドイツなど脱原発に向かうヨーロッパの国々の実情についても詳しく説明されました。そして1997年末の京都会議以降、ダイナミックにエネルギー政策を転換しているヨーロッパ諸国の姿勢を教えていただきました。自然エネルギーの目標数値、目標年度を明示して、環境という新しい経済規範を打ち立てようとしているヨーロッパ諸国に、全く感銘いたしました。
 
「ガラパゴス化」する日本
 
 「何で日本は駄目なんだ」という、ため息混じりの質問が講演の後で出されましたが、飯田さんは原子力ムラ(官僚)の暴走、日本の国会議員のレベルの低さが、「ガラパゴス化」する日本の象徴となっていることを訴えられました。
 「昨日の長銀・拓銀」は、「明日の東電・北電」とも言われました。全く同感です。私の講演会での報告資料にもそのことを記しましたが、「原発増設が暗示する未来である」と言えるでしょう。
 原発を増設すると確実に次のことが生じます。電力会社の借金が増え、会社の抱える固定負債が増えていきます。過剰な原発比率になりますと、電力供給構造が硬直化します。電力自由化市場の下では、いずれも競争力の低下に繋がります。こんなことは経済原論しか勉強したことのない私でもよく理解できます。にもかからわず、なぜ、原発増設が語られるのか。やはり「ガラパゴス化」しているのでしょうね。
 
可能性の高い「不確実な出来事」
 
 原発にとってとても厳しい事態も予想されます。飯田さんの表現によれば「可能性の高い不確実な出来事」であります。電力市場の規制緩和で厳しい価格競争が始まること、環境税や自然エネルギー法が導入されること、経済が沈滞化して電力需要が低迷すること、革新的な小規模エネルギー技術が普及すること等であります。「不確実」どころか、とても可能性が高いものばかりですね。そうなれば、原発は完全に撤退に追い込まれることになるでしょう。
 「賢い選択」として、飯田さんは「ミニマム・リグレット・ポリシー」を提案されました。後悔を最小にする選択だそうです。新しい巨額投資を避ける、先延ばしにすること。アウトソーシングの推進、つまり外部の卸電力を利用すること。そして、付加価値が高くリスクの少ない小さな電源への投資、天然ガス・コンバインドサイクル発電への投資であります。これが、可能性の高い不確実な出来事に備える「賢い選択」であると指摘されています。
 飯田さんは「政策をしっかりと作る」ことの大切さを語っておられます。政策を議論する過程で合意を作り、目標値を明示し、目標年度を設定すること、この大切さを訴えておられます。原発増設に対する代替案を探ることが、原発に頼らない明るいエネルギー未来を作れるのだと述べておられます。
 講演会の前後に、飯田さんから多くの話を伺いました。「飯田さんと知り合えて本当に良かった」ことをお伝えし、地域への新エネルギー導入について教えていただくこともお願いいたしました。私自身にとっても、講演会に参加された人達にとっても、とても有意義な時間であったと思っています。
 
原発増設と定検短縮の結末は・・・
 
 敦賀3・4号機増設問題については、敦賀の増田さんが新聞記事を使って最近の動きを報告しました。「原子力の未来、美浜町の未来」については私が報告しました。ここでは、私の報告について少し触れることにします。
 このままいくと10年後には美浜1号機は40年を経過します。2・3号機とも40年近くになります。何も問題が起きなくてもこのように老朽化していくわけですから、美浜町の10年先には、既に原発が無くなっている可能性すらあります。
 原子力発電所が地域の産業を痛めつけること。電力の一部小売り自由化が始まり、定期検査の短縮が強行され、燃料の高燃焼度化が進められていること。これらを私の報告では強調しました。定期検査の短縮は、昼夜の突貫工事によってなされています。事故を発生させる危険が高まっています。高燃焼度燃料の使用によって燃料棒破損の危険も高まり、蒸気発生器細管破断事故と重なれば大変な被害をもたらします。電力自由化は確実に原子力発電所を危険に追い込んでおり、もっともっと私達の関心を高めなければならないと思います。
 原子力産業の斜陽化が、もうずっと前から始まっています。「三菱原子力工業」が消滅してから既に何年も経過しています。これから斜陽化の速度はもっと早まるでしょう。美浜町はそのことを理解し、今から備えを開始しなければいけないことを、私は強く訴えました。
 
満杯の会場に感激!
 
 講演会には、美浜、三方、敦賀、小浜などから40人以上の方が参加して下さいました。中学校時代によくしかられた先生も来て下さいました。会場は満杯になり、正直にほっといたしました。今までは講演会の会場を確保することさえ出来なかった美浜町で、原発問題をテーマに掲げて、このように盛況に講演会ができたことにも、時代が変わりつつあることを実感いたします。
 
誰にも語られなかった真実の話
 
 最後に、会場から発言がありました。かつて原発に勤めておられた方で、定期検査時の不正の実態をホワイトボードに書いて説明して下さいました。参加者は皆、おそらく驚かれたことでしょう。私も驚きました。その方は、私が定期検査の短縮を批判したことを取り上げて、「定検短縮は危険であるから絶対にいけない」と訴えられました。ありがとうございました。なかなか勇気のいることだと思います。労働現場の貴重な体験を語っていただいたことに、とても感謝しています。
 
全国の皆さん、ご支援ありがとう
 
 原子力が折り返し点を通過したことは十分に感じられます。政治のレベルの低さがソフトランディングを困難にさせているようです。ここ数年が最大の山場になるでしょう。現地の私たちが成しえることは、あまりにも小さいものです。都市部の人たちとしっかりと連携をとりながら、1日も早い脱原発と新しいエネルギーの未来を模索していきたいと考えています。
 最後に、今回の講演会を開催するに際して、全国の皆さんからのカンパや、福井新聞への投書などの励ましが支えになりました。講演会に向けて、敦賀市、美浜町、三方町、小浜市へ新聞折込を行い、講演会開催の案内とともに敦賀3・4号増設反対のキャンペーンを張ることもできました。
 ありがとうございました。今後ともご支援をよろしくお願い致します。
 敦賀3・4号の増設を許さず、すべての原発を一日も早く止めるために、共にがんばりましょう。