■□■□■□■□■□■□■□■  若狭ネット第60(2000/9/25)  ■□■□■□■□■□■□
 
原発・核燃料サイクル推進の挽回を狙う長計(案)
 
政府の強引な核燃料サイクル推進に反撃を!
 
破綻した原子力政策の挽回を狙う長計(案)
 
 長期計画策定会議(座長は東電会長那須氏)は「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(案)」を8月11日に発表しました。
 日本の現行の長計は、もんじゅ事故、JCO臨界事故など相次ぐ核施設の事故で破綻しつつあります。
 また、MOX燃料データ改ざん発覚から露呈した関電によるBNFLの不正ペレット製造への追認などが明らかにした、原子力機器製造のぬぐいがたい不備・欠陥という事態は、国民全体に原子力への懸念を強めつつあります。
 こういった中で、日本でもこれまでどおりには原子力政策を遂行できなくなっています。
 しかも、欧州各国で原子力・プルトニウム利用からの撤退の動きがあらわれてきており、世界の中で特に日本だけがプルトニウム利用に固執している事態が誰の目にも明らかになってきています。
 今回の長計策定はこのような中で行われることになったのです。原子力推進勢力は日本の原発・核燃料サイクルをどう再建するかに関心を寄せています。今回の長計策定を、これらの不利な事態を挽回する契機にしようとやっきになっています。
 
原発・核燃料サイクルに夢見る?長計(案)
 
 原子力にとって最も不利となったこの時期にあっても、長計(案)は原発・核燃料サイクル再建を狙ってその推進を依然主張し続けています。原発に関し、エネルギー供給の安定性、環境負荷抑制、経済性、安全性、核不拡散への配慮などが利点であるとあげ、その推進をうたいあげています。
 原子力技術について「我が国が世界の原子力分野のフロントランナー」と自画自賛しています。「フロントランナー」とは世界が原発とプルトニウム利用から撤退する中で唯一取り残されたランナー=日本を何とかゴマ化すデマゴギーに過ぎない言葉で、推進側も使わなくなっていましたが、今回久々に復活せざるを得ませんでした。
 
再処理路線は一応残す  国と民間の間で折り合いをつける
 
 長計(案)決定に至る前段にあたる、第三分科会での議論に見られた、高速増殖炉(FBR)の位置付けや「実用化」をめぐる動揺・紛糾の動きは全く隠され、使用済燃料は中間貯蔵するものとして位置づけられ、長計(案)は再処理が前提となった構成となっています。
 1995年12月のもんじゅ事故後、大蔵省までが唱えた「もんじゅ廃炉」へと後退したFBR推進路線は、1997年10月14日の高速増殖炉懇談会で現行の長計とともに急遽よみがえり認められました。これに対する電力サイドの反撃のキャンペーンが1997年末から1998年末にかけて展開されました。その柱となったのが、東大教授山地憲治氏ら原子力未来研究会と、電力中央研究所理事の平岡徹氏です。山地氏らは、FBRを「未来への保険」としてFBR推進に否定的な見解を打ち出し、平岡氏は原子力政策を上層(FBR・再処理)、基層(軽水炉・廃棄物)の2つの分野に分け、2020年頃に上層の見極めをすべきとしてFBR推進の余地を残しました。
 今回の長計(案)は基本的に、FBRや再処理推進を基本的に残そうとする勢力の根強い暗躍を示唆しています。
 さらに細かく言えば、長計(案)はFBR実証炉建設を引きのばしたい民間の電力の意向と、FBRを断固推進したい国側の科技庁サイドの意向が収れんされ、必然的に両者の間で折り合いがつけられた結果とも言えます。
 ただ、現行長計(1994年)と比較して大きく違うのは、全体的に具体性に乏しく、原発の設備容量、ウラン濃縮量、国内再処理によるウラン回収量、使用済燃料発生量などの予測評価も全くなされていないことです。
 これらは日本の原発・核燃料サイクル推進勢力が自信を失っていることのあらわれと言えます。
 
それでももんじゅを早期に運転再開
 
 ナトリウム漏れ事故を起こしたもんじゅについては早期運転再開を打ち出しています。「原型炉『もんじゅ』については、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の場の中核として位置付け、安全の確保を大前提に、立地地域を始めとする社会の理解を広く得つつ、早期に運転を再開し」と、世界中がFBRを見放した中で、「フロントランナー」としてもんじゅを世界の研究開発の中核だと強引に位置付けています。
 その理由として「先進国の中でも特に際だったエネルギー資源小国である我が国は、エネルギーの長期的安定供給に向けて資源節約型のエネルギー技術を開発し」と述べるほど、旧来の資源小国論を振りかざすしかなくなっています。
 また「高レベル放射性廃棄物中に残留する潜在的危険性の高い超ウラン元素の量を少なくすることにより、廃棄物問題の解決にも貢献し得ると考えられる」などと、もんじゅが放射性廃棄物の危険を減らすことができるかのような幻想を振りまいてもいるのです。
 そのうえ、「『もんじゅ』は、最も開発が進んでいるMOX燃料を用いたナトリウム冷却型の炉であるとともに、発電設備を有する高速増殖炉プラントとして世界的にも数少ない施設であり」と、強引にMOX燃料技術の研究との関連とナトリウム取扱技術を打ち出しています。実用炉と核燃料サイクル推進が決まっていない下ではもんじゅの運転再開の理由にはなりません。福井県の栗田知事も9月15日に長計(案)の説明に訪れた科技庁に対しもんじゅの位置付けが問題であるとして、もんじゅ再開は時期尚早と返答しています。
 
破綻したFBR推進を露呈
 
 また、現行長計に「2030年頃までには実用化が可能となるよう高速増殖炉の技術体系の確立を目指していきます」、「実証炉1号炉は、電気出力約66万kWとし、ループ型炉の技術を発展させたトップエントリ方式ループ型炉を採用するとともに、・・・原型炉『もんじゅ』の運転実績の反映等を考慮して、2000年代初頭に着工することを目標に計画を進める」などと実用化、実証炉の時期を明記しているのに対し、今回の長計(案)には一切それらがありません。
 そのうえ、「研究開発に当たっては、将来の社会的ニーズの多様性を考慮して、原子炉や核燃料サイクル技術に関して炉の規模や方式、再処理の方法等にとらわれず、幅広い選択肢を検討し、柔軟に取り組む」として、トップエントリー方式の採用そのものを撤回し、「多様な」炉の方式や冷却法からやり直すことを宣言しています。これはもんじゅ路線の破綻を意味するものです。
 また、新型転換炉開発中止の記述はなく書かないことでそれを追認したものとなっています。
 
プルサーマル推進を明記
 
 FBRが不透明な中でプルサーマルだけは推進を堅持しており、「こうしたプルサーマルの技術的特性、内外の利用準備や利用実績、安全性の評価を踏まえれば、我が国としては、この計画を着実に推進していくことは適切である。したがって電気事業者には、プルサーマルを計画的かつ着実に進めることが期待される」としています。
 また、海外諸国がプルサーマルから撤退していることを完全に無視した、現状から全く遊離した評価も行っています。すなわち「海外では既に1980年代から利用が本格化されており、我が国でも国内での基礎研究や1980年代後半から実用炉で行われた実証試験の成果等を踏まえて、2010年までに累計16から18基において順次プルサーマルを実施していくことが電気事業者により計画されており、実現の緒についたところである」というのです。
 長計(案)のどこにも海外のプルサーマル撤退に関する記述はありません。1年以上も調査・審議したというのにこれでは策定会議の意味がありません。
 
使用済燃料再処理は具体的な見込みなし 中間貯蔵が長計に登場
 
 六ヶ所再処理工場は「2005年の操業開始に向けて建設を進めている」とされていますが、現行長計の「2000年過ぎの操業開始を目指す」との表現からは後退しています。これは計画そのものの遅れを示したものです。
 また現行長計にはあった使用済燃料の発生量評価はどこにもなく、一層リアリティーのない文章となっているのが特徴です。
 そのかわりリアリティーのあるものとして新たに浮上したのが中間貯蔵です。「我が国においては1999年に中間貯蔵に係わる法整備が行われ、民間事業者は2010年までに操業を開始するべく準備を進めているところである」として中間貯蔵施設への強い期待を示しています。
 
原発は既定どおり推進
 
 「世界の原子力開発の状況」の中で長計(案)は欧州での動きに軽く触れた後で「稼働率を高めることによって既存の原子力発電所の経済性は他の電源と十分競合している」と述べ、手抜きによるコストアップを推奨しています。
 先に述べたように原発の「優秀性」を羅列し、省エネルギーは「困難が予想される」と断定し、循環型社会に変えることについても「これには設備の更新、大きな意識改革等を要する場合も多く、効果が現れるまでに時間を要する」と、軽く切り捨てています。原発推進は堅持したいとの本音が明らかです。
 そのためにも原発事故は避けられないと居直りを決めています。原子力防災の取組として「安全確保のためにいかなる取組がなされたとしても、事故発生の可能性を100%排除することはできないとの前提に立って、事故が発生した場合の周辺住民等の生命、健康等への被害を最小限度に抑えるための災害対策が整備されていなければならない」と、住民に事故の受忍を迫っています。
 また「国や民間は、原子力発電が今後とも引き続き期待される役割を果たしていくために、新しい価値観や環境制約の出現に備えた技術開発に取り組む」として新しい価値観=リスクベネフィット論をひそかに長計(案)に忍び込ませました。
 
JCO事故等の国の責任は回避  「国民の理解」促進
 
 原発への国民の不信増大の原因については、「国や事業者は、自らにとって不都合な情報を十分公開していないのではないかとの疑念が国民の間に存在することや、放射線や原子力施設での事故に関する知識、情報が国民に十分分かりやすく説明されていないことなども国民の不安や不信の原因として指摘されている」として情報非公開と説明のわかりにくさをあげました。
 原発への国民の信頼回復のためには安全運転の実績、情報公開、政策決定「過程」への国民参加などをあげ、もんじゅ事故、JCO事故等に関する国の責任にはほとんど触れず、「原子力安全委員会は、設置許可後の行政庁による規制の状況を調査により把握、確認するなど安全規制の強化を図ることとされている」として、原子力施設設置の認可を行った国が負うべき責任を無視しています。
 また、「原子力への国民の理解促進のため」として情報提供、国民との対話、教育の充実をあげています。つまり本音の所、「信頼しない国民が悪いのであって、国民を理解させるのが大事」と考えている国の姿勢が透けて見えるのです。
 教育の課題として「各教科における学習の充実とともに新しい学習指導要領において新設された『総合的な学習の時間』等の活用、教育関係者の原子力に関する正確な資料や情報の提供、教員への研修の充実、さらに、教員が必要な時に適切な情報や教材等が提供されるよう、教員、科学館、博物館、原子力関係事業者、学会等を繋ぐネットワークの整備を図ることが重要である」として、具体的に2002〜2003年度導入の新学習指導要領に取り入れられる総合的な学習の時間での原子力推進教育実践をあげ、次世代の子どもたちの「理解」に期待するしかないという事態をはからずも露わにしています。
 
「自由化には原発の定検の手抜きを! 中間貯蔵と共生を!」
 
 また、電力自由化の進展に備えるため、原発コスト削減に向けた定検の手抜きなど規制緩和を進めるよう提言しています。
 「安全規制に関しては、国はリスク評価技術の進歩を踏まえ、合理的な安全規制の在り方について絶えず検討して、実現を図っていく必要がある。例えば定期検査の柔軟化や長期サイクル運転、熱出力を基準にした運転制限への変更等が検討課題である。・・・なお、国は、規制を効果的かつ効率的に行うことができるよう、専門的な民間の第三者認証機関を、事業者の原子力施設の運転管理や品質保証の監査、評価業務に活用していくことや、さらに、国際化時代にあって、我が国の技術基準と国際基準を整合させていくことを検討することが必要である」と述べているのです。定期点検の期間を短縮したり、長期連続運転を13ヶ月から18ヶ月へ延ばすなどの規制緩和が目論まれています。こういった動きに対しても具体的に反対していくことが重要です。
 美浜1号などの老朽原発の廃炉に向け、その膨大な廃棄物については、クリアランスレベル以下を再利用することを当然とする記述もあり、未だ国会でも審議されていない事柄を平然と述べていることについても批判が必要です。
 原子力施設立地点で反対の声が強まっている点に配慮して「立地地域との共生」を打ち出しました。「共生」という名の下に中間貯蔵施設立地を進めるために、電源三法交付金、電源立地促進策を見直し、国の税金を使って、反対論への懐柔を図ろうとの狙いです。
 
長計(案)への徹底した批判を
 
 こういった新たな推進策を厳しく批判し、新長計の策定に対する反対行動が重要となっています。
 今後決定までに意見募集が行われ、ご意見を聞く会が3回行われます。長計(案)への批判を行うことが大切です。