原発で地域振興は幻想
美浜町 松下 照幸
最近興味深い資料に出会いました。福井県の統計資料で「年次別、市町村別、事業所数・従業者数・製造品出荷額等の推移(全事業所)」というものです。9月に出された「福井県内の原子力発電所における安全対策・地域振興等の状況と課題の評価」でも使われている資料です。
経済の重要なポイントとして福井県の報告書は「製造品出荷額」を問題にしているのですが、その統計を原発立地市町村とその近辺の自治体と比較させてみると、とてもおもしろい結果が出ています。福井県はこの点を比較していませんが、決して知られたくない実態であるとも言えるでしょう。
別紙にその資料を掲載しましたが、「製造品出荷額」の比較において、原発を立地した市町村の数値は原発を誘致しなかった自治体の数値に比べ遙かに劣っています。原発を誘致した自治体の製造業が原子力産業に置き換わってしまうことが理解できます。
原発を誘致すれば儲かると考えていた地場産業の経営者が、実は原子力産業によって痛めつけられる過程でもあったのです。原子力発電所が来ることによって地場の賃金も高騰します。地場産業の現役労働者が原発労働へと抜き取られていきます。地場産業を支えてきた労働者の家族に優秀な子供がいると、多くは電力会社に勤めることになります。私の町美浜町でも、民宿がすごく減っています。観光を生業としてきた町が、観光を軽視してきた結果と言えるかもしれません。
原子力が福井県に来て30年の結果が、製造業の「製品出荷額」を通してとてもよく表現されています。原発立地地域には、「原子力産業しか残らなかった!」のが現状なのです。
製造品出荷額の原発誘致前と現在の比較
市 名 |
1965年 |
1998年 |
1998年/1965年比 |
備 考 |
敦賀市
武生市
鯖江市
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232.7億円
166.2億円
154.4億円
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1334.8億円
3978.3億円
2252.0億円
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5.7倍
24 倍
15 倍
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原発立地市
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市 名 |
1965年 |
1998年 |
1998年/1965年比 |
備 考 |
美浜町
高浜町
大飯町
三方町
上中町
名田庄村
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4.2億円
5.4億円
2.8億円
2.1億円
3.7億円
0.2億円
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45.0億円
104.7億円
12.5億円
213.3億円
259.2億円
13.5億円
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11 倍
19 倍
4.5倍
100 倍
70 倍
68 倍
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原発立地町
原発立地町
原発立地町
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注:武生市と鯖江市は敦賀市と同規模。三方町、上中町、名田庄村は、原発立地町周辺自治体です。
美浜町が今年の3月に出した「美浜の原子力」というパンフレットがあります。その中には「税収状況(昭和40年度〜平成10年度)」という統計が掲載されています。固定資産税は、地方経済の活力を示すバロメータでもあります。建物や設備を新設したり、建て替えしたりすることによって得られる税です。地方税の大半は固定資産税であり、とても重要な位置を占めていますし、行政の町作りの姿勢もそこには映し出されます。
美浜町では、その固定資産税にしめる関西電力の分が80%を越えることが示されています。美浜町はこのことを誇りにしたいようなのですが、私には恐怖に写ります。関西電力以外の産業の動きは何もないという数値ではありませんか。原子力産業が斜陽化したら、美浜町には何も残らないということではありませんか。
このような町になりたいと考えるのか。このような行政がよいと考えるのか。原子力の選択は、そのような選択でもあると言えるでしょう。
「美浜町の原子力」(美浜町の税収状況)
年度 |
町税総額 |
町民税(関電分) |
固定資産税(関電分、%) |
1996年度
1997年度
1998年度
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25.9億円
30.6億円
32.9億円
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8.6億円(2.3億円)
8.9億円(2.4億円)
7.8億円(1.8億円)
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16.4億円(12.7億円、77.4%)
20.6億円(16.9億円、82.0%)
24.0億円(19.8億円、82.5%)
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原子力立地地域振興特別措置法案が提出されようとしています。福井県に15機もの原発が誘致されたにもかかわらず、先ほどの資料で示されたように立地地域の地場産業は振興しませんでした。原発の新規立地や増設を促すために導入されようとしているこの法案には、前述したように明らかな矛盾があるのですが、不景気も手伝って、地元ではまさに公共事業推進のようであります。
日本という国の合理性に欠ける愚かな政治が、安全を省みず、既得利権の継続を求め続けています。長野県民の選択に見られる地方からの変革、都市部での既成政治批判が、政治の中枢を脅かし始めました。福井県においても、県民の意識を無視した愚かな政治が続いており、変化への機会が成熟しつつあるように思えます。
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