第18回放射性廃棄物シンポジウム(神戸)にパネリストとして参加して
 
これでいいのか!30年前と同じ大合唱
技術進歩があるから大丈夫
 
久保きよ子
 
 9月のある日、三菱総合研究所から電話が入り、10月23日(月)神戸で開かれる「放射性廃棄物シンポジウムにパネリストとして若狭ネットから誰か出席してほしい」との依頼があった。平日の午後からとなると、誰でもというわけにはいかない。
 原発を推進してきた人々は、原発を稼働させる前から危険な放射性廃棄物がたくさん生み出されることを知っていながら、「未来の科学で何とかなるだろう!」と見切り発車してきたのです。今になって、反原発派を巻き込んで「理解を求めよう」なんてとんでもない!「これは断るしかない」と思いました。しかし、地層処分には反対だし、関電ハッピープラン(オール電化ハウス)は「原発の電気をもっと使え、もっと使え」と宣伝しているようなもの。元を断たねば放射性廃棄物の処理・処分なんてもってのほか。「これはやはり、出席して一言言わねば」と思い、真野さん、田中さんらの力強いメンバーにも支えられ、出席することにしたのです。
 まず、冒頭、司会の小沢遼子さんが、趣旨説明で、「一連のシンポジウムは、現に放射性廃棄物があるということを皆に知ってもらうこと、放射性廃棄物をどうするかについて皆と意見交換するということであって、原子力の是非は主たるテーマではない」と釘をさしてきた。
 関西電力の主張は、「原子力を進めることは、社会を構成する電力会社の責務であり、エネルギーの選択肢の一つ。国レベルでの合意があって初めて成る。関西電力では電気の半分は原発で発電している」と原子力への理解を求めてきた。  
 
<関西原子力懇談会資料から>
 
日本人が1年間に発生させている廃棄物量
一般廃棄物 700kg 放射性廃棄物低レベル0.100kg
産業廃棄物3,200kg       高レベル0.004kg
↓         ↓
        ●   
合計        合計
約3,900kg     約0.104kg
 
高レベル放射性廃棄物は石けん1個が一人分
 
 
<当日配布された科技庁資料から>
 
 いま、考えてみませんか
 21世紀のためにできること
 
 ●放射性廃棄物は様々なところで発生しています  
 
 ●その処分は、発生させた私たちの責務です  
 
 ●のちの世代に負担を残さないために・・・
 
 原子力委員会専門部会委員の神田啓治教授は、「自然放射線はいつも浴びている。クリアランスレベルというのは日本では天然から浴びている放射線のレベルと同じ程度で、大したことはない。私は広島・長崎の疫学調査をした。原爆手帳の追加発行もした。JCO事故の被曝調査では委員長をやった。常にそういう仕事の時には引っ張り出されている。」と、いかにもその道での第1人者であるかのような発言が続く。
 地質学者の徳山明氏(富士常葉大学長)は、「地下の構造は安全で、地殻の安定性が保たれ、地震の震動には全く影響されないので、地下深く埋めることによって安全が保たれる」と自信たっぷり。
 元読売新聞論説委員の中村政雄氏は、「原子力は廃棄物を出すが、量は少ない。産業廃棄物はこっそり山中に捨てられることもあるが、原子力の方が処分しやすい。処分地が決まるかどうかは難しい。仮に決まっても2030年頃だから、それまで研究する時間がある。技術の進歩が激しい時代だから、大丈夫だろう。大丈夫になるまで地上に置いておくしかない」と、30年前と同じことの繰り返し。
 会場からの発言は、原子力を推進する立場からの挙手は一人もなく、原子力に反対の意見、未知のものへの不安を訴える質問ばかり。10万年先のことなど、一体誰が責任をとることができよう。こんなものを作り出したことこそ大問題。今すぐにでもやめる方向へ転換すべきだと思います。
 私がパネリストとして当日発言した内容は以下の通りです。
 
放射性廃棄物シンポジウムでの発言
 
 私は原発反対運動に関わりはじめて19年になります。
 原発に反対しなければならないと思ったのは、21年前のTMI原発重大事故で多くの赤ん坊が殺されていったということを知ったことでした。そして、原発のことを勉強していくと、今までクリーンだと思っていた原発
は、稼働すればするほど、原発内労働者の被曝はさけられないことや、放射性廃棄物を生
み出し続けるということでした。
 関西電力の美浜原発1号炉が運転して11年目のころ、もうすでに原発は「トイレなきマンション」と言われて、放射性廃棄物の処理処分が問題となっていました。当時から馬鹿みたいな話が出されていました。宇宙へロケットで運ぶとか、南極へ埋めるとか、海中へ投棄するとか、まことしやかに出されていました。
 「核のゴミ」が増え続けることを承知で、原発推進は国策であるとして、原発予定点の住民の反対の声を札束で黙らせ、次々と原発建設を進めてきました。「原発・核燃料サイクル推進政策は、資源の少ない我が国にとって夢のエネルギー」と宣伝してきました。
 いっそう問題なのはその責任を私たち個々人に転嫁しようとしていることです。今日のシンポジウムでもそのことを言いたいと思います。
 まず、第1に、「放射性廃棄物の処分は発生させた私たちの責務です」と、宣伝されていますが、どうして私たちの責務だなどといえるのでしょうか。原発を推進し始めたときから問題であったものを「まあ、将来の科学や技術の発達に期待すればいいだろう」と、見切り発車したあなた方の責任がきちんと問われなければならないのです。過去においても現在においても原発を推進してきた人たちが、第一義的に責任を負わねばなりません。私たちは一貫して反対してきたのです。
 第2に、「のちの世代に負担を残さないために・・・」との宣伝文句ですが、本当に次の世代のことを真剣に考えるのであれば、どうして増え続ける廃棄物をもう増やしませんと考えないのでしょうか。まず、大事なことは原発推進から撤退していくことです。そして、産み出した放射性廃棄物は、発生者の責任でいつも見えるところで、永遠に監視続けることしか今のところ道はないでしょう。
 第3に、放射性廃棄物の量を一般の廃棄物の量と比較して、量が少ないから大丈夫であるかのように宣伝しています。「ルミナス」(2000年10月発行)によれば,日本人1人が1年間に発生させている廃棄物量は、一般・産廃合計3900kg、放射性廃棄物0.104kgと、こんな比較が、環境白書・原子力白書に出典されています。また、人一人が一生かかって出す高レベル放射性廃棄物をガラスで固めると、石鹸1個分、とあります。これらは、いずれも放射能は大したことはない、ほんの少しですと言いたいのでしょうが、私たちを本当に馬鹿にしていると思います。ここにご出席しておられる原子力委員会、関西電力の方にお聞きしたいです。「もし、一般・産廃ゴミ10kgと、高レベル放射性ゴミ1gのどちらかを手にもってくださいと言われたとき、だれが1gの高レベル放射性ゴミを手にすることができるでしょうか。できるという方は手を挙げてください。」
 被曝による健康破壊、生命の危機の深刻さは、チェルノブイリ原発事故や東海村JCO事故で私たちは知っているはずではないのでしょうか。JCO事故では、たった1mgが臨界に達し多くの住民が被曝させられ、2名の方が亡くなられました。現在の医学をもってしても命を救えなかったのです。被曝の恐ろしさを改めて知ったはずです。
 最近とみに馬鹿げた宣伝に腹を立てています。
 1つは、地球温暖化削減に原発建設が寄与するとの通産省の打ち出した政策です。
 端的に言えば、原発を推進する国ほどエネルギー消費を促進しています。脱原発を目指す国々は新エネルギー開発や浪費しない省エネルギー政策を進めています。エネルギーの浪費、多消費を根本的に見直すことをしないで、大型出力の原発の増設で、どうして地球温暖化問題を正面切って議論できるのか不思議です。また、関西電力は、電気をもっともっと使わせようと、オール電化ハウスやエコアイスを大宣伝しています。こんな中で、放射性廃棄物をどんどん増やし続けています。そうしていながら、一方では、廃棄物の責任を私たちに押しつけるなんて本当にひどい話ではありませんか。             原発から出る放射性廃棄物を多量に産み出した全責任は、原子力産業と、電力会社原子力の長期計画を策定した国側にあります。原発を増やし続け、使用済み核燃料の再処理を進めようとする政策を改めていかねば、廃棄物が増え続け、後世に禍根を残すことは目に見えています。
 原発推進策をやめ、これ以上の放射性廃棄物を増やさないことを明言すべきです。こうして始めて、今ある放射性廃棄物問題に対して国民的議論を巻き起こしていくことができるのです。