10.21「高レベル放射性廃棄物の地層処分を考える」公開討論会参加報告
 
高レベル放射性廃棄物の地層処分をめぐって
 
 10月21日、「高レベル放射性廃棄物の地層処分を考える」公開討論会が原子力資料情報室の主催で行われました。昨年(1999年)の11月に核燃料サイクル開発機構(以下核燃機構)は「地層処分研究開発第2次取りまとめ」(以下「取りまとめ」)を原子力委員会に提出しました。これに対し、原子力資料情報室と高木学校のグループは「取りまとめ」により「高レベル放射性廃棄物を地層処分するための技術的信頼はえられない」と批判の見解をまとめました。さらに、高レベル放射性廃棄物の処分問題を多くの人に知ってもらい、議論してもらうには、「取りまとめ」をつくった人たちとその批判をした側との「双方向」の議論をする場が必要と考えた原子力資料情報室の働きかけにより今回の討論会は実現したとの説明が主催者から行われました。当日は、国(科技庁)、「取りまとめ」を作成した専門家・核燃機構と原子力資料情報室・高木グループの人たちの間で高レベル放射性廃棄物の地層処分をめぐって討論が行われました。会場には青森、岐阜など現地からの参加者や科技庁、核燃機構の職員の顔も見うけられ、約130人の参加者で会場は満杯となりました。以下、最近の高レベル放射性廃棄物をめぐる動きと、公開討論会での主な議論を紹介します。
 
放射性廃棄物の地層処分をめぐる動き
 
 1984年の「放射性廃棄物処理処分方策について」(原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会中間報告)での「未固結岩」以外の地層であれば有効であると結論づけ、我が国における地層処分の「有効な地層の選定」は終了したとし、地層処分することを前提に動燃により技術的研究が行われ、1999年11月には「高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性」を示し、「処分予定地の選定」と処分の「安全基準」のための「技術的拠り所」となる「取りまとめ」が核燃機構から原子力委員会に提出されました。
 この取りまとめでは、「未固結岩」以外のどんな悪い地層でも「人工バリアさえうまく設計すれば大丈夫」と主張しています。しかし、日本の地層は火山・地震活動が激しく、地下水が発達し、有害物の地層処分には全く適していません。地層処分による影響を正確に評価するためには50〜100年単位の超長期の観測が必要です。にもかかわらず、短期間のおざなりな調査だけで、人工バリアが消失する速さや地下水による放射能の拡散速度を遅く見積もり、「活断層が処分場近くで活動しない」などという想定を自分勝手に設けて、「結論を導いた」ものにすぎません。
 これは、地層処分してしまえば、「あとは野となれ山となれ」という無責任な態度に他なりません。一体誰が、百年単位で何万年と続く超長期の処分に責任を持てるというのでしょうか。ひとたび地層処分への道が開かれれば、「現世代の責任」はどこかへ吹き飛び、「原発の運転で核廃棄物をいくら産み出しても大丈夫」と居直り、核廃棄物の大量排出が続くことになるでしょう。このような地層処分は、断じて許すことはできません。現世代の責任は地層処分をすることではなく、「責任のとれない核廃棄物を産み出さないこと」すなわち原発の運転を止めることなのです。
 核燃機構の「取りまとめ」を受けて、今年5月31日には「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立しました。高レベル放射性廃棄物の地層処分については、処分事業を行う段階から通産省(省庁再編後は経済産業省)の管轄になります。政府は9月29日、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」を閣議決定し、これに基づいて電力業界が実施主体の認可を申請、10月18日に通産省が認可し、処分の実施主体「原子力発電環境整備機構」が発足しました。今後は、全国各地で高レベル放射性廃棄物の最終処分場立地を巡る対立が激化せざるを得ないでしょう。
 北海道知事は、幌延の「深地層研究所」計画の受け入れを表明しましたが、道議会は「放射能を持ち込ませない」との決議を採択しています。この決議は一歩前進とはいえ、推進派は「地層処分研究所と処分場は併設するのが合理的」と考えており、核抜きの研究所は決して将来において処分場建設を阻止する歯止めにはならないのです。推進派は数十年先の処分場建設をにらみ、「核抜き」でも「当面の研究所建設で良し」としているにすぎないのです。
 岐阜県瑞浪や北海道幌延では、地層処分に反対し、「研究所は最終処分地につながるもの」として、研究所そのものを建てさせない運動をねばり強く闘っています。これらの運動と連帯し、都市部でも運動を強化していくことが求められています。
 
活断層のないところでも地震は起きる
 
 地震の評価をめぐって核燃機構と資料情報室のパネリスト間で激論が交わされました。
 核燃機構のパネリストは、「取りまとめ」において述べられているように、活断層の存在や活動が認められていない場所では地震が起こっておらず、「現在ある活断層から十分離して処分場をつくれば将来処分場が断層によって切られることはない」との考えを述べました。
 それに対し、地震学者の石橋氏は「地震は地下の岩石がズレ動く現象であり、地表に顔を出しているのが活断層であるだけである。だから、活断層がないところでも地震は起こると繰り返し言ってきたが、鳥取西部地震がそのとおりになった。」と切り返しました。
さらに、「今後10万年間地震の影響を受けない場所が存在する」ことと、「選定された特定の場所が今後10万年間地震の影響を受けない」こととは別問題であり、「今後10万年間絶対に地震の影響を受けない場所を選定することは不可能であり、敢えて強行することは極めて無責任である」と核燃機構の主張を批判しました。それに対し、「鳥取西部地震が起こって初めて断層が地表まで達したのかどうかは、はっきりしていない。元々活断層のようなものがあってそれを見落としていたかも知れない。」との批判に参加者から失笑をかう場面もありました。
 会場の参加者からも、「石橋先生の言うことの方が納得できる」との意見が最後の討論で述べられました。
 地震の評価は、「地層処分の可否」の鍵を握る重要な問題だと考えます。
 
地層処分は安全かどうかは実証できない
 
「取りまとめ」によれば、地質環境に適した人工バリア(ガラス固化体、炭素鋼、粘土)により安全に処分できるとしています。高レベル放射性廃棄物4万本を地層処分した場合、安全評価によれば、炭素鋼容器(オーバパック)が1000年で壊れるものの、その周りを覆った粘土の閉じこめ機能が働くため、「放射能が粘土層から地層へ漏れ出し、地下水で運ばれ、さらに環境へ漏れ出したと仮定しても、被曝線量が最大になるのは約100万年後にすぎない。しかも、その被曝線量は年間1マイクロシーベルト以下に止まる」というのです。
 これらは、いろいろな都合よいシナリオの下でのシュミレーション評価にすぎません。現時点では安全性が実証されていないのです。「将来のことは神様しか判らない」、「人間が意志決定するための安全評価なのだ」と居直っているのです。
 こんなことで地層処分は安全だといえるのでしょうか。埋めてしまえばあとはどうなってもいいのでしょうか。「次世代につけを残さない」どころか、大変なつけを残すことになります。
 
放射能の発生源を絶つ
 
 これまで高レベル放射性廃棄物問題を考える際には、「今ある放射能をどうするかであって、原発の是非は議論しない」との前提にシンポジウム等が行われてきました。
 今回の討論会では、原子力情報資料室のパネリストや会場からの意見でもこのことが問題にされました。「原発があるからこういう問題が起きる。元を絶つべきだ」との力強い発言があり、「原発の是非は論じない」とする推進派の主張はもはや通じないとの感想を持ちました。
 岐阜県からの参加者は、1995年8月の「超深地層研究所」計画の発表段階では、高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究という目的を明らかにせず、協定を結ぶときに初めて公式に認めたことを非難し、「岐阜県知事が『処分場は受け入れない』と言えば、東濃は処分予定地から除外されるのか」と、科技庁の職員にせまりました。科技庁は「通産省の管轄である」「私には意思決定の権限はない」と断りながらも、「通産の国会答弁では、明らかにされています(いやと言えば処分場にはならない)」と答えました。さらに、岐阜県でもこのような討論会を開催すれば、出席されるかとの問いに、「説明会は行っています」と答えただけで、討論会への出席に対しては即答を避けました。
 政府や核燃機構の無責任な地層処分方針を徹底して批判していくことが求められています。処分場立地反対運動と連帯し、どこにも処分場を建設させない運動を強化していくことが重要だと改めて確信しました。