2000.9.10「電力だって自由化!だいじょうぶ?原子力発電」講演会資料(若狭連帯行動ネットワーク)
 
電力自由化と原子力発電
 
1.電力自由化とは?
 
(1) 電力は生産と同時に消費される特殊な商品である。
(i) 電力は発電−送電−配電−小売の各段階を経て、生産され消費される。
・電力自由化とは、誰でも電力供給事業者になることができ(発電の自由化)、どの供給事業者からでも電力を買
えるようにするものであり(小売の自由化)、そのために、誰でもどこへでも既設の送・配電網を使って電気を送・配電できるようにして(送・配電の自由化)、電力の供給者と需要家の間の自由な取引を保証し、電力市場での取引を調整・規制する。
 
・電力需要が増大し、小型のコンバインド・サイクル・天然ガスタービンCCGTやコジェネレーションなどが進展
したため、大規模集中発電の小規模発電に対する経済的優位性=発電分野の自然独占性が崩壊し、電力自由化の技術的基礎が作られた。電力自由化は、国有企業の民営化、電力部門の効率化、国・地域間の電気料金格差の是正などさまざまな目的をもって始まった。1990年代前半に英・米で電力自由化が実施され、1997年のEU指令で欧州全域へ拡大され、日本でも今春から小売部分自由化が始まった。
 
電力自由化の鍵を握るのは、電力供給事業者に公平な送電網へのアクセスを保証し、電力需給調整機能をもつ
送電系統の確保である。そのため、欧州諸国のように発電会社や小売会社から独立した単一の送電会社を作る(または送電部門を会計分離する)か、米国のように電力会社の所有する送電系統の運用を独立系統運用者ISOに委嘱するかしており、日本のように電力自由化の下で10電力会社に地域独占のまま送電系統を運用させている国はない。東西での交流電力周波数の違いは統一した独立系統運用者の設置を妨げる理由にはならない。
 
(ii) 品切れ=停電となるため、最大需要を上回る供給能力(発電容量+蓄電容量)が不可欠である。
・日本のように負荷率(=平均電力÷最大電力、日負荷率と年負荷率)が低いと、基底負荷電源の容量を大きくで
きず、負荷調整用電源の低稼働率運転を余儀なくされる。
 
独立系新規発電事業者IPPが、日本のような低負荷率の需要家に対応するためには、大きな負荷調整用電源を
確保しなければならない。10電力はこの負荷調整用電源の卸売価格をつり上げて新規参入を阻もうとしている。
 
(2) 原子力発電の存在が電力自由化を阻害し、電力自由化が原子力発電を危機的な状態へ追い込む
(i) 原発は巨額の初期投資を必要とし、減価償却の済む十数年の発電原価では天然ガス発電に劣る。
・第70回総合エネルギー調査会原子力部会資料「原子力発電の経済性について」(1999.12.16)によれば、従来の
耐用年発電原価による評価では、原発は7.7円/kWh(耐用年数16年)で、天然ガス(LNG)発電7.0円/kWh(耐用年数15年)に負ける。運転年数27年でようやく同一原価(6.5円/kWh)になり、これ以上長期の運転年数でないと原発は天然ガスに劣る。このため、運転年数を40年とみなして「原発は安い」と無理に主張している。天然ガス発電にコジェネレーション(廃熱利用)を併用したCCGTと比較すれば、原発はさらに劣ってしまう。
 
・原発は消費地から離れた遠隔地に建設されるため、巨額の送電網建設が必要となり、送電ロスも大きい。他方、
電力消費地近辺に分散型発電プラントを設置するIPPの場合には、送電距離が短く送電ロスも少ない。この差が電気料金にどの程度反映されるかは、送電網を所有する10電力の設定する託送料金体系に依存する。
 
・原発新増設の結果、電力会社の自己資本比率(1997年度)は、東京電力10.6%、関西電力15.5%、中部電力14.8
%と極めて低く、製造業全体42.3%の1/4〜1/3にすぎない。電力自由化の競争相手である都市ガス大手3社(東京ガス、大阪ガス、東邦ガス)は平均30.2%、鉄鋼業も平均30.3%であり、電力会社はその半分以下にすぎない。たとえば、関西電力の自己資本比率は1965年には37.9%と高かったが、高度成長期の原発等の設備投資で年々低下し、半分以下になった。電力会社は巨額の負債を抱え、利払いに追われる最悪の財務状況下で電力自由化を迫られている。それは原発に対する厳しいコスト削減圧力となって跳ね返っている。
日本の3大電力会社の自己資本比率

 

自己資本比率(1997年度)

借入金総額(1998年度末)

平均金利

総資本利益率

総資本回転率

東京電力
関西電力
中部電力
 

    10.6%  
    15.5%   
    14.8%
 

   10兆4819億円
   4兆6316億円
   4兆3957億円
 

4.49%
3.78%
4.91%
 

  0.66%
  0.75%
  0.64%
 

  0.36回
  0.37回
  0.35回
 
 
・資源エネルギー庁・電気事業審議会(1996.2.25)での「完全自由化にした場合の影響」に関する議論でも、
「電力会社の財務体質が脆弱な中で、自由化により格付けが低下する可能性がある。その結果、資金調達コストが上昇し、電力会社の需要家に対する供給コストが上昇する懸念がある。」「自由化による競争の結果、需要見通しが不透明化し、電力会社のコスト回収が不確実になった場合、巨額な投資を必要とし、リードタイムが長い原子力の開発リスクが高まり開発が困難となり、また、長期間の買い取りが条件となるLNGの新規開発プロジェクトが停滞する懸念がある。」と指摘されている。
 
(ii) 原発は基底負荷電源であり、負荷調整は技術的・経済的に困難である。
原発の発電原価は運転年数だけでなく稼働率にも大きく影響される。第70回総合エネルギー調査会原子力部会
資料にある九電力+日本原電の1998年度営業費ベース発電原価(=電源別営業費用/電源別発電電力量)でみると、原発は7.11円/kWh(設備利用率84.2%)で火力9.39円/kWh(同39.5%)より安く見える。これは、原発を基底負荷電源に用いて高稼働率とし、火力発電を負荷調整用電源として低稼働率にしているためである。これを逆にすれば、原発は約2倍の14〜15円/kWhに跳ね上がり、火力は約7割の6〜7円/kWhに下がる。つまり、原発を止めてその分を火力で補う方が発電原価は今より安くなる。原発を負荷調整用に使うと負荷調整用電源の発電原価が今より5割増になるため、原子力を基底負荷電源で使うしかない。
 
・安価な蓄電設備がなく(揚水発電は高価な蓄電設備に相当する)、欧州のように送電網で電力を輸出できない下
で、負荷率の低い日本(年負荷率約55%)では、フランス(年負荷率約65%)のようには原発容量を高められない。夜間余剰電力によるエコアイス・電気温水器の拡大など需要側での負荷平準化対策は一種の浪費である。
 
発電自由化による自家発電・自己託送の拡大や小売自由化は、原発を所有する九電力の基底負荷電力量を低下
させ、基底負荷電源である原発のシェア拡大を困難にする。
 
(iii) 原発の使用済核燃料など核廃棄物の処理処分費や廃炉費が競争力をさらに失わせる。
・使用済核燃料を再処理してプルサーマルを行えば、核燃料費を高くし、原発の競争力をますます失わせる。
プルサーマル用MOX燃料費(貯蔵、再処理、加工、輸送)はウラン燃料費の5〜7倍と高い。
 
廃炉費、再処理費、低レベル放射性廃棄物、原子力損害賠償保険金は原発発電原価に算入済みだが、IPPの発
電コストには加算されていない。また、高レベル放射性廃棄物処分費も原発発電原価に今後加算されるが、今のところIPPの発電コストには加算されない。また、使用済核燃料の中間貯蔵・管理・処分費も今後問題になる(再処理引当金から転用されるか、新たに加算されるか不明)が、IPPには加算されないと思われる。
 
電源開発促進税(電源三法交付金、FBR開発など原子力予算)はIPPにも加算され、原発関連に優先配分されるた
めるため、原発に対しては有利に働く。原発立地のための補償金はこれまで総括原価方式で電気料金に上積みされてきたが、原発の発電原価として加算されることになろう。寄付金も原発に係るコストになろう。
 
(iv) 電力自由化は原発新増設を困難にする一方、既存原発のコスト削減に拍車をかける。
・新規原発開発を促進している先進国は日本だけであり、電力自由化は原発新増設を一層困難にする。
 
・原発推進政策を維持しながら電力自由化を進めるためには、@小売自由化を約3割の大口需要家にとどめて
全自由化しない、A原発優遇措置(原発安全規制の大幅緩和、他電源への原発回避不能コストの上乗せ、原発補助金制度の導入、電力市場における原発優先枠の設定など)により小売を完全自由化する、のいずれかによる以外にない。日本では@の小売部分自由化の下でAの原発優遇措置をとろうとしている。
 
・コンバインド・サイクル・天然ガスタービンCCGTと発電原価で競争するため、新規原発では耐震設計を含めた
設計の合理化と建設費の削減が図られ、既存原発では定期点検・補修費や核燃料費の削減および可能な限りの長期連続運転と定期点検・補修期間の短縮が徹底して追求される。
 
2.電力自由化の国際的な進展状況
 
 電力自由化は、各国のエネルギー資源の需給構造と原子力発電の推進状況に応じて特徴付けられる。
(1) 国内エネルギー資源が豊富な非原子力国での電力自由化:ノルウェー、オーストラリア
・エネルギー自給率が751%(ノルウェー1995年)、約200%(オーストラリア1995年)と極めて高く、国際的に電気
料金が低かったが、ノルウェーでは、電力の国有独占を継続しながら、送電分割・電力プール市場再編で地域間料金格差を是正(1992年以降)、オーストラリアでは、極度の財政難と経済危機克服のため経済改革を断行、その一環として公営電力の発・送・配電・小売の分割・民営化を進めた(1993年以降)。
 
(2) エネルギー自給率の比較的高い原子力国での電力自由化:イギリス、アメリカ
・イギリスでは、電気・通信・ガス・石油など国有企業民営化の一環として中央電力庁の発電・送電・配電への
分割・民営化・電力プール市場導入を断行したが、非原子力の二大発電会社によるプール市場支配が弊害となり、発電コストに基づく相対契約を基軸に据えた新システムへの移行を検討している。低コストのCCGTの急成長で、ブリティッシュ・エナジー社が再処理中止を交渉するなど原発の経済性追求に拍車がかかっている。
 
・アメリカでは、電気料金の高い州で電力自由化が始まり、連邦政府の電力自由化計画公表を契機に、強制され
るより州独自の自由化計画を出す方が得策との判断から20州以上へ拡大。送電系統の所有権を認めて独立系統運用者ISOで運用しているが、待機予備力の価格暴騰や過負荷停電など課題が多く、送配電・給電指令の規制権限を連邦政府へ集中させる勧告が出されている。電力経営は益々短期志向となり、資本集約的電源や送電線の建設が困難になりつつある。電力自由化を機に電力会社の合併が進み、電力の寡占化が進み始めている。
 
原発の回収不能コストは、イギリスでは化石燃料課徴金(当初は電気料金の10%設定)とニュークリア・エレク
トリックの民営化収入でまかなったが、アメリカではカリフォルニア州やマサチューセッツ州で100%回収が認められたほか、他州でも本格的な議論が始まっており、この回収を認めることが原発や火力の売却を促し、発・送電分離を進め、電力自由化の合意を得る必要条件となっている。
 
(3) エネルギー自給率の低い脱原子力国での電力自由化:ドイツ、スウェーデン
・ドイツでは、発・送電の8割を占める8大電力会社の寡占状態の下で、欧州中最も高い電気料金を引き下げ、
風力やバイオマスの選択肢を拡大するため、電力自由化を実施した。送電料金が距離比例方式のため、電力市場の地域間競争が阻害されており、地域寡占化の進む可能性がある。1998.9の総選挙で社会民主党・緑の党連立政権が誕生し、平均寿命32〜34年の脱原発と2005.7以降使用済核燃料の再処理のための輸送禁止で合意した。電力自由化も一部変更される可能性がある。
 
・スウェーデンでは、電気料金を下げ、電力会社間の競争を促進し、経済効率を高めるため、国営送電会社を分
離してノルウェーと共同でNord Poolを運営し、ノルディック統合市場をめざしている。バーセベック原発1号廃炉を手始めに原発全廃をめざす。バイオマスによるコジェネレーション(熱電併給)システムと地域熱供給に力を入れ、自動車交通からトラム(市電)と自転車が中心の交通体系への転換を進めている。
 
(4) エネルギー自給率の低い原子力推進国での電力自由化:フランス、日本
・フランスでは、原子力政策を維持するため(現状維持かシェアの50%への漸減)、仏電力公社EDFの国有を継続、
1997年のEU指令に従うため、新規電源建設の許可制による参入自由化、小売市場の28%自由化を実施、欧州での脱原子力の流れや外国との国際競争・IPP参入によるEDFの位置の動揺がどの程度進むかが鍵を握る。
 
日本も、原子力政策を維持するため、10電力による発・送・配電の一貫・地域独占体制を維持、発電の参入自
由化は入札制で、小売市場は3割自由化に留め、3年後に見直しの予定。10電力によるIPPの参入阻止を目的とした低い買電価格、低負荷率を補うための高い常時バックアップ用卸売料金、送電網独占による高い託送料金などが問題になる。原子力長期開発利用計画の原案では、原発安全規制の緩和が打ち出されている。
 
3.日本での電力自由化
 
・日本の電気料金は為替レート比較で欧米より2〜3割高く、欧米の電力自由化によりその差がさらに開こうと
していた。九電力による原発推進を維持するため、発・送・配電の九電力地域独占所有を維持し、会計分離もせず、小売の約3割の部分自由化にとどめた。原発推進体制の維持が、日本における電力自由化を規定し、原発推進と電力自由化の間の矛盾を拡大させている。
 
電気料金の国際比較 (1998.12現在 [円/kWh]、上段:為替レート換算、下段:購買力平価換算)

 

  日 本

  米 国

  イギリス

  ドイツ

  フランス

家庭用電灯料金
 

 23.95 (100)
 23.95 (100)

 19.62 ( 82)
 28.24 (118)

 16.87 ( 70)
 21.52 ( 90)

 18.96 ( 79)
 22.62 ( 94)

 17.94 ( 75)
 22.34 ( 93)

産業用電力料金
 

 13.65 (100)
 13.65 (100)

 10.29 ( 75)
 14.82 (109)

 11.04 ( 81)
 14.08 (103)

 10.62 ( 78)
 12.67 ( 93)

  8.73 ( 64)
 10.87 ( 80)

 為替レート (1998年12月平均)
 購買力平価 (OECD1997年値)
 

 117.41円/$
 169.00
 

 195.75円/£
 249.63
 

 70.13円/マルク
 83.66
 

 20.91円/フラン
 26.04
 
注)家庭用は280kWh/月のモデルをもとに1kWh当たり単価を算出、対象企業は、日本=東京電力、米=コン・エジソン社(NY)、英=ロンドン・エレクトロシティ社、独=RWE社、仏=EDF社。産業用は、契約電力4000kW、年稼働時間4000時間のモデルで1kWh単価を算出、対象企業は日本=東京電力、米=コン・エジソン社(NY)、英、独、仏はユニペデ(国際発送電事業者連盟)報告書による。
 
(1) 発電の自由化
・1995年4月の電気事業法改正により、一般電気事業者(沖縄電力を含む10電力)と卸電気事業者(日本原子力発
電、電源開発、上越共同火力発電株式会社)に加えて、独立系新規発電事業者(IPP)が届け出のみで、卸供給事業者として10電力会社に入札するか、2000年3月以降は特定規模電気事業者(10電力会社等も届出)として自由化対象需要家に買電できるようになった。また、自家発電を行う会社が電力会社の送電線を使って遠隔地の同社工場へ送電する自己託送が許可制から当事者間の私契約になり、1997年4月から託送サービスが始まった。
 
電力会社による卸供給入札の実施状況
 1996年度:電力6社265.5万kW募集に1081 万kW応札、305 万kW落札
 1997年度:電力7社285.5万kW募集に1425.4万kW応札、311.8万kW落札。上限価格を2〜3割下回る。
 1998年度:電力1社 15 万kW募集のみ
 1999年度:東京電力100 万kW程度募集、11件251万kW応札、5社100.4万kW落札(石炭60.9万kW:住友金属工         業、太平洋セメント;A重油19.5万kW:日立製作所、日立造船;不明20.0万kW:トーメン)
 
(2) 送電系統は10電力による地域独占所有であり、会計分離もなく、公正な独立系統運用者もいない。
・特定規模電気事業者は10電力会社の送電網を使うが、ネットワーク利用は当事者間の交渉優先・事後規制で、
託送料金に送電設備の改修コストを明記し、負荷率当利用形態も勘案して利用者間で公平に負担、事業者は電力会社の給電指令に従う。
 
・今回の自由化では、送電料金を基本料金と従量料金にわけ、従量料金を時間帯別(季節別・昼夜別)と地点別
(需要超過地で割引き)の従量料金に変更した。これはピーク送電量を減らし、需要超過地への発電所設置を促す方向に作用するが、プール市場ほどの効果はない。
 
・ダイヤモンドパワーの東電への託送料金は電促税等を含めて4円弱/kWhで売り上げの約2割を占める。
 
(3) 小売の自由化
1999年5月の電気事業法(事業規制)改正により小売部分自由化、2000.3.21から施行。
 
2万V特別高圧系統以上、2000kW以上の需要家への小売自由化、直接交渉で決定。概ね3年を目途に部分自由
化の実績、海外の自由化の状況、系統安定に関する技術の状況、公益的課題への悪影響の有無など自由化の実施状況を検証。自由化対象となる特高産業・業務用電力は全電力量の28%、電力収入の20%。産業用の58%を占めるが、中小規模工場やコンビニは除外。業務用の15%を占めるが、中小ビルやスーパーは除外。北欧のような直接契約とセットになったプール市場もない。
    10電力会社の電力需要家(1996年度:総販売電力量は7746億kWh、14兆5499億円)

 

電 圧

  契 約

口 数

電力量

単 価

電力収入

     備 考

特高産業用
高 圧 B
高 圧 A
低 圧
 

2.2万V以上
6600V
6600V
 200V
 

2000kW以上
500〜2000kW
50〜 500kW
50kW未満

  6千口
  2万口
 27万口
662万口
 

25%
 9%
 9%
 5%
 

12円
15円
16円
26円
 

2.2兆円
1.1兆円
1.1兆円
1.0兆円
 

大規模工場、鉄道
中規模工場
小規模工場
小規模工場、コンビニ
 

特高業務用
高圧業務用

2.2万V以上
6600V

2000kW以上
50〜2000kW

  2千口
 42万口

3%
19%

21円
21円

0.7兆円
2.8兆円

デパート、大病院、オフィスビル
スーパー、中小ビル

電 灯
 

 100V
 

50kW未満
 

6,672万口
 

30%
 

25円
 

5.5兆円
 

家庭
 
 
・特定規模電気事業者は、三菱商事の100%出資子会社ダイヤモンドパワーが第1号(2000.6.19届け出)、米総合
エネルギー会社エンロン系のイーパワー、短資会社のイーレックス、伊藤忠商事が来年以降に小売参入を計画。
 
・新規参入者が基底負荷電力の供給を計画し、東京電力に常時バックアップを希望したが、東京電力は、需要家
への小売用標準料金(業務用ビル向け約15円/kWh)より5割高い約22円/kWh(夏の日中に高く夜間割安の季節別時間帯別料金)を卸売料金として提示、このため、東京ガスや伊藤忠商事は通産省ビルへの入札を断念、公正取引委員会が独禁法に触れないかどうか東京電力から事情聴取し確認した経緯がある。
 
・日本の年負荷率(年平均/最大電力)は68.7%(1968年)と高かったが、冷暖房需要増、業務用需要増、産業用需
要の加工型産業へのシフトに伴い、59.8%(1975年)、59.0%(1985年)、55.3%(1995年)へと低下してきた。1990〜94年の年負荷率は、独68〜71%、英62〜68%、仏63〜68%に対し、米60〜61%、日本55〜59%と低く、伊は例外的に50〜53%と低い。季節的には、冬ピーク型またはほぼ一定の欧州に対し、日・米は夏ピーク型である。低負荷率であることが、日本の電気料金を高くし、電力自由化に伴うIPPの進出を困難にする一つの要因となっている。
 
・電力会社の兼業規制も撤廃(許可制廃止)され、電力会社の設備譲渡の規制を許可制から届出制へ緩和された。
自由化対象需要家に対しては電力会社の区域外供給規制が廃止(許可制廃止)され、地域独占が解消された。
 
1999年8月の電気事業法(保安規制)改正により、原発を除いて工事計画認可・使用前検査・定期検査を廃止。
原発については原子力開発利用長期計画(原案)で米国並みの原発の安全規制緩和方針が打ち出された。
 
4.日本における電力自由化の原発への影響
 
(1) 原発新増設の延期
・中国電力の島根3号と北海道電力の泊3号の増設以外に増設が認められたところはなく、新規原発の立地は
強い反対運動のため棚上げ状態になっている。原発新増設計画は、反対運動により立地困難な状況に追い込まれているだけでなく、電力自由化に備えて軒並み延期されている。日本原電は原発だけを建設・運転する原発会社であるが、九電力と原子力産業の共同出資子会社であるため、各電力会社にとっては自らが矢面に立たずに済み、原発増設に伴うリスクを分散させられるため、関西電力、中部電力、北陸電力は、日本原電に原発を増設させようとしている。
 
関西電力:7ヶ所1230万kWの電源計画を1〜5年先送り。御坊第2火力4基440万kW(運転開始を2010年度以降へ
3年以上延期)、和歌山火力5基370万kW(1号2009.8・2号2010年度以降へ4〜5年延期)、舞鶴火力2基180万kW(1号2004.8・2号2008.8へ1〜5年延期)、金居原揚水発電38万kW(2010年度以降へ3年延期)、新鳩谷12.7万kW(2010年度以降へ6年延期)・宇奈月2万kW(2000.6計画通り)・大滝1万kW(2013.3へ1年延期)の各水力。
敦賀3号の2009年度76.9万kW受電計画を組み込み、敦賀原発増設計画の推進を平成12年度供給計画で初めて打ち出す。関電では最大電力の伸びを1997〜2008年に平均2.1%と予測、不況による電力需要の伸び悩みで計画変更を余儀なくされた。10万kW級小規模火力5ヶ所10基(大阪、春日出、尼崎第三など)を5年間運転停止、約300名配置転換。2000年度新規採用数半減(244人;前年度509人)など、2003年度末従業員数を1998年度末現員数から1000人程度削減。設備投資額を1999年度約6000億円から2000〜2004年平均で5000億円以下に抑える。
 
東京電力:2000.4から3火力6発電機計250万kW(横浜4号、鹿島3・4、横須賀5・6・8)を5年間停止。2005〜2007
年度電力供給開始の卸電力入札で落札した住友金属工業等5社へ発電開始時期の1年先送りを要請。
 
三菱重工業:PWRの新規着工は1990年代なし、原子力部門売上高は最盛期の1/3〜1/2。「今後の受注を見込んで、
今は原子力以外の仕事をしてもらって人員を維持している状態。新規の仕事がないと苦しい」(三菱重工担当者)。関連会社を含め原子力関連従業員数は1980年代半ばの5000人規模から現在3500人へ減少。
2001年度末までに本体の6,000人削減中心にグループ全体で14,500人削減の計画。
 
日立・東芝:BWRの新規着工は1990年代に入り半減、日立は電力関連部門から情報サービス部門へ約1000人を移
動するなど今年度中に分社化し、本体で約7,000人削減する計画。東芝も、今年3月期決算が2期連続赤字、2002年度までに国内中心に従業員58,600人の15%、約9,000人を削減する計画で、半導体部門を3,000人減の12,000人体制にし、国内需要が伸び悩む重電や産業機器部門も人員減の計画。最盛期の1993年末の約74,900人から1/3減の5万人弱の体制へリストラする予定。
 
(2) 原発の定期点検削減と長期連続運転
定期点検項目の削減と核燃料の高燃焼度化が電力会社と通産省の共同で進められ、2〜3ヶ月から40日以下へ
の定期点検期間の短縮競争と400日以上への長期連続運転の競争が電力会社間で行われている。定期点検短縮のしわ寄せは、昼夜の安価な突貫点検・補修作業となって下請けに跳ね返っている。また、事故の多発となって跳ね返っている。JCO事故は、原発における核燃料費削減のための経済効率優先の結果であった。電力自由化は原発や核施設での第2、第3のJCO事故を引き寄せている。
 たとえば、大飯3号は昨年の定期検査で併入まで36日を達成、昨年の福島第二3号と並び国内最短記録である。これには、@昼夜突貫作業による人員配置や作業手順の効率化に加え、Aインコネル690TT製蒸気発生器細管の検査が、1999.5から通産省基準が半数検査(4基中2基ずつ検査)でよいことになったこと、B燃料集合体の外観検査も全数検査をやめて高燃焼度燃料集合体の抜き取り検査に変更したこと、C大規模な改造工事がなかったこと、などが効いている。ただし、検査項目数自体は、主要施設以外の安全に係わる機器(電源設備や非常用ディーゼル発電機など)の検査を、事業者による単独実施から国の確認項目としたため、大飯3号の場合、約60項目から約70項目へ増加した。
 
(3) 原発安全規制の緩和
・「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(案)」(2000.8.11)の第2部3章2節では、「安全規制に関
しては、国はリスク評価技術の進歩を踏まえ、合理的な安全規制の在り方について絶えず検討して、実現を図っていく必要がある。例えば定期検査の柔軟化や長期サイクル運転、熱出力を基準にした運転制限への変更等が検討課題である。」と安全規制を緩和する方向を打ち出し、13ヶ月毎の定期点検(理由があれば13ヶ月を越えて運転できる)を米国並みに18ヶ月毎へ長くしたり、トラブルの少ない原発の検査を簡素化する方向で具体化を進めようとしている。
 
定期点検削減・高燃焼度化による原発の長期連続運転と効率化の追求は、核燃料棒の破損や冷却失敗事故等の
可能性を高めるだけでなく、「死の灰」やプルトニウムなど放射能の炉内蓄積量を増やし、崩壊熱を高め、過渡変化時に原発重大事故へ転化しやすくし、放射能災害の規模をより大きくさせる。政府と九電力による原発推進は、日本における電力自由化をさまざまな形で制約する一方、電力自由化によるコストダウンの圧力を受けて原発安全規制の一層の緩和へ突き進み、「電力自由化時代に生き残れる原発」を強引に進めようとしている。このような現状では、一日も早く原発を止めない限り、第二、第三のJCO事故は避けられないだろう。
 
・脱原発や脱化石燃料を図る諸国は、電力自由化を通して、@右肩下がり/増加率抑制のエネルギー消費計画をたて、Aエネルギー税や環境税を課し、Bグリーン証書やグリーン電力制度などを導入し、C省エネルギーとエネルギー消費の効率化(省エネ建築、自動車・物流の効率化など)を図り、Dコジェネレーションと地域熱供給を進め、E再生可能エネルギー(風力、バイオマス、太陽光・熱)の拡大を具体的に推進している。日本政府は、あくまで右肩上がりのエネルギー消費を前提に、CO2排出量大幅削減(脱化石燃料)を原子力推進と読み替え、10電力地域独占体制を維持し、原発優遇策や原発立地推進策を導入し、再生可能エネルギーの育成を形式だけにとどめ、電力自由化を部分自由化にとどめ「特高産業・業務用電力料金の引き下げ」に矮小化しようとしている。