【1997.10.25 反原子力デー大阪討論集会特別報告】         若狭連帯行動ネットワーク
 
原子力委員会・高速増殖炉懇談会報告書
「高速増殖炉研究開発の在り方」(案)
(1997.10.14)を批判する
 
1.破綻した原子力開発利用長期計画を全面的に支える高速増殖炉懇談会最終報告(案)
 
 原子力委員会は今年1月31日、原子力政策円卓会議における議論等を踏まえ、「『もんじゅ』の扱いを含めた将来の高速増殖炉開発の在り方について幅広い審議を行い、国民各界各層の意見を政策に的確に反映させるため」に「高速増殖炉懇談会」を設置しました。毎月1回のスローペースで審議していた懇談会でしたが、動燃改革検討委員会の検討結果が8月1日に出され、8月22日に新法人作業部会が発足するや、8月27日の第8回懇談会で関西電力の鷲見副社長が動燃改革による「もんじゅ」の運転再開を初めて切り出しました。これ以降、懇談会は月3回のハイペースで報告書のまとめに入り、第9、10、11回の各懇談会で報告書「高速増殖炉研究開発の在り方」の骨子案(9/19)、原案(9/30)、最終案(10/9)が次々と出され、10月14日には原子力委員会で最終報告書(案)として了承されました。現在、この案への「国民の意見募集中」ですが、11月28日の第12回懇談会で報告書として確認されようとしています。
 
 今の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(1994.6.24原子力委員会決定:以下「現行長計」) における高速増殖炉開発計画は次の通りです。
 
@「軽水炉と経済性において競合し得る高速増殖炉の開発を目標に置き、そこに至る具体的な過程に柔軟性を持たせつつできるだけ明確にし、それぞれの段階における開発目標を段階的に達成していくこととします。
 
A「適切な間隔で実証炉1号炉、これに続く実証炉2号炉の建設を進め、燃料サイクル技術の開発と整合性をとりつつ2030年頃までには実用化が可能となるよう高速増殖炉の技術体系の確立を目指していきます。なお、高速増殖炉の開発過程における核燃料の増殖については、その性能の確認は行いますが、プルトニウムの需給動向、国際情勢等の観点から弾力的に考えていくこととします。」
 
B「実証炉1号炉は、電気出力約66万kWとし、ループ型炉の技術を発展させたトップエントリ方式ループ型炉を採用するとともに、経済性を向上し実用化を展望できる新たな革新的技術を積極的に取り入れることとします。同炉は、これらの開発の見通しや原型炉「もんじゅ」の運転実績の反映等を考慮して、2000年代初頭に着工することを目標に計画を進めることとし、電気事業者は、必要な技術開発を進めるとともに、その着工に向けての所要の準備を進めるものとします。」
 
 今回の最終報告書(案)の内容は、次の通りです(下線部は原案から大きく書き換えられた箇所であり、太字は引用者による)。
 
@「高速増殖炉の実用化にあたっては、プラント建設費などの徹底したコストダウンが必要であり、これを安全性を確保しつつ実現するのが研究開発の重要な目標の一つです。さらに‥‥炉とサイクルの整合性のとれた研究開発が重要です。‥‥高速増殖炉の研究開発計画に重大な問題が発見された場合には、直ちに同計画の抜本的な再検討を行わなければなりません。そのためには計画自体を柔軟な対応が可能な計画とするとともに、たとえ事故や変更の必要が考えられなくても、定期的な外部評価を受け、適切に軌道修正を行える仕組みを制度化する必要があります。」「高速増殖炉の実用化にあたっては、実用化時期を含めた開発計画について、安全性と経済性を追求しつつ、将来のエネルギー状況を見ながら、柔軟に対応していくことが必要です。
 
A「電気事業者が中心となって、高速増殖炉の実用化が2030年頃までに可能となるよう、現在、実証炉(電気出力約66万kW)の設計研究が進められているところです。」「プルトニウムの生産と消費のバランスをとることにより、余剰のプルトニウムを発生させないようにする必要があります。高速増殖炉によるプルトニウム利用に当たっては、適切な保障措置、核物質防護技術を開発・利用することにより、今後とも各国からの疑念を招かないように努力することが必要です。」
 
B「実証炉の具体的計画については、『もんじゅ』の運転経験を反映することが必要であり、また『もんじゅ』で得られる種々の研究開発の成果などを十分に評価した上で、その決定が行われるべきものと考えます。」
 
C「『もんじゅ』はこれまで約5900億円の建設費と12年の建設期間をかけ、設計・建設段階で数多くの知見を蓄積してきました。高速増殖炉の研究開発を進めるに当たって、これまでの蓄積に加え、『もんじゅ』の運転データを加えることはきわめて重要であり、これにより、発電プラントとしての性能を確認し、大型化への技術的可能性を評価する「原型炉」本来の目的を達成することができます。この目的を達成しないまま、問題があるからというだけで、「もんじゅ」の研究開発を中断すること自体、これまでの成果を無にすることに等しく、大きな損失と言えますさらに中断の後、将来必要なときに再び研究開発を始めようとしても人材の面からもかなりな困難が予想される上、費用の面からもかなりの金額になり、大きな損失といえます。原子力のような大型技術の開発においては、研究開始後、十分吟味した信頼のおける技術的可能性を得るまでには莫大な研究とそのためのかなりの時間が必要であり、若干のゆとりをもって結論を得られるようにしておく必要があります。したがって、『もんじゅ』を使い、研究開発を続けることは必要なことと考えます。」
 
 これらを並べて読めば、一目瞭然でしょう。
 
 高速増殖炉懇談会の最終報告書(案)は、将来の「重大な問題が発見された場合の抜本的な再検討」を条件にしてはいますが、「2030年の高速増殖炉実用化の可能性追求」という時期を含めて現行長計の主張点をそっくりそのまま認め、全面的に支持するものとなっています。今回の「もんじゅ」事故や動燃の腐敗は「抜本的な再検討」を要する「重大な問題」ではないという理解がその根底にあります。現行長計は、長計策定からたった1年で「新型転換炉中止」が決まったことに始まり、もんじゅ事故、東海再処理工場アスファルト固化処理施設の火災爆発事故、ウラン廃棄物のズサン管理・予算流用など核燃料サイクル全体に及ぶ一連の事故・事件ですでに破綻しています。核燃料サイクルの中核的な推進母体である動燃が「改組」を余儀なくされるという前代未聞の日本の40年の原子力開発体制の深刻な危機の中にあります。このような中で、高速増殖炉懇談会報告書(案)は、すでに破綻し尽くしている長計をこれ以上救いようがないというところまで救っているのです。
 
 長計には元々、「柔軟性」という用語が入っています。そもそも、高速増殖炉開発が計画通りに行かず長計見直しのたびに実用化時期が繰り延べされてきたことから、実用化計画に「柔軟性」を考慮せざるを得ないことぐらい原子力委員会は百も承知です。それを、高速増殖炉懇談会が今新たに「柔軟性」を言いだしたかのように評価するのは、現行長計
を非難しながら、実際にはそれを支持する「隠れファン的行為」に他なりません。






 
長期計画策定 実用化時期 計画〜実用化
第3回(1967)
第4回(1972)
第5回(1978)
第6回(1982)
第7回(1987)
第8回(1994)
1980〜85
1985〜94
1995〜2004
  2010
2020〜2030
 2030頃
 13〜18年
 13〜22年
 17〜26年
  28年
 33〜43年
  約35年
 
 動燃改革検討委員会が事実上「動燃を生き返らせる」ための役割を付与されたように、高速増殖炉懇談会は「『もんじゅ』を生き返らせる」ための役割を付与されているのです。しかし、その任務は、報告書原案の出された第10回懇談会(9/30)までの役割でした。第11回懇談会(10/9)では「『もんじゅ』だけでなく現行長計までも生き返らせる」ための役割が付与され、それが現在の最終報告(案)となっているのです。動燃や科技庁にとって、これ以上の報告書(案)はありえません。
 
 ちなみに、第10回懇談会での報告書原案は以下の通りです(下線部は最終案で削除または大幅に書き換えられた箇所であり、太字は引用者による)。
 
@「当面は化石燃料と同時にウランの需給バランスも緩和基調であり、現時点で直ちに高速増殖炉の実用化が必要であるとか、何年までに必要であるという厳しいエネルギー需給、ウラン需給ではありません。」「高速増殖炉の実用化見通しについては、現時点で判断することは尚早であり、原型炉「もんじゅ」を用いた研究開発などにより、その可能性について、より確度高く追求できると考えます。」「高速増殖炉は、その他の再処理や燃料製造などと燃料サイクルを形作ることによって、初めてウランの飛躍的な有効利用を図る事ができるので、炉とサイクルの調和が重要です。これらの観点からも計画の見直しが必要です。上記の検討を通じて、高速増殖炉の研究開発計画に重大な問題が発見された場合には、直ちに同計画を見直して修正するようになければなりません。そのためには計画自体を柔軟な対応が可能な計画とし、定期的に評価して適切に軌道修正を行うことを制度化する必要があります。」「高速増殖炉の実用化にあたっては、実用化時期を含めた開発計画について、安全性と経済性を追求しつつ、将来のエネルギー状況を見ながら、柔軟に対応していくことが必要です。」
 
A「実証炉1号については、高速増殖炉の経済性の見通しを明らかにするために、電気事業者が中心となって、現在電気出力約66万kWのプラントの設計研究が進められています。」
 
B「実証炉については、『もんじゅ』の運転経験を反映することが必要であり、『もんじゅ』で得られる種々の実績、研究開発の状況と成果などを十分に評価した上で、その具体化のための計画の決定が行われるべきものと考えます。」
 
C「仮に『もんじゅ』を中断し、今後必要な時に再び研究開発を始めることは費用の面からも人材の面からも大きな損失です。したがって、「もんじゅ」を使い、研究開発を続けることが必要です。このためには、動燃改革や安全総点検を通じての安全性向上の状況等を地元住民の方々などにわかりやすく説明し、着実に理解を得ることが必要です。そして、動燃の改革が確実に実現され、研究開発段階にある原子炉であることを認識した慎重な運転管理が行われることを前提に、「もんじゅ」での研究開発が実施されることが望まれます。『もんじゅ』の研究開発に当たっては、実用化につなげるデータの取得を急ぐのではなく、原型炉の特徴をいかしたあらゆる角度からのデータを着実に蓄積する慎重な態度で臨むことに重点を置くべきです。すなわち、ナトリウム取扱い技術や高燃焼度燃料開発など実証炉以降の開発のための幅広いデータを蓄積することが課題です。
 
 つまり、原案では、現行長計の実用化時期の見直しを「生け贄」にしても、「もんじゅ」の運転再開の合意をとることに重点が置かれていたのです。それが、わずか10日後の懇談会で、現行長計の実用化時期を見直すどころか、現行長計を可能な限りそのまま支持する報告書(案)に書き換えられたのです。
 
2.高速増殖炉懇談会での「可能な選択肢」とその結末
 
 高速増殖炉懇談会の設置された今年1月は、決して、今の最終報告書(案)がすんなり通るような状況ではなく、次の5通りの選択肢が考えられ得ました。
 
(1)もんじゅ廃炉・高速増殖炉研究開発からの完全撤退、動燃=新法人解体
 
(2)もんじゅ廃炉・トップエントリー方式ループ型高速増殖炉の研究段階からの再出発
 
(3)もんじゅ改造・アクチニド燃焼炉としての「高速炉」実用化、将来の「増殖炉」開発を展望
 
(4)もんじゅ運転再開・もんじゅ研究開発の実績により実証炉・実用炉計画の時期見直し
 
(5)もんじゅ運転再開・現行長期計画に沿った実証炉・実用炉計画のあくなき推進
 
 これらのうち、なぜ最後の最右翼にある案が選択されたのか、それを次に考察していきましょう。
 
(1)もんじゅ廃炉・高速増殖炉研究開発からの完全撤退、動燃=新法人解体
 
これはプルトニウム政策の根本的転換であり、今の政界中央での力関係では、政府がすんなりと受け入れる案ではあり得ません。
 これに似たものには、新型転換炉計画があります。
 新型転換炉実証炉計画は、現行長期計画策定(1994.6.24)から1年後(1995.8.25)に中止・完全撤退が決められました。発電単価が軽水炉の3倍になり、実用段階になっても経済性の見込みがないのが理由でした。新型転換炉実証炉建設主体の電源開発はフルMOX・ABWRへの変更を余儀なくされました。
 現行長計の高速増殖炉実証炉計画では「軽水炉並みの建設費を達成」するため「適切な間隔で実証炉1号炉、これに続く実証炉2号炉の建設を進め、燃料サイクル技術の開発と整合性をとりつつ2030年頃までには実用化が可能となるよう高速増殖炉の技術体系の確立を目指していきます」としていることは、すでに見た通りです。しかし、科学技術庁が第8回懇談会で、「2010年頃66万kW実証炉1号を日本原電が運転開始、その後実証炉2号を電力会社が建設・運転、2030年頃実用炉を電力会社が運転開始の方針」(資料 第8-7号)を示したところ、鷲見関電副社長は、実証炉1号について、「サイトがあるわけではなく、『もんじゅ』の経験を踏まえることを考えているので、2010年の運開は今のところ考えられない。実証炉2号も環境、資源、社会的な問題を踏まえて柔軟に考えていきたい。資料 第8-7号の通りに行くわけではない。‥‥‥2030年位には軽水炉の代替エネルギーが実用化できる技術が必要と考えている。我々は実証炉を必ずやろうという意思には燃えているが、周囲の状況に柔軟に対応して行くつもりである。」と答えています。もんじゅのループ型とは異なるトップエントリー方式ループ型実証炉1号のナトリウム実証試験(1993〜2000年)、建設費削減(約4000億円、61万円/kWで、軽水炉31万円/kWの約2倍)、サイト選定に時間がかかり、2010年実証炉運開・2030年頃実用化の先送りを強くにじませていました。しかし、実証炉建設が不可能との判断を下すまでには至っていません。電力会社は高速増殖炉実証炉の技術的・経済的可能性の判断を先に延ばし、時間を稼ごうとしているのです。
 
(2)もんじゅ廃炉・トップエントリー方式ループ型高速増殖炉の研究段階からの再出発
 
 これは、原子力船「むつ」のたどった運命ですが、「むつ」と「もんじゅ」では位置付けが違い、研究段階へ戻すとやがてすたれてしまうという危機感が原子力推進派にはあります。
 原子力船「むつ」の場合は、1974年8月の初試験航海4日目に放射線漏れ事故、1991年の形だけの実験公開終了後、1992年から解体作業に入り、1995年6月原子炉が解体され、ディーゼルエンジンの海洋観測研究船に改造されました。これに先立ち、むつ開発母体の日本原子力船開発事業団(1963年発足)は、1980年に日本原子力船研究開発事業団へ改組、1984年日本原子力研究所へ吸収されました。
 現行長期計画では「原子力は将来の船舶の動力源として有力な選択肢となる可能性があり、日本原子力研究所において‥‥『むつ』によって得られた成果等を内外の新たな知見と合わせて蓄積・整備しつつ、舶用炉の改良研究を推進します。また、船舶技術研究所においても基礎研究を引き続き実施することとします。」と謳われ、原船開発予算はここ数年は37億円前後で推移していましたが、1995年度36.8億円、1996年度18.2億円と漸減しています。じり貧で、やがてはすたれていく運命です。
 「もんじゅ」については当初、大蔵省は「技術的にも問題のある高速増殖炉『もんじゅ』のプロジェクトは中止すべきではないか」(政府・与党財政構造改革会議・企画委員会ヒアリングでの大蔵省主計局発言4.21)とし、政府・与党財政構造改革会議(議長:橋本首相)も原案では「高速増殖炉『もんじゅ』等、継続に問題があるものについては、撤退、大幅縮減を含め全面的に見直す」(5.26)としていました。通産省も、政府・行政改革会議ヒアリングで、使用済核燃料再処理や放射性廃棄物処理処分問題が顕在化し、原発政策と核燃料サイクル政策は「密接不可分」であり一体的に取り組む必要性があるとし、科学研究段階は終えたが商業利用段階に達していない原子力の「技術開発には巨額の資金を必要とするため、当該技術のエネルギー政策上の必要性や経済性などを厳しくチェックし、適切な官民分担のあり方にも十分配慮した上で、その開発を進めていくことが必要」と主張していました(6.4)。しかし、科学技術庁と原子力委員会は、これらに頑強に抵抗し、動燃改革検討委員会で、動燃の改組による事実上の存続と新法人による高速増殖炉開発の継続を認めさせ、高速増殖炉懇談会では、「もんじゅ」による運転再開の必要性を認めさせようとしているのです。彼らは、「もんじゅ」廃炉による研究段階への後退が、高速増殖炉開発からの漸次的撤退につながることを「むつ」の経験から学んだのではないでしょうか。
 
(3)もんじゅ改造・アクチニド燃焼炉としての「高速炉」実用化、将来の「増殖炉」開発を展望
 
 これは、高速増殖炉懇談会委員の秋元(三菱マテリアル社長)氏の見解です。高速増殖炉開発への巨額の投資を批判し軽水炉原発のバックエンド対策の強化を主張する通産省と、あくまで高速増殖炉開発路線に固執する科学技術庁の間のギャップを埋める見解であり、バックエンド対策としての「高速炉」の実用化を図るよう主張し、「もんじゅ」をアクチニド燃焼炉に改造して「高速炉」の実用化に使おうとするものです。仏は、実証炉スーパーフェニックスの廃炉を最近決めましたが、すでに「増殖炉」から「燃焼炉」へ路線転換し、原型炉フェニックスを順次改造し、燃焼炉として運転する計画(CAPRA計画) を進めています。秋元は日本もこの路線へ積極的に転換せよと言っているのです。現行長計策定過程の議論でも、秋元はプルトニウム開発利用長期計画専門部会で「増殖を目的にした原子炉は開発のペースを遅らせてもいいのではないか。増殖技術はウランやプルトニウムが乏しくなりそうになってから、本格的に実用化に取り組めばよい」(日刊工業新聞 1992.12)と発言していたのです。その主な主張は以下の通りです。
 
@高レベル廃棄物から長寿命核種を減らせる
 
 軽水炉使用済核燃料から抽出したプルトニウム(半減期2.4万年のPu239、6570年のPu240、37.6万年の
Pu242)を含むアクチニド(半減期 214万年のネプツニウム237、432年のアメリシウム241、7370年のアメリシウム243、18.1年のキュリウム244、8500年のキュリウム245など)と長寿命核分裂生成物(半減期 1570万年のヨウ素129、21.3万年のテクネチウム99など)を「高速炉」で燃焼(半減期のより短い核種に変える)でき、高レベル廃棄物処理処分時の負荷を減らせる。
 これには、使用済核燃料を再処理し、アクチニドや長寿命核種を分離し、MOX核燃料に均一に混入させるという一層危険な工程が不可欠であり、重大事故の危険、日常的放射能汚染、労働者被曝が伴います。また、特定の核種の「燃焼」は他の核種の「生産」につながり、半減期が万年単位から千年単位に減る程度では意味がないし、短寿命核種が増えれば、結果として放射能が高まる恐れもあります。
 
A軽水炉バックエンドの不完全さを補える
 
 「高速炉」は軽水炉のバックエンド対策と位置づけられるため、「高速炉」が高くついても、その分は軽水炉のバックエンド費用として処理できる。
 これには、からくりがあります。「高速炉」の基数は軽水炉のおよそ10分の1ですから、高速炉システムによる「バックエンド費の」増加も10分の1程度に薄められます。例えば、高速炉が発電原価で2倍になっても、原発全体への影響は20%程度に止まります。これはプルサーマルが高価についても、プルサーマルによる天然ウラン節約効果に乏しいため燃料費全体の10%程度にしか影響しないことと対応しています。
 
B軽水炉との経済性の競争をせずに済む
 
 「高速炉」は軽水炉の補完物であるため、「高速増殖炉」のように軽水炉原発と経済性の競争をせずにすみ、軽水炉の 1.5倍とか同程度とかの建設費に圧縮するための大型化や無理な節約をしないで済む。また、研究開発にある程度の余裕ができ、小型の「高速炉」でも十分である。
 高速炉または高速増殖炉は炉心の不安定さやナトリウム技術という基本的な技術的困難性を有しており、経済性の競争が事故の危険を高めることはあっても、経済性の競争を緩和すれば事故を防げるというものではありません。また、技術的に「増殖炉」より「燃焼炉」のほうが安全になるというわけでもありません。「高速炉」路線への転換は「高速増殖炉」開発の技術的自信のなさを示すものでもあります。
 
C高速増殖炉実用化の準備になる
 
 ウラン価格の高騰など高速増殖炉実用化の経済的展望が出てきた時点で「高速炉」の「高速増殖炉」化を図り、それまでは転換比を調節して余剰プルトニウムが出ないようにする。軽水炉時代と共存しながら、高速増殖炉時代を準備するための「高速炉」開発という戦略。
 秋元氏は、増殖率や倍増時間の議論は高速増殖炉時代になってからの議論だと逃げ、「実証炉1基をつくる程度の時期には倍増時間は意味がない。高速炉が今の軽水炉でできないことをどの程度補完できて、それをどの程度の期間で実証できるかが重要」と強調しているのです。これは、高速増殖炉が2030年頃に経済性を持つ炉として実用化されるのは困難であることを認めているに等しいのです。
 
D使用済核燃料再処理の意義が生まれる
 
 プルトニウムを軽水炉でリサイクルさせるプルサーマルではプルトニウムが急激に劣化するためウラン資源の有効利用や廃棄物低減の両面で限られた効果しかあげられない。高速炉での燃料リサイクルによってはじめて十分に使い尽くすことができる。
 プルサーマル計画だけでは使用済 MOX燃料は軽水炉原発サイト内で永久保管になってしまい、地元の合意は得られません。高速増殖炉が実現しないとなると、その可能性が強くなるのです。ところが、増殖炉は無理でも、燃焼炉としての「高速炉」とつなげることで、使用済 MOX燃料も再処理して劣化プルトニウムも「高速炉」で燃焼できる可能性が出てくれば、プルサーマルが正当化でき、地元の合意も得やすくなると踏んでいるのです。「高速炉」開発が進めば、六ヶ所再処理工場操業の「根拠」もさらに強められ、使用済MOX燃料の貯蔵が「最終貯蔵にならない」と「保証」でき、使用済MOX燃料用第2再処理工場計画の可能性が生まれると読んでいるのです。
 電力・原子力メーカーにとっては原発の使用済核燃料対策と廃炉対策が当面最大の課題であり、秋元氏は、これを「高速炉」路線で「解決」し、国民的合意や地元合意を形成し、少しでも原発・再処理工場立地点での矛盾を緩和できれば、軽水炉原発をさらに推進できると考えているのです。
 
 この「高速炉」戦略は秋元が懇談会で事ある毎に何度も強調していたのですが、最終報告案では従属した位置付けに止まりました。なぜなら、「高速炉」路線では軽水炉のバックエンドにおける不完全さ=使用済核燃料満杯問題や高レベル廃棄物の処理処分問題を際だたせるだけであり、バックエンド費用で見た場合にワンススルー路線に対し優位に立てないからなのです。結局、高速増殖炉懇談会は「高速増殖炉」による天然ウランの「60倍の有効利用」という資源エネルギー問題を前面に出し、軽水炉と競争できる「高速増殖炉」の開発に主軸を置いたのです。しかし、高速増殖炉路線が破綻に貧していることは、最終報告書(案)で懇談会での意見を紹介する形で「高速炉」路線の観点からの「高速増殖炉」の開発意義(「増殖」を当面追求しない「高速炉」と「高速増殖炉」は矛盾するが‥‥)を主張せざるを得なかったこと、秋元氏が最終報告書(案)にわざわざ補足意見を付けたことにも現れていますし、一部マスコミは、早々と、「高速炉」路線への「柔軟」な転換も考慮すべしとの論陣を張り始めています。ここでは、「2030年頃の実用化時期」を巡る対立ではなく、2030年頃の「高速炉」としての実用化か「高速増殖炉」としての実用化かという路線を巡る対立なのです。私たちは「高速増殖炉の実用化時期を延ばしてもいいのではないか」という「高速炉」路線に利用されないよう気を付ける必要があります。
 
(4)もんじゅ運転再開・もんじゅ研究開発の実績により実証炉・実用炉計画の時期見直し
 
 9月30日の第10回高速増殖炉懇談会に出された事務局(科学技術庁)の報告書原案はこの線でした。
 「もんじゅ」の運転再開の提起が行われたのは、動燃の改組が決まり、新法人作業部会が発足した直後の第8回懇談会でした。しかも、動燃でも科学技術庁でもなく、日本原電と共に実証炉建設に係わる鷲見関西電力副社長でした。「実証炉に進むためには、『もんじゅ』での炉心特性挙動の把握、ナトリウム取扱い技術・経験、運転、保守・補修経験が必要。動燃の抜本的改革を行い、地元住民の理解の下に、『もんじゅ』の再起動を」というのです。科学技術庁の主張する2010年に実証炉1号、2030年までに実証炉2号というスケジュールは無理だと懇談会の席で主張し、電力会社は高速増殖炉実証炉建設に余り乗り気でないと受け取られていたため、電力会社が「もんじゅ」の運転再開を急がせるというのは唐突な感じがするかもしれません。しかし、電力会社以外に「もんじゅ」の運転再開を言い出せる所はないのです。結果として、火中の栗を拾う役割を鷲見氏が果たすことになったのです。電力会社としても、高速増殖炉実証炉の建設計画は遅らせても、「もんじゅ」が運転再開しないことには、核燃料サイクルの研究開発が進まず、六ヶ所再処理工場計画も滞り、原発サイトにあふれる使用済核燃料をいつまでたっても搬出できず、早晩、軽水炉原発の運転停止を余儀なくされる事態も考えられるのです。電力会社にとっても、とにかく「もんじゅ」が運転を再開し、高速増殖炉開発が進行し続けることで使用済核燃料の六ヶ所再処理工場や「中間貯蔵施設」へ搬出できることが最大の関心事なのです。
 西澤高速増殖炉懇談会座長は、第8回懇談会で「もんじゅ」再開がはじめて話題に上がったとき「新しい開発は、すべてが分かるまでやらないというのは本質的に不可能な話である。危ないことが明らかとなれば、いつでも止めればよいということ」と慎重姿勢を前に出していましたが、報告書骨子案を検討する第9回懇談会では「危険だからやめようではエネルギーは確保できない。そういうことを考えるべき」と居直り、「原型炉はやってみてまずければ、止めるための炉。これで日本のエネルギーを任せようとは言っていない。可能性があることは否定できない。やってみる価値があるという話だけを書いているつもり。今回の事故はプリミティブなミスであり、これがこのような問題に影響を与えることは残念である」とたたみかけたのです。すると、即座に、谷口資源エネルギー庁審議官が通産省の立場で意見を述べ、「原子力を取り巻く内外の経済情勢が大きく変わっている中で、 FBR開発の在り方については柔軟に考えることが重要である。今後は長期的な原子力の政策展開が重要となっている。時間的ゆとりがあると思うが、経済性、市場の動向、技術の動向を見極めて研究開発の方向を議論することは重要である。 FBRについては、基盤的な研究開発をじっくり積み上げていくこと。安全重視の上で研究開発の効率化、スリム化を図りながら、柔軟かつ着実に技術開発を進めることと考える」と早期の「もんじゅ」再開と高速増殖炉開発のなし崩し的な強硬路線への異論を差し挟むや、西澤座長は「ゆっくりやって良いものではない。大急ぎで調べることがたくさんあり、切羽詰まった状態だ」とかみつきました。これには、谷口審議官は「時間的ゆとりについては、研究開発のやり方を言ったまで。原子力開発の進め方の検討については、極めて急がれる。分かり易い、信頼のおけるメッセージを早急に出してほしい。原子力に関する国民の理解・信頼を取り戻すこと」と切り返しています。
 このような状態では「もんじゅ」の運転再開に対する懇談会内での合意を何とか取り付けることに当面の関心が集中します。その結果が、高速増殖炉開発、特に実用化の時期等のテンポについては長計の見直しをにじませ、とにかく「もんじゅ」の運転再開に精力を注ぐことが大切だという判断に傾き、第10回懇談会に提案された原案の筋書きになったものと思われます。懇談会事務局となった科学技術庁の説明では、原案では、「実証炉、実用炉については、従来の長計の路線ではない形で書いてある。『もんじゅ』の研究開発の考え方、或いは研究開発の意義についても従来の長計の路線はないという形で書いてある」というものでした。ところが、この原案も、懇談会での議論を踏まえて、何よりも、科学技術庁の意向を大きく受けて大幅に書き換えられ、次の第11回懇談会での最終報告書(案)が出てきたのです。
 
(5)もんじゅ運転再開・現行長期計画に沿った実証炉・実用炉計画のあくなき推進
 
 10月9日の最終報告書案はこの線であり、現行長期計画のあくなき推進を全面的に支持するものとなっています。
 原案の曖昧さをなくすため、最終案では、吉岡氏の反対意見を少数意見として引用しながら、逐一それへの反論を行い、最終案への賛成意見が多数であることを強調しています。また、「高速炉」路線を「増殖炉」路線に従属するものとして併記した分だけ、資源エネルギー問題を一層前面に出して強調することになり、太陽エネルギーなどの非化石・新エネルギーの限界をことさらに強調し、「高速増殖炉」路線を前面に打ち出すものとなりました。そして、「我が国の独自性を発揮し、世界に貢献していくことの意義は大きい」との原案での位置づけから、さらに進んで、「我が国社会の人類に対する義務であるとする意見があり、これが多数を占めました」というに至りました。
 また、原案では、とにかく、「もんじゅ」研究開発の継続を前に押しだし、高速増殖炉の実用化時期を明記せず、「実用化につなげるデータの取得を急ぐのではなく、原型炉の特徴を生かしたあらゆる角度からのデータを着実に蓄積する慎重な態度で臨むことに重点を置くべきです」とし「高速増殖炉の可能性を追求する」としていましたが、最終案では「電気事業者が中心となって、高速増殖炉の実用化が2030年頃までに可能となるよう、現在、実証炉(電気出力66万kW)の設計研究が進められているところです」と明記し「高速増殖炉の実用化の可能性を追求する。」と明確に実用化を謳っています。この点では、「原型炉から実証炉へと研究開発の段階を歩みながら2030年頃までには実用化が可能になるよう高速増殖炉による核燃料リサイクルの技術体系の確立に向けて官民協力して継続的に着実に研究開発を進めていきます。」(長計p.24)とした現行長期計画通りです。「柔軟に対応していく」との姿勢は言葉の上のお遊びに過ぎません。
 「無理をして早くするということは絶対にあってはいけない思う。しかし、始めたものに対して、どうして今になってやめなければいけないのか」という西澤座長の言葉が最終報告の性格を表していると思います。事務局は最終報告案をまとめるに際して「多数意見の基本ラインは高速増殖炉が有力な選択肢の一つであると言う点をベースにする。その中で、『もんじゅ』を含め研究開発は進めるべきであろうということ。実証炉以降の進め方等についても基本的には報告書原案通りで、特に議論がないと認識している。最大のポイントは第3章の論点であり、この点については、近藤委員のペーパーを参考にしながら国民に分かり易いとの観点でまとめる。」ところが、出てきた最終報告案は、すでに示した通り、現行長計の路線をそのまま支持するものとなっているのです。科学技術庁の極めて巧みな巻き返しです。
 
 もんじゅ事故や動燃を中心とする腐敗した原子力開発体制がここまで暴かれていながら、高速増殖炉懇談会は、なぜ、プルトニウム政策の大胆な中止が打ち出せないのでしょうか。今「柔軟な対応」を行わずに一体いつ行うのでしょうか。もんじゅで重大事故が起こるまで続けるというのでしょうか。現行長期計画策定時になかったのは、もんじゅ事故など一連の事故と事故隠し、「動燃の改革」であり、「立地地元住民及び国民の理解促進と合意形成」です。特に、福井県知事が自ら、16万5千名のもんじゅ福井県民署名をバックに発言し要請した「国が前面に出ての国民的合意」は何ら図られていません。にもかかわらず、現行長期計画をそのまま全面的に支持し、もんじゅを運転再開し、問題があっても高速増殖炉の研究開発をこのまま継続すべしとする最終報告が出されたのです。国民や福井県民を馬鹿にするにもほどがあると言えるのではないでしょうか!最終報告に対する全面的で徹底した批判が不可欠です。
 
3.高速増殖炉懇談会の資源エネルギー枯渇論を克服するために(問題提起)
 
 高速増殖炉懇談会最終報告書(案)は資源エネルギーの枯渇論を前面に打ち出しています。 COによる地球温暖化が化石エネルギーの消費を制約するため、化石代替エネルギーが必要だとしています。化石エネルギーが枯渇するから、使えないから、原子力を推進するという論理構造は根本的に間違っています。しかし、 COによる地球温暖化問題は、大量のエネルギー消費生活の在り方に関する極めて重大な問題を私たちに投げかけています。原子力で地球温暖化が防げるという人々は、地球温暖化問題がどのような深刻な問題であるのかさえ分かっていないのです。この問題は極めて大きな問題であり、CO2 を大幅に削減しなければならないという課題だけは鮮明なのですが、それをどのように実現していくのかについては、今すぐ回答が出せるような単純なものではありません。今後も継続して検討していく必要がありますが、議論の素材として、以下の問題提起を行いたいと思います。
 
 すべての資源・エネルギーは、地球創生時に地球自身が保有していた資源・エネルギーと太陽が地球に与えたエネルギーによって成り立っています。太陽がある限り太陽エネルギーは地球に降り注ぎ、地球環境のあらゆる生命をはぐくみ続けています。私たち人類は、人間がさまざまな技術を用いて自然界から人為的に抽出・生産した「人工的なエネルギー」によって生きているのではありません。「人工的なエネルギー」がほとんどなくても私たちの生活を支える基本的なエネルギーがなくなるわけではありません。逆に、太陽と地球環境が与えてくれる、我々が自覚せずにタダで消費している巨大な資源・エネルギーなしでは、一瞬たりとも生きてはいけないのです。人間の社会的な活動は、大なり小なり地球環境を破壊せずにはおきません。しかし、それが自然の持つ大きな物質代謝・循環能力で復元されている限り、人類は環境の存在を自覚せずに生きていけたのです。と言うより、地球環境によって生かされてきたのです。ところが、酸性雨、冷害や干ばつなどの異常気象、台風の異常発生と風水害、オゾン層の破壊、地球温暖化など、地球環境が地域レベルで、地球レベルで、その物質代謝・循環能力を超えて破壊されはじめています。このままでは、人類の意思とは無関係に、かつてなく大規模で深刻な地球環境の変化がもたらされてしまいます。それは、「人工的なエネルギー」をもってしては回復不可能です。この新たな地球環境の変化が人類の破滅をもたらすかどうかは即断できません。しかし、確実に言えることは、これまでタダ同然で消費していた自然の恵みが、地球環境の変化で得られなくなる危険性のほうが高いということ、人類の生存条件が激変し、生きていくためにはこれまで以上に「人工的なエネルギー」を消費し、それがさらに地球環境を悪化させるという破滅的な悪循環が避けられないであろうということです。
 
 チェルノブイリ事故は広範囲の地域を放射能で汚染しました。「人工的なエネルギー」を用いて放射能を除去し元の豊かな大地に戻すことは、技術的・経済的にもはや不可能です。人々が放射能汚染地から退避するにも、汚染地で生活し続けるにも、膨大な「人工的なエネルギー」が必要です。放射能で蝕まれた健康を治療するための「人工的なエネルギー」も増え続けます。人類がもたらしたこの結果一つをとっても、「人工的なエネルギー」で大規模に汚染または破壊された環境を「人工的なエネルギー」で回復させることは、極めて困難または不可能な場合が多いのです。地球環境の汚染または破壊を未然に防ぐために、人類の利用すべき「人工的なエネルギー」を制限・取捨選択し、自制しながら使うほうが容易であることは明らかです。
 
 人類の社会的な活動による地球環境の破壊を可能な限り抑え、地球環境の物質代謝・循環システムを保存し、可能な限り回復させることが、人類にとって、次世代にとって、最大の資源・エネルギーの保存であることは明らかではないでしょうか。そうしてはじめて、自然の膨大な資源・エネルギーを人類が「利用」できるのです。ある種類の資源・エネルギーを枯渇するまで使い尽くし、そのことによって地球環境の汚染と破壊を次世代に残し、代わりの「人工的なエネルギー」を開発することが本当に人類の義務、次世代への責務でしょうか。山村では当たり前のように安全でおいしい空気と水が得られますが、都市住民は少しでもましな空気と水を得るために、どれだけのエネルギーを消費していることでしょう。ダイオキシンや廃ガスで汚染された空気を吸い続けることによる都市住民の健康破壊、その苦しみと治療費は計り知れないでしょう。このような社会を子供達に引き継ぐことが私たちの義務と責務なのでしょうか。
 
 しかも、原子力は石油代替資源にはなり得ません。最終消費石油製品のうち非燃焼分は熱量換算で約17%(1995年度)を占めます。それは熱量では原子力発熱量の56%(1995年度)にすぎませんが、原子力では代替できません。なぜなら、原子力は電力を代替するにすぎず、非燃焼石油製品を代替できないからです。石油が枯渇しても、原子力で代替できるという論理は、単なる電力代替論に過ぎず、石油文明を原子力文明で置き換えることはできないのです。原子力推進論者はこのことを一番よく知っているはずです。石油製品に限らず、他の有限なすべての資源について同様のことが言えます。枯渇しそうな資源を別の資源で代替できるとは限らないのです。ある資源のすべての性質を完全に包含できるような代替資源は存在しえません。資源の枯渇が避けられないとすれば、その資源の保存をはかるか、別の資源による別の生活スタイルを求める以外にありません。しかし、このような考えで次々と資源を枯渇させていくことは、今の世代に許されることでしょうか。資源枯渇論に立つ人々は、枯渇する運命にある資源の代替物を求めるのではなく、資源を枯渇させることの重大な意味をまじめに受け止め、まずは資源を枯渇させることの重大な意味を理解し、枯渇させないための方策を真剣に考えてみるべきでしょう。
 
 化石エネルギーの消費を抑制しなければ地球温暖化を防げないとすれば、化石エネルギーの消費を抑える以外にありません。原子力エネルギーによる放射能汚染を防げないとすれば、原子力エネルギーの消費をやめるしかありません。資源・エネルギー全体の消費レベルを抑制し、削減する以外にありません。現世代の消費削減は人類への保存であり、次世代への保存です。事柄は極めて単純です。それを複雑にしているのは、化石エネルギーの消費促進や原子力エネルギーの利用で利益を得ている人々がいるからです。
 
 化石エネルギー枯渇論・新エネルギー限界論で原子力エネルギーの推進を唱えるのは、原子力による地球環境の破壊を見ない人々の主張です。自分たちだけの狭い目先の利益にしがみついているために、核軍事利用と平和利用の両面で十分現実のものとなっている原子力の巨大な危険が見えないのです。高速増殖炉の「バラ色の夢」はとっくの昔に色あせているにもかかわらず、それに利益を見いだし、私腹を肥やそうとする人々が、未だに夢を売り、その危険な夢に人類の未来を賭けるよう、はしゃぎたてているのです。原子力エネルギーの利用に賭ける政策は、エネルギー消費を削減するどころか、エネルギー消費を促し、化石エネルギーの消費そのものを増やして行くでしょう。
 
 今の社会がエネルギーの無政府的で野放図な消費を抑える構造になっておらず、軌道修正する能力を持っていないとすれば、それができる社会に変えていく必要があります。それができなければ、人類の未来は地球環境のダイナミックな変化に委ねる以外にありません。それは、現世代の人類への犯罪、次世代への犯罪ではないでしょうか。
 
4.急ピッチで進む動燃改組・「もんじゅ」再開への動き
 
1997.1.31 原子力委員会が「当面の核燃料サイクルの具体的な施策について」を決定
2. 4 「当面の核燃料サイクルの具体的な施策について」を閣議了解
2.14 佐藤通産相・近岡科技庁長官の3県知事へのプルサーマルの協力要請
2.27 橋本首相の3県知事へのプルサーマルの協力要請
3. 3 電力10社が日本原電と六ヶ所再処理工場(2003年操業予定)での再処理基本契約を締結
3. 6 東京電力が新潟・福島両県知事にプルサーマル計画を説明
3.11 動燃東海再処理工場・アスファルト固化処理施設で火災・爆発事故
3.28 関西電力が福井県へプルサーマル計画を説明
4.14 「ふげん」でトリチウム漏洩事故、翌日、科学技術庁が停止命令、情報伝達体制の改善を指示。
4.15 動燃改革検討委員会を設置(4.18に第1回会合)
4.21 政府・与党の財政構造改革会議・企画委員会(座長:加藤自民党幹事長)で、事務局の大蔵省主計局   が「技術的にも問題のある高速増殖炉『もんじゅ』のプロジェクトは中止すべきではないか」
5. 9 原子力委員会が、核燃料サイクルの確立が我が国にとって極めて重要との認識を再確認
5.16 自民党財政構造改革案「『もんじゅ』をはじめ大型プロジェクトについては厳しく見直し」
5.21 科学技術庁が政府・行政改革会議で、原子力は供給安定と地球環境問題で優れる等から将来にわた   り重要なエネルギー源として期待され、研究開発に国として重点的に取り組む必要有と強調
5.26 政府・与党の財政構造改革会議(議長:橋本首相)企画委員会が報告書提出、「高速増殖炉『もんじ   ゅ』等、継続に問題があるものについては、撤退、大幅縮減を含め全面的に見直す。」
6. 3 政府・与党の財政構造改革会議が最終報告書をまとめ、「もんじゅ」について「撤退、大幅縮減を   含め」を削除、「全面的に見直す」だけに後退
6. 4 通産省が政府・行政改革会議で、「核燃料サイクルについて原子力発電と異なる政策的取組を行う
必要性は薄らいできている」、商業利用段階に達していない原子力「技術開発には巨額の資金を必要とするため、エネルギー政策上の必要性や経済性などを厳しくチェックし、適切な官民分担のあり方にも十分配慮した上で、その開発を進めていくことが必要」と主張
6. 5 「ふげん」を再起動、翌日運転再開。
6. 6日経 電事連が政府首脳に提出した動燃改革案と支援策を公表、高速増殖炉開発プロジェクトは国
が継続すべきで、もんじゅの民間移管を拒否。研究開発は経済性や信頼性など実用化を視野に入れるべき。新組織への管理職派遣、廃止部門からの技術者受け入れを支援。
6. 5 政府・与党が東海再処理工場閉鎖の方針決定(後に復活)
6. 6 第3回動燃改革検討委員会で「動燃改革の基本認識」(吉川座長試案)出される:原子力長期計画が
「1956年以来「数十年に亘って認められてきたことは、我が国の国民がその方針を支持していることを意味するのであり、その開発の主役として動燃は国民の付託を受けている」「現在における動燃の問題は、動燃を取り巻く状勢の変化が原因であって、動燃自身の変質によるのではない。」
6.13 荒木浩電事連会長が社長会後に記者会見し「もんじゅは新体制の下、国の主導で運転を再開する」
6.17 第4回動燃改革検討委員会で「動燃改革の基本的考え方」(吉川座長試案)出される
6.19 仏新首相所信表明演説で、スーパーフェニックスの放棄(廃止)を打ち出す。
6.20 原子力委員会委員長談話「核燃料サイクルの推進について」
7. 2 自民党行政改革推進本部が動燃改革案決定:3年後めどに動燃事業団法を改正し、新法人に改組。
7. 7 第5回動燃改革検討委員会で「改革の実現に向けて」(科学技術庁案)だされ報告書案出そろう
7. 7 石田科学技術事務次官は、来年の通常国会に事業団法改正法案を提出、「早ければ来年秋にも新法   人が発足」する見通しを発表
7.30 第6回動燃改革検討委員会で最終報告確認
8. 1 動燃改革検討委員会報告を原子力委員会へ提出
8. 7 原子力安全委員会がもんじゅ事故第2次報告書(案)公表、意見募集(〜9.16)
8.22 新法人作業部会(部会長:鈴木篤之東大教授)初会合
9.11 科学技術庁が、もんじゅ原子炉の1年間運転停止命令
9.12 原子力安全委員会主催「もんじゅ事故に関する地元説明会」(福井県共催、敦賀市、160名)
9.18 第9回高速増殖炉懇談会で報告書骨子案検討
9.30 第10回高速増殖炉懇談会で報告書原案検討
10.9 第11回高速増殖炉懇談会:最終報告書(案)検討
10予定 原子力安全委員会がもんじゅ事故第2次報告書提出
10上旬〜11上旬 高速増殖炉懇談会報告書(案)公表・意見募集