2000年9月4日
関西電力株式会社社長
石川 博志 様
 
8月31日のプルサーマル問題関電回答
に関する再公開質問状
 
若狭連帯行動ネットワーク
 
 貴社は、私たちの7月6日付「『BNFL製MOX燃料問題に関する調査について(最終報告)』に関する公開質問状」への回答を8月31日夜になってようやくFAX送信してきました。文書回答がなされたこと自身は誠意ある行為として評価いたしますが、「8月3日の公開討論会までに文書回答するよう努力する」との約束は守られず、文書回答を得るまでにさらに4週間もかかったという点については厳重に抗議いたします。また、文書回答の内容も、すべての責任をBNFLや三菱重工業に押しつけ、「福井県の事前了解も国の安全審査も受けないまま反対を押し切って自己責任でMOX燃料の加工を強硬発注し、スケジュール通りあくまでプルサーマルを強硬しようとした」貴社自身の責任を棚上げにし、言葉の上だけの「謝罪」で済ませ、約20年間におよび全社的品質管理TQCを実施してきた貴社自身の品質管理体制の重大な欠陥については全く自己批判がありません。これでは、貴社の再発防止策には全く期待できません。
 ここに、再度、貴社の文書回答に対する公開質問状を提出いたしますので、1ヶ月以内の誠意ある文書回答を求めます。また、8月3日の公開討論会で約束したとおり、速やかに、福井県で公開討論会を開き、さらに、仏COGEMAでのMOX燃料加工に関する情報を公開し、大阪で継続的に公開討論会を開くよう強く求めます。
 
 
1.関西電力の責任について
 
(1)貴社は「外径のばらつきが小さいペレットを製造する工程性能が十分でなかった」としながら、「研削機の管理方法を改善させることにより当社の要求仕様を満足できるMOX燃料が製造できると判断していました」と弁明していますが、これはポンコツ自動車でも運転に気をつければ安全にドライブできるというのと同じ無茶な論理です。ポンコツ自動車をリコールして修理するのが先決であり、性能の悪い研削機を改善せずに工程管理の仕方を工夫することで無理矢理使うことを了承した点が最大の問題点だと私たちは考えます。品質を作り込む工程になっていないことを知りつつ、反対を押し切って自己責任で加工発注したのは貴社であり、三菱重工業ではなく貴社に最大の責任があります。それとも、貴社は元請けの三菱重工業が認めたから、それを追認するしかなかったとでも言うのでしょうか。
 
(2)スイスの「ベズナウ発電所でのMOX燃料のリークについて」貴社は、1998年4月の若狭ネットとの公開討論会では「当社から説明しておりません」と弁明していますが、それは違います。「リークそのものがない」という説明でした。明らかに嘘をついたのであり、それを福井県民と国民に謝罪し、自己責任をとるべきです。今回の文書回答で嘘の上塗りをするつもりですか。
 貴社がMDFの製造能力の根幹に関わる事故情報を隠し、MDFではトラブルはないと嘘をついた以上、それを謝罪し、貴社の入手したリーク原因の情報、MDFで再発防止のためにとられた対策、同様なリークが発生しないことを貴社がいつどのように確認したのかについて、公の場で具体的に説明するのが最低限の責任だと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(3)貴社は、「MELOXで製造中のMOX燃料については、十分実績のある商業規模の工場で適切な品質保証・品質管理体制のもと製造されていると考えており、当社向けMOX燃料の品質について第三者機関による確認も受けています」と回答していますが、MDFについても、MOX燃料加工の実績が十分あり、万全の品質保証・品質管理体制で臨んでいると言っていたはずです。それが嘘であった以上、MELOXについて同じことを言っても信用できません。国民の安心を得るためには、MOX燃料が不正や欠陥がなく設計通りに作られていることを具体的に納得できるように示し、プルサーマルが安全であることを具体的に示すべきです。そのためには、MELOXについてMOX燃料製造に係る全情報を公開し、公開の場で説明すべきです。
 貴社は、通産省が法制度上遡って適用できないと認めていることを理由に製造中のMOX燃料をそのまま使おうとしていますが、法制度上はそうであっても、一般消費者を相手に安心を得るためには企業責任としてとるべき道があるはずです。しかも、貴社の強硬発注にすべてが起因しているのですから、自己責任で、これまでに製造されたMOX燃料はすべて使わないという経営判断が行われてしかるべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(4)貴社は、私たちのプルサーマル計画中止要請に対し、「エネルギー資源の乏しい我が国にとって、原子力発電や使用済燃料を再処理し回収されるプルトニウムをリサイクルすることは、エネルギーセキュリティーの確保の観点から重要であると考えております」として拒否しています。しかし、今回のMOX燃料データねつ造問題を、プルサーマルが一般的に必要かどうかの議論にすり替えることは許されません。今回のように具体的に、MOX燃料や輸送容器の製造時のデータねつ造が発覚し、その安全性が問われ、安心もできないプルサーマル計画についてはいったん白紙に戻すのが企業責任だと私たちは考えますが、いかがですか。
 その上で、プルサーマルを行うべきかどうか、実用化見通しの立たないFBR開発に関する原子力研究開発利用長期計画策定に係る議論も踏まえて、国民的討論を行うべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(5)貴社はBNFLにMOX燃料を返送させようとしていますが、安全管理のずさんなBNFLにMOX燃料の処理を行わせるのは危険です。BNFLの責任を問うのであれば、「今後のMOX燃料の加工については、不正のあった工場(MDF工場)では実施しない」(貴社リーフレット)というだけでなく、SMPでも加工せず、プルサーマルを中止すれば、返送する必要はありません。「地元の皆様のご意見を踏まえ」たと言いますが、地元で公開討論会も開かずに、「返送して作り直させろ」というのが地元のご意見だとは考えられません。また、「地元の皆様のご意見」だけでなく、MOX燃料返送ルート諸国住民のご意見も踏まえるべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(6)貴社は1981年から全社的品質管理TQCに取り組んでおり、約20年の実績を有するはずです。貴社は「品質、安全を第一に考えて進めております」と回答していますが、それが単なるお題目になっていたことが今回判明したわけです。ところが、この点の真摯な自己批判が全くみられません。貴社が、MDF工場では品質を作り込む工程になっていないことを知りつつ発注したこと、貴社の立ち会い検査も貧弱であったこと、不正が発覚して市民側からも助言されながらそれを無視したこと、これらは品質管理の手抜き以外の何者でもありません。
 雪印乳業や三菱自動車の事件では、「大会社なら品質管理を徹底してやってくれているだろう」と信じてきた消費者が完全に裏切られました。今回は、貴社も「徹底した品質管理をやっている。信じてください」と言いながら実際にはやっていませんでした。消費者の怒りは心頭に達しています。ところが、そういう自覚が、貴社には全く感じられません。
 なぜこうなったのかという深刻な反省がなければ同じことが繰り返されます。「不正があることを前提とした詳細な確認を行っていなかった」というのは事態を取り繕うための詭弁です。不正の有無に関わらず品質管理を厳格に行い、また、行われていることを確認しておれば、今回のような事態は防げたはずです。ところが、それには、不安定な工程の改善やペレットの再三の作り直しが必要になり、コストと時間がかかります。予定されたプルサーマル計画に間に合わないし、MOX燃料加工費も高くなります。だから、上記のような品質管理の手抜きを行ったとしか考えられません。それとも、貴社には品質管理を手抜きしているという自覚すらなかったし、今もないということなのでしょうか。とすれば、1981年以来、小林庄一郎社長時代に導入され、トップダウンで社長診断会を繰り返し、現場でもPDCA検討会をもち、電力事業として初めて1984年11月にデミング賞実施賞を受賞した20年にわたる関電のTQCは一体何だったのでしょうか。
 「品質、安全を第一に考えて進めております」と言ってきたTQC体制が根底から覆っているという現状を経営者以下全社的に認識し、今回の事件に対する経営責任を明確にすべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(7)貴社は、「今回の問題はMDFという特殊な状況で発生したもの」だと回答していますが、MDFが実験施設で特殊な状況にあるということは十分承知の上でMOX燃料加工をMDFに発注したのではなかったのですか。そのような特殊な状況であればなおさら、品質管理が厳格に実施されるよう要求し、それが実現できないようであれば発注すべきでなかったと私たちは考えますが、いかがですか。ところが、国内の反対を押し切ってMDFへ強硬発注したのは貴社です。
 貴社は、不正発覚後の調査で「検査員の証言に重きを置き判断を誤った」と言い訳をしていますが、検査員の証言だけでは不十分だという批判は福井県議会でも行われ、また、市民側は具体的に品質管理の欠陥とデータねつ造の可能性を警告していました。それを無視し続けたのは「判断の誤り」ではなく、プルサーマルを計画通り強引に実施しようとする貴社の経営方針があったからです。貴社は「反省」するだけでなく、その自己責任を具体的にとるべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(8)貴社の言う通り、核物質防護上の制約があってもMOX燃料加工施設で「全ての作業場所、状態を監査することは可能」だとしても、事前に「核物質防護上必要な手続きを行う必要があり」、あらかじめ準備されたものを見るだけでは監査になりません。結局は、BNFLが厳格な品質管理・保証体制をとっていなければ無意味な監査にすぎなくなります。品質監査をその程度のものとしか考えていないとすれば、今後貴社が行おうとしている品質監査の質が根本的に問われます。その認識もないのは問題だと私たちは考えますが、いかがですか。
 
2.全数自動検査と抜取検査の関係について
 
(1)貴社も認めている通り、全数自動測定は製造工程の一部であり、全数自動測定では温度が高いなど抜取検査とは測定系も異なります。したがって、全数自動測定によっては外径仕様が満たされていることは保証できません。抜取検査では、ある工程不良率の下に良いロットと悪いロットが判別され、判断の誤り確率も管理されます。それにはランダムサンプリングがきちんと行われ、測定やデータ処理に不正がないことなど品質管理の基本が厳守されていることが大前提です。それが守られていなかった以上、貴社は「ペレットの品質は保証されず、外径仕様が満たされている保証はない」と判断すべきです。にもかかわらず、「全数自動データによってもペレット外径が仕様を満足していることが確認できる」とする貴社やNIIの判断は基本的に間違っています。もし、そのように判断するのであれば、全数自動測定で品質保証を行うべきはありませんか。なぜ、それができなかったのでしょうか?それは、工程内全数自動測定の条件では温度が高いなど測定系が安定していないからであり、全数測定はあくまで抜取検査でロット全体が不合格となる確率を下げることを目的としているからです。抜取検査はコストのかかる全数検査を実施できない場合に、それに代わるものとして考案され、設計されています。全数検査であればランダムサンプリングなど複雑な手順を実施する必要ありません。貴社はなぜ全数自動測定が行われた後に、測定系の異なる条件下でわざわざ抜取検査が行われているのか、頭を冷やして考えてみるべきです。それが単に契約だからという理解に留まるのであれば、貴社の再発防止策は全く役に立たないと私たちは考えますが、いかがですか。
 
3.外径測定位置と端部の欠けについて
 
(1) 外径測定ではレーザー光による側面の陰を測定しているのですから、欠けが外径に影響するぐらいであれば、かなり大きな欠けだと推定されます。外径が仕様外になるほど大きな欠けを検出しないように測定位置を内側へずらす必要がなぜあったのでしょうか?それは、そのような欠けの発生が予想以上に多かったからであり、選別除去されるペレットを作り直すのに時間とコストがかかるからだと私たちは考えます。貴社は、外径測定の目的は欠けを検出することではないと屁理屈をこねて、測定位置を内側へずらしたことを正当化していますが、欠けを含めてレーザー計測による外径が仕様外であれば「仕様外」と判定すべきです。外径が仕様外になる原因が何であれ、それが仕様外である以上不合格にするという厳格さを持つべきです。にもかかわらず、欠けを検出しないように内側へ測定位置をずらすなどという操作で品質をわざわざ落とす必要がなぜあったのですか。
 欠けは外観検査で検出されるというのは本末転倒です。外観検査では欠けが外径に与える影響は検出できません。欠けが外径に与える影響を検出できるのはあくまで外径測定だけです。
 欠けが無視できないほど多発するのであれば、測定位置をずらすのではなく、むしろ、欠けが生じないように貴社が自慢げに言っている「研削技術として確立したセンタレスグラインダ」を改善すべきではないでしょうか。
 貴社は、BNFLや三菱重工業と一緒になって、外径測定位置を内側へずらすことで欠けを予防するための設備改善費用や欠けの生じた不良ペレットの作り直し費用を削減したのです。これは品質管理の手抜きだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(2)ペレットの欠けについて貴社が「設計で想定している範囲」を具体的に示してください。目視による外観検査では、欠けの大きさを定量的に測定することなどできませんから、明らかに「欠け」とわかるような大きな欠けしか検出されないのではありませんか。また、目視による外観検査で欠けを理由としてはねられたものがどれだけあるのですか。
 欠けを検出しないように測定位置をずらすことで、どの程度の欠けが全数自動測定をパスすることになったと貴社は評価しているのですか。
 
4.抜取検査の方法について
 
(1)貴社は「ペレットは研削技術として確立したセンタレスグラインダで研削され」るとしていますが、貴社もご存じのように、このセンタレスグラインダでも円筒度が常に保証されているわけではありません。検査されるペレットの円筒度が狂う原因として、@研削砥石を回転させる2軸の軸受けの摩耗等により軸の平行関係がずれる、A砥石の摩耗や研削粉などにより砥石面の平行関係がずれる、などが考えられます。「ほぼ一定の円柱になる」と貴社は主張していますが、工学的には公差の範囲内のテーパに留まっているかどうかが問題です。抜取検査の3点測定で最小値と最大値の誤差が外径仕様の範囲でもある25μもあるというのは問題です。もし、ペレットがテーパになっており、中央から±3.5mmの間でこの差があるとすれば、両端では外径が仕様外になっている可能性が高いのです。測定位置を内側へずらしたために円筒度のチェックができず、結果として両端の外径の仕様を保証できなくなっています。貴社はそれでも良いと判断しているのですか。
 
(2)8月3日の公開討論会でも、貴社は全数自動測定の場合は温度が高いと言っていました。それなら、全数自動測定ではペレットが膨張しており、外径測定値は抜取検査時より平均も標準偏差も大きくなるはずです。ところが、逆に、抜取検査データの方が平均値が全体として大きい方へずれており、標準偏差も大きくなる場合が多いのです。これは矛盾しています。測定系の違いでは全数自動測定と抜取検査におけるペレット外径データの分布の違いを全く説明できません。
 しかも、測定系が違うことがわかっているのであれば、全数自動データをそのまま品質保証のために使うことはできず、温度効果など測定系の違いを考慮したデータ処理を行う必要がありますが、貴社はこれまでそれを一切行っていません。全数自動測定データをそのまま用いて品質保証ができると言ってきました。これは、大問題です。通産省や原子力安全委員会に、全数自動測定データと抜取検査データには測定系の違いがあり、同等には扱えないことをきちんと報告していないのではありませんか。
 
5.再処理・MOX燃料加工契約について
 
(1)貴社の言うエネルギーセキュリティの確保の観点からみても、FBRから切り離されたプルサーマルにはその意義はありません。それでも意義があるというのであれば、プルサーマルがエネルギーセキュリティの確保にどのように貢献するのかを定量的に具体的に示すべきです。
 貴社は、MOX燃料費がウラン燃料費と比べて高くつく話をする際には燃料全体に占めるMOX燃料の割合が少ないことをあげて正当化し、プルサーマルの必要性を語る際には、逆に、燃料全体に占める割合が大きいかのような説明をしています。これは2枚舌であり、国民を愚弄するものだと私たちは考えますが、いかがですか。
 
(2)返送予定のMOX燃料はBNFLでどのように取り扱われるのですか。貴社リーフレットに書いているように「今後MOX燃料の加工については、不正のあった工場(MDF工場)では実施しない」とすれば、SMPで再加工するか、フランスで加工するか、MOX燃料加工そのものを断念する以外にありません。しかし、貴社の「白紙」には、MOX燃料加工の断念の選択肢は入っていません。不正のあったMDF工場だけが問題であり、それを管理運営しているBNFLそのものは問題にならないと主張する貴社の根拠を明らかにしてください。
 また、フランスでのMOX燃料加工に関する情報を公開し、即刻公開討論会を継続的に開いて下さい。
 
(3)使用済MOX燃料の再処理について、貴社は「仏でも再処理が行われた実績」があるとしていますが、それは燃焼度が低いものです。貴社の計画しているプルサーマルの使用済MOX燃料は燃焼度が高く、その再処理技術の開発はこれからです。しかも、建設中の六ヶ所再処理工場ですら見通しが立たないのに、それに続くとされる第2再処理工場ができる保証もありません。関電は「発電所から搬出できないことはない」と他人事のように言っていますが、「絶対搬出する」とは一度も言っていません。貴社は使用済MOX燃料をいつまでに搬出する計画なのか明確にして下さい。
 また、福井県高浜町でもプルサーマル公開討論会を開くと約束したのですから、即刻開催してください。
 
−以上−