1999年9月29日
関西電力株式会社社長
石川 博志 様
BNFLによるMOX燃料品質管理データねつ造とその調査結果に関する緊急公開質問状
若狭連帯行動ネットワーク
高浜3・4号用MOX燃料の品質管理データがねつ造されていた件につき、私たちは9月16日付けで貴社に真相究明と公開討論会の開催を求めました。ところが、21日の本社での回答では「公開討論会を開催するつもりはない」と門前払いでした。今回のプルサーマルについては不祥事が相次いでおり、このような姿勢は許し難いことです。厳重に抗議します。
貴社は、9月24日付で栗田福井県知事へ「MOX燃料ペレット外径寸法データ問題に係る調査報告書(中間報告書)」を提出し、現在輸送中の高浜4号用MOX燃料にはデータねつ造はないとの結論を出しています。しかし、この結論は科学的に間違っており、「中間報告書」記載データを解読すれば、高浜4号用MOX燃料の品質管理データでもねつ造の可能性が高いだけでなく、BNFLの抜取検査そのものがずさんであった可能性すら浮かび上がってきます。
緊急に以下の質問をしますので、即刻の文書回答を求めます。
(1) 高浜4号用MOX燃料のロットP824については、P823と品質管理データが200個中66個が一致するためデータねつ造の疑いがもたれていました。これを検討するため、貴社は、約3000個の自動外径測定データと200個の品質管理用データを比較検討し、平均値の差および標準偏差の差が「データ流用のない他の両測定データの変動の範囲内に入っている」こと、さらに、モンテカルロ法で200個のデータをサンプリングした結果と比べた結果、「品質管理用データは自動測定データと平均値やバラツキが類似している」こと、当該検査員Dと共同オペレータが事情聴取で不正を否定していることなどからP824では「データ流用はない」と結論づけています。
ところが、ロットによって外径データの平均値や標準偏差はかなり異なっており、平均値と標準偏差の関係が互いに独立ではないため、これらのロットをすべて一緒にして議論するのは「ミソもクソも一緒にする」議論であり、統計的に間違っています。
当該ロットの自動測定データと品質管理用データについて、平均値の類似さを検討するのであれば、「分散未知の場合の母平均の差のt検定」を行うべきだと私たちは考えますが、いかがですか。私たちの計算結果によれば、両母平均が一致するという仮説は5%有意水準ではもちろんのこと、1%有意水準でも棄却されます(t0=13.4≧2.6:1%有意水準)。すなわち、品質管理用データは自動計測データと母集団が異なるのです。もし、違うとおっしゃるのであれば、貴社の検定結果を示して下さい。
また、データの分布の類似さを検討するのであれば、カイ二乗検定を行うべきだと私たちは考えますが、いかがですか。そうすれば、両データは別のもの(分布)であることが統計的に証明できます。もし、統計的に同じだとおっしゃるのであれば、貴社の検定結果を示して下さい。
貴社はもちろん、こうした統計的に厳密な検定法があることは先刻承知のはずです。にもかかわらず、これらを用いず、「変動の範囲内に入っている」とか、「類似している」とか、わざわざ素人がやるような非科学的かつ主観的な方法で判断を下しているのは、欺瞞です。これは、たとえ欠陥があっても輸送中のMOX燃料そのまま使いたいとの貴社の意向が働いているからだと私たちは考えますが、いかがですか。
(2) 貴社が「中間報告書」の中で示した図34および図35によれば、高浜4号用ペレットにおける外径の自動外径測定結果と品質管理用データの平均値の差の分布は0.004〜0.007と広範囲に及び、標準偏差の差も0.004〜0.003と広範囲に及びます。外径の許容範囲が8.179〜8.204mmであり、ノミナル値(基準寸法)8.190mmから0.011〜+0.014の範囲に大半が存在するデータから200個をランダムにサンプリングした結果の平均値と標準偏差が母集団と比べてこれほどバラツクのは統計的観点から異常だと私たちは考えますが、いかがですか。
これには次の二つの原因が考えられます。
第1は、約3000個のペレットから200個をサンプリングする方法が無作為(ランダム)抽出になっておらず、検査員が「適当に」サンプリングしているか、「作為的」なサンプリングになっている可能性があります。加工工程が外径のやや大きなペレットができるように変化しておれば、連続するペレットでは外径が偏ります。逆も言えます。このような場合には、200個のペレットがランダムに抽出できていなければ、品質管理用データが当該ロットの母集団を反映できなくなり、抜取検査の意味がなくなるのです。
第2は、検査員らが抜取検査そのものを実施せず、品質管理用データをねつ造した可能性があります。貴社はねつ造の有無を判断するため、ペレット番号順に過去のデータと一致するデータの数だけをチェックしていますが、これはデータをコピーする際に、番号を少しずらすことで簡単にクリアできます。また、正規乱数を使ってランダムにデータを生成させることもできます。確率統計に関する知識のある検査員であれば、これらは容易なことです。したがって、データの不一致数が少ないのに、各ロットの自動計測データと関係のない品質管理データがたくさんあっても不思議ではないのです。
BNFLの品質管理では、これらのいずれかが起きている可能性が高いと私たちは考えますが、いかがですか。これらの可能性をチェックするには、ロットの自動計測データと品質管理用データの母平均の差の検定やカイ二乗検定を行って、両母集団の一致性を証明できるかどうかを検討する以外にないと私たちは考えますが、いかがですか。これらが完全に済まない限り、高浜4号用MOX燃料の品質は保証されないと私たちは考えますが、いかがですか。
(3) 貴社は「中間報告書」の中で、「高浜3・4号機については、工程中全数測定記録により、すべてのペレットが仕様を満足していることを確認した」と結論づけていますが、この結論は誤りです。BNFLが抜取検査で合格品質水準AQLを1%としているように、全数測定後であっても確率統計的に不良ペレットが出るのは避けられません。「中間報告書」に公表された抜取検査データでも実際に不良品が出ています。また、「工程中全数測定だけで仕様が満たされる」と言うのであれば抜取検査は不要なはずです。もし、貴社が本気でこのようなことをおっしゃるのであれば、それはデータをねつ造した検査員の認識と全く変わらない低い品質管理意識だと言えます。上記のような結論は、即刻撤回すべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
(4) 高浜3号用MOX燃料で、データねつ造が明らかになっているロット付近では、検査日程が過負荷状態になっていた可能性があります。6月30日〜7月9日の10日間に14ロット以上の検査が入り、6月30日には1日で3ロット以上が入っています。7月29〜30日にも2日で4ロット以上、8月3〜4日と7〜8日にも2日で3ロット以上の検査が入っています。これらのいずれでも、データがねつ造されています。200個のペレット・サンプリング、データ計測とコンピュータ入力、記録確認には、平均1〜2分/個として、3.3〜6.7時間が必要ですので、1日に1ロットを完成させるのがやっとだと考えられます。データのねつ造はこのような無理な検査スケジュールの結果ではないかと私たちは考えますが、いかがですか。
このようなデータねつ造については、検査所要時間を元に、検査スケジュールの計画と実績をフォローするだけで検査の手抜きやデータねつ造の可能性を発見できます。高浜3・4号用MOX燃料の全ロットについて、検査スケジュールの計画と実績、要した検査時間、検査を実施した検査員とオペレータの組などのデータを公開して下さい。高浜4号用MOX燃料検査のスケジュールに無理がなかったかどうか、検査時間の実績に異常がないかどうかについて、中間報告では何も触れられていません。貴社はこれらをチェックしていないと考えられますが、それに相違ありませんか。このような基本的なこともチェックせずに、「異常なし」となぜ言えるのですか。
(5) 今回のデータねつ造が発覚したのは、実際の検査から1ヶ月後にQCリリース認定書を作成する段階で、品質管理担当者が「連続する二つのロットの平均値、標準偏差、最大・最小値が一致している」ことを発見したからでした。品質管理システムの中で発見されたというよりも、たまたま発見されたと言うべきでしょう。データねつ造者が、データねつ造に慣れてきて、連続するロット間でデータをコピーするというヘマを犯したために、発覚したのです。このようなヘマ=データねつ造の手抜きをしなかったら発覚しなかったと言えますが、いかがですか。
(6) 今回のデータねつ造は貴社も指摘している通り、単独犯では行えません。少なくともデータを計測する検査員1名とコンピュータへ入力するオペレータ1名がグルになる必要があります。3名の検査員が不正を働いていたとすれば、オペレータとあわせて6名以上がかかわった可能性があります。10数名からなる検査グループの大半がグルになっていたと言えますが、いかがですか。このような状況であれば、個々の検査員が不正を行ったか否かによらず、不正を行うこと事態は品質管理グループ内で公然の秘密のようになっていたとしか考えられませんが、いかがですか。これは作業員の資格認定時にモラル教育がBNFLのプログラム中にあるかどうかという話以前の問題です。品質管理に関する基本姿勢の問題です。BNFLの品質管理システムはISO9002の認証や4回のサーベイランス更新を受けているとはいえ、根本的な欠陥を有していると言えますが、いかがですか。
先の原電工事による輸送容器中性子遮へい材レジン・データ改ざん事件のときのように、厳正な態度で、MOX燃料加工契約を破棄すべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
(7) このような状況下で貴社は、輸送中のMOX燃料を高浜4号に装荷する計画を中止し、MOX燃料製造に係るデータねつ造と品質管理体制の欠陥の究明に全力を注ぐべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
また、輸送中のMOX燃料を含め、高浜3・4号用に製造された392ロットのMOX燃料ペレットのすべてについて、寸法だけでなく、全品質について、BNFLや関電など関係機関以外の公正な検査機関による徹底した品質検査を受け直すべきだと、私たちは考えますが、いかがですか。
(8) 日本での原電工事によるレジン製造欠陥とそれを隠蔽するためのデータねつ造、英BNFLでの品質管理データねつ造など、国内外で原子力産業の不祥事が相次いでいます。原子力産業への信頼が地に落ちている現在、このまま疑惑がらみのプルサーマルを強行するのは中止すべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
MOX燃料製造に関する品質管理等のデータを全面公開し、福井と関西で公開討論会を開き、MOX燃料品質管理データねつ造の事実関係、ねつ造を生み出したBNFlの体質と製造・品質管理体制の欠陥、このようなBNFLと契約を交わした関電の責任、関電としての今後の対応策について、納得できる説明を十分行うべきだと私たちは考えますが、いかがですか。
−以上−
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