1999年11月6日
関西電力株式会社社長
石川 博志 様
BNFLによるMOX燃料品質管理データねつ造  に関する「公開質問状への回答」への再質問状
 
若狭連帯行動ネットワーク
 
 高浜3・4号用MOX燃料の品質管理データがねつ造されていた件につき、私たちは9月29日付で緊急公開質問状を提出し、早期の文書回答を求めていたところ、貴社は11月5日になってようやく文書回答されました。私たちは、貴社が文書回答されたことについては高く評価します。しかし、この文書回答を得るまで、何度も貴本社へ足を運ばなければならず、1ヶ月以上もかかったことには強く抗議します。また、私たちは再三にわたって「担当技術者と経営責任者の同席した公開討論会での誠意ある回答」を求め、10月26日にも貴本社へ出向きましたが、公開討論会開催に関する誠意ある回答は得られませんでした。今回の文書回答が公開討論会を開かないための口実として利用されるのであれば、極めて心外です。ここに上記回答への再質問を行いますので、公開討論会を開き、品質管理責任者による誠意ある回答と経営責任者による対応方針の説明を強く要請いたします。
 高浜3号炉用MOX燃料ペレットが作り直しの方針であるにもかかわらず、それと同じ工程と品質管理体制で製造された高浜4号炉用MOX燃料ペレットがそのまま使われるということに、私たちはどうしても納得できません。
 私たちは、高浜4号炉用MOX燃料の製造も含めて、データねつ造の疑いがあるだけでなく、品質管理体制に根本的な欠陥があるという具体的な証拠を再質問で改めて指摘します。また、BNFLの品質管理体制の欠陥を、関西電力、通産省、原子力安全委員会の誰もが見抜けず、そのまま承認されるとすれば、JCOウラン加工施設での臨界事故の可能性を誰も事前にチェックできなかったという教訓は一体どうなるのでしょうか。高浜4号炉で同じ過ちを繰り返すつもりなのでしょうか。
 日本の原子力安全管理体制への国民や福井県民の不信は極限にまで達しています。福井新聞による10月11〜13日の世論調査によれば、福井県民の50.0%がプルサーマルに反対しており、36.9%の賛成を上回っています。日本世論調査会による10月23〜24日の全国世論調査でも、90.6%が「日本での原発の開発利用に不安を感じる」とし、71.1%が「原子力関連企業の安全意識が足りない」、53.1%が「国の原子力安全行政が信用できない」としています。
 このまま強引にプルサーマルを推進するのではなく、プルサーマル計画を中止し、原子力の安全管理体制を根本から見直すべきではないでしょうか。
 下記再質問への速やかな回答と、担当技術者と経営責任者の出席する公開討論会の開催を強く求めます。
 
 
1.ペレット外径の全数測定データと品質管理用データにおける平均値と標準偏差のずれについて
 
(1)貴社は文書回答で約3000個の全数測定データが正規分布に従っていなければ、200個のサンプル・データの平均値の差のt検定や分散の比のχ検定が使えないとしていますが、これは統計学的に誤りです。検定に用いられる検定統計量がt分布やχ分布に従うかどうかが問題なのであり、200個もの多くのデータをサンプリングして平均値や分散を論じる場合には、高精度の漸近分布としてこれらの分布を使うことができ、元の分布が正規分布に従うかどうかは余り問題ではありません。貴社の回答はデータのサンプル数が5〜6個と小さい場合の話であり、今回のような場合にはこれらの検定法は十分適用できるのです。
 私たちの主張が正しいことを確認する方法があります。貴社は報告書の中で、P824ロットの全数測定データからモンテカルロ法で200個のサンプリングを1万回繰り返したと述べていますが、その「200個のサンプル・データの平均値と標準偏差」の1万個の分布を図に示して下さい。そして、その分布図の中にP824の品質管理用データの平均値と標準偏差を示して下さい。そうすれば、後者が前者の分布から大きく外れていることが一目瞭然になるはずです。これがt検定やχ検定を行っていることに等しいのです。貴社はこのことを知っていながら、報告書にわざと書かず隠したのではないかと私たちは疑っていますが、いかがですか?
 
(2)貴社は全数測定データと品質管理用測定データとで平均値と標準偏差がずれていることを事実上認めた上で、その原因の一つとして「外観検査等ではねられるものがあり、これらは品質管理用ペレットでは除かれている」と指摘していますが、外径データと外観は互いに独立な検査項目であり、それぞれの分布に互いに大きな影響をもたらすことは少ないと考えられます。また、外観検査で不良品が出ても、その割合が少なければ、実用的にはその影響を無視してもさしつかえありません。これは品質管理でよく用いられる常套手段です。問題は外観検査等ではねられたペレットが外径データの分布を大きく変えるほどだったかどうかです。外観検査等で影響が出ていると言うのであれば、外径データと外観との相関関係を示し、また、外観検査ではねられたペレットの数を具体的に示すべきです。そうすれば、その影響は微々たるものであり、無視してさしつかえないことが分かるはずです。いかがですか?
 
(3)また、もう一つ別の原因として「全数測定と品質管理用測定では測定系が異なるため、平均値や標準偏差がわずかにずれうる」ことを挙げていますが、これは極めて重大です。測定系による測定誤差をなくすために、あらかじめ外径が正確に分かっているサンプルを用いて測定系の「較正」を行い、系統的なずれをなくすのが常識です。BNFLではこれをやっていないのですか?レーザー計測による測定精度は0.1μmですが、測定系の違いによる「わずかなずれ」はこれよりどの程度大きいのですか?全数測定データと品質管理用データにおける外径の平均値の差の分布図3­4から判断すると+1〜+2μmの「ずれ」のように見えますが、レーザー測定精度の10〜20倍の誤差が出るような程度にしか較正できないような測定系は使うべきでないと私たちは考えますが、いかがですか?
 この測定系では、外径が小さく仕様外れのペレットが実際より大きく測定され、パスしてしまうおそれがあるのではないですか?このような精度の悪い測定系しか使えない場合には、その較正誤差の分だけ外径データの合格範囲を狭めて使うべきだと私たちは考えますが、いかがですか?
 また、測定系のずれによるサンプル・データの「平均値の分布」への影響は、当該分布の単なる平行移動にすぎず、「平均値の分布のばらつき」が広がることはあり得ないと私たちは考えますが、いかがですか?
 
(4)外径の全数測定データと品質管理用データにおける外径の平均値の差は−4μm〜+7μmにわたって広く分布し、標準偏差の差も−4μm〜+3μmにわたって広く分布しています。これほどのばらつきは貴社の回答にあるような「測定系のずれ」や「外観検査などではねられる効果」ではとうてい説明できません。
 私たちの評価によれば、全数測定データの標準偏差が3μmの場合には、200個の品質管理用データの平均値と全数測定データの平均値との差は95.4%が−0.4μm〜+0.4μmの範囲になければならず、標準偏差の差も90%が−0.3μm〜+0.2μmの範囲になければならないのです。この10倍以上の範囲へのばらつきは、品質管理における恣意的なサンプリングまたはデータのねつ造によるものとしか判断できません。
 もし、恣意的なサンプリングが原因であれば、高浜3・4号の全ロットで抜取検査による合否判定が無意味になります。サンプリング法を根本的に改めて、品質検査を最初からやり直す必要が生じます。また、データのねつ造であれば、データねつ造の余地のある検査システムが問題であり、この場合も検査システムを全面的に改め、品質管理をやり直す必要があります。いずれにしても、BNFLの今の品質管理で「合格」したMOX燃料は全く信用できないため使うべきでないと私たちは考えますが、いかがですか?
 
(5)全数測定データと品質管理用測定データの間で、平均値や分散だけでなく、分布形状にも大きな差がありますが、その理由を貴社は説明できていません。貴社は「加工途中で一時停止する場合があり、その前後で外径分布が異なり、正規分布とならない」と主張していますが、これだと両分布とも正規分布から外れることはあっても、全く違った分布にはなり得ません。ロットP824においても両分布は明らかに異なっており、このこともサンプリングがデタラメであることを示しています。このような加工停止による母集団の変化を考慮する場合には、両分布が一致するように「層別サンプリング」を行うべきことが品質管理法では推奨されているはずです。このような基本的なこともBNFLは考慮していなかったのでしょうか?最終報告書によれば、加工停止の影響を受けたのは約4割のペレットであり、このような大きな比率の場合には、層別サンプリングを行わなくても、ランダムサンプリングをしておれば、両分布の形状に大きな差は生じ得ないと私たちは考えますが、いかがですか?結局、両分布形状の大きな食い違いは恣意的にサンプリングされていたことを傍証するものだと私たちは考えますが、いかがですか?
 
2.高浜4号用MOX燃料中の不良ペレット数について
 
(1)貴社は「全数検査のみで問題なしと考えているわけではない」とし「実際に品質管理用測定で1、2個の不合格品は発生しています」と回答しています。これは、全数測定もペレット製造工程の一部であり、約3000個のロットの合否は抜取検査で最終的に判定されるということを貴社も正式に認めたものだと私たちは受け止めますが、いかがですか?
 BNFLはこの抜取検査で「計数調整型1回抜取検査」を用いているようですが、5/6判定(不良品5個まで合格、6個以上不合格)から3/4判定に変わっているロットが高浜4号用199ロットに15ロットもあります。伝え聞くところによれば、これらは5/6判定で不合格になったロットに関して、全数測定をやり直し、これではねられたものを再研削し、抜取検査をより厳しい3/4判定でやり直したとのことですが、それに相違ありませんか?だとすれば、不合格ロットにおける不合格ペレット数を教えて下さい。
 最終報告では、199ロットのうち5/6判定で、4個の不良ペレットが3ロットで、3個の不良が8ロットで、2個の不良が14ロットで、1個の不良が29ロットで見つかっています。もし、上記15ロットがすべて5/6判定で不合格になったロットだとすれば、サンプリングした約4万個の中に183個以上の不良が含まれることになり、199ロットの約60万個では約3000個もの不良ペレットが含まれることになります。これほど多くの不良ペレットがわずか8体のMOX燃料集合体に含まれるということは許し難いことだと私たちは考えますが、いかがですか?
 
3.品質管理データねつ造について
 
(1)貴社回答にあるように「ペレット製造、検査は5班3交代体制で実施し」「200個/ロットの測定、記録は2時間程度で可能」とすれば、2時間もかかる「測定・記録」がデータねつ造に必要な10分程度の時間で済むはずです。そうすれば当然、ペレット製造、測定、記録の一連のスケジュールを管理している工程管理者がおかしいと気付くはずです。また、当該検査員3名が属する班内の他の作業員約10名や3交代で作業を引き継ぐ次班の検査員らもおかしいと気付くはずです。これはペレット製造・測定・検査の進捗管理データを調べれば貴社にも容易にチェックできるはずです。データねつ造に関与したと推定される検査員3名以外に「班全体がグルになっているとか、各班の検査員や品質管理グループがグルになっているような事実はございません」と貴社が判断した根拠を示して下さい。
 
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