2000年2月25日
福井県知事 
栗田 幸雄 様
 
三重県知事による芦浜原発白紙撤回の英断に続き、
敦賀3・4号炉増設を認めないで下さい
 
若狭連帯行動ネットワーク
 
 三重県では北川知事が2月22日、芦浜原発(135万kW2基)計画の白紙撤回を求め、中部電力はすぐに同計画を断念しました。巻町の英断に続く首長の勇気ある決断です。折しも、関西電力は2月21日、電力需要が伸び悩み電力自由化が目前に迫る中、電源設備過剰による経営悪化を避けるため、火力や水力など1230万kW、原発10基分に相当する新規電源開発計画を1〜数年延期しました。いま急いで敦賀3・4号炉を増設しなければならない理由は全くないのです。また、敦賀3・4号炉の運転開始時期とされる2010年頃には、省エネが一層進み、燃料電池や再生可能エネルギー源も成長し、電力自由化で九電力会社による地域独占体制も崩壊し、危険で即応性のない原発が社会的なお荷物になることは目に見えています。また、それがますます原発の経済性を失わせ、さらなるコストダウンとリストラを迫り、原発重大事故の危険を高めることは必至です。今が原発依存の県政を転換する好機であり、これを逃せば取り返しのつかないことになりかねません。三重県知事に続き、貴職も英断を下し、敦賀3・4号炉増設の白紙撤回を日本原電に求めて下さい。
 JCO事故は、原爆爆心地付近の被曝線量にも相当する強烈な放射線で大内さんを死に追いやり、500名またはそれ以上の労働者や周辺住民を被曝させ、ガン・白血病や免疫疾患などさまざまな健康破壊の危険にさらし、人々の心にも深い傷跡を残しています。「東海村の次は若狭だ!」「原発で重大事故が起こればもっと恐ろしいことになる!」と、私たちは皆ゾッとしています。
 JCO事故の後、東海村では村民の8割近くが「原子力施設は危険」または「少し危険」とし、4割が「原子力利用を徐々に廃止」または「早急に廃止」すべきだとしています。東海村の幹線道路に立つ看板からは「原子力の街」が降ろされました。原子力のメッカとして「原子力との共存・共栄」を唱えてきた東海村の基本政策に重大な変更が迫られているのです。原発30年の福井県でも同じことが問われているのではないでしょうか。河野資源エネルギー庁長官も2月14日の「一日資源エネルギー庁in愛知」で「事故からそれほどたっていない。(原子力発電所の新規立地を進めるのは)時期尚早だ」と強調しました。芦浜原発計画の白紙撤回はその直後に打ち出されたのです。
 ところが、福井県では芦浜原発計画が白紙撤回されたその日に、日本原電が敦賀3・4号炉増設願いを敦賀市と福井県に提出し受理されています。貴職は、巻、芦浜と続く原発白紙撤回の流れを押しとどめ、資源エネルギー庁長官の「時期尚早」論を打ち消し、原発新増設の露払いをし、私たちの街を「JCO事故後始めて原発増設を受け入れた街」にするおつもりですか。東海村の降ろした「原子力の街」の看板を私たちの県が拾い、掛け直すおつもりですか。そのようなことは断じて許せません。
 JCO事故後のマスコミ調査では、福井県民の3/4が増設に反対しています。5年前の21万人署名の頃からさらに一層、反対の声が高まっているのです。にもかかわらず、県民の意識とはかけ離れた意思決定が、県政レベルで勝手になされようとしているのは、一体どうしてですか。東海村のような取り返しのつかない重大事故を福井県で繰り返さない限り、首長が現実の危険を直視することはないのですか。県民の声を無視した県政の行き着く先は破滅です。
 原子力事業者は元より、国や原子力安全委員会の安全審査が全く信頼できないズサンなものであることは、JCO事故でつぶさに暴かれ、また、今回のプルサーマル中止でも明らかにされたところです。敦賀3・4号炉を増設しようとしている日本原子力発電も、その子会社「原電工事」でMOX燃料輸送容器の中性子遮へい材の成分データねつ造事件を起こしています。原電工事は解散しましたが、解散時の社長が辞めるどころか、吸収合併先の「原電事業」の社長に横滑りで就任しています。
 そもそも、日本原電は9電力と5原子力グループが共同出資して作った子会社であり、電力会社が巨大開発のリスクを回避するために作った子会社にほかなりません。これは住友金属鉱山とJCOの親子関係と全く同じであり、このようなリスク回避の無責任な開発体制は原子力安全委員会JCO事故調査委員会で厳しく批判されたではありませんか。また、日本原電は時代遅れの原発専業の発電会社であり、保有原発3基が事故等で立ち行かなくなると買電収入が途絶えるという崖っぷちの経営を余儀なくされています。現に、昨年8月から半年間も買電収入ゼロの状態でした。このような事態を防ぐために日本原電が取りうる手段は、原発増設による一斉停止の回避か、原発をできるだけ止めない強硬運転しかありません。その行き着く先は原発重大事故ではないかと私たちは危惧しています。リスク回避のための子会社である原発専業の日本原電が原発を推進する時代はもう終えるべきです。
 日本原電の現在の鷲見社長は関西電力副社長からの天下りです。その関西電力は、珠洲市での原発用地買収の汚い手口を暴かれ、新規立地は全く進んでいません。高浜3・4号炉のプルサーマル計画では、県や市の事前了解前にMOX燃料をBNFLへ強硬発注し、MOX燃料輸送容器の製造欠陥が明らかになるや設計仕様のほうを欠陥品に合わせて変更し欠陥容器をそのまま使い、BNFLによるMOX燃料の品質管理データねつ造が明らかにされても、そのずさんな管理態勢を見抜けませんでした。英原子力施設検査局の調査では、BNFLのデータねつ造は4年前から始まり、「安全文化」ならぬ「手抜き文化」が支配していたのです。このようなBNFLの「手抜き文化」を見抜けなかった関西電力の品質管理もデタラメです。その一端が、美浜3号機建設時の生コンクリートへの大量加水で暴露されています。コンクリートを薄めて使うという手抜き工事を見逃していたのです。「徹底した品質管理をやるから大丈夫だ」というのは真っ赤なウソでした。最近よく地震が起きていますが、こんなコンクリート建屋で本当に大丈夫なのでしょうか。
 敦賀3・4号炉は世界初のAPWRであり、世界最大規模です。原子力部門の斜陽に苦しみ、技術者を養うことにも事欠いている三菱重工業とWH社が共同開発しながら世界のどこにも建てられなかった153.8万kWのツイン型超大型原発を敦賀に建てようというのです。私たちの美しい福井県が「原発実験場」にされるのはもうゴメンです。日本初のBWR(敦賀1号)、日本初のPWR(美浜1号)、日本初の新型転換原型炉(ふげん)、日本初の高速増殖原型炉(もんじゅ)、日本初のプルサーマル計画(高浜3・4号)、日本初の原発40年運転計画(敦賀1号、美浜1号)、敦賀3・4号炉はそれに続く世界初の超大型原発建設計画なのです。
 敦賀3・4号炉増設によって利益を得るのはごく一部の人達であり、それも麻薬のように一時的な効き目に過ぎません。その「効き目」もゼネコンのリストラとコストダウンの下で地元の期待倒れに終わるでしょう。その代償として大多数の県民が受け取るのは、何十年も続く原発重大事故の恐怖、何百年、何千年と続く放射性廃棄物による汚染の恐怖なのです。原発開発30年の若狭の歴史を今こそ総括し、小型老朽原発の超大型原発による更新によって原発15基体制をさらに拡大・強化するのではなく、原発新増設をやめ、脱原発行政へ転換すべきではないでしょうか。
 原発重大事故が起きてからでは取り返しがつきません。また、行き場のない危険な「負の遺産」を子供たちにこれ以上残したくはありません。もし、私たちの福井県が、「JCO事故で死者が出たにも関わらず原発を誘致し続けた最初の県」になるとすれば、国策としての原発推進に協力させられてきた「核の被害者」として同情されるのではなく、「核の加害者」として歴史的に指弾されることは避けられないでしょう。
 JCO事故で犠牲になった大内さんの死を無駄にしないため、以下の施策を強く要請いたします。
 
1.巻、芦浜に続き、日本原電に敦賀3・4号炉増設計画の白紙撤回を要請して下さい。
 
2.30年を越える敦賀1号と美浜1号の寿命延長を認めないで下さい。
 
3.「知事との公開討論会」を開き、私たち県民の声を直接聞いて下さい。
 
4.重大事故が起こる前に原発依存の県政を抜本的に転換して下さい。