2000年11月16日
福井県知事
栗田 幸雄 様
 
「もんじゅ」の運転再開と敦賀3・4号増設計画に
 
事前了解しないで下さい
 
 
           若狭連帯行動ネットワーク
 
 高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転再開に向けた動きが急速に強まっています。科学技術庁は年内に運転再開への道筋をつけようと躍起になっています。貴職の要請にできるだけ合わせようと、原子力開発利用長期計画(以下「長計」)案を修正し、長計の繰り上げ策定を狙っています。しかし、11月8日付の「長期計画意見反映版」でも、もんじゅの位置づけは依然として曖昧です。貴職の求める「高速増殖炉懇談会報告書を踏まえ」ること、すなわち、高速増殖炉の実証炉計画と実用化時期を明記し、その中に「もんじゅ」を位置付けることは慎重に避けられています。「高速増殖炉懇談会等においても、その意義、役割等について検討がなされてきたところである」との事実認識が記載されたにとどまり、「それを踏まえる」との記述は「復活」されませんでした。実用化への開発計画についても、「着実に検討を進めていく」というだけで、開発を「着実に進めていく」とは書けませんでした。誰よりもまず、実証炉建設に金と人を出す電力会社が拒否しているからです。国民の大多数が危険な浪費につながる高速増殖炉開発の継続を望んでいないし、国にもその資金的余裕がないからです。高速増殖炉に見通しがないことは、今回の長計「反映版」でも認めざるを得ない状況なのです。
 にもかかわらず、なぜ今「もんじゅ」の運転再開が急がれるのでしょうか。それは、今を逃すと「もんじゅ」を運転再開できなくなるからです。来年の省庁再編で「科学技術庁」の相対的地位が低下し、核燃料サイクル開発機構は「動力炉開発の強力な後見人」を失います。このままでは、電力会社が実証炉建設を拒否したために存在意義を失った新型転換炉「ふげん」と同じ憂き目に「もんじゅ」もさらされかねません。だから、科学技術庁も核燃料サイクル開発機構も焦っているのです。
「もんじゅ」の単なる延長上では経済性がなく、実証炉計画はわざわざトップエントリー型ナトリウム冷却炉へ変えられましたが、それでもなお経済的見通しがなく白紙に戻されています。ナトリウム冷却炉が「最も進んでいる」のではなく、「それ以外に進んでいるものがない」のが実態であり、ナトリウム冷却炉自身にも経済的見通しは全くありません。国民はそれをよく知っています。原発で生み出される使用済核燃料を再処理工場や中間貯蔵施設へ搬出するためには、政府も電力会社も、それが幻想にすぎないとわかっていても、「高速増殖炉への幻想」を描き続ける以外にないのです。そのためにだけ、「危険極まりない巨額の税金浪費」でもある「もんじゅ」の運転再開が目論まれているのです。誰一人として「高速増殖炉が商業的に実現できる」とは思ってもいません。現行長計にある「2000年代初頭に着工する」予定の高速増殖実証炉1号の建設を拒否した電力会社は、自らが金と人を出さない限りにおいて、「もんじゅ」の運転再開を支持しているにすぎないのです。こんなでたらめなことがまかり通っていいのでしょうか。
 また、敦賀3・4号炉の建設計画についても、貴職の「誘い水」にのって、日本原子力発電が2月に事前了解願いを出しています。貴職はこれを受理した上で、原発15基体制の再評価報告書を県議会へ提出し、「増設論議」を求めています。
 この世紀末の12月県議会で、これらが焦点化することは避けられません。
 新聞報道では、北陸新幹線の早期全線建設、福井空港滑走路拡張工事の事業採択、リゾート新線や小浜線電化の早期整備、近畿自動車道敦賀線の早期完成などと引き替えに、これらに事前了解を与えようとしているかのような動きが伝えられています。また、与党3党が「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法案」を議員立法として今国会に緊急上程し、通過させようとしているとも伝えられます。貴職のまとめた15基体制の再評価報告書でも明らかなように、原発誘致によっては地域振興を図れず、逆に、電源地域では原発依存だけが強まり、地場産業が育成されず、電源地域の観光産業がますますさびれているのが現実です。これ以上、福井県を駄目にする政策をとらないで下さい。国民に原子力事故の危険や負の遺産を押しつける無責任な国策に加担しないでください。
 目先の利益誘導の声に惑わされず、21万県民の敦賀3・4号増設反対署名や22万県民の「もんじゅ」運転再開反対署名を直視し、大多数の県民や国民の叫びに耳を傾けて下さい。本当の意味で「生産地の痛み」を消費地に「理解」してもらうには、貴職が「脱原発への道」を選択し、「脱原発の痛み」を消費地へ投げかけることです。原子力事故の恐怖と負の遺産がこれほどまでに明白になった今なお、「毒を食らわば皿まで」とこれまで通りに原発を誘致し、「もんじゅ」の運転再開を認めるというのであれば、消費地からは完全にそっぽを向かれるでしょう。原発交付金や原発特措法などで整備された高速道路や新幹線は電源地域を「高速通過地点」と化し、観光客はますます遠のき、地場産業は衰えていくでしょう。
 そうしないためには、これまでの成り行きに身を任せず、「もんじゅ」の運転再開に事前了解しないで下さい。敦賀3・4号増設計画への事前了解願いを日本原電に突き返して下さい。21世紀に向けて、子や孫の世代にも悔いの残らない英断を貴職に強く求めます。