2000年2月21日
敦賀市長 河瀬 一治 様
 
敦賀3・4号炉増設を認めないで下さい
東海村の降ろした看板を敦賀で掲げないで下さい
 
若狭連帯行動ネットワーク
 
 JCO臨界事故の後、東海村では村民の8割近くが「原子力施設は危険」または「少し危険」とし、4割が「原子力利用を徐々に廃止」または「早急に廃止」すべきだとしています。事故前には、逆に「原子力施設は安全」「まあまあ安全」が過半数であったのとは様変わりです。東海村の幹線道路に立つ看板から「原子力の街」が降ろされたのもうなずけます。原子力のメッカとして「原子力との共存・共栄」を唱えてきた東海村の基本政策に重大な変更が迫られているのです。東海村民と同じ状況に置かれてきた敦賀市民として、私たちもこれを自分たちのこととして、非常に重く受け止めています。このような状況下、通産省資源エネルギー庁の河野長官は、2月14日の「一日資源エネルギー庁in愛知」で約千人の聴衆を前に「事故からそれほどたっていない。(原子力発電所の新規立地を進めるのは)時期尚早だ」と強調しました。JCO事故は、原爆爆心地付近の被曝線量にも相当する強烈な放射線で大内さんを死に追いやり、500名またはそれ以上の労働者や周辺住民を被曝させ、ガン・白血病や免疫疾患などさまざまな健康破壊の危険にさらし、人々の心にも深い傷跡を残しています。「東海村の次は若狭だ!」「原発で重大事故が起こればもっと恐ろしいことになる!」と、私たちは皆ゾッとしています。
 ところが、福井県庁では2月15日、貴職が「日本原電による敦賀3・4炉増設の事前了解願いを受理する」意向を知事に伝え、知事も「増設願いを受け入れる」考えを表明しています。貴職は、資源エネルギー庁長官の「時期尚早」論を打ち消し、原発新増設の露払いをし、私たちの街を「JCO事故後始めて原発増設を受け入れた街」にするおつもりですか。東海村の降ろした「原子力の街」の看板を私たちの市が拾い、掛け直すおつもりですか。そのようなことは断じて許せません。
 JCO事故後のマスコミ調査では、福井県民の3/4が増設に反対しています。「賛成・反対はそれぞれ10%にすぎず、80%は中立」という貴職の判断は一体どこから来るのでしょう。5年前の21万人署名の頃からさらに一層、反対の声が高まっているのです。にもかかわらず、県民の意識とはかけ離れた意思決定が、県や市の行政レベルで勝手になされようとしているのは、一体どうしてですか。東海村のような取り返しのつかない重大事故を福井県で繰り返さない限り、首長が現実の危険を直視することはないのですか。市民なき市政の行き着く先は破滅です。
 原子力事業者は元より、国や原子力安全委員会の安全審査が全く信頼できないズサンなものであることは、JCO事故でつぶさに暴かれ、また、今回のプルサーマル中止でも明らかにされたところではありませんか。敦賀3・4号炉を増設しようとしている日本原子力発電も、その子会社「原電工事」でMOX燃料輸送容器の中性子遮へい材の成分データねつ造事件を起こしています。原電工事は解散しましたが、解散時の社長が辞めるどころか、吸収合併先の「原電事業」の社長に横滑りで就任しています。
 そもそも、日本原電は9電力と5原子力グループが共同出資して作った子会社であり、電力会社が巨大開発のリスクを回避するために作った子会社にほかなりません。これは住友金属鉱山とJCOの親子関係と全く同じであり、このようなリスク回避の無責任な開発体制は原子力安全委員会JCO事故調査委員会で厳しく批判されたではありませんか。また、日本原電は時代遅れの原発専業の発電会社であり、保有原発3基が事故等で立ち行かなくなると買電収入が途絶えるという崖っぷちの経営を余儀なくされています。現に、昨年8月から半年間も買電収入ゼロの状態でした。このような事態を防ぐために日本原電が取りうる手段は、原発増設による一斉停止の回避か、原発をできるだけ止めない強硬運転しかありません。その行き着く先は原発重大事故ではないかと私たちは危惧しています。リスク回避のための子会社である原発専業の日本原電が原発を推進する時代はもう終えるべきです。
 日本原電の現在の鷲見社長は関西電力副社長からの天下りです。その関西電力は、珠洲市での原発用地買収の汚い手口を暴かれ、新規立地は全く進んでいません。高浜3・4号炉のプルサーマル計画では、県や市の事前了解前にMOX燃料をBNFLへ強硬発注し、MOX燃料輸送容器の製造欠陥が明らかになるや設計仕様のほうを欠陥品に合わせて変更し欠陥容器をそのまま使い、BNFLによるMOX燃料の品質管理データねつ造が明らかにされても、そのずさんな管理態勢を見抜けませんでした。英原子力施設検査局の調査では、BNFLのデータねつ造は4年前から始まり、「安全文化」ならぬ「手抜き文化」が支配していたのです。このようなBNFLの「手抜き文化」を見抜けなかった関西電力の品質管理もデタラメです。その一端が、美浜3号機建設時の生コンクリートへの大量加水で暴露されています。コンクリートを薄めて使うという手抜き工事を見逃していたのです。「徹底した品質管理をやるから大丈夫だ」というのは真っ赤なウソでした。最近よく地震が起きていますが、こんなコンクリート建屋で本当に大丈夫なのでしょうか。
 敦賀3・4号炉は世界初のAPWRであり、世界最大規模です。原子力部門の斜陽に苦しみ、技術者を養うことにも事欠いている三菱重工業とWH社が共同開発しながら世界のどこにも建てられなかった153.8万kWのツイン型超大型原発APWRを敦賀に建てようというのです。私たちの街が「原発実験場」にされるのはもうゴメンです。日本初のBWR(敦賀1号)、日本初のPWR(美浜1号)、日本初の新型転換原型炉(ふげん)、日本初の高速増殖原型炉(もんじゅ)、日本初のプルサーマル計画(高浜3・4号)、日本初の原発40年運転計画(敦賀1号、美浜1号)、敦賀3・4号炉はそれに続く世界初の超大型原発建設計画なのです。
 敦賀3・4号炉の運転開始時期は2010年頃とされていますが、その頃には燃料電池が5千億円市場にまで急拡大すると通産省も予測しており、風力や太陽光発電も予想以上に拡大しつつあります。また、今年3月から始まる電力自由化は、経済性の失われた原発にさらなる効率化とコストダウンを迫り、一層危険な崖っぷちへ追い込んでいくことでしょう。今こそ、原発推進に終止符を打つべきです。
 敦賀3・4号炉増設によって利益を得るのはごく一部の人達であり、それも麻薬のように一時的な効き目に過ぎません。その「効き目」もゼネコンのリストラとコストダウンの下で地元の期待倒れに終わるでしょう。その代償として大多数の市民が受け取るのは、何十年も続く原発重大事故の恐怖、何百年、何千年と続く放射性廃棄物による汚染の恐怖なのです。原発開発30年の若狭の歴史を今こそ総括し、小型老朽原発の超大型原発による更新によって原発15基体制をさらに拡大・強化するのではなく、原発新増設をやめ、脱原発行政へ転換すべきではないでしょうか。貴職は「原発があってよかったと言える敦賀市にしたい」と語られますが、30年たった今なお「よかった」と言えないで、一体何年たてば言えるというのですか。原発重大事故が起きてからでは取り返しがつきません。また、行き場のない危険な「負の遺産」を子供たちにこれ以上残したくはありません。
 JCO事故で犠牲になった大内さんの死を無駄にしないため、以下の施策を強く要請いたします。
 
1.敦賀3・4号炉の増設を絶対に認めないで下さい。
 
2.30年を越える敦賀1号の寿命延長を認めないで下さい。
 
3.「市長との公開討論会」を開き、私たち市民の声を直接聞いて下さい。
 
4.重大事故が起こる前に原発依存の市政を抜本的に転換して下さい。