「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所特定原子力施設に係る実施計画の変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出時の運用等)に係る審査書案」に対する意見募集が行われています。(URLはこちら)
受付開始日時 2023年2月23日0時0分
受付締切日時 2023年3月25日0時0分
岸田首相は3月11日、福島市で開かれた東日本大震災追悼復興祈念式に出席した後、報道陣の取材に応じ、ALPS処理水の海洋放出は「決して先送りができない課題だ」と根拠もなく断言し、「今年春から夏ごろ」の実施を目論んでいます。「漁業者をはじめ、地元の方々の懸念に耳を傾け、政府を挙げて丁寧な説明と意見交換を重ねていく」と述べてはいますが、「理解」が得られなくても強行する姿勢です。何としてもこれを阻止すべく、力を合わせましょう。
上記の審査書案のパブコメに意見を出しましょう。以下に若狭ネット資料室長の提出意見二つを公開しますので、参考にしてください。(pdfはこちら)
「実施計画変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出時の運用等)に係る審査書案」への意見募集に対する意見(その1)
該当箇所:3ページ(5~12行目)(第1章 原子炉等規制法に基づく審査の前文)
意見:「設計、設備について措置を講ずべき事項の適切かつ確実な実施を確保」することが求められていますが、地下水ドレン汲上げ水に関する実施計画には欠陥があって「確実な実施を確保」できない状態であり、かつ、実施計画通りには実施されていません。その結果、地下水ドレン汲上げ水約6.5万トンがALPS処理されて約65万トンのタンク貯留水に混在しています。その海洋放出は実施計画違反であり、審査書は撤回し、審査をやり直すべきです。
理由:措置を講ずべき事項Ⅲでは、「『Ⅱ.設計、設備について措置を講ずべき事項』の適切かつ確実な実施を確保」することが求められていますが、「確実な実施」は「確保」されていません。措置を講ずべき事項は「福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画」に反映されており、2015年1月21日に認可(2014年12月25日変更申請(サブドレン他水処理施設の本格運転)の認可)された実施計画には、「Ⅱ-2.35.1.5.4 地下水ドレン集水設備」の項で「地下水ドレン集水設備は,地下水ドレンポンド揚水ポンプ,地下水ドレン中継タンク,地下水ドレン中継タンク移送ポンプ,及び移送配管で構成する。地下水ドレン集水設備により汲み上げた地下水は集水タンクへ移送する。」とされ、そのフローチャート「サブドレン他水処理施設の排水管理に関する運用について」(Ⅲ-3-2-1-2-添1-1)には、「H-3が1,500Bq/Lを下回らない」場合は「タンク等へ移送及び原因調査」となっています。ところが、この実施計画の「確実な実施」は確保されていません。
第1に、汲上げ水のうち約6.5万トンは、地下水ドレン中継タンクから集水タンクへは移送されず、ウェルタンクを介して2号機タービン建屋へ移送されています。
第2に、「H-3が1,500Bq/Lを下回らない」場合の移送先となる「タンク等」や移送配管等の仕様および移送ラインは実施計画のどこにも記載されておらず、そもそも存在せず、「確実な実施」は不可能です。
第3に、汲上げ水を中継タンクから集水タンクまたは2号機タービン建屋のどちらへ移送するかは、「それを集水タンクへ移送した場合にH-3が1,500Bq/Lを超える可能性がない」場合には集水タンクへ、「可能性がある」場合には2号機タービン建屋へと仕分けて移送していましたが、このような管理は実施計画には一切記載されていません。
その結果、第4に、集水タンクで、H-3が1,500Bq/L以上になって「タンク等へ移送及び原因調査」となった汲上げ水は発生しませんでしたが、「仮に集水タンクへ移送していたらH-3が1,500Bq/Lを超えていたであろう汲上げ水6.5万トン」が2号機タービン建屋へ移送され、大量の建屋滞留水と混在してALPS処理され、少なくとも65万トンの処理水となってタンクに貯留されています。つまり、現時点で132万トンのALPS処理水の大半に「H-3が1,500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレン」の汲上げ水が混在しています。
脱原発福島県民会議等10団体との2月9日の意見交換の場で、原子力規制庁担当者は、次のように回答しています。
(1)トリチウム濃度が1500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水は、実施計画のフローチャートでは「タンク等に移送して原因精査」となっていて、そこで作業の手続きは止まらねばならない。
(2)仮に(1)のサブドレン及び地下水ドレンの水が、建屋滞留水等と混在してALPS で処理され、ALPS処理水として混在したままタンクに貯蔵されているとすれば、サブドレン及び地下水ドレンの水が混在しているALPS処理水は海洋放出できない。原子力規制庁としては「混在」していないと考えている。
(3)(1)に該当するサブドレン及び地下水ドレンの水は6.5 万トン程度になると指摘されているが、それが「タンク等に移送して原因精査」された後、実際に、どこにどのような状態で存在しているか、ちゃんと調べて福島みずほ事務所に回答する。
2月17日付けで原子力規制庁原子力規制部東京電力福島第一原子力発電所事故対策室から福島みずほ参議院議員事務所へ届いた文書回答は「原子力規制庁としては、御指摘の『トリチウム濃度が1500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水』はこれまで発生していないことを東京電力ホールディングス株式会社に確認しています。また、『トリチウム濃度が1500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水』が発生した際には、実施計画のとおり、タンク等へ移送し敷地内で貯留されるものと認識しています。」というものでした。
これは、上記の第1から第4に記載した通りの経緯を経た結果、集水タンクでは「H-3が1500Bq/Lを超えなかった」ものの、それを回避するためにトリチウム濃度の高い約6.5万トンの汲上げ水が2号機タービン建屋へ移送され、ALPS処理水と混在するに至ったものであり、海洋放出することはできないはずです。ましてや、このような事態は、実施計画そのものが「確実な実施を確保」できない欠陥を含んだものであり、実際にも「確実な実施」がなされなかったことによる直接的な結果です。
これは原子力規制委員会・原子力規制庁による実施計画認可・検査における重大な瑕疵の可能性を示唆するものであり、審査書そのものを撤回し、根本的に審査をやり直すべきです。
ちなみに、2016年12月8日に認可(2016年11月2日変更申請(地下水ドレン前処理設備の設置及びサブドレン集水設備移送配管の仕様変更)の認可)された実施計画の「Ⅱ-2.35.1.5.4 地下水ドレン集水設備」の項には、「地下水ドレン集水設備」に「地下水ドレン前処理装置」が追加され、「地下水ドレン集水設備により汲み上げた地下水は集水タンクまたはタービン建屋へ移送する。」とされていますが、ここでタービン建屋へ移送されるのは前処理装置出口濃縮水(塩水)であり、移送先も2号機タービン建屋ではなく3号機タービン建屋であり、今までの移送量も約0.2万トンにすぎません。
「実施計画変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出時の運用等)に係る審査書案」への意見募集に対する意見(その2)
該当箇所:1ページ12~22行目(2.変更認可申請の内容)および7ページ3~5行目
意見:法令では「敷地境界での実効線量が、放出放射能の濃度限度比総和を含めて、1mSv/年であること」が求められていますが、敷地境界線量は今も3~9mSv/年と高く、違法状態が続いています。現状では、ALPS処理水の「故意の海洋処分」による新たな放射能放出は法令違反であり、できないはずです。にもかかわらず、敷地境界の実効線量から「事故由来の放射性物質からの寄与」を除外することで、それを認可しようとしていますが、それを正当化できる法的根拠はありません。「そうしなければ、放射能災害のリスクが高まるため、やむを得ない」という緊急避難的理由もありません。また、ALPS処理水放出に伴う被爆線量「評価の目安」として用いられている「50μSv/年」は線量拘束値ですが、これは計画被ばく状況で用いられる概念であり、現存被ばく状況において適用するのは場違いであり、これをトリチウムの年放出管理値22兆Bqを緩和する根拠とすることもできません。審査書は撤回し、審査をやり直すべきです。
理由:「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関して必要な事項を定める告示」(以下「告示」)の「(周辺監視区域外等の濃度限度)第八条」第六項には、次のように記されています。
「外部放射線に被ばくするおそれがあり、かつ、空気中又は水中の放射性物質を吸入摂取又は経口摂取するおそれがある場合にあっては、外部被ばくによる一年間の実効線量の一ミリシーベルトに対する割合と空気中又は水中の放射性物質の濃度のその放射性物質についての空気中又は水中の放射性物質の前各号の濃度に対する割合との和が一となるようなそれらの放射性物質の濃度」。
これは、核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示(以下「線量告示」)の「(周辺監視区域外の濃度限度等)第八条」第六項の条文と一言一句同じです。つまり、いずれの告示においても、「外部被ばくによる一年間の実効線量」は「周辺監視区域」との境界における外部被爆線量で線量限度「一ミリシーベルト」を超えないことが求められています。
この外部被爆線量から「事故由来の放射性物質からの寄与」、いわゆる「現存被ばく状況に伴う線量」を除外できるという規定は、炉規法および関連する政令、規則、告示のどこにもありません。にもかかわらず、措置を講ずべき事項では、「II.設計、設備について措置を講ずべき事項」の「11. 放射性物質の放出抑制等による敷地周辺の放射線防護等」において、放出放射能抑制と敷地周辺線量低減を求め、「特に施設内に保管されている事故後に発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量(発電所全体からの放射性物質の追加的放出を含む実効線量の評価値)を、平成25年3月までに1mSv/年未満とすること。」と指示しています。これを原子力規制委員会は「追加1mSv/年」と称していますが、これは「告示」や「線量告示」の「1mSv/年」に置き換えられるものではありません。
また、この「追加1mSv/年」の措置要求は、達成期限が変更されたり、「追加2mSv/年」へ変更されたり、追加線量からタンク貯留水寄与分が除外されるなど、場当たり的に変更されていて、とても法令と言えるような代物ではありません。具体的には以下に示す通りです。
当初の措置要求は、汚染水の地下貯水槽への移送で実現されたものの、1週間も経たないうちに、地下貯水槽から汚染水の漏洩が発覚し、汚染水をタンクへ移送したところ、2013年4月には追加線量でも7.8mSv/年へ急騰しています。これを受けて、当初の「2013年3月までに追加1mSv/年」が「2015年3月末までに追加2mSv/年、2016年3月末までに追加1mSv/年」へ変更されています。同時に、「2015年3月末までに、タンクに貯蔵された汚染水以外に起因する敷地境界における実効線量(評価値)を1mSv/年未満にすること」が加えられ、「事故後に発生した瓦礫や汚染水等」から最大寄与分の「タンク貯留水」が除外されるなど、「追加線量」の定義さえも変更されています。このように状況次第でコロコロ変わる「追加1mSv/年」が、「告示」や「線量告示」等の法令における「1mSv/年」に置き換わるものだとは到底言えません。
さらに、この「告示」や「線量告示」等の法令において「実効線量の算定から除外できるものは診療及び自然放射線による被ばくのみとなっている」ことは、第37回原子力規制委員会(2020.11.11)での原子力規制庁報告「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(数量告示)第24条の改正方針についての検討結果」で具体的に記されています。すなわち、福島第一原発は線量告示等の「1mSv/年」を満たせない違法状態にあるため、線量低減のために「追加1mSv/年」が措置要求されたのです。これは、あくまで「線量低減のために導入された、暫定的で、期限のある」措置要求にすぎず、「追加1mSv/年」さえ満たしていれば、法令違反にはならず、故意に放射能を放出しても良いというものではありません。ALPS処理水のように、海洋放出しなければならない緊急避難的な理由がなく、海洋放出以外にも代替手段がある場合に、また、関係者等がその放出に「絶対反対」している中で、それを無視して、故意に海洋放出を強行することは、違法行為を積み重ねるものと言えます。
海洋放出に係る放射線影響評価では、「代表的個人に対する被ばく線量は・・・となり、評価の目安である50μSv/年と比較すると極めて小さい」としていますが、この「50μSv/年」は「線量拘束値」であり、第65回原子力規制委員会(2022.2.16)で了承された「放射線影響評価の確認における考え方および評価の目安」に基づいています。実施計画変更申請の審査では、これが、年間トリチウム放出量を年放出管理値22兆Bqから緩和する際の目安として使われていますが、線量拘束値は、計画被ばくにおける事業所毎に割り振る最適化の目標となる制限値であって、現存被ばく状況にある福島第一原発には適用できないはずです。また、国内法令に導入されてもいません。国内法令に導入されていないICRP勧告やIAEAの基準を都合良くつまみ食いして、あたかも国内法令に則ったかのような審査や認可は行うべきではありません。
以上より、審査書の撤回と審査のやり直しを強く求めます。