「敦賀2号直下の活断層が確認されれば廃炉を受け入れる」
敦賀2号直下の活断層問題について、7月25日の福井県知事への申入れに続き、8月9日、敦賀市長への申入れを行いました。申入れ団体は、原子力発電に反対する福井県民会議、若狭連帯行動ネットワーク、サヨナラ原発福井ネットワークの3者で、8名が参加し、敦賀市側は、中島正人企画政策部長など5名が出席しました。
これに先立ち、日本原子力発電は8月1日に敦賀原発破砕帯外部レビュー評価結果報告会を主催して原子力規制委員会へ圧力を加え、これに呼応するかのように、河瀬一治敦賀市長は前日の7月31日、原子力規制委員長に慎重な審議・判断を求める意見書を提出しています。また、8月7日には河瀬市長が会長を務める全国原発所在地市町村協議会(全原協)として菅原一秀経産副大臣、菅義偉官房長官、下村博文文科相、井上信治環境副大臣らに、「原発の長期停止による地域経済への影響を把握し、適切な施策を講じること」「原発の意義や立地地域が果たしてきた役割を国民に説明し理解を得ること」「再稼働問題では新規制基準に基づき原発の安全性について迅速、確実に審査すること」などを要請しています。このような巻き返し策動に抗して、私たちは今回の敦賀市長への申入れを行ったのです。
申入れの場では、中島部長がもっぱら回答し、「本市は原子力規制委員会の判断に異論を唱えているということではなく、判断に至るまでの根拠の説明とか審議プロセスの改善を求めている。」「浦底断層については、国の指導に基づいて日本原電が詳細な調査を積み重ねた結果だと理解しており、今回の破砕帯調査についても幅広い見地から慎重に審議をして頂く必要がある。」との説明でした。
直下に活断層が確認されれば廃炉を受け入れる
私たちは、「敦賀2号の直下に活断層があるということになったら敦賀市としてどうするのか」と迫りました。中島部長は、「そうなったら、敦賀市民の安全・安心、財産の保護という観点から、国策としてやってきたので、国の責任でやって頂きたい。」と言葉を選びながら、自ら「廃炉」に言及することを避けようとしました。そこで、「敦賀2号原子炉建屋直下に活断層があるということになれば、敦賀市としても廃炉を受け入れざるをえないということでよいか?」と聞くと、「そうだ。我々を含めて敦賀市民に丁寧に説明され、確認されれば、受け入れざるを得ない。」との回答でした。これは当たり前と言えば当たり前の話ですが、7月25日の福井県知事申入れ時の福井県の回答は、これとは違っていました — 「直下に活断層があっても、それだけでダメというのではなく、工学的判断を行うべきだ」と。福井県はあくまでも敦賀2号の再稼働に固執していましたが、敦賀市は「直下に活断層があるということになれば廃炉を受け入れる」という当然の立場を表明したのです。私たちは、「フクシマ事故が起きた、現に起きている、まだ続いている。それを教訓に市民を守る立場で考えて頂きたい。」と念押しをしました。
また、「きちんとした説明を求めるのであれば、阪神・淡路大震災の後、敦賀市主催で説明会をやったことがあったので、この問題でも敦賀市主催で説明会をやってはどうか」と求めると、中島部長は「対応の仕方はいろいろあるので、検討はしていきたい。」との回答でした。
原発重大事故が前提の新規制基準は認識不足
二つ目の申入れ項目では、新規制基準と原発の安全性の関係、さらに、再稼働と使用済核燃料の関係を問題にしました。
私たちは、「新規制基準は、フクシマ事故のような炉心溶融事故は起こりうるという前提で、シビアアクシデント対策や原子力防災を新たに追加しており、重大事故を超さないための安全設計指針等は、活断層評価を除いて何も変わっていない。再稼働に向けた申請も原子炉設置変更許可申請であり、変更するのはシビアアクシデント対策の設備なので、その審査が中心で、それ以外の審査は、活断層評価以外、ほとんど何も変わらない。これで安全になったというものでは全くない。敦賀市ではそういうことを認識しているのか」と問いました。中島部長は、敦賀市のスタッフの態勢がそこまで整っていないことを正直に認めながら、「原子力規制委員会のほうでそういったことを含めて安全性の確認が行われるものだと理解している。個別案件についてしっかり対応して頂きたい。皆さん非常にお詳しいので、そういう知識を入れながら、必要に応じて規制委員会に要望等していきたいと思う。」と一般的に答えるので精一杯でした。
そこで、「使用済核燃料は再稼働とリンクしており、使用済核燃料をどうするのかが国民的議論で明らかにならない限り、再稼働を認めるべきではない」ということに論点を移すと、中島部長は「この問題については、全原協としても議論し、国に要請している。」と回答しました。私たちは、「原発を運転しながら、使用済核燃料をどうするのかという議論は、国民的議論として成り立たない。」と迫りましたが、「全原協として国に要請している。」と繰り返すだけでした。
「原発はいらないという人は敦賀市の中にも多くいる。赤ちゃんを抱えていて心配でかなわんと言っている人もいる。赤ちゃんのことを考えたら、心配でおられんのやと。市長さんに伝えておいて下さい。」と声を絞り出すような訴えを最後に、今回の申入れを閉じました。
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2013年8月9日
敦賀市長 河瀬一治 様
敦賀2号原子炉直下の破砕帯評価等に関する申入れ
原子力発電に反対する福井県民会議
若狭連帯行動ネットワーク
サヨナラ原発福井ネットワーク
原子力規制委員会は5月22日、「敦賀2号炉原子炉建屋直下を通るD-1破砕帯は、後期更新世以降の活動が否定できないものであり、耐震指針における『耐震設計上考慮する活断層』であると考える。」との有識者会合報告書を了承しました。その根拠は、D-1トレンチ内で新たに発見された「K断層は後期更新世以降の活動が否定できず、耐震指針における『耐震設計上考慮する活断層』であり、D-1破砕帯と一連の構造である可能性が高い」というものです。この判断は、日本原子力発電からのデータを含め、これまでに得られた客観的なデータに基づくものであり、多くの学会から推薦された有識者による判断を了承したものであり、妥当だと私たちは考えます。原子力規制委員会は、この判断を覆すような客観的なデータを日本原子力発電が提示してきたときには再検討する余地を残しており、この点でも議論の進め方は妥当だと考えます。
貴職は、有識者会合が報告書をまとめる2日前の5月13日および原子力規制委員会が報告書を了承して約2週間後の6月4日、原子力規制委員長へ意見書を提出し、「慎重審議」や「幅広い専門家の参加」を求めておられます。敦賀市民の命と生活に関わる問題について市長として慎重審議を求めるのは当然のことではありますが、敦賀2号の運転再開を進めるために原子力規制委員会の判断に異を唱え「慎重審議」を求めているとすれば、市長としての責務を放棄していると言わざるをえません。6月4日の意見書では「原子力発電所の存廃に関わる重大な決定にも拘らず、十分なデータを踏まえた慎重な審議が尽くされたとは思えません。また、何ら科学的データを示さず、『否定できない』という論理によってのみ判断することは、科学的・技術的見地から意思決定を行うという貴委員会の方針とも矛盾しているものと感じております。」と述べておられます。これでは、日本原子力発電の主張を鵜呑みにし、その立場を擁護するために「慎重審議」を求めているようにしか受け取れません。
しかし、私たちは知っています。
日本原子力発電は、2004年3月に敦賀3・4号増設を申請した際、浦底断層を活断層とは見なしていませんでした。耐震設計審査指針が2006年9月に改定され、耐震バックチェックを指示されたため、2008年3月の報告書でやっと浦底断層が「最新の活動時期が4000年前以降の活断層」だと認めたのです。このときなお敷地内破砕帯は「後期更新世以降の活動がない」と主張していました。これについても、2010年9月の原子力安全・保安院審議会で「浦底断層が至近距離にあるため、変位等についてさらに検討が必要」と指摘され、東日本大震災発生後の2011年11月には原子力安全・保安院から破砕帯の活動性評価を指示されていたのです。2012年4月の審議会でも「現時点では敷地内破砕帯が活断層である可能性を否定できない」と指摘されていたにもかかわらず、それを否定するデータを1年以上も提示できないできたのです。ところが、有識者会合がまとめに入るとみるや、日本原子力発電は5月になって急に「敷地内破砕帯に関する今後の追加調査計画」を打ち出し、6月末に報告書を出すので、それを待って判断してほしいと引き延ばしにかかったのです。 私たちは、今日に至る経過をすべて知っています。貴職はどのような事実をもって、日本原子力発電には非がなく、原子力規制委員会や有識者会合に非があると仰るのでしょうか。
私たちは、東日本大震災で福島第一原発重大事故が起きたことを真摯に受け止めています。
敦賀原発で重大事故が起これば、敦賀市が居住不能になるばかりか、近隣府県・市町村も放射能災害に見舞われます。琵琶湖が汚染されれば、関西一円が飲料水を失い、数百万人以上が生活の場を失います。原発の再稼働に際しては、これまでとは異なる判断基準が不可欠です。敦賀市の経済的利害を優先させるようなことがあってはならないと、私たちは考えます。福島県は福島第一原発重大事故を真摯に受け止め、「県内全原発の廃炉」を求め、新生プランを実行しつつあります。私たちは、敦賀市も原発立地自治体として、福島県の経験に学び、それに寄り添いながら、共に手を携えて、これからの「原子力政策のあり方」について考えるべきだと考えます。
敦賀2号にとどまらず、敦賀1号も運転開始から40年を超え、高速増殖炉「もんじゅ」もずさん極まりない日本原子力研究開発機構のもとで長期停止を余儀なくされています。原発をこれ以上増やすことはもはや許されませんし、原子力との共生を追求してきた敦賀市の未来は先が見え始めています。手遅れになる前に、「原発なき敦賀市のあり方」を市民を挙げて周辺自治体や福井県と共に検討していくことが求められているのではないでしょうか。それには、関西都市部との連携も不可欠だと私たちは考えます。
使用済核燃料や再処理工場から出る高レベルガラス固化体だけでなく、運転時は元より廃炉に伴って発生する膨大な量の放射性廃棄物の貯蔵保管問題は、敦賀市や福井県だけでは解決できませんし、互いに押しつけあうことでは解決できません。日本学術会議が2012年9月の提言で述べているように、日本国内には高レベル放射性廃棄物を万年単位で安定して処分できる地層など存在しない可能性が高いのです。使用済核燃料等の貯蔵管理・処理処分問題を棚上げにしたまま、それを生み出し続ける原発の運転再開を認めるのはもうやめるべきです。
敦賀2号直下の活断層問題を契機として、東日本大震災を踏まえ、原発廃炉時代の到来を目前にして、以下のことを申し入れます。
一.敦賀2号原子炉建屋直下の破砕帯に関する原子力規制委員会の判断に異論があると仰るのであれば、日本原子力発電の主張を代弁するのではなく、その内容について科学的根拠とともに具体的に提示してください。日本原子力発電が長期にわたって浦底断層を活断層ではないと主張し続けてきたこと、敷地内破砕帯に活断層の疑いがあると早くから指摘されながら調査をサボタージュしてきたことについて、貴職は問題なしと考えているのでしょうか。貴職の見解を示して下さい。
一.原発廃炉時代の到来を目前に控え、東日本大震災を教訓として、福島県等に学び、その新生努力に寄り添い、廃炉後の敦賀市の再生プランを作成するための市民プロジェクトを福井県と共に立ち上げてください。福島第一原発重大事故のような炉心溶融事故が絶対に起こらないという保証がない限り、敦賀原発やもんじゅの運転再開を認めないで下さい。周辺自治体の声も聴き、尊重してください。事故が起これば、放射能災害は市内にとどまらず、市民プロジェクトも無に帰してしまうのですから。また、現状では行き場のない使用済核燃料の問題を国民的議論を通じて解決できない限り、運転再開を認めないで下さい。そうでなければ、使用済核燃料が原発サイト内に溢れることになりかねないのですから。
以上