2023年2月9日ALPS処理水海洋放出方針決定に関する10団体主催・対政府交渉報告
原子力規制庁は、「ALPS処理水に『サブドレン及び地下水ドレン』の水が混在していれば、ALPS処理水は海洋放出できない」と認め、6.5万トンの所在調査・回答を確約! 経産省は文書回答のみで、意見交換を拒否! 外務省は、ALPS処理水放出用海底トンネルが「人工海洋構築物」ではないとする根拠を明示できず!
私たち、脱原発福島県民会議をはじめ10団体は2月9日午前と午後に分けて、「医療・介護保険等の保険料・窓口負担の減免措置見直し」の撤回および「トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出方針」の撤回を求め、対政府交渉をもちました。ここでは、午後に行われた二つ目の交渉の結果を報告します。
年初の1月13日に開かれた「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」(議長は松野官房長官)が、「ALPS処理水の放出開始は今年春から夏ごろを見込む」と打ち出したことから、交渉は緊迫したものとなりました。2021年4月の海洋放出方針決定から2年経っても「関係者の理解」が得られるどころか、福島県漁連・全漁連など福島県内外で「断固反対」の声は揺るがず、太平洋諸国フォーラム等が放出中止を求める中、私たちは昨年4月19日の対政府交渉で暴き出した成果の上に、新たな主張と根拠を積み上げて追い詰め、放出撤回を求めました。恐れをなした経産省は出席を拒否し、ありきたりの文書回答のみに留まりましたが、原子力規制庁からはALPS処理水の放出を阻止できる重大な言質を引き出しました。今回の成果をさらに踏み固め、ALPS処理水の海洋放出を断固阻止しましょう。
1.ALPS処理水に『サブドレン及び地下水ドレン』の水が混在していれば、海洋放出できない
ALPS処理水は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」との経産大臣の文書確約と「多核種除去設備ALPSで処理した水は発電所敷地内タンクに貯蔵いたします」との東京電力社長の文書確約を受けて、福島県漁連は2015年8月末に苦渋の判断で、「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」に同意したわけですが、この運用方針の内容は、原子力規制委員会の認可を受けた東京電力の実施計画にも記載されています。私たちは、ALPS処理水の海洋放出は、文書確約に反し、運用方針にも反すると主張したところ、原子力規制庁は初めて、「ALPS処理水にサブドレン及び地下水ドレンの水が混在していたら、ALPS処理水は放出できない」と、次のように認めました。
(1) トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超える「サブドレン及び地下水ドレン」の水は、実施計画のフローチャートでは「タンク等に移送して原因精査」となっていて、そこで作業の手続きは止まらねばならない。
(2) 仮に、(1)の「サブドレン及び地下水ドレン」の水が、建屋滞留水等と混在してALPSで処理され、ALPS処理水として混在したままタンクに貯留されているとすれば、「サブドレン及び地下水ドレン」の水が混在しているALPS処理水は海洋放出できない。原子力規制庁としては、このような「混在」はないと考えている。
(3) (1)に該当する「サブドレン及び地下水ドレン」の水は6.5万トン程度になると指摘されているが、それが「タンク等に移送して原因精査」された後、実際に、どこに、どのような状態で存在しているのか、ちゃんと調べて、福島みずほ議員事務所を経由して文書で回答する。
原子力規制庁からの文書回答は2月17日付けで届きましたが(文書回答はこちら)、「原子力規制庁としては、御指摘の『トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超えるサブドレン及び地下水ドレンの水』はこれまで発生していないことを東京電力ホールディングス株式会社に確認しています。」というものでした。実は、「サブドレン及び地下水ドレン」の水には、(a)「集水タンク」へ移送され1,500Ba/L未満で浄化処理・排水されるものと、(b)それ以外の1,500Bq/L以上で「希釈しない、排水しない」の運用方針に従って「タービン建屋」へ移送されるものの2種類があります。原子力規制庁は、(a)の「集水タンクへ移送された水で1500Bq/Lを超えたものはなかった」と当然のことを述べただけで、(b)の水を無視したのです。東京電力が実施計画に記載されたとおり、(b)も含めて汲上げ水をすべて集水タンクへ移送していたら、「タンク等に移送」された水は(b)と同等以上の量になっていたことでしょう。その意味でも、(a)と(b)は一体のものであり、切り離せないのです。したがって、タービン建屋へ移送された(b)の水は、集水タンクへ移送された場合に「1,500Bq/Lを超えてタンク等に移送」される水に相当するものであり、ALPS処理水と混合・希釈・排水することは認められません。
東京電力の公表データによれば、2015年9月3日の「サブドレン及び地下水ドレン」汲上げ開始以降、「地下水ドレン中継タンクA~C」から「タービン建屋への移送量」は2020年10月までの累計で約6.5万トンになり、これらはタービン建屋滞留水と混じり合って一緒にALPS処理され、ALPS処理水タンクに混在して貯留されています。というのも、東京電力は、実施計画では「集水タンクへ移送する」となっているのに、中継タンクでのトリチウム濃度等を事前に分析し、集水タンクとタービン建屋のどちらへ移送するかを振り分け、中継タンクからウェルタンクを介して2号機タービン建屋へ移送していたのです(東京電力「サブドレン他水処理施設の状況について」,第24~57回 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議)。タービン建屋の床面が露出する2020年10月までは建屋滞留水と「混在」した汚染水がALPS処理され続けたのは確実です。ALPS処理水は2015年9月10日の52.8万トンから2020年10月8日には117.5万トンへ増えていますので、少なくとも増分の64.7万トンが「混在」したALPS処理水だと言えます。ALPS処理までのタイムラグを考慮すれば、もう少し多いかも知れませんが、2021年4月時点で125万トンのALPS処理水の大半に「サブドレン及び地下水ドレン」の水約6.5万トンが混在していることになります。実際には、ALSP処理水を混在水と非混在水に分けるのは困難でしょう。サブドレン汲上げ水については、一部で1,500Bq/Lを超えていましたが、これらの井戸からの汲み上げは中止されたため、地下水ドレンと一緒にタービン建屋へ移送されたサブドレン水はありません。いずれにせよ、「サブドレン及び地下水ドレンの水が混在したALPS処理水は海洋放出できない」との原子力規制庁担当者の断言は極めて重大であり、その確実な履行を原子力規制委員会に強く求め、ALPS処理水の海洋放出を中止に追い込みましょう。
2.規制庁はALPS処理水の年間放出量は、政府方針の22兆ベクレルを超える見直しが必要と主張
廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議(議長は菅義偉首相:当時)の「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(2021年4月13日)では、「放出するトリチウムの年間の総量は、事故前の福島第一原発の放出管理値(年間22兆ベクレル)を下回る水準になるよう放出を実施し、定期的に見直すこととする。」と明記していますが、原子力規制庁は、実施計画の審査で、線量拘束値(50μSv/年)までなら引上げられると主張し、放出管理値22兆ベクレルを上回る年間総放出量の見直しを東京電力に強要していたことが改めて明確になりました。線量拘束値上限まで引上げるとすれば3.7京ベクレル、22兆ベクレルの1,700倍にもなる、とんでもない量です。福島第一原発1~3号炉のタンク貯留量と建屋内汚染水やデブリの中に存在するトリチウム総量は、2,069兆ベクレル(2020年1月1日時点)と評価されていますので、その全量を1年間で放出してもよいことになります。実際には、海水で希釈しなければならないため、ポンプの能力を100倍に増やさねばならず、非現実的ではありますが、これでは「規制」委員会ではなく「放出」委員会です。しかも、線量拘束値は計画被ばく時に各事業所へ割り当てられる制限値であり、原発事故で放射能汚染された事業所に適用すること自体が間違っています。原子力規制委員会が行政から独立した三条委員会であることの意義は、政府や電力会社の原発施策による放射能災害や放射線被ばくから国民を守ることにあります。政府方針や電力会社の意図すら超えて、国民により多くの放射線被ばくを強要する方向へ「規制」を大幅に緩和することではありません。原子力規制委員会の根本姿勢に異議を唱え、その責任を徹底的に追及していかねばなりません。
3.規制庁は「追加1mSv/年」を満たしていれば、線量告示違反ではないと強弁
福島第一原発は、事故直後、公衆の被爆線量限度1mSv/年を担保するための「線量告示」を満たせない違法状態でした。そのため、原子力規制委員会は、線量引き下げのため、「措置を講ずべき事項」で「発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量を2013年3月末までに1mSv/年未満とすること」を東京電力に求めたのです。福島第一原発は今でも敷地境界の空間線量が2.8~9.2mSv/年と高線量で、線量告示を満たせない違法状態にあります。しかし、原子力規制庁は、前回認めたこの明確な事実認定を否定し、「原子炉等規制法関係の法令では事故由来の放射性物質を含んだ基準にはなっていない」と開き直りました。しかし、法令の線量限度から除外できるのは「自然由来と医療被ばくの線量」だけであり、事故由来の放射性物質や放射線量は除外できません。これは法曹界の常識です。そのため、原子力規制委員会は、2年前の放射能分析施設設置審査に際し、特例で事故由来の線量を除外する法令改定(科技庁時代の「数量告示」の改定)を行おうとしましたが、放射線審議会に拒否された経緯があります。原子力規制庁担当者はその経緯も法令の常識も全く知らず、「法令では事故由来の線量は除外できる」と主張したのです。その認識は誤っていると、時間をかけて詳しく説明しても、本人は全く理解できなかったため、「そんな状態でここへ来られては困ります。勉強してきて下さい。」と訓示して議論を打ち切らざるを得ませんでした。事故由来の線量は、事故2年目以降は「元々あったもの」で「自然放射線と同じ」と理解していた東京電力(今は批判されて「理解」を変更している)と同様の認識が、原子力規制委員会・原子力規制庁の中に蔓延しているという、恐るべき実態が暴かれたとも言えます。ALPS処理水海洋放出の審査でも、「措置を講ずべき事項」への適合性しか審査されておらず、線量告示を遵守できていない状態は完全に棚上げ状態です。これは、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等の法令の遵守」が大前提であると明記された政府基本方針にも反しています。こんな原子力規制委員会・原子力規制庁には、ALPS処理水の海洋放出の安全性を審査し、認可する資格などありません。
4.ALPS処理水を海洋放出しなければならない「3つの理由」は依然として根拠なしの大ウソである
ALPS処理水を海洋放出しなければならない「3つの理由」、すなわち、①タンクは満水になる、②廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、③汚染水は今後も発生し続ける、のいずれも大ウソだったことは、2021年4月19日の対政府交渉で明らかになっています。①は、満水になるタンク以外に、フランジタンク解体によるタンク増設可能エリアや空き状態の予備タンク等で計12万トンの余裕があり、これらを転用すれば数年は大丈夫。②は、2030年度頃までの敷地利用計画は5・6号機の使用済燃料を共用プールへ搬入するための乾式キャスク仮保管施設だけで、将来的に燃料デブリ一時保管施設等という、緊急性のないもの。③は、現在進めている水位低下作業を続ければ、1~3号原子炉建屋の床面露出は2年以内に可能、というものでした。ただし、経産省は、③については、建屋内滞留水の流出防止のためサブドレン水位と建屋内水位との水位差を80cm空けなければならないという制約がある、また、1号機の屋根からの降水流入(2~4号機には屋根あり)や1~4号機の地中浸透雨水の建屋流入などがあると主張していました。
そこで、今回は、③に関する私たちの主張を補強し、経産省の反論を完全に論破するつもりでしたが、経産省は文書回答のみで出席を拒んだため、かないませんでした。公開質問状に示したその内容は、極めて明快であり、「サブドレン水位は今、年平均T.P. 0.6mだが(T.P.は東京湾平均海面を基準とする標高)、1号機の建屋貫通部はT.P. 2.0m以上と高く、少雨期の地下水の建屋流入量はすでにゼロ、屋根の設置も2023年度完成が目標となっている。4号機でも、T.P. 0.6m以下の貫通部は2箇所程度で、少雨期の地下水の建屋流入量はほぼゼロ、フェーシングで雨水の地中浸透を防げば、1・4号機では2023年度末頃、かなりゼロに近づく。2・3号機でも、T.P.-2.0m以下に貫通部はなく、サブドレン水位をそこまで下げれば少雨期の地下水の建屋流入量をゼロにできる。現に、2022年度末には、原子炉建屋内滞留水の水位は、1号機でT.P.-2.2m程度、2・3号機でT.P.-2.8m程度へ下がるので、サブドレン水位をT.P.-2.0mまで下げれば、貫通部からの地下水流入量はゼロにできる。1号機の建屋内水位との水位差が20cmしかなくなるが、1号機ではすでにサブドレンの水位以下に貫通部はなく、基盤からの地下水流入も見られないことから、仮に水位が逆転しても、流出口がないため、建屋内汚染水が流出する恐れはない。フェーシングを優先的に行えば、汚染水発生量はゼロにできる。」――経産省がこの私たちの主張に反論するのは難しく、今回の文書回答でも、「廃炉作業を安全に進めるための必要な施設を建設できるよう、貯蔵タンクを減らしていく必要があります。建屋内滞留水を建屋の外に流出させないために地下水位を建屋内水位よりも高く維持し続ける必要があります。建屋内滞留水位及びサブドレン水位については、計画的に低下させていくこととしています。1-4号機建屋周辺のフェーシングについては、2028年度に8割程度まで完了できるよう、廃炉作業等と調整を図ることとしています。引き続き、汚染水発生量を減少させる取組を継続し、2028年度に汚染水の発生量を1日当たり約50-70立方メートルまで低減することを目指します。」というもので、具体的ではありませんでした。経産省にとっては、汚染水が発生し続けないとALPS処理水を海洋放出する理由の一つがなくなるため、汚染水対策をサボタージュしようとしているのかもしれません。そんなことは断じて許せません。ALPS処理水の海洋放出を中止し、汚染水発生ゼロを目指すべきです。
5.海底トンネルを人工海洋構築物と見なしロンドン条約に基づきALPS処理水の海洋放出を禁止すべき
ALPS処理水の海洋放出については、福島県内外から反対の声が強く出ているだけでなく、国際的にも、19の太平洋島嶼国・地域からなる太平洋諸島フォーラムPIFが、事務局長声明をホームページで公開し、「日本政府が行ったことは、ごくわずかな限られたデータと情報の提供のみでした。」と経緯を説明し、「すべての関係者が科学的手法を通して汚染水の海洋放出の安全性を立証するまで、それは実施されるべきではない――我々の地域のこの断固たる立場は変わることはありません。」と、海洋放出の中止を求めています。ところが、外務省は、2月2日のミクロネシア大統領と岸田首相の会談や2月7日のPIF代表団と岸田首相の会談での外交辞令的発言で理解が得られたかのような説明を繰り返し、PIFが「緊密なコミュニケーション」を希望したのは、ALPS処理水の海洋放出に納得しておらず、中止を求めているからであることを無視し、「引き続き対話を行っていくことで一致した」と、うそぶき続けました。太平洋島嶼国の主張を踏みにじる、このような対応は、断じて許されません。福島からの参加者は、原発事故被害者として、マーシャル諸島等の核実験被害者と連帯する立場から、外務省の姿勢を厳しく批判しましたが、外務省は全く意に介しませんでした。
ALPS処理水は、放出立坑と海底トンネルを介して海洋放出されようとしています。これは、ロンドン条約/議定書で禁止された「その他の人工海洋構築物からの故意の海洋処分」に該当するとの観点から、私たちは、ロンドン条約締約国である日本の国民として、自国の裁量として禁止するよう求めてきました。しかし、外務省は、「何が人工海洋構築物に該当するのか、ロンドン条約締約国の間で共通認識がない。締約国の裁量で決めることはできるが、義務ではない」と屁理屈をこね、「海底トンネルは人工海洋構築物ではない」と主張しましたが、その根拠については全く説明できませんでした。国民への説明も全くできていないのです。こんな状況で、この春から夏にかけてALPS処理水の海洋放出を開始することなど断じて許されません。
対政府交渉の成果を広く伝え、福島との連帯、太平洋島嶼国・地域との連帯を強め、すべての反対勢力の総力を結集して、福島県漁連との文書確約違反、線量告示等法令違反、ロンドン条約違反で、関係者の理解も得られていない、ALPS処理水の海洋放出をなんとしても止めましょう!
(前半の「医療・介護保険等の保険料・窓口負担の減免措置見直し」の撤回の交渉内容は別紙)
呼びかけ10団体:脱原発福島県民会議、双葉地方原発反対同盟、福島原発事故被害から健康と暮しを守る会、フクシマ原発労働者相談センター、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、全国被爆2世団体連絡協議会、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン