2015年7月31日
7月30日放射線審議会答申に対する緊急声明(pdfはこちら)
双葉地方原発反対同盟、フクシマ原発労働者相談センター、原水爆禁止日本国民会議、全国被爆2世団体連絡協議会、原子力資料情報室、川内原発建設反対連絡協議会、島根原発増設反対運動、原発いらん!山口ネットワーク、原発さよなら四国ネットワーク、原発はごめんだヒロシマ市民の会、反原子力茨城共同行動、若狭連帯行動ネットワーク、I女性会議、原子力行政を問い直す宗教者の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン
政府は、「国策として原発を推進し福島原発事故を招いた責任」を省みず、重大事故が起きることを前提に原発の再稼動を進めようとしています。川内原発等の再稼働準備の一環として、原子力規制委員会・原子力規制庁、厚生労働省、人事院は、原発重大事故発生時の緊急時作業被ばく限度を現行の100ミリシーベルト(mSv)から250mSvに引き上げる法令改定作業を進めています。
諮問を受けた放射線審議会は7月30日、「この法令改定は妥当である」との答申を行いました。これは、原発再稼働を優先させ、憲法に保障された労働者の人権、労働者保護の法体系、「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」第3条のすべてを無視・蹂躙するものであり、絶対に認めることができません。
被爆70周年の今日、被爆者と被爆地の体験を共有し、将来世代に継承することの重要性が国際的にも認められつつあります。答申は広島・長崎の「被爆の実相」を無視するものです。政府の機関である放射線審議会が被爆の実相を無視することは、被ばくを繰り返してはならないとの被爆者の思いを踏みにじるだけではなく、この国際的な流れにも反し、決して許されない事です。
私たちは、以下の5点から今回の答申を認めることはできません。放射線審議会はただちに答申を撤回すべきです。
私たちは、現在取り組んでいる「緊急時作業被ばく限度引き上げ中止と原発再稼働中止を求める全国署名」をさらに全国に拡大し、法令改定作業の中止を求めます。第2次集約までの署名4322筆は6月30日に提出しました。次の署名集約は、第3次8月末です。原発再稼働中止の闘いや「戦争法案」廃案の闘いと結合して署名運動を広げ、法令改定中止の声を政府に突きつけましょう。署名運動はその後も継続します(第4次10月末)。全国の皆様、ご協力よろしくお願いします。
1.被爆の実相を無視し、「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」第3条に反する
250mSvは広島原爆の爆心から1.7キロ付近での遮へい無し直接被ばくに相当します。このような大量の放射線被ばくは、急性障害を引き起こし、がん・白血病や晩発性の様々な疾病のリスクを増大させます。1.7㌔付近の被爆者には下痢、出血斑、脱毛等の急性症状が生じました。この被爆の実相から、250mSvへの引き上げが、緊急時作業従事者に障害を及ぼすおそれがあることは明らかです。
ところが、250mSvの被ばくが及ぼす健康影響について、厚生労働省は「ヒトに関する急性被ばくによる健康影響に関する文献からは、リンパ球数減少のしきい値は250 ミリグレイ程度から500~600 ミリグレイ程度の間にあると考えられるが、この間のデータ数が少ないため、しきい値を明確に決めることは難しい。このため、緊急作業中のリンパ球数の減少による免疫機能の低下を確実に予防するという観点から、東電福島第一原発事故時に、しきい値を確実に下回る250 mSvを緊急被ばく限度として採用したことは、保守的ではあるが妥当といえる。」(注1)としており、放射線審議会はこれを「妥当」と判断しました。
これは被爆の実相に反するばかりか、放射線被ばく事故等から得られている事実にも反します。厚生労働省自身も認めているとおり、精子数減少は100~150mSvで生じます。「イリジウム被ばく事故(1971年、千葉市)」では、250mSv以下でも、骨髄低形成、白血球、リンパ球の減少等の急性症状が造血系に生じたことが、被ばく者を収容し診察・治療・調査にあたった放射線医学総合研究所スタッフから学術論文として4回にわたって報告されています。(注2)こうした報告を全く無視して250mSvが「保守的」と断定することは不当です
放射線審議会が立脚する「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」第3条では、「放射線障害の防止に関する技術的基準を策定するに当たっては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもって、その基本方針としなければならない」とされています。
250mSvへの引き上げを「妥当」としたことは「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」第3条を無視するもので不当です。
2.緊急時作業被ばく限度の250mSvへの引き上げは、労働者の人権を蹂躙し、労働者保護の労働安全衛生法の法体系を破壊し、憲法違反である。
原子力規制委員会・原子力規制庁は、「重大事故による破滅的状況の回避のために、労働者の健康リスクと周辺住民の生命・財産を守る利益を比較衡量する」と、被ばく限度の250mSvへの引き上げは正当化できるとしています。厚生労働省は当初、緊急時被ばく限度の250mSvへの引き上げは「労働者保護の観点からは逆行する」と認めていましたが、最終的には原子力規制委員会と同じ立場に立っています。放射線審議会もこれを妥当と判断しました。これは労働者の人権を蹂躙するものです。
急性・晩発性の放射線障害をもたらす「特例緊急被ばく限度」250mSvを導入することは労働者保護、労働災害防止の労働安全衛生法の法体系を破壊するもので、憲法(13条、25条、27条)、なかでも生命権について「国政の上で、最大の尊重」を要請した13条違反であり、決して許されません。
3.重大事故を前提とする原発の再稼働をしなければ、緊急時被ばく限度の引き上げの必要はない
国民の多数が反対しているにもかかわらず、政府は重大事故を前提とした原発の再稼働を行おうとしています。
平成26年7月30日の原子力規制委員会で、田中委員長は、緊急時作業の被ばく限度の引き上げ等の検討の提案に際し、「それ(現行の緊急時被ばく限度100mSv)を超えるような事故が起こる可能性を完全に否定することはできないというのが私どもの考え方です。」と述べています。
重大事故を前提とする原発の再稼働のために労働者の命と健康が犠牲に供されようとしているのです。
原発を再稼働しなければ、重大事故による破滅的な状況の回避の為に、労働者が250mSvも被ばくすることなど必要ありません。
4.原発優先で労働者の人権とすべての法体系を無視する「運用」=「法令上は限度とするが、参考レベルという考えも考慮した運用」は、250mSvをさらに超える被ばくを「容認」し、許されない
原子力規制委員会は250mSvについて、「法令上は限度とするが、参考レベルという考えも考慮して運用する」と表明し、審議会はこれを了承しました。「250mSvをさらに超えた被ばくをも容認する運用」など絶対に認められません。
5.生涯1000mSvの大量被ばく容認ではなく、被ばく労働以外の職場・生活を保障すべき。
原子力規制委員会と厚生労働省から、緊急時被ばく限度引き上げに関連して、緊急時作業で大量被ばくした労働者に、さらに通常被ばくとの合計で生涯線量として1000mSvまで被ばくさせても良いとするなどの「事後の放射線管理」が示され、審議会は了承しました。
これは来年4月から、福島第一原発の緊急作業従事者に適用されます。緊急時作業で200mSvを超えた労働者さえも被ばく労働に従事させられます。また、福島原発事故の緊急作業で100mSvを超えた労働者は5年間「通常」の放射線業務従事を認められませんでした。しかし今後はそれも撤回され、重大事故発生による緊急時作業従事者には、続いて年5mSvの「通常」被ばくが容認されます。このように、「事後の放射線管理」は「5年で100mSv」の労働者の通常被ばく限度を事実上取り払うものです。
累積1000mSvもの高線量の被ばくは、ガン・白血病に限った場合でもそのリスクは、一般の人の2倍以上にも激増します。心臓・循環器系やその他の疾患による死亡のリスクも非常に高くなります。このように放射線被ばくの犠牲を強要する生涯1000mSvを基準とした「事後の放射線管理」は一切認めることができません。
このような、緊急時作業で大量被ばくした労働者へのさらなる大量被ばくの強要は、緊急作業従事者の基本的人権(憲法13条、25条)を侵害し、許せません。政府は、福島原発緊急時作業従事者に被ばく労働を強要するのではなく、被ばく労働以外の職場・生活の保障をすべきです。
(注1)厚生労働大臣「電離放射線障害防止規則の一部を改正する省令案及び関係告示に係る放射線障害の防止に関する技術的基準の改正等について(諮問)」,「技術的基準の説明」p.1(2015.7.17)および「東電福島第一原発作業員の長期健康管理等に関する検討会報告書」p.21(2015.5.1)
(注2)厚生労働省の報告書には引用されていません。厚生労働省は、引用しなかった理由を、私たちとの交渉(2015年6月9日)で「点線源からの被ばくで線量推定などの信頼性が低い」と説明しています。
以上
【参考1】7月23日の放射線審議会の配布資料等
【参考2】7月30日の放射線審議会の配布資料等
【参考3】原子力規制委員会記者会見録:平成27年7月29日
連絡先・署名集約先:
原子力資料情報室 東京都新宿区住吉町8-5曙橋コーポ2階B Tel:03-3357-3800
ヒバク反対キャンペーン 兵庫県姫路市安富町皆河1074 建部暹 Tel&Fax:0790-66-3084