福井地裁は5月21日、関西電力に対し大飯3・4号の運転差し止めを命じる判決を言い渡しました。
憲法上の権利である人格権に基づく司法判断であり、たとえ、その下位にある原子炉等規制法や原子力規制委員会による規制基準・審査ガイドなどが満たされていても、人格権を広汎に奪うことになる原発事故の具体的危険性が万が一にもあれば、運転差し止めが認められるという画期的なものです。
原子力規制委員会による「規制基準」は「原発重大事故は起こりうる」との大前提に立っており、30km圏内をUPZに指定するなど何十万人、何百万人もの国民の命を危険にさらし、人格権を奪う可能性を前提にしています。
原子力規制委員会で現在審査中の原発では、電力会社は「電力会社の経済的利益」を人格権より優先させ、経済的に成立つ範囲内での耐震性の確保で済ませるため、基準地震動を過小に設定しようとしています。
そこで、私たちは、福井判決を受け、5月23日、原子力規制委員会に緊急要請文を提出しました。
呼びかけ団体: 川内原発建設反対連絡協議会、川内つゆくさ会、反原発・かごしまネット、まちづくり県民会議、川内原発活断層研究会、東電福島原発事故から3年-語る会、さよなら原発:アクションいぶすき、原発ゼロをめざす鹿児島県民の会、かごしま反原発連合有志、原子力発電に反対する福井県民会議、サヨナラ原発福井ネットワーク、原子力資料情報室、若狭連帯行動ネットワーク(事務局担当)
賛同団体・個人: 2014.5.23現在 88団体、416個人(「5月15日付緊急公開質問状(5月23日一部修正)」に記載)
緊急要請文はこちら 緊急公開質問状はこちら 呼びかけはこちら
(なお、5月15日に提出した公開質問状には一部誤りがありましたので修正しました。その説明はこちら)
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2014年5月23日
原子力規制委員会委員長
田中 俊一 様
大飯3・4号運転差し止めの5.21福井地裁判決を受け、川内1・2号等の地震動評価やり直しと公開質問状への至急回答を求めます
福井地裁は5月21日の判決で、大飯3・4号の運転差し止めを命じました。同判決ではこれまでに安全規制当局の定めた基準地震動を超える地震動が4原発で5回も相次いだ事実を重視し、「過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づきなされたにもかかわらず、被告の本件原発の地震想定だけが信頼に値するという根拠は見いだせない」と指弾しています。さらに「新規制基準への適合性や原子力規制委員会による新規制基準への適合性の審査の適否という観点からではなく、(1)の理に基づく裁判所の判断が及ぼされるべきこととなる。」つまり、「人格権は憲法上の権利であり、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。」「大きな自然災害や戦争以外で、この根源的な権利が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかは想定し難い。かような危険が抽象的にでもはらむ経済活動は、その存在自体が憲法上容認できないというのが極論にすぎるとしても、少なくともかような事態を招く具体的危険が万が一にでもあれば、その差し止めが認められるのは当然である。」と断じているのです。原子力規制委員会としてはこの判決を重く受け止めるべきであり、あらゆる可能性を考慮して、考え得る限りの最大規模の地震・津波を想定すべきところ、地震動評価については、私たちが公開質問状で何度も提起しているように、最近20年間の地震観測記録があるにもかかわらず、電力会社の経済的利害に基づく「理屈」によって、過小に設定されています。
従来の原発推進機関から独立した原子力規制委員会として、今回の判決を受けて襟を正し、私たちの緊急公開質問状に誠意ある回答を求めます。とくに、川内1・2号については、「基準地震動は策定済み」であるかのように報道されていますが、下記の緊急要請項目にあるとおり、過小設定になっています。5月15日付「川内1・2号の地震動評価等に関する緊急公開質問状」(5月23日一部修正)と合わせて、至急回答の場を設定して頂くよう強く求めます。
(1) 川内1・2号で活断層による地震の震源パラメータを設定する際、九州電力は1997年5月13日鹿児島県北西部地震の地震モーメントとして菊地・山中(1997)による 0.90×10^18Nm(MW5.9) を用いていますが、原子力規制庁がすでに資料収集しているように、the Global CMT project は1.42×10^18Nm(MW6.0)、九州大学理学部島原地震火山観測所(1997)は1.2×10^18Nm(MW6.0)、F-Netは1.22×1018Nm(MW6.0)、さらに、気象庁CMT解では2.17×10^18Nm(MW6.2)となっており、九州電力はこのうち一番小さい値を用いていることを確認して下さい。
なお、菊地・山中(19979)による地震モーメントの値は2つの断層による地震モーメントの総和であることを元データに基づいて確認しましたので、5月19日付で先に提出した緊急要請書の(1)を上記のとおり修正いたします。
(2) 川内1・2号の断層モデル(経験的グリーン関数法)による地震動評価に際して、九州電力は、要素地震の応力降下量21.02MPaを the Global CMT project による地震モーメントで算出しており、1997年5月13日鹿児島県北西部地震の応力降下量についても、過小評価を避けるため the Global CMT project による地震モーメントを用いれば、今の15.9MPaから25.1MPaへ約1.6倍になることを確認して下さい。
(3) 周辺活断層の震源パラメータにおけるアスペリティ平均応力降下量を少なくとも25.1MPaに設定し直して、川内1・2号の断層モデルによる地震動評価を一からやり直してください。
(4) 5月21日の福井地裁判決を真摯に受け止め、本緊急要請項目および5月15日付緊急公開質問状への回答を受ける交渉の場を可能な限り速やかに設定して下さい。