若狭ネットニュース第162号を発行しました。
第162号(2016/9/24)(一括ダウンロード1.6M)
巻頭言-これ以上、東電を救済するな!原発コストの託送料金繰入=新電力への転嫁反対!東電を破産処理し、国の責任で廃炉・汚染水対策を!原子力被災者への賠償を原発再稼働で賄うな!柏崎刈羽原発再稼働反対!福島第二原発廃炉!東電が弁済すべき除染費を公共事業費で代替するな!
「もんじゅ」即刻廃炉!プルトニウム利用政策を転換し、再処理工場の閉鎖を!電源三法を廃止し、原子力予算を大幅に削減せよ!
【若狭ネット結成25周年特別企画2016.9.4】福井と関西から25年の運動を振り返り、脱原発を展望する
(1)若狭ネット25年の闘い 報告若狭ネット久保良夫
(2)福井からの報告 山崎隆敏(武生市)田代牧夫(敦賀市)松下照幸(美浜町)石地優(若狭町)
<巻頭言>
これ以上、東電を救済するな!原発コストの託送料金繰入=新電力への転嫁反対!東電を破産処理し、国の責任で廃炉・汚染水対策を!原子力被災者への賠償を原発再稼働で賄うな!柏崎刈羽原発再稼働反対!福島第二原発廃炉!東電が弁済すべき除染費を公共事業費で代替するな!
「もんじゅ」即刻廃炉!プルトニウム利用政策を転換し、再処理工場の閉鎖を!電源三法を廃止し、原子力予算を大幅に削減せよ!
資金援助がなければ、すでに破産状態の東京電力
今から、3年前の2013年12月20日、安倍政権は閣議決定で、東京電力への資金援助のための交付国債を5兆円から9兆円へ引上げました。その内訳は、損害賠償費5.4兆円(個人・会社等への損害賠償)、除染費2.5兆円(帰還困難区域の除染費を除く)、中間貯蔵施設1.1兆円でした。ところが、図1のように、2016年3月に認定された「新・総合特別事業計画」では、損害賠償額は6.44兆円にのぼり、すでに1兆円を超えています。除染費は1.22兆円しか計上されていませんが、これは閣議決定の除染費で見積もっている「計画分」以外は払わないと東電が主張しているからです。実際には、国・自治体の前払い除染費は
約1.8兆円に達し、うち約7千億円が東電へ請求されていますが、東電は4,800億円しか払っていません。
住宅近くの森林をキチンと除染したり、帰還困難区域の除染が始まると除染費は大きく膨らみます。
また、先の閣議決定では福島第一原発の廃炉・汚染対策費は東電負担とされ、東電が資産売却やコスト削減で2兆円を捻出することになっていましたが、それでも足りず、さらに4兆円が必要だと見積られています。実際には廃炉法も未定で見積は不可能です。
これらを考慮すれば、東電の当面の資金不足額は5兆円を超え、今後の損害賠償・除染・廃炉・汚染水対策次第で、その2倍以上に膨れあがる可能性があります。東電はすでに破産状態にあると言っても過言ではありません。現に、石油価格下落で一時的に黒字へ転化したとは言え、東電の株価は図2のように事故直前の1/5の水準に留まったままであり、電力小売自由化の下で下落傾向にあります。このまま放置すれば、破産するのは時間の問題でしょう。
広瀬直己東電社長は9月20日、炉心溶融隠蔽問題等で福島県庁に呼び出され、県や周辺13市町村からの申し入れを受けた際、「東電は福島への責任を果たすため破綻を免れ、存続が許された会社だ。」(福島民報2016.9.21)と述べたそうですが、これ以上の「存続」は許されません。新たな救済策を国が行わなければ、早晩、破産処理を余儀なくされるのです。なぜ、今、東電を救済し、被災者や国民に一層の負担を強いることが許されるのでしょうか。
今こそ、東電を破産処理し、東電と東電を支援した株主・金融機関に事故責任を取らせ、原発推進政策をとり続けたためにフクシマ事故を導いた国の責任を明確にし、二度とフクシマを繰り返さないことを誓った上で、国の責任で、すべての被災者に手厚い損害賠償を行い、生活圏では1mSv/年未満となるまでの十分な除染を行い、国が前面に立って「東電救済」の枠にとらわれない形での廃炉・汚染水対策を進めるべきです。
東電救済などもってのほか!
原発コストの新電力契約者への転嫁は許せない
にもかかわらず、東電の要請を受けて、国民負担による3つの東電救済策が検討され始めました。
その第1は、東電が負担すべき4兆円の追加廃炉費を電力消費者に転嫁し、電気料金で徴収することです。あろうことか、これを電気料金の3~4割を占める送配電使用料=「託送料金」の一部に加算することで、新電力と契約した電力消費者からも徴収することが目論まれています。そのついでに、今は原発のコストに繰り入れて電力会社が電気料金で回収している廃炉積立不足金1.3兆円と損害賠償費の一般負担金3兆円を「託送料金」に加算し、新電力と契約した電力消費者からもこれらの原発コストを徴収しようとしているのです。原発を止めるために九電力から新電力へ契約を替えても、その意思は無視され、原発のコストを払わされるのです。
その分だけ新電力に対する原発の競争力が高まるという仕掛けです。しかも、合計8.3兆円にのぼるこれら費用が今後さらに増えても、自動的に託送料金へ組込まれる仕組が導入されようとしているのです。
経済産業省は「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」を設置し、9月27日初会合から年内に最終提言をまとめさせ、来年の通常国会で法制度改正を行おうとしています。これに平行して「東京電力改革・1F問題委員会(通称・東電委員会)」を設置し、福島第一原発廃炉費負担や東電経営改革の在り方を検討し、年内に提言の原案、年度内に最終提言をまとめさせ、法制度改正案に反映させようとしています。経済産業大臣が行う「市場の制度づくり」に「意見・建議」を行う「電力・ガス取引監視等委員会」でも、制度設計専門会合の下に「送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ」が設置され、9月16日から検討が始まりました。こちらは年度内に基本方針、2017年度詳細設計、2020年度施行を目指していますが、当然、本来は電気料金で徴収すべきコストが託送料金に繰り入れられることの是非が徹底討議されるべきでしょう。
2.5兆円を超える除染費は公共事業で国が負担
第2に、2.5兆円を超える計画外の除染費について、国は東電救済のため、福島復興の公共事業として来年度予算に計上しようとしています。概算要求段階では、自民党内で意見対立が表面化し、河野太郎議員など複数の自民党議員がこれに反対して東電負担を求めため、「要求項目」だけが計上されていますが、政府予算段階で金額が計上されるのではないかと危惧されます。実際、その後の与党第6次提言を受けて、原子力災害対策本部復興推進会議が8月31日に決定した「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」では「帰還困難区域のうち、5年を目途に、線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す『復興拠点』を、各市町村の実情に応じて適切な範囲で設定し、整備する。」「整備にあたっては、除染とインフラ整備を一体的かつ効率的に行う。」とあります。
復興の名の下に国民の税金で東電救済が公然と行われようとしているのです。しかも、政府は「効率的でない除染」はほどほどにして、20mSv/年未満なら帰還させる政策を強行し、汚染度が高いまま住民を帰還させ、損害賠償費を打ち切ろうとしているのです。
被災者に精神的・経済的苦痛を強い、低線量被曝の危険にさらすような住民帰還政策は被災者に寄り添ったものでは到底ありません。ましてや、それが東電救済と一体のものとして進められるのは我慢できません。
原子力被災者に原発で賠償するのは許せない
第3に、5.4兆円を超えて増え続ける損害賠償費を賄い、業績改善で東電株を引上げて3.5兆円の株売却益が上がるようにするため、東京電力は柏崎刈羽原発を再稼働させようと必至になっています。柏崎刈羽6・7号は135.6kWのABWRであり、これらを再稼働すれば1基で1千億円/年の収支改善効果があると見なしているのです。泉田知事を立候補撤回に追い込んだ「影の力」はここにあるのです。
東京電力は破産寸前であり、破産を免れるために一層の支援を国に要請し、損害賠償費を稼ぐために原発を再稼働させるなどもってのほかです。何より、東電には原発を運転する資格などありません。震災前に15.7mの津波を東電社内で試算しながら防潮堤等が高くつくという理由から対策をとらないまま炉心溶融事故を招き、炉心が溶融しているとわかっていても「炉心溶融」を隠蔽し続けました。炉心溶融の社内判断基準があるにも関わらず、「基準は存在しない」と嘘をつき、現場では「炉心損傷度合」だけを報告させるマニュアルを徹底させ、「炉心溶融」を隠蔽し続けたのです。震災後は福島県の意向に逆らって福島第二原発の廃炉を先送りにし、福島第一原発の廃炉・汚染水対策がうまくいっていないにもかかわらず、柏崎刈羽原発の再稼働を狙うなどもってのほかです。原子力規制委員会ですら、福島第二原発の警報器を「意図的に停止」させていた核物質防護規定違反では、9月12日に「組織的な管理機能が低下している」と指摘しているほどです。
東電を存続させたままでは廃炉・汚染水対策もうまくいきません。今や破綻が明白になった凍土遮水壁も、地下水の流れを変える通常の土木工事では「東電救済」になるため、「成功するかどうか不明な研究開発なら国費を投入できる」という理由で選択されたものです。案の定、凍結開始から5ヶ月経っても遮水できないばかりか、台風で雨量が増えると凍結箇所が部分的に溶け、すだれ状態になっています。8月末から9月中旬の地下水の建屋流入量は400トン/日、地下水ドレンからの建屋移送量も400トン/日で、合計800トン/日になり、1年前に逆戻りです。345億円の税金が無駄になり、2,200人の作業者が平均15.3mSv、合計33.7人Sv(3名が将来ガン・白血病死する被曝量)も不要な被曝を強いられたのです。
もはや東電を生かしておく理由は何もありません。
これ以上の「東電救済」は容認できません。今こそ、国は東電を破産処理し、被災者救済と廃炉・汚染水対策に全力を注ぐべきです。「20mSv/年未満なら帰還させる」方針を撤回し、被災者への手厚い賠償と健康手帳交付による医療・生活保障を行うべきです。
「もんじゅ」廃炉からプルトニウム利用政策転換へ
政府は9月21日、原子力関係閣僚会議を開き、「今後の高速炉開発の進め方について」を決定しました。「『もんじゅ』については、廃炉を含め抜本的な見直しを行うこととし、その取り扱いに関する政府方針を、高速炉開発の方針と併せて、本年中に原子力関係閣僚会議で決定する」というものです。遂に、1.2兆円をつぎ込んだ「もんじゅ」に終止符が打たれようとしています。「もんじゅ」の再稼働に6,000億円がつぎ込まれずにすんだこと、軽水炉原発を遙かに超える高速増殖炉による重大事故の危険から解放されたことは実に喜ばしいことです。1997年に福井で「もんじゅを動かさないでください」との22万人の県民署名が集約されてから19年目、2003年に名古屋高裁金沢支部で「もんじゅ」の設置許可処分無効確認判決が出されてから13年目の勝利です。
政府は「高速炉開発を取り巻く環境について、近年、大きな情勢の変化があった」としていますが、「もんじゅ」廃炉の直接的な契機は、「オールジャパンの推進体制が内部崩壊していた」ことです。電力会社やメーカーは高速増殖炉には実用化・ビジネス化の見通しがなく、フクシマ事故と電力自由化で自らの足下すら危ういことから、日本原子力研究開発機構に替わる運営主体への参加を拒否したのです。政府は「国内の高速炉開発の司令塔機能を担うものとして、新たに『高速炉開発会議(仮称)』を設置する」としていますが、形式的なものに終わらざるを得ないでしょう。政府はあくまでも、「核燃料サイクルを推進するとともに、高速炉の研究開発に取り組むとの方針を堅持する。」としていますが、技術的にも財政的にも行き詰まっているのは明白です。
東京新聞(2016.9.22)によれば、「もんじゅ」を中心とした核燃料サイクルに少なくとも12.2兆円がつぎ込まれましたが、これを機にプルトニウム利用政策を転換させ、原子力予算を大幅削減すべきです。その財源となってきた電源三法交付金制度を廃止し、東電を破産処理した上で、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に振り替えるべきです。
10.26反原子力デーを全国一斉に闘おう
破産寸前の東京電力にとどめをさすため、また、「もんじゅ」廃炉方針決定を機に原発・核燃料サイクル政策を抜本的に転換させるため、東電救済策の導入反対!東電を破産処理し国の責任で被災者救済と事故処理を!『もんじゅ』即刻廃炉!プルトニウム利用政策転換と原子力予算大幅削減!を掲げ、国会に働きかけ、電力会社・政府と対決しましょう。
若狭ネットは今年9月に結成25年を迎えました。
25年間の運動の成果がようやく見える形になってきたように思えます。25年間を振り返り、反省し、今後につなげていきたい。フクシマを繰り返す前に何としても脱原発を実現したい。私たちも、10.26反原子力デーの一環として関西電力本社への申し入れ行動を行います。ふるってご参加ください。できれば申し入れ文を持ってきてください。一緒に提出しましょう。
<コラム>東電が払うべき損害賠償額は「一般負担金」で電力消費者に転嫁されている!
9兆円の交付国債の回収は、次のように行われる。損害賠償額5.4兆円は電気料金で毎年1,630億円(一般消費者から徴収するため「一般負担金」と呼ばれる)と500億円(東電から徴する「特別負担金」)の合計2,130億円を回収し続ける。除染費2.5兆円は東電株売却益で賄う。中間貯蔵施設1.1兆円は電源開発促進税で一旦賄い事業終了後に東電に求償する。2015年3月に会計検査院が、この資金回収計画を検討し、東電の株価次第で、電力消費者の負担が増えることを示唆し警告している。
フクシマ事故後、国が約33.3億株を1兆円で買い取り、東電を事実上国有化したが、当時の株価は約300円、これを売却して2.5兆円の売却益を得るには株価が1,050円になる必要がある。しかし、図2の通り、事故後はこの水準に一度も届かず、2016年9月21日現在430円にすぎない。そこで、会計検査院は株売却益を1.5兆円、2.5兆円、3.5兆円の3通りを検討し、特別負担金を毎年500億円とした場合に、一般負担金はそれぞれ5.0兆円(~2034年度)、4.4兆円(~2038年度)、3.7兆円(~2044年度)になるとしている。2016年度末までに徴収される一般負担金は8,343億円になるとみられ、2017年度以降の残高はそれぞれ4.2兆円、3.6兆円、2.9兆円になる。したがって、経済産業省が託送料金へ繰り入れようとしている損害賠償の一般負担金3兆円は株売却益が3.5兆円相当になることを仮定したものである。
現に、2013年閣議決定後の東電の「新・特別事業計画」では、「2020年代初頭までに年間1,000億円規模の利益を創出し、2030年代前半までに年間3,000億円規模の利益を創出し、4.5兆円を上回る規模の株式価値を実現」するとしているが、これは株売却益3.5兆円、すなわち、平均株価が現在の3倍以上の1,350円に上がることが前提になっている。
また、フクシマ事故に責任を有する金融機関は、交付国債を現金化する際に資金貸付で儲けている。会計検査院によれば、金融機関は上記の各場合で、1,032億円、1,127億円、1,264億円の利息を稼ぐことになるが、これは一般会計から国民の税金で払われる。実に理不尽ではないか。