<交渉報告> <交渉議事録> <交渉資料> <公開質問状>
<原子力規制委員会・規制庁への追加質問> <東京電力への追加質問>
IAEA報告は、ロンドン条約を外して国際基準に合致すると強引に結論づけ、
トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出を正当化できず、日本政府の責任
だと逃げ、推奨も、支持もしないと弁解するだけ=「錦の御旗」にはならない!
東京電力は、関係者の理解が得られていないことを認め、文書確約通り、
「たとえ、政府がゴーサインを出しても、放出しない」と約束せよ!
トリチウム汚染水(ALPS処理水)の「春頃から夏頃に海洋放出を始める」との方針に対し、「関係者の理解」は全く得られていません。全漁連・福島県漁連等が4回目の「反対」を総会決議し政府に申し入れたにもかかわらず、東京電力は6月26日に海底トンネル工事等を強硬的に完遂させ、日本政府の要請を受けた国際原子力機関IAEAが7月4日に包括報告書を提出し、原子力規制委員会は7月7日に海洋放出設備使用前検査の終了証を発布しました。関係者を無視して海洋放出へひた走る動きが緊迫する中、私たち、脱原発福島県民会議をはじめ10団体は7月23日午後1:30~4:35、海洋放出方針撤回を求め、郡山市内で原子力規制委員会・東京電力との交渉をもちました。市民側参加者約40名(マスコミ数名を含む)で、前回(6/12)の交渉に続き、福島県内各地から多くの市民が駆けつけ、「『関係者の理解なしにはいかなる処分もしない』との文書確約を守れ!」、「IAEA報告は錦の御旗にならない!」、「たとえ、政府がゴーサインを出しても、東京電力は『海洋放出しない』と約束せよ!」と、強い怒りを持って東京電力に迫りました。新地町から参加した漁師歴55年の小野春雄さんは、「海は仕事場だ。神事に身体を清める大事なものだ。海にゴミを捨てることは禁止されているのに、なんで汚染水だけがまかり通るんだ」、「岸田総理は『待ったなし』だと言うが、『待った』はある。一度立ち止まって、冷静に考えれば、子どもでもわかる。流せば、福島がなくなる。福島は死ぬんですか」と、必至に訴え、参加者全員の心に強く響きました。
にもかかわらず、東京電力は、平然と、これまでの回答を淡々と繰り返し、厳しく追及されると、「沈黙」し、「社内へ持ち帰って改めて回答する」との答弁に終始しました。原子力規制庁は、福島担当の総括調整官のため本庁での議論に精通していないためか、不正確な理解に基づく説明をしたため、それは誤解だとたしなめられる始末で、改めて本庁に問い合せて回答し直すことになりました。
東京電力も規制庁も不十分な回答でしたが、それでも、次のように重要な成果が得られました。
政府がゴーサインを出しても、「関係者の理解が得られない限り、東電として海洋放出を強行するな」と迫る
第1に、「ALPS処理水は関係者の理解なしにはいかなる処分もせず、タンクに貯留し続ける」との福島県漁連への文書確約について、前回(6/12)に続き、私たちは、海洋放出反対の全漁連(6/22)・福島県漁連(6/30)による4回目の総会決議、「政府説明不十分80%」との国内世論調査、周辺諸国や太平洋島嶼国の反対など「国内外の関係者の理解」など得られていないことを改めて示し、「たとえ政府がゴーサインを出しても『関係者の理解が得られない限り、東電として海洋放出を強行することはない』と明言せよ」と強く迫りました。しかし、「当社としては、引き続き・・・丁寧にご説明させていただく取り組みを重ねてまいります。」と繰り返すだけで、「放出しない」とは約束しませんでした。そこで、関係者とは誰かと問い直すと、東電は「『関係者』については、人によって、様々なお立場、背景、影響の度合いがあり、考え方、捉え方もそれぞれ異なることから、明確に線引きすることは難しいと考えております。」と同じ回答を読み上げるだけでした。
「放出に反対する私たちは関係者か」と具体的に問うても同じ回答を読み上げ始めたため、「漁師の小野さんの発言は無視するということか」と一喝すると、沈黙を決め込んだのです。これには参加者の怒りが爆発、「関係者が誰かわからなかったら、説明できないじゃないか」と詰め寄られ、「さまざまなメディアを通じて海外とかも含めて、いろんな方々に説明を尽くしている」と逃げようとするなど、しどろもどろの対応に終始したのです。結果として、海洋放出に「理解」は得られていないという事実が明らかになり、「こんな中で流せるはずがない。社内へ持ち帰って、努力したけど理解は得られませんでしたと上に報告する」よう求め、東電として「この状況では放出できない」と表明するよう改めて求めました。
地下水ドレン汲上げ水6.5万m3のALPS処理水への混在は「緊急な対応」との主張に矛盾が顕在化
第2に、「サブドレンおよび地下水ドレン汲上げ水の混在するALPS処理水は海洋放出できない」との原子力規制庁担当者の断言(2023.2.9対政府交渉)に基づき、私たちは、前回(6/12)に続き、ALPS処理水には地下水ドレン6.5万m3が混在しており、それが「緊急的な対応」だったのでやむを得なかったように言うが、そのような事実はなく、ALPS処理水は海洋放出できないはずだと迫りました。東京電力は前回交渉での宿題に対する7月3日回答で、海側遮水壁閉合に伴う地下水ドレン汲上による「集水タンクへの移送量が想定よりも多く、集水タンクへの移送停止で地下水位の上昇が継続し、地下水ドレンの汲み上げ水の移送先を集水タンクから2号タービン建屋へ切り替えた」と答えていました。これが「緊急的な対応」の中身でしたので、私たちは、「集水タンクが満杯になる危機的状況はなく、集水タンクからタービン建屋へ移送先を切り替えた事実もない」ことを具体的にデータで示しました。東電は、それには正面から答えず、「地下水ドレンが稼働した2015年11月以降の地下水位及び移送量のデータが示すように降雨により地下水位が上昇してきたために、先回回答の通り、汚染した地下水が海洋へ流出することを回避するためにタービン建屋へ移送しています。2015年11月汲み上げ開始当初はT.P.2m(東京湾平均海面基準の標高2m)を一つの目安として、降雨により水位が上昇すると、汲み上げ量を増加させて、T.P.2mに水位低下させるという運用を行っておりました。」と、降雨が緊急事態であるかのように言い繕おうとしたのです。前回は、「地下水ドレン汲上げ水のタービン建屋への移送」は、海側遮水壁閉合に伴う地下水上昇に対処するための「緊急的な対応のもの」で、集水タンク満水時に「トリチウム濃度が運用目標の1,500Bq/Lを超えないようにタービン建屋へ移送したものではない」と繰り返し、今回は「降雨による地下水位上昇」への「緊急的な対応」にすり替えようとしたのです。たとえ、地下水位の上昇が、「海側遮水壁閉合による地下水位上昇」と「降雨による影響」が重なったものであったとしても、現に、集水タンクが満杯になる危機的状況など存在せず、地下水ドレン汲上げ水は、中継タンクA・Bはタービン建屋へ、中継タンクCは集水タンクへ、それぞれほぼ全量が最初から移送されていて、集水タンクからタービン建屋への移送切換もなかったのです。つまり、「緊急対応」をでっち上げてタービン建屋へ移送していたのです。これを裏付けたのが2015年8月28日の面談資料でした。そこには「集水タンクのトリチウム濃度が上昇した場合,集水タンクの水質に影響を与えている可能性のあるサブドレンのくみ上げを調整するなどの対応も検討します。一方,地下水ドレンは集水タンクの水質に影響を与えている可能性があった場合にも,海側遮水壁から地下水が溢れないよう,くみ上げを継続します。」「地下水ドレンでくみ上げた地下水は,トリチウム濃度上昇時に備えて、地下水ドレンの中継タンクからタービン建屋に移送できるよう移送ラインを設置済みです。」とあります。これを東京電力に示すと、それは2015年8月21日にすでに公表していると発言し、「移送ラインの設置」をいつ公表したかに論点をすり替えようとしました。そこで、「中継タンクA・Bでは、トリチウム濃度の上昇傾向が事前にわかっていたため、事前にタービン建屋への移送ラインを設置し、海側遮水壁閉合後もトリチウム濃度が高かったため、タービン建屋へ最初から移送した。中継タンクCでは、トリチウム濃度が低かったため、最初から集水タンクへ移送し、地下水位が上がっても集水タンクへ移送し続け、タービン建屋への切換はしていない。」という事実を突きつけたところ、東電は沈黙しました。
代わりに、それまで黙って聞いていた規制庁が、不正確な理解に基づく的外れな質問を司会者に繰り返してきたため、それは誤解だと詳しく説明し、詳細がわからないのであれば、本庁に問い合せて回答し直してくださいとたしなめました。ただし、仮設ポンプでタービン建屋へ移送するのが緊急対応であれば認められるが、緊急対応でなければ認められないこと、定常的にやっているのであれば「まずい」ということ、が明らかになりました。6.5万トンの移送は定常的ではないのか、との質問には沈黙し、本庁へ問い直すことになったのです。結果として時間切れで、東京電力への追及は中途半端に終わりましたが、重大な矛盾点が浮き彫りにされたと言えます。
8月21日の東電ホームページでの公表内容は8月28日の面談資料と全く同じものでしたが、「サブドレン他水処理施設における中低濃度タンクへの移送ライン増設」などの実施計画変更申請を行った際の説明資料でした。これは、「地下水ドレンでくみ上げた地下水は,海近傍からくみ上げた水であるため,塩分濃度が高いことも予想され,タービン建屋に移送した場合,セシウム吸着装置の処理に影響を及ぼす可能性があることから,移送先の多様化を図るために,集水タンクを経由して,35m盤のタンクを移送先とした移送ラインを設置します。」というもので、タービン建屋へ移送できないほど塩分濃度の高い地下水ドレン汲上げ水を集水タンクを介して35m盤のRO濃縮水処理水中継タンク(1,000m3)へ移送するというものです。
これは集水タンク満水時に1,500Bq/Lを超えた場合に「タンク等へ移送」とされているタンクとは別物で、後者のタンクは実施計画には未だに存在しないのです。さらに重要なことは、2015年8月21日に実施計画変更申請を行いながら、そこでは「タービン建屋への移送ライン」の追記がなされていないのです。
いずれにせよ、海側遮水壁閉合に伴う地下水上昇は計画段階から予想され、トリチウム濃度の高い地下水が多く含まれることもわかっていましたので、集水タンクへ全量移送すれば、満水時に1,500Bq/Lを超えることは「事前に十分想定」された事態だったのです。実施計画未記載の瑕疵や実施計画違反の責任を「緊急対応」や「緊急的対応」で正当化することなど許されません。
IAEA報告は、ロンドン条約を国際安全基準から除外し、「線量告示」違反を無視している
第3に、IAEA包括報告は、「ALPS処理水の海洋放出に対するアプローチおよび東京電力、原子力規制委員会、日本政府による関連活動は、関連する国際安全基準と合致している」とし、「総合的な評価に基づいて、東京電力が現在計画しているALPS処理水の放出が人々と環境に及ぼす放射線影響は無視できる程度である」と結論づけています。東京電力や政府はIAEA報告を「科学的根拠となる錦の御旗」のように見なしていますが、私たちは、IAEAの国際安全基準には、「種類、形状または性状によらず、放射性廃棄物その他の放射性物質の故意の海洋処分(投棄)を全面禁止」したロンドン条約が除外されていること、同条約では「リスクが10億分の1未満と小さいが、人命に害を与えたり重大な損傷を引き起こしたりしないとは証明できない」という専門家パネル報告を受けて全面禁止が採択され、「薄めれば安全になる」という主張はロンドン条約で明確に否定されていること、しかも、IAEAはALPS処理水の海洋放出を「正当化」できず、「それは日本政府の責任」だと逃げ、「その政策を推奨したり支持したりするものではない」と弁解さえしていることを指摘し、「科学的根拠」もなく「錦の御旗」にもならないと批判しました。東京電力は、ロンドン条約事務局IMOもIAEAの国際安全基準策定に関与していると反論しましたが、IMOは基準策定には関わっても、報告書作成には関わっていないという当たり前の事実を指摘すると、沈黙し、「社に持ち帰って検討する」ことになりました。
放射線被ばくを労働者や人々に強要する際には、IAEAも国際放射線防護委員会ICRPも「正当化、最適化、線量限度」の三原則を遵守するよう求めています。しかし、IAEA報告では、ALPS処理水の海洋放出の「正当化」はなされず、「最適化」では、「タンク保管継続で被ばくのリスクをなくせる」という現実を見ず、「線量限度」についても、福島第一原発では、2023年6月1日現在なお敷地境界モニタリングポストで空間線量が2.9~8.9mSv/年と依然高く、公衆の被ばく線量限度1mSv/年を担保するための「線量告示」を満たせない違法状態にあり、ALPS処理水の海洋放出など新たな放射能放出が許されないことには目をつむっています。東京電力は今回も、原子力規制委員会から措置を講ずべき事項で「追加的な放出等による敷地境界での実効線量を年間1mSvとすることが求められている」と主張して原子力規制委員会に下駄を預け、この「追加的な実効線量(追加線量)が1mSv/年以下なら線量告示違反にならない」という法的根拠を示すことはできず、「詳細は原子力規制庁へご確認ください」と逃げたのです。規制庁も追加線量で規制しているとはいうものの、その法的根拠は示せないままでした。「追加線量」の趣旨は、敷地境界の実効線量から事故時の放射能災害による放射線の寄与分を「現存被ばく状況」と見なして除外するというものですが、線量告示には、現存被ばく状況や計画被ばく状況の区別はなく、実効線量から除外できるのは自然放射線と医療被ばくだけです。「追加線量が1mSv/年を超えなければ違法ではない」とする根拠法令など存在しないことが前回に続き明らかにされたと言えます。そうである以上、法令違反(線量告示違反)のALPS処理水は海洋放出できないはずです。
ALPS処理水を海洋放出しなければならない3つの理由は、「海洋放出ありき」が大前提
第4に、東京電力や政府が挙げる「ALPS処理水を海洋放出しなければならない3つの理由」(①タンクは2023年春頃満水になる(現時点の評価では来年2月~6月頃)、②廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、③汚染水は今後も発生し続ける)には根拠がないとする私たちの主張に対し、東京電力は今回もまともに答えず、①は「タンク増設はしない」方針ありき、②は「不要不急の敷地利用」計画ありき、③は「汚染水発生ゼロはめざさない」方針ありき、の回答に終始しました。つまり、3つの理由は、「海洋放出ありきを前提に捻出されたもの」だったことが、前回に続き、今回も明らかになったのです。
一つもタンクが建たないわけではない!ALPS処理水の海洋放出で廃炉に見通しがつく!?
①については、「フランジタンク解体エリアには溶接タンク約9万トンが増設可能で、空けた状態の予備タンクが2.5万トンもあり、計12万トンの余裕がある」との私たちの指摘に、東京電力は今回も正面から答えず、「今後、福島第一原子力発電所において、より本格化する廃炉作業を安全・着実に進めるためには、敷地内に新しい施設を建設する必要があります。敷地内にタンクをこれ以上の増設は、今後の廃炉作業に支障が出る虞があり、ALPS処理水を処分してタンクを減らすことが必要と認識しています。」と前回より抽象的な回答に後退しました。福島第一原発の敷地近くに住んでいた住民が、「線量が高すぎてもう住めないのでタンク増設に使うんだったら手放す意思がある」と言っていると参加者から紹介されても、東京電力は、「非常に有り難いご意見だが、敷地の中で廃炉を完遂したい。一つもタンクが建たないわけではないが、それを続けていると先々行き詰まる。」と弁解し、「増設できるけど、増設しない」との本音を吐露したのです。
②の敷地利用計画についても、「廃炉の一環であるALPS処理水の処分についても見通しを付けることは、廃炉作業の見通しを付けることになると考えております。」と、「ALPS処理水を海洋放出すれば廃炉の見通しがつく」かのような非科学的虚言をつくほどに後退しました。
③については、「配管貫通部以外からも建屋内へ流入する可能性は否定できないことから、建屋内滞留水の水位よりも周辺の地下水位を高い水位で管理することにより、建屋外へ汚染水が流出しないよう管理しております。」と周知の水位管理法を抽象的に回答するだけでした。他方では、「地下水位低下による汚染水発生量ゼロ」を「床面露出」と短絡させ、「α核種がダスト化するのでのよくない」と主張するなど、思い込みによる反論ばかりでした。1・4号機はすでに地下水流入がほぼゼロですが、床面露出しているわけではありません。2・3号機も建屋内水深2mのまま、サブドレン水位を下げることで地下水流入ゼロになると主張しているのに、東京電力には「理解」できないのでしょうか。
この交渉でも明らかなったように、ALPS処理水を海洋放出しなければならない理由など存在せず、正当化することなどできないのです。こんな理不尽なトリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出は何としても阻止しましょう。
呼びかけ10団体:脱原発福島県民会議、双葉地方原発反対同盟、福島原発事故被害から健康と暮しを守る会、フクシマ原発労働者相談センター、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、全国被爆2世団体連絡協議会、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン
連絡先:原子力資料情報室(担当:高野聡)Tel:03-6821-3211<takano@cnic.jp>
チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西(担当:振津かつみ)Tel:090-3941-6612<cherno-kansai@titan.ocn.ne.jp>
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