第168号(2017/10/23)(一括ダウンロード2.4Mb)
巻頭言-国民負担による東電救済と国の責任逃れを許すな!
11・10署名提出・交渉で、経産省に「福島事故関連費等8.6兆円の託送料金への転嫁」撤回を迫ろう!
(1)高レベル放射性廃棄物の地層処分反対!
原発再稼働をやめ、これ以上使用済核燃料を生み出すな!
(2)福島第一原発廃炉のための技術戦略プラン2017と中長期ロードマップにみる
原発重大事故によるすさまじい原子炉破壊と極めて高い放射線環境
東電に柏崎刈羽原発の運転資格はあるか? このリスクを冒しての原発再稼働を許せるか?
10月26日は「反原子力デー」です。今年も、関西電力本社へ申し入れに行きましょう!
日時:2017年10月26日午後4時
場所:関西電力本社ロビーに10分前に集合(大阪、四つ橋線「肥後橋」下車、歩10分)
呼びかけ:若狭連帯行動ネットワーク
関西電力株式会社 取締役社長 岩根 茂樹 様
10・26反原子力デーに際しての申し入れ
若狭連帯行動ネットワーク
<巻頭言>
福島事故関連費8.6兆円の託送料金への転嫁反対
昨年11月から29団体の呼びかけで始めた「福島事故関連費と原発コストを『電気の託送料金』に転嫁しないでください!」の署名はいよいよ大詰めを迎えました。8.6兆円のうち、損害賠償費一般負担金「過去分」2.4兆円と原発廃炉費積立不足金・未償却資産の6基分0.2兆円を託送料金へ転嫁するための経産省令は9月28日に公布されましたが、その施行は2020年4月1日です。これについては、民法・商法違反の新たな重大な事実と矛盾が判明しましたので、これを徹底追及すれば、まだ撤回させられます。また、廃炉費不足分6兆円を捻出するための「東電管内の託送料金を高止まりにする基準」はまだできていません。送配電網の更新が今の5倍に増えるこの数十年間に託送料金を高止まりにするのは無謀です。これらの矛盾点を徹底追及し、2020年からの「8.6兆円の託送料金への転嫁」の撤回を求めましょう。そのため、11月10日には経産省への第4次署名提出・交渉を行います。ぜひ、ご参加下さい。10月23日現在、署名数は累計で3万8,583筆に達しています。「10月末第4次締切り」で進めている現在の署名は今回、最終提出します。お手元の署名は、交渉日に間に合うよう、11月8日までに署名集約先(1ページの久保宛)まで送って下さい。
福島事故関連費21.5兆円の国民負担を許すな!
福島事故関連費は21.5兆円に達しましたが、その大半は電気料金や税金で国民に転嫁されようとしています。国は「東電救済にはしない」と言いながら、また、「損害賠償費は東京電力と大手電力が相互扶助で負担し、廃炉費は東電が捻出する」と巧妙に見せかけて、実は、そのほとんどすべてを国民に転嫁する仕組みが着々と作られ、実施されてきました。
ところが、福島事故関連費が11.5兆円から21.5兆円へ倍増し、2020年度には発送電分離で電気料金の「総括原価方式」がなくなりますので、この仕組みも変更を余儀なくされています。そこで、目をつけられたのが「託送料金」(送配電網利用料金)です。託送料金については2020年度以降も「総括原価方式」による規制料金が残りますので、これを悪用し、損害賠償費の一部を託送料金の「原価」に潜り込ませたり、東電管内の託送料金を高止まりにして東電の送配電事業者に超過利潤が出やすい仕組みを作って廃炉費を捻出させようというのです。私たち29団体が署名で撤回を求めている仕組みがこれです。
この仕組みは、5月に策定された東電再建計画=「新々・総合特別事業計画」の根幹に位置づけられ、「福島第一原発の廃炉のための技術戦略プラン2017」(原子力損害賠償・廃炉等支援機構,2017.8.31)や「福島第一原発の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(廃炉・汚染水対策関係閣僚会議,2017.9.26)の前提である廃炉費捻出の根幹をなしています。逆に言えば、今回の仕組みができれば、東電も国も事故の責任を全くとらないまま、国民負担による東電救済が淡々と進められてしまいます。あろうことか、東電は柏崎刈羽原発の再稼働で福島第一原発の廃炉費をさらにカバーし、低迷する株価を過去最高レベルまで引き上げ、国の支配から脱却しようとしているのです。
矛盾だらけ法律違反の経産省の主張
私たちは、これまでに3月と6月に経産省と交渉し、今回の仕組みが法律違反であり、託送料金の原則に反することを明らかにし、撤回を求めてきました。
その成果の上に、今回の交渉では、新たに明らかになった事実や矛盾点に基づいてさらなる追及を行います。公開質問状で示した概略は以下の通りです。
その①:損害賠償費一般負担金「過去分」2.4兆円は、東京電力など電力会社に納付義務があり、電力消費者にはない!
「過去分」2.4兆円を託送料金に転嫁するのは、商法違反・民法違反です。
1966~2010年の電気料金に計上すべきだったとする一般負担金「過去分」の請求は、すでに完了した商取引であり、「過去に原発の電気を使ったのだから払ってください」とする債権取り立て請求は成り立たちません。民法ではこのような債権は2年で消滅します。過去に原価算定を誤っていたとしても、それは「過去の債権」としてではなく、「これからの原発の原価」に計上して回収すべきものです。他の商品では通常、そのように扱われています。
経産省も、「元来、合理的に算定できない時点では回収していなかったものも、費用の発生が明らかになった時点で、その時点の料金原価として算入するという考え方を採って」いるとしているのですから、一般負担金「過去分」の請求は、「債権の回収」ではなく、これから原発の電気を購入する消費者に請求すべきです。にもかかわらず、原発をもたない新電力と契約した電力消費者からも託送料金の原価に計上して回収するのは商法違反です。
また、損害賠償費は5.4兆円から7.9兆円へ2.5兆円増えていますが、当初の一般負担金(5.4兆円から東電の特別負担金を除く)は電気料金の原価として原発の電気を買う消費者から回収される一方、今回の一般負担金「過去分」2.4兆円は託送料金の原価として原発の電気を買わない消費者から回収されるという食い違いが生じています。どちらも、これまで通りに、電気料金の原価として原発の電気を買う消費者から回収すべきです。そうでなければ、新電力契約者は、これまでの一般負担金については支払う必要がないのに、「過去分」については支払う義務を課せられることになります。
実は、損害賠償費の増分2.5兆円は、東電に1.2兆円(特別負担金0.67兆円、一般負担金0.53兆円)、大手電力に1.0兆円(一般負担金)、新電力に0.24兆円(一般負担金)が割り振られています。つまり、一般負担金の増分は合計1.8兆円ですが、一般負担金「過去分」2.4兆円は、これより0.6兆円多いのです。
この分が、東電と大手電力の当初の一般負担金を軽減する仕組みになっているのです。何と姑息な!
そもそも、損害賠償費を電気料金の原価として回収するのも、おかしな話です。事故を起こした東電に責任をとらせて、東電を破産処理し、東電役員による私財提供や株主・金融機関の債権放棄を行わせれば、現状でも9兆円相当の資金を捻出できます。
これを損害賠償費や廃炉費にあて、不足分を累進課税で賄えばすっきりするのです。
その②:福島原発廃炉費6兆円は、東電管内の「託送料金」高止まりで回収、これでは「今の5倍以上かかる古い送配電網の更新」ができなくなる!
経産省は、「実際に託送料金が高止まりしないための措置を講じる予定です」としています。しかし、東電管内の託送料金を高止まりにしないと、廃炉費6兆円に相当する2千億円程度の超過利潤を毎年捻出することは不可能です。
鉄塔・架線など耐用年数が50~30年の送配電網の更新は待ったなしです。鉄塔は2015年末で24.8万基になります。今の年1千基の更新ペースでは全更新に200年以上もかかってしまいます。50年サイクルで更新するには毎年5千基、今の5倍増にしなければ追いつきません。託送料金は2倍にも跳ね上がる可能性があり、廃炉費を毎年2000億円レベルで捻出するのは不可能です。
廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議で9月26日に了承された「東京電力HD福島第一原発の廃止措置に向けた中長期ロードマップ」(第4回改訂版)では、1~3号使用済核燃料取出が3、4年繰り延べられ、第3期(燃料デブリ取出開始~廃止措置完了)も開始時期がずれ込み、期間が長引くのは避けられません。燃料デブリ取出・輸送費に限っても6兆円をはるかに超える可能性が高く、全デブリ取出の可能性も不確かです。
その③:廃炉費積立不足金等は、電力会社のコストなのに原発を持たない新電力からも「託送料金」で回収するのは筋違い!
廃炉会計制度による廃炉費積立不足金と廃炉時未償却資産は、現在、原子力事業者の原発コストに計上され、新電力契約者からは回収されていません。
しかし、2020年度以降、新電力契約者からも回収されます。この原発コストは、「すべての消費者から広く公平に負担すべきとする制度」に含めること自体おかしいのです。託送料金に転嫁すべきものではありません。
廃炉会計制度は、高浜1・2号や美浜3号のように巨額の対策工事費を投じて再稼働できなかった場合や再稼働後早期に廃炉になった場合に、未回収資産を回収できる制度となります。
これでは、事実上、40年超運転を促し、「合理的な廃炉判断を歪め、円滑な廃炉の実施に支障を来している」ことになり、許せません。
原発再稼働の前に福島第一原発の現実を見よ!
福島事故関連費は現時点で21.5兆円ですが、放射能汚染と原子力災害は続いており、福島第一原発の廃炉作業も今まさに進行中であり、「収束」などしていません。中長期ロードマップや技術戦略プランをみれば、炉心溶融事故を起こし破壊された福島第一原発の現状はすさまじいものであり、汚染水対策も燃料デブリ取出も困難を極めています。この現実を踏まえれば、損害賠償・除染費等はさらに膨れあがり、廃炉費も天井知らずになる可能性があります。それだけではありません。福島第一原発1~3号のプールに残る燃料取出や原子炉圧力容器を貫通して格納容器へ落下した燃料デブリの取出は、極めて高い放射線のため、技術的にも難度が高く、事故発生時の緊急時作業を超える労働者被曝が避けられないのです。
たとえば、4号の貯蔵プールにあった使用済燃料はすでに取り出され、総被曝線量は約1人シーベルトでした。その作業環境は1時間あたりマイクロシーベルト単位でしたが、1~3号では、1時間あたりミリシーベルト単位、1千倍もの高線量での作業が強いられます。事故時の緊急時作業従事者1.96万人の2011年3~12月の総被曝線量が240人シーベルトですので、これと同等、もしくはこれ以上になる可能性があるのです。福島第一原発では2011年3月11日の事故発生時から2017年6月までの労働者総被曝線量は659人シーベルトに達しており、緊急時作業従事者の総被曝線量240人シーベルトの2.7倍にもなっています。プール燃料取出から燃料デブリ取出に進めば、一体どれだけの労働者被曝がもたらされるのでしょうか。恐ろしくなります。後のページで述べるように、技術的にも燃料デブリを取出すのは困難を極め、不可能に近いとも言えます。これほどの深刻な原子炉破壊が現にもたらされているのです。
ひとたび重大事故を起こせば、取り返しのつかない原子力災害がもたらされるだけでなく、破壊された原発の収束作業も高線量被曝が伴い、技術的にも不可能に近い。「避難計画があれば安心」、「ベントを設置すれば大丈夫」とはいかないのです。
エネルギー基本計画を見直し、脱原発への転換を
原発を再稼働する前に、原発重大事故の架空のリスクを弄するのではなく、現に目の前にある、フクシマ事故がもたらした深刻な現実を直視すべきではないでしょうか。このような現にある原子力災害と破壊された原発を放置したまま、さらなる重大事故のリスクを冒すのは無謀としか言いようがありません。
フクシマ事故を契機として、ドイツ政府は原発回帰から脱原発政策へ転換し、欧米では再生可能エネルギーへ一斉にシフトしています。ところが、日本政府は、原発を重要なベースロード電源と位置づけ、原発の再稼働をプッシュし、「2030年に原子力22~20%」の目標を変えようとはしていません。それどころか、2050年の長期計画では原発新増設の余地を残そうとしています。そればかりか、パリ協定の趣旨に反して、石炭火力もベースロード電源と位置づけて設置を認め、26%にまで増やし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを20~22%に留めておこうとしています。時代遅れのエネルギー政策にしがみついているのです。
その根底には、フクシマ事故を引き起こした東電を免罪し、救済し、そのことを通じて、国が責任逃れを画策していることにあります。その意味では、東電と国のフクシマ事故の責任を徹底して問うことが根本的に大事だと言えます。
高レベル放射性廃棄物の地層処分反対!
経産省は「科学的特性マップ」を7月に公開し、全国各地で説明に明け暮れています。しかし、どの自治体も「高レベル放射性廃棄物の深地層処分」を受け入れようとはしていません。むしろ、拒否声明や拒否決議が相次いでいます。「高レベル放射性廃棄物を生み出しながら、その処分先を探すというやり方は間違っている」と日本学術会議が指摘して久しいですが、政府は一貫してこの提言を拒み、あくまで処分先を作って、そこへドンドンと運び込むことを狙っています。これでは誰も納得できないでしょう。
厄介ものの処分場ができれば、「厄介ものをドンドン生み出して処分場へ送り込む」という政策が野放しになります。「厄介ものを出さない」という政策が打ち出されない限り、この問題は解決に向けて一歩も進まないのです。
幸か不幸か、六カ所再処理工場は適合性審査が中断され、竣工は先送りになりました。高速増殖炉「もんじゅ」における日本原子力研究開発機構と同様に、建設主の日本原燃も余りにもずさんな管理をしていて、注意しても直らない状態だったからです。高速増殖炉「もんじゅ」を廃炉にし、プルトニウムが過剰に蓄積し、かつての「再処理の意義」が失われている今、脱再処理へ転換すべきです。
国民の過半数が原発再稼働に反対であり、原発なしでも電力は余っています。原発を再稼働すれば、行き先のない使用済燃料が次々と生み出され、負の遺産として蓄積されます。このような現世代の無責任な政策はやめるべきです。使用済燃料を含めて高レベル放射性廃棄物の深地層処分を行うことが現世代の責任なのではなく、高レベル放射性廃棄物の元になる使用済燃料そのものを生み出さないことこそが現世代の責任なのです。
これ以上、使用済み燃料を増やすな!
原発のプール内の使用済燃料を「安全のために乾式キャスク貯蔵へ早く移すべきだ」という議論があります。これは科学的に間違っています。原子炉から取出された使用済燃料は崩壊熱が高く、プールで冷やすしかありません。5~10年ほど冷却すれば2~3kW/tU程度に下がって、プールの水が抜けても自然冷却できるようになりますが、この状態にならないと乾式キャスク貯蔵へは移行できないのです。欧米では、プールの管理容量に近づいたら、十分冷えた使用済燃料から乾式キャスク貯蔵へ移行させています。つまり、燃料交換用にプールを空けるために乾式キャスク貯蔵が使われているのです。5~10年冷却後の2~3kW/tUは「成人の発熱量約2W/kg(体重)」と同程度です。このレベルまで下がれば、プール冷却と乾式キャスク貯蔵とで冷却失敗事故のリスクは大差ありません。「安全のため」ではなく「プールを空けるため」に乾式キャスク貯蔵が利用されていることを忘れてはいけません。
生み出された使用済核燃料や高レベル放射性廃棄物による放射能汚染の危険性は何万年も続き、火山・地震国である日本では、たとえ地下深くに埋設しても、忘れた頃に生活環境へ浸出してくるのは避けられません。可能な限り安全な形で隔離管理し、見える形で次世代へ引き継いでいく以外にないのです。何よりもまずやるべきことは、使用済核燃料をこれ以上生み出さないこと、原発の再稼働を中止することです。