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トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出認可に関する審査書案パブリックコメント(5/19~6/18)へ意見を出そう!

トリチウム汚染水(ALPS処理水)の海洋放出認可に関する審査書案パブリックコメント(5/19~6/18)へ意見を出そう!

東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の実施計画変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出関連設備の設置等)に係る審査書案へのパブリックコメント募集中
受付開始日時 2022年5月19日0時0分
受付締切日時 2022年6月18日0時0分

若狭ネット資料室長として7つの意見を提出しました。
(提出した意見のpdfはこちら)

トリチウム汚染水(ALPS処理水)の政府方針決定(2021.4.13)を撤回させ、
来春放出実施を阻止するため、パブコメに意見を出しましょう!

意見(その1)————————————————-

該当箇所:「本章においては、原子炉等規制法第64条の3第3項に関する審査の内容を、以下のとおり関連する措置を講ずべき事項ごとに示した。 (中略) 1-3 放射性固体廃棄物の処理・保管・管理 (中略) 規制委員会は、これらの項目について審査した結果、変更認可申請の内容が、措置を講ずべき事項を満たすものであることを確認した。」(p.3)

意見:東京電力による実施計画変更認可申請においても「海洋への放出は、関係省庁の了解なくしては行わないものとする。」と明記されています。最大の関係省庁である経済産業省は、大臣名で「関係者の理解なしにはいかなる処分も行いません」と文書で確約しており、しかも、2015年8月24日だけでなく、2022年4月5日にも同趣旨の文書確約をしています。「関係者の理解」なくして「関係省庁の了解」など得られません。原子力規制委員会としても、「関係者の理解」および「関係省庁の了解」なしには、今回の「変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出関連設備の設置等)」を認可できないはずです。審査書(案)にもこのことを明記し、「関係者の理解」が得られるまで「案」のまま留め置き、関連する設計工事認可の手続きを全面凍結すべきです。

理由:「『福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画』の変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出関連設備の設置等)」の「III 第3編 2.1.2 放射性液体廃棄物等の管理」では、「なお,海洋への放出は,関係省庁の了解なくしては行わないものとする。」(p.Ⅲ-3-2-1-2-6)と明記されており、最大の関係省庁である経済産業省の萩生田光一大臣は、全漁連による2021年4月の5項目要求に対し、2022年4月5日に全漁連事務所へ出向き、「(2015年8月24日に)福島県漁連に示した、漁業者を含む関係者への丁寧な説明等、必要な取り組みを行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしにはいかなる処分も行いません、との回答は今後も遵守します。」と文書回答しています。また、政府の基本方針(「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」,廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議,2021年4月13日)においても、2(2)③で「併せて、国民・国際社会の理解醸成に向けた取組に万全を期す必要がある。」と理解醸成を重要視しています。
ところが、福島県の県漁連、農林水産業者、市町村議会をはじめ福島県民の多く、さらには、隣接する宮城県や茨城県をはじめ全国の多くの関係者が海洋放出反対の意思を示していて、「関係者の理解」が得られたとは到底言えません。このことは、福島民報社が行った福島県内59市町村長アンケートで、政府が処分の前提としている地元との合意形成について、49市町村長(83%)が「あまり合意形成が進んでいない」(福島民報2022/4/18)と答えていること、また、福島民報社が福島テレビと共同で行った福島県民世論調査(第36回)でも、海洋放出方針について国内外での理解が広がっているかについて、「全く広がっていない」「あまり広がっていない」との回答が合わせて52.5%に上っているという事実(福島民報2022/3/7)で明らかです。このような現状がある限り、経産省が「関係省庁の了解」を与えたとは言えないはずであり、「関係省庁の了解」を得ているかどうかについても、審査書で確認するのが、原子力規制委員会の義務だといえます。少なくとも経産省に関しては、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行いません」というのが再三確認された経産省の方針であることから、経産省には「関係者の理解を得た」と判断する基準を明確にするよう求め、その基準が満たされることを前提とすることを審査書(案)に明記すべきです。

意見(その2)————————————————-

該当箇所:「本章においては、原子炉等規制法第64条の3第3項に関する審査の内容を、以下のとおり関連する措置を講ずべき事項ごとに示した。 (中略) 1-3 放射性固体廃棄物の処理・保管・管理 (中略) 規制委員会は、これらの項目について審査した結果、変更認可申請の内容が、措置を講ずべき事項を満たすものであることを確認した。」(p.3)

意見:ALPS処理水の海水での希釈・海洋放出の政府方針決定は、「ALPS処理水は海洋放出しない」との政府と東京電力による文書確約に違反し、その確約に基づいて合意された「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」の「トリチウム濃度が1,500Bq/Lを超える場合には、排出しない、希釈しない、タンクへ移送する」との内容にも違反します。変更認可申請における「放射性固体廃棄物の処理・保管・管理」の項目に該当するこの内容が審査書(案)で全く触れられていないのは重大な瑕疵になります。というのは、「タンク等へ移送」が「タンク等へ移送後、ALPSで処理し海水で希釈し海洋放出する」という全く違う中身に書き換えられるからです。この重大な書き換えをこっそり行うこと、それを知りながら黙認することは許されません。この重大な変更を審査書(案)に書き込み、「その内容で関係者の理解が得られることを認可の条件とする」と明記すべきです。

理由:変更認可申請の「サブドレン他水処理施設の排水管理に関する運用について」(p.Ⅲ-3-2-1-2-添1-1)の添付資料1において、排水前の分析の結果、運用目標(Cs-134:1Bq/L,Cs-137:1Bq/L,Sr-90:3(1)Bq/L,H-3:1500Bq/L)を下回らない場合は「原因調査、及び再浄化又はタンク等へ移送」とされています。これは、「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」(2015.9)において「サブドレン及び地下水ドレン以外の水は混合しない(希釈は行わない)」、「運用目標を満たしていない一時貯水タンクの水は排水しない」と明記されたことを反映したものです。
また、この運用方針は、経済産業大臣(「経済産業大臣臨時代理 国務大臣 高市早苗」名)が2015年8月24日、福島県漁連への回答書「東京電力(株)福島第一原子力発電所のサブドレン水等排出に関する要望書について」を発出し、「(トリチウム水に関する)検証結果については、まず、漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません。」と約束し、その翌日に、廣瀬直己東京電力社長が同県漁連に「東京電力(株) 福島第一原子力発電所のサブドレン水等の排水に対する要望書に対する回答について」を出し、「建屋内の水は多核種除去設備等で処理した後も、発電所内のタンクにて責任を持って厳重に保管管理を行い、漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わない事」との要望については「検証等の結果については、漁業者をはじめ、関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします。」と確約したことを受けて了解された方針です。つまり、福島県漁連がサブドレン及び地下水ドレンに同意した大前提には、政府と東京電力による「ALPS処理水を海洋放出しない」との文書回答があり、「同意」はこれと一体のものです。現に地下水ドレン水6.5万トンがタンクへ移送されて「ALPS処理水」となっています。
来春からのALPS処理水の海洋放出は、今発生している汚染水をALPS処理して優先的に排出するものです。今後サブドレン及び地下水ドレンで(1500Bq/Lを超えた場合に)タンクへ移送されれば、それもALPS処理後、優先的に海洋に排出されることになります。そうなれば、「タンク等へ移送する」との運用方針が「タンク等へ移送後、ALPSで処理し海水で希釈し海洋放出する」という全く違う中身に書き換えられることになります。このような変更認可申請の根本的な書き換えについて、審査書(案)で全く触れていないのは重大な瑕疵と言えます。この重大な書き換えをこっそり行うこと、それを知りながら黙認することは許されません。この重大な変更を審査書(案)に書き込み、「その内容で関係者の理解が得られることを認可の条件とする」と明記すべきです。

意見(その3)————————————————-

該当箇所:「本審査においては、ALPS処理水の海洋放出が特定原子力施設全体のリスク低減及び最適化を図るものであることを確認する。」(p.3)
「海洋放出設備は、汚染水発生量以上の量のALPS処理水を海洋へ放出できる設計及び運用にするとしている。これにより、現在多核種除去設備等で浄化処理された水を貯蔵しているタンク(以下「貯蔵タンク」という。)の解体・撤去が可能となり、新たに燃料デブリ保管施設等を設置するためのエリアを確保できるため、東京電力は、海洋放出設備が、特定原子力施設全体の将来的なリスク低減及び最適化に資する設備であるとしている。」(p.4)
「以上のことから、措置を講ずべき事項「Ⅰ.全体工程及びリスク評価について講ずべき措置」を満たしているものと認める。」(p.4)

意見:「リスク低減及び最適化を図る」とされていますが、ALPS処理水を来春から海洋放出する理由として挙げられた「3つの理由」、(1)タンクは来春満水になる、(2)廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、(3)汚染水は今後も発生し続ける、のいずれも大ウソだったことが4月19日の市民との意見交換で明らかになっています。ALPS処理水を海洋放出しなくてもリスク低減は十分可能であるという事実を直視し、審査書(案)を根本的に見直すべきです。

理由:脱原発福島県民会議など8団体が4月19日に経産省資源エネルギー庁、原子力規制委員会・原子力規制庁、外務省と意見交換の場をもち、次のことが明らかになっています。
(1)満水になるタンク以外に、フランジタンク解体によるタンク増設可能エリアが約9万トン分あります。さらに、空けた状態の予備タンクが2.5万トン、計12万トン程度あります。「切羽詰まっている」のであれば、これらを転用すれば数年は大丈夫です。
(2)東電が示した廃炉作業に伴う敷地利用計画は、「2030年度頃までに共用プールを空けるための乾式キャスク仮保管施設、将来的に燃料デブリ一時保管施設等」というものです。しかし、これらは全く緊急性がありません。現在ある乾式キャスク仮保管施設と共用プールを合わせると、使用済燃料貯蔵容量には2,071体の余裕がありますので、1・2号の使用済燃料879体を取出して貯蔵しても十分余裕があります。ですから、共用プールは満杯でも、十分冷えた使用済み燃料から、現在ある乾式キャスク仮保管施設に移動すれば、「共用プールを空ける」必要などありません。また、燃料デブリ取出しも、シールドプラグに事故時放出量の数倍ものセシウムが検出されていて、極めて困難になり、見通しが立たない状況です。急いで敷地を空けなければならない理由など存在しないのです。
(3)建屋内滞留水のALPS処理とサブドレンによる系統的な周辺地下水水位低減で、すでにタービン建屋と廃棄物処理建屋は床面露出しています。さらに今、原子炉建屋の床面露出へと進んでいて、汚染水発生ゼロが可能な段階に来ています。現在は2週間に10cmのペースで滞留水の水位を下げており、2022年度末には1号炉で水深0.5m、2・3号炉で水深2.0mになり、このペースを順次続ければ90週、2年以内に原子炉建屋の床面露出は可能になります。屋根からの雨水侵入も1号機だけとなり、屋根の設置をあと1~2年で終えれば、汚染水発生ゼロは可能です。
経産省担当者は、(1)~(3)に関するこれらの具体的な指摘に、まともに反論できませんでした。つまり、(1)タンク増設余地も空きタンクも十分ある、(3)急ぎの敷地利用計画など存在しない、(3)染水発生ゼロが実現可能な段階に来ている、のです。また、4月18日の第99回特定原子力施設監視・評価検討会では、1号炉では雨水以外の地下水の建屋流入はほとんどなく、屋根とフェーシング等で抑制可能であること、2・3号炉では屋根の補修が完了していて、サブドレンピット停止による地下水位上昇や雨水による建屋流入があったが、サブドレンピット復旧やフェーシング等で抑制可能と報告されています。2・3号炉では(3)の水位管理で地下水の建屋流入ゼロが可能です。これらを真摯に検討し直し、審査書(案)を根本的に見直すべきです。

意見(その4)————————————————-

該当箇所:「本章においては、原子炉等規制法第64条の3第3項に関する審査の内容を、以下のとおり関連する措置を講ずべき事項ごとに示した。(中略) 規制委員会は、これらの項目について審査した結果、変更認可申請の内容が、措置を講ずべき事項を満たすものであることを確認した。」(p.3)
「変更認可申請の内容を確認した結果、措置を講ずべき事項「Ⅱ.9.放射性液体廃棄物の処理・保管・管理」を満たしているものと認める。」(p.5)

意見:審査の内容を「措置を講ずべき事項を満たすものであることを確認」することに限定したのは、「線量告示」に違反している事実を隠蔽するためと言わざるを得ません。特定原子力施設に指定されても遵守すべき法令、とりわけ「線量告示」を満たすものであるかどうかを確認すべきです。そして、現状が線量告示を遵守できない違法状態にあることをまずもって確認すべきであり、そうすれば、緊急避難的な理由がない限り、ALPS処理水の海洋放出を認めることなどできないはずです。

理由:福島第一原発は特定原子力施設に指定されていますが、特例を定める政令では、線量告示は「適用」すべき「法の規定」から除外されてはいません(「核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示,2015年8月31日原子力規制委員会告示第8号」および「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設についての核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の特例に関する政令,2013年政令第53号」)。
線量告示は、一般公衆の被ばく線量限度1mSv/年を担保するための法令であり、敷地境界(「周辺監視区域外」)において、「直接線やスカイシャイン線等による実効線量[mSv/年]+気体や液体の告示濃度限度比の総和」が1を超えないことが求められています。措置を講ずべき事項は、福島第一原発がこの線量告示を遵守できない状況にあるため、リスク低減管理のための措置事項を定めたものにすぎず、違法状態であることには変わりがありません。このことは、脱原発福島県民会議など8団体との今年4月19日の意見交換の場で、原子力規制庁担当者も認めているところです(2012年11月7日原子力規制委員会決定「特定原子力施設への指定に際し東京電力株式会社福島第一原子力発電所に対して求める措置を講ずべき事項について」)。
また、東京電力は、ALPS処理水海洋放出の法的根拠として規則第二号(工場又は事業所において行われる廃棄)第十六条第六号イならびに第七号を挙げていますが、同第七号には「前号イの方法により廃棄する場合は・・・排水口又は排水監視設備において排水中の放射性物質の濃度が原子力規制委員会の定める濃度限度を超えないようにすること」とされ、同規則第二条第二項第六号には、「『周辺監視区域』とは、実用炉規則第二条第二項第六号に規定する周辺監視区域をいう。」と定義され、この実用炉規則第二条第二項第六号では「『周辺監視区域』とは、管理区域の周辺の区域であって、当該区域の外側のいかなる場所においてもその場所における線量が原子力規制委員会の定める線量限度を超える恐れのないものをいう。」と定められています(「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関する規則,平成25年原子力規制委員会規則」)。さらに、この線量限度は、線量告示第二条第一項第一号で「実効線量については1年間(4月1日を始期とする1年間をいう。以下同じ。)につき1mSv。」と明記されています。つまり、特定原子力施設であっっても線量告示は遵守すべき法令であって、上記の規則第十六条第七号にいう「濃度限度を超えないようにすること」とは「周辺監視区域外において直接線・スカイシャイン線等による実効線量および告示濃度限度比の総和との合計が1mSv/年を超えないという規定を遵守しなければならない」ことを意味します。
以上のように、特定原子力施設が厳格に遵守すべき「法令のすべてを満たすかどうかを確認」すべきであり、「措置を講ずべき事項を満たすものであることを確認」すれば足りるとしているのは、重大な瑕疵を犯すものだといわざるを得ません。審査書(案)を法令遵守の観点から抜本的に書き直すべきです。

意見(その5)————————————————-

該当箇所: 「措置を講ずべき事項「Ⅱ.11. 放射性物質の放出抑制等による敷地周辺の放射線防護等」では、特定原子力施設から大気、海等の環境中へ放出される放射性物質の適切な抑制対策を実施することにより、敷地周辺の線量を達成できる限り低減すること、特に施設内に保管されている発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量(施設全体からの放射性物質の追加的放出を含む実効線量の評価値)を1 mSv/年未満とすることを求めている。」(p.10)
「規制委員会は、ALPS処理水を海水で希釈して海洋放出する場合の敷地境界における実効線量については、実施計画Ⅲ章「2.2.3 放射性液体廃棄物等による線量評価」に示されている地下水バイパス水の排水による評価を下回ること、また、排水する系統も異なることから、放射性液体廃棄物等による実効線量0.22mSv/年に変更はなく、引き続き敷地境界における実効線量の合計値が1mSv/年未満となることを確認した。」(p.10)

意見:福島第一原発の敷地境界モニタリングポスト実測値では、今なお敷地境界線量が1mSv/をかなり超える違法状態にあります。一般公衆の被ばく線量限度1mSv/年を担保するための線量告示に従えば、液体・気体のさらなる放射性物質の放出は線量告示違反であり、ALPS処理水の海洋放出など認められません。地下水バイパスやサブドレン及び地下水ドレンの海洋放出では「汚染水の大量発生を阻止するため」など緊急避難的な理由がありましたが、ALPS処理水の海洋放出には、このような緊急避難的な理由など全く存在しません。違法なALPS処理水の海洋放出を認可する審査書(案)は根本的に見直すべきです。

理由:政府方針の2(1)①では「ALPS小委員会の報告書やこれまで頂いた意見を踏まえ、福島第一原発において安全かつ着実に廃炉・汚染水・処理水対策を進めていくため、各種法令等を厳格に遵守するとともに、風評影響を最大限抑制する対応を徹底することを前提に、ALPS処理水の処分を行うこととする。」と明記されており、特定原子力施設に指定されている福島第一原発においても、現行法令を遵守する義務は原則として変らず、一般公衆の被ばく線量限度1mSv/年を担保するための敷地境界での1mSv/年の線量告示を守るべき義務があります(「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針,廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議,2021年4月13日」)。
線量告示を厳格に遵守すれば「ALPS処理水の処分を行うこと」はできません。現状は遵守すべき法令を守れない違法状態にあるのです。「措置を講ずべき事項」にいう「発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量を2013年3月末までに1mSv/年未満とすること」という管理基準を満たしても、違法状態にあります。
脱原発福島県民会議など8団体との意見交換の場で、原子力規制庁担当者は、以上のすべてを認めています。つまり、現状のように、敷地境界線量が1mSv/をかなり超える違法状態にある限り、液体・気体のさらなる放射性物質の放出は告示違反であること、地下水バイパスやサブドレン及び地下水ドレンの海洋放出を「苦渋の選択」で漁連が承諾した2015年の時のように、「汚染水の大量発生を阻止するため」など、よほど緊急避難的な理由がない限り、放射能汚染水の放出は認められないことが改めて明らかになったのです。
ALPS処理水の海洋放出には、このような緊急避難的な理由など全く存在しません。ALPS処理水の海洋放出を認可する審査書(案)を根本的に見直すべきです。違法であるにもかかわらず、ALPS処理水を来春から海洋放出しなければならない緊急避難的な理由があるというのであれば、審査書(案)に明記し、独立した三条委員会(国家行政組織法3条2項に基づいて設置された委員会)の立場から国会と国民にその是非を問うべきです。福島第一原発の現状が線量告示を厳守できない違法状態になることを認識しながら、審査書(案)でそれに言及せず、パブリックコメントで国民の声を聴いて終わりにするという程度の対応では、重大な瑕疵を犯すことになるでしょう。

意見(その6)————————————————-

該当箇所:「本章においては、原子炉等規制法第64条の3第3項に関する審査の内容を、以下のとおり関連する措置を講ずべき事項ごとに示した。 (中略) 1-3 放射性固体廃棄物の処理・保管・管理 (中略) 規制委員会は、これらの項目について審査した結果、変更認可申請の内容が、措置を講ずべき事項を満たすものであることを確認した。」(p.3)

意見:ALPS処理水の放出立坑及び海底トンネル(パイプライン)を介した故意の海洋放出は、ロンドン条約/議定書で禁止された「その他の人工海洋構築物からの故意の海洋処分」に該当する可能性があるため、脱原発福島県民会議など8団体がその観点からも禁止するよう外務大臣に求めたところ、外務省担当者は「ALPS処理水海洋放出は投棄に該当しないと外務省決定した」と主張しながら、外務大臣を含めた会議や議事録の残る形の決定ではなかったことが4月19日の意見交換の場で明らかにされています。東京電力による実施計画変更認可申請においても「海洋への放出は、関係省庁の了解なくしては行わないものとする。」と明記されており、原子力規制委員会としても、外務省から事情聴取した上で、ロンドン条約/議定書に関して「各種法令等を厳格に遵守する」との政府基本方針を満たしているかどうかを確認し、「外務省の了解」がいつ、どのような形で行われたのかを確認し、審査書(案)に明記すべきです。

理由:東京電力は、ALPS処理水を放出立坑及び海底トンネル(パイプライン)を介して故意に海洋放出する計画です。これは、ロンドン条約/議定書で禁止された「その他の人工海洋構築物からの故意の海洋処分」に該当する可能性があるため、脱原発福島県民会議など8団体は、その観点からも禁止するよう求めていました。ところが、4月19日の意見交換の場で、外務省担当者は「ALPS処理水の海洋放出は投棄に該当しないと外務省決定した」と言いながら、いつ、どこで決定したのか追及されても明確に答えられず、挙げ句の果てに、「昨年4月の方針決定には外務省も入っているから、そこで決定された」と主張したのです。つまり、こんな大事なことを外務官僚の内輪だけで判断し、外務大臣を含めた会議や議事録に残る形では決定していなかったのです。
ロンドン条約/議定書の事務局である国際海事機関は、「法的観点からは、国連海洋法条約UNCLOSとロンドン条約/議定書LC/LPにおける投棄の定義の範囲とUNCLOS第207条の範囲の間に直接的な境界線はないようである。言い換えれば、UNCLOSの第207条〔陸にある発生源(河川、三角江、パイプラインpipelines及び排水口outfall structuresを含む。)からの汚染〕と第210条(投棄による汚染)の範囲が相互に排他的であることを示すものはない。したがって、LC/LP締約国は、排出管outfall pipesがLC/LPの『投棄』の定義の意味の枠内で『その他人工海洋構造物』であると決定し、そのような区別を明確にするために条約を改正するか、決議するか、それ相応の行動を起こすことができる。」との判断を示しています。外務省はそのような行動をとらないと決定した根拠を示す必要がありますが、会議で決定した事実がないのです。これでは正式に「外務省の了解」が得られたとは到底言えません。
変更認可申請「III 第3編 2.1.2 放射性液体廃棄物等の管理」では、「なお,海洋への放出は,関係省庁の了解なくしては行わないものとする。」(p.Ⅲ-3-2-1-2-6)と明記されており、また、政府基本方針においても、「各種法令等を厳格に遵守する」と明記し、「併せて、国民・国際社会の理解醸成に向けた取組に万全を期す必要がある。」と重要視しています。国際社会の理解醸成を得るためにも、外務省は、ロンドン条約/議定書で禁止された「その他の人工海洋構築物からの故意の海洋処分」に該当する可能性があり、その観点からも禁止すべきだとの日本国民からの指摘に対して、どのような根拠で禁止しないと判断したのかを国民および国際社会に説明する義務があり、原子力規制委員会も「外務省の了解」がいつ、どのような形で行われたのかについて確認し、審査書(案)に明記すべきです。

意見(その7)————————————————-

該当箇所: 「年間のトリチウム放出量が22兆Bqの範囲に収まるよう、年度ごとにALPS処理水の年間放出計画を定め、当該計画に沿った海洋放出を行う。」(p.25)
「年間のトリチウム放出量については、年間放出計画の策定及び運用により、福島第一原子力発電所全体として22兆Bqの範囲に収まるように管理されることを確認した。」(p.25)

意見:原子力規制委員会は、原子力推進行政とは切り離された、独立した三条委員会(国家行政組織法3条2項に基づいて設置された委員会)として設立された経緯があります。ところが審査では、ALPS処理水の年間放出量を22兆Bqの管理値以上に放出できる余地を残すように圧力を掛けており、規制側が推進側に推進圧力を掛けるというあってはならない事態が起きていました。幸い、東京電力が自重したため、変更認可申請補正書や審査書(案)では22兆Bq/年を上限とすることに留まりましたが、原子力規制委員会の姿勢に根本的な疑念を持たせるものでした。猛省を促したい。

理由:政府基本方針では、「放出するトリチウムの年間の総量は、事故前の福島第一原発の放出管理値(年間22兆ベクレル)を下回る水準になるよう放出を実施し、定期的に見直すこととする。」とされ、22兆Bq/年を上限として、その範囲内で見直すように指示しています。変更認可申請補正書でも、審査書(案)でも、そのように記されています。ところが、審査段階では、原子力規制委員会の側から、この22兆Bq/年の値そのものを変更する余地を残すよう東京電力に迫る場面が2度ありました。
最初は第11回審査会合(2022.3.1)で、新井安全審査官が「22兆Bqの内訳、それをどういうふうに管理するか・・・廃炉等の進捗に応じて年間放出量を適宜見直すとも表明しているんですけども、そこの具体的なやり方というのも説明をお願いします。」と問われ、松本室長(東京電力HD)は「特に22兆Bqを見直すというような考えは今のところは持っておりません。」と回答しましたが、金子対策監が「22兆Bq/年が変化するかもしれないという政府方針の見直しの規定の話がありましたけれども、別に今考えておられないということは理解をした上で、将来何が起こるか分からないので、この世界。一応政府方針にもそのように、弾力条項的に書いてあるので、そういう場合どうするのか、具体的な計画じゃなくて、実施計画の中でそれを読み込めるようにしておくのか、実施計画では一応このまま行くんだけど、そういうことが起きたら、もう一回実施計画書き直すっていうような腹にするのかは、ちょっと実施計画上の、申請上の分かれ道だと思うので、読めるように書いておいていただくのがいいのではないかと思っていますけれども、そこはちょっと東京電力で、ご検討していただいたほうがいいかなと先ほど思いました。」と、政府方針そのものを曲解し、22兆Bq/年の値そのものを見直す余地を残すよう迫ったのです。このため、松本室長(東京電力HD)は「承知いたしました。政府方針をしっかり順守するっていうのも、私共の責任でございますので、申請、特に補正の際に考えたいと思います。」と応じ、金子対策監は「はい、よろしくお願いいたします。」と議論を閉じたのです。
しかし、第14回審査会合(2022.4.11)で東京電力から示された「政府の基本方針を踏まえた当社の対応の実施計画への反映内容等について」では、「年間22兆Bqを上限とし,これを下回る水準とする」、「年間放出量22兆Bqの範囲内で柔軟に対応する」という内容に留まりました。これに伴信彦原子力規制委員が反応し、「当面は22兆Bq/年の範囲内で行うとして、これを増やすべきか減らすべきかという議論は行われていない。廃炉作業を早く円滑に進めるという観点からは、できるだけ早く流すという選択肢もないわけではない。22兆Bq/年の中でどんどん減らしますと読めてしまうので、そこはよろしいか。」と詰め寄り、東京電力は「廃炉の進捗に応じてどのような設定にするかというのは今後の検討課題だと思います。22兆Bq/年の範囲内で実績を積んで安全性を示していきたい。」とかわしています。このような原子力規制委員会の姿勢は、規制側が推進側に立ってALPS処理水放出を促すものであり、根本的な疑念を抱かせます。極めて重大であり、猛省を促したい。

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