「第二十二次中間とりまとめ(案)」については以下の問題点がある。
「電力自由化を始めとする現在の事業環境の下では、将来的な事業収入の不確実性が大きい。こうした中では、長期の事業期間を見込む投資規模の大きな投資や、技術開発の動向、制度変更、インフレ等により初期投資や費用の変動が大きくなることが想定される投資については、事業者が新たな投資を躊躇する懸念がある。」(p.6)とあるが、「原子力や石炭火力は発電単価が低く、電力自由化の下でも投資に懸念はなかった」はずである。ところが、AP1000やEPRなど革新軽水炉の建設費がかつての1基5~6千億円から1基2~3兆円へ高騰し、アンモニア20%混焼/水素10%混焼の石炭火力やCSS付石炭火力では発電単価による競争力がないとわかると、旧一般電気事業者の泣き言に聞き耳を立て、「投資回収の予見性を高め」(p.6)ると主張し始めた。これでは、長期脱炭素電源オークションの目的は「再エネの最大限拡大」や「系統用蓄電池設置による送電網の柔軟性拡大」ではなく、「気候変動を加速させる石炭火力の延命」や「重大事故・使用済燃料蓄積を顧みない原子力の最大限活用」にあることが一層鮮明になったと言える。電力自由化の下で発電単価による競争力なき原子力や石炭火力の早期市場退出を促すのではなく、電力自由化前の「総括原価方式による全コストの電力消費者への転化」、しかも、「原発事業者との契約を断ち切って新電力へ移った電力消費者へも転化」することによって、競争力なき原子力と石炭火力を「電力自由化の下でも生きながらえさせる」ものと化している。
第二十二次中間とりまとめ(案)では、この性格を一層純化させるものとなっており、次の6点はすべて取りやめ、太陽光・風力など生態系を含む自然と共生できる再エネを中心とした真の「脱炭素電源」の抜本的拡充に資する政策へ転換すべきである。
(1)上限価格の閾値を20万円/kW/年(既設火力改修は平均40万円/kW/年)へ引上げ
(2)5%ベースの事業報酬率を建設リードタイムの長さによって増減:10年以上の場合6%へ引上げ(原子力など)、5年未満の場合4%へ引下げ(蓄電池、LDESなど)、5年以上10年未満の場合5%に据え置き
(3)CCS付石炭・LNG火力の改修(既設の水素10%/アンモニア20%混焼)を入札対象に追加
(4)物価変動や金利変動に対応するため、落札価格に含まれる各費用(資本費,運転維持費,事業報酬,可変費)について、各種指標に基づく下記計算式で自動補正 (調整後、上限価格超過も可)
(5)30万kW以上の大型電源新設・リプレースで、事業者の帰責性がなく、入札後に固定費(建設費+制度適用期間内の運転維持費)が当初建設費の10%(応札価格に算入できる予備費の割合)以上増加した場合、申請により、当初建設費の1.5倍を上限として落札価格を増額修正し、増額分の9割回収を認める(1割自己負担)
(6)「(4)物価・為替・金利等変動への自動補正スキーム」および「(5)大型電源新設・リプレース案件での固定費増加時の落札価額増額修正」については、第1回・第2回の落札案件にも遡及適用
以上の6点は、真の脱炭素電源の投資拡大を促すものとは無縁であり、原子力新設・リプレースや石炭火力延命に寄与するものにすぎない。
ちなみに、とりまとめ(案)では、「発電・供給時にCO2を排出しない電源」を「脱炭素電源」と呼ぶ一方、アンモニア20%/水素10%混焼の石炭火力のうち、20%ないし10%の混焼部分があるから、残りの80%ないし90%の石炭火力部分も「脱炭素電源」であるかのように扱うのは国際的にも通用せず、明らかに石炭火力の延命である。また、原子力は、福島原発重大事故や使用済燃料による放射能災害および核戦争につながるリスクを回避できず、CO2と同様に、人類の生存条件を根底から破壊する危険性をもっている。これらを「脱炭素電源」とよび、長期脱炭素電源オークションと称して「国民総負担で原子力の最大限活用を図る」のは、かつての「軍国主義下の国民総動員」を想起させる。
p.28に「(参考図24)電源種毎の建設費の規模」が記載されており、原子力の建設費は既設原発と同型の原発の新設・リプレースを念頭に「建設費47.3万円/kW×30万kW+安全対策費1,762億円=3,182億円」としているが、それでも原子力が最も高い。ところが、100万kW級のAP1000やEPRなどの革新軽水炉では、建設費は1基1.7~3.2兆円、既設同型原発の2.2~4.3倍と極めて高い。たとえば、ヴォーグル3・4号(110万kW×2基):320億ドル(2.4兆円/基)、オルキルオト3号(158万kW)110億ユーロ(1.7兆円)、フラマンビル3号(162万kW)161億ユーロ(2.6兆円)、ヒンクリーポイントC(2基計326万kW)310~340億ポンド(2.9~3.2兆円/基)(竣工時期2030年頃へ延期)であり、関西電力が三菱重工業と共同開発中のSRZ1200(120万kW)は未だ基本設計中で建設を見積もることもできない。次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 制度検討作業部会は、このような状況を真摯に検討した様子がなく、旧一般電気事業者の要求をひたすら聞き入れているだけのようである。これでは、第二十二次中間とりまとめの体をなしていないと言える。
長期脱炭素電源オークションガイドライン(案)に即して言えば、
「CCS付き16(LNG又は石炭による発電端設備容量から発電した電気のエネルギー源としての化石燃料の利用に伴って定格出力時に発生するCO2の回収率が、20%以上、かつ、当該電源で最大限CO2を回収し、及び貯蔵する前提の回収率となる場合に限る。)にするための改修案件」(p.4-5)は削除すべき
「②事後的な費用増加の監視 長期かつ大規模となる大型電源の新設・リプレース投資については、法令対応等の他律的に発生する費用増加のリスクが大きいものと考えられることから、事業者からの申請に基づき、当該リスクに対応するための仕組みを設ける。この申請内容が適正なものとなっているかを確認するため、監視等委においては、(5)の内容を監視することが期待される。」(p.8)「(5)事後的な費用増加の監視方法 本制度で落札した後に、法令に基づく規制・審査、行政指導への対応に伴い、事業者にとって他律的に発生する費用であり、あらかじめ見積もることが困難であった費用が入札後に大幅に増加し53、事業者から申請があった場合は、資源エネルギー庁及び広域機関において要件に該当するか否かの確認を行い、監視等委において増加金額の算定方法及び算定根拠についての説明を求める。事業者はこれに速やかに応じ、資料の提出を行う。なお、監視方法は、基本的に(3)と同様に行うが、競争を伴う入札や相見積もりが未実施の場合や特命発注を行う場合は、上述の「2倍の水準」を超えない予定価格・特命発注部分と同様の監視を行う。また、監視結果についても、(4)と同様に行う。」(p.14)はすべて削除すべき。
「可変費 ・水素(LNGと混焼する場合に限る。)の燃料費は、当該電源の年間設備利用率40%分の水素の燃料費とLNGの燃料費(入札年度の前年の年間平均LNG財務省貿易統計価格を元に算定した金額)の差額・水素(石炭と混焼する場合に限る。)の燃料費は、当該電源の年間設備利用率40%分の水素の燃料費と石炭の燃料費(入札年度の前年の年間平均石炭財務省貿易統計価格を元に算定した金額)の差額・アンモニア(混焼の場合に限る。)の燃料費は、当該電源の年間設備利用率40%分のアンモニアの燃料費と石炭の燃料費(入札年度の前年の年間平均石炭財務省貿易統計価格を元に算定した金額)の差額・アンモニア(専焼の場合に限る。)の燃料費は、当該電源の年間設備利用率40%分のアンモニアの燃料費とLNGの燃料費(入札年度の前年の年間平均LNG財務省貿易統計価格を元に算定した金額)の差額・CCSの可変費は、当該電源の年間設備利用率40%分のCCSに係る可変費50(発電のためのLNGや石炭の燃料費は含まない。」(p.12)は削除すべき。
「③事業報酬(資本コスト)応札時点において、将来の上記の費用(①資本費、②運転維持費)の支出計画を作成し、税引前WACC5%が確保できるような均等化コスト(円/kW/年)と、単純平均コスト(円/kW/年)の差額。」(p.12)は修正の必要を認めない。とくに、リードタイムが10年以上の「水力電源又は火力電源(LNGのみを燃料とする火力電源を除く。)のうち、アセスが済んでいない電源と原子力電源の事業報酬率を5%から6%へ引き上げる理由が成り立たない。
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