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1000ガル超の「震源を特定せず策定する地震動」がなぜ採用されないのか

1000ガル超の「震源を特定せず策定する地震動」がなぜ採用されないのか

若狭ネットニュース第150号(こちらに下記の小論を投稿しました。ぜひご一読ください。(小論のpdfはこちら)(描画エラーが表示された場合は再読み込みを行ってください)

注:川内2号のクリフエッジは1,220ガルではなく1,020ガルでした。読者の方のご指摘で、原典からの転記ミスであることが判明しました。謹んでお詫びし、訂正致します。ニュース小論も訂正しております。(2014.8.6若狭ネット資料室長 長沢啓行)

1000ガル超の「震源を特定せず策定する地震動」がなぜ採用されないのか
 大阪府立大学名誉教授 長沢啓行

<要旨>
九州電力川内1・2 号に関する新規制基準適合性審査書案が出されようとしている.だが,原子力安全基盤機構JNESによる2001~2009年報告書によれば,以下の根本問題が放置されたままである.

第1に,JNESは1997年鹿児島県北西部地震など実際の観測記録に適合するような断層モデルを構築し,M5.5~M6.5の地震により,震源近傍の地震基盤表面で1000ガル以上の地震動が生じること,M6.5では1340.4ガルになることを示している.実際にも,2007年新潟県中越沖地震M6.8 では柏崎刈羽原発の解放基盤表面はぎとり波で1699ガルの地震動が得られ,2008年岩手・宮城内陸地震M7.2では地下岩盤で1078ガルの観測記録がとられた(解放基盤表面はぎとり波に換算すれば2000ガル近くになろう).したがって,JNESの算出したM5.5~M6.5の地震による震源近傍での1000ガル以上の地震動は現実にも発生する可能性が高く,これを「震源を特定せず策定する地震動」として設定すべきである.

第2に,JNESは1340.4 ガルの地震動を「震源を特定せず策定する地震動」に設定しない理由として,「全プラント共通に設定するミニマムリクワイアメントのもの」という考え方に基づき,「断層最短距離20km 以内の地震動評価結果の平均+1:64標準偏差」または「10^5~10^4の超過確率別応答スペクトルの範囲内」という設定基準を打ち出している.しかし,これらは震源近傍での大きな地震動を遠方の小さな地震動で薄めて平均化したり,全国一様に同確率で地震が発生するというあり得ない想定の下で無理矢理導き出されたものであり,国民の批判には到底耐えられない.大飯3・4号運転差し止め訴訟で福井地裁判決(2014年5月21日)が示したように,福島第一原発炉心溶融事故ではその放射能災害により憲法で保障されるべき「人格権」が侵害されたのであり,「このような事態を招く具体的危険性が万が一でも」あってはならない.M5.5~M6.5の地震による1000 ガル以上の地震動は,国内のどこでも現実に起こりうる具体的な危険性であり,今日の地震学ではこれを否定できない以上,「震源を特定せず策定する地震動」として設定すべきであり,そうしないのは人格権の侵害につながる.

第3に,「震源を特定せず策定する地震動」の評価に際してJNES が設定した断層モデルは電力会社が通常用いているレシピとは異なり,応力降下量など短周期地震動を左右するパラメータ値が大きい.逆に言えば,通常の断層モデル・レシピでは地震動が過小評価されることを示唆している.九州電力による独自の断層モデルでは応力降下量が小さく設定されている.原発の耐震性を評価する際に「駆使」されるこのような地震動の過小評価を反省し,最近20 年間の国内地震観測記録に基づいて内陸地殻内地震を正しく評価できるよう,断層モデルを構築し直すべきである.

第4に,JNES は断層モデルによる地震動評価結果を耐専スペクトル(内陸補正後)と比較しているが,M5.5~M6.8に対する震源近傍の耐専スペクトルは縦ずれ断層に対して1/2~1/5,横ずれ断層に対して1/3~1/8にすぎず,大幅な過小評価となっている.これは耐専スペクトル策定時の地震観測記録の不足が原因であり,最近20年間の震源近傍の国内地震観測記録に基づいて耐専スペクトルを再構築すべきである.

JNES は2014 年3 月1 日に原子力規制委員会・規制庁へ統合された.これを機に,原子力規制委員会・規制庁は,断層モデルや耐専スペクトルによる地震動過小評価を率直に認め,これらを構築し直すべきである.また,1000ガル以上の「震源を特定せず策定する地震動」を設定すべきである.そうすれば,川内1・2号においても,基準地震動が1000 ガルを大幅に超え,炉心溶融事故へ至る限界値=クリフエッジ(1号1,004ガル,2号1,220ガル)を超えることは避けられない.再稼働など論外だ.これこそが原発重大事故によって二度と人格権を侵害しないための最善の措置である.

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