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島根2号の基準地震動について広島高裁松江支部へ意見書を提出しました

島根2号の基準地震動について広島高裁松江支部へ意見書を提出しました

中国電力島根1・2号運転差止請求控訴審に向け、
「島根2号」の基準地震動について広島高裁松江支部に意見書を提出しました。
(島根1号は廃炉になっていますので、差止請求は島根2号だけになっています)

島根2号の基準地震動は過小評価されている

2016年5月10日
大阪府立大学名誉教授
長沢啓行
 (pdfはこちら

[要旨]
島根2 号の基準地震動については,原子力規制委員会・原子力規制庁による2016 年3 月の事業者ヒアリング段階で議論がかなり煮詰まってきたことから,改めて精査し直した結果,依然として「震源を特定せず策定する地震動」と「震源を特定して策定する地震動」のいずれにも以下の通り重大な過小評価があることを明らかにした.
(1)「震源を特定せず策定する地震動」として,「2004 年北海道留萌支庁南部地震M6.1 の解放基盤波」が採用されている.この地震では,地震計の設置不足を補うため,地域地盤環境研究所が震源域内地震動を再現解析しており,その最大値は地震観測記録の1.8 倍になる.これを考慮すれば,留萌支庁南部地震の解放基盤波は1,100 ガル程度になり,島根2 号のクリフエッジ1,014 ガル(中国電力評価)を超え,炉心溶融事故は避けられない.
原子力安全基盤機構(現在は原子力規制庁)は国内地震観測記録に合う断層モデルで地震動解析を行い,M6.5 の横ずれ断層で1,340 ガルの地震動が起こることを明らかにしている.これを採用すれば,島根2 号のクリフエッジを一層大きく超える.
2016 年熊本地震の4 月14 日M6.5 の地震では震源断層近くで1,000 ガル超の地震動が発生した可能性があり,これを採用すれば,島根2 号のクリフエッジを超える.
(2)「震源を特定して策定する地震動」の基本震源モデルは「宍道断層」と「F-III~F-IV~F-V 断層」だが,耐専スペクトルと断層モデルによる地震動評価はいずれも過小評価になっている.
(2a) 800 ガルの基準地震動Ss-DH を規定しているのは「F-III~F-IV~F-V 断層(傾斜角60 度)」の耐専スペクトル(内陸補正なし)だが,「宍道断層」の全ケースおよび「F-III~F-IV~F-V 断層」のアスペリティ横長・縦長両ケースについては耐専スペクトルを「適用外」としており,「700 ガルを超える場合はすべて適用外」にしたと考えられる.
2000 年鳥取県西部地震の賀祥ダム観測記録は耐専スペクトルとの整合性が良く,これより等価震源距離が遠く,地震規模も小さい宍道断層の耐専スペクトルを適用外にする理由はない.これを適用すれば,1,200 ガル程度の耐専スペクトルになり,島根2 号のクリフエッジを超える.
2016 年熊本地震の益城観測点での地下地震観測記録によれば,耐専スペクトルの過小評価は明らかであり,日本電気協会で現在見直し作業中の耐専スペクトルに,熊本地震をはじめ最近20 年間の震源近傍での地震観測記録を早急に反映させ,改定後の耐専スペクトルを用いるべきである.
耐専スペクトルは平均的な応答スペクトルにすぎず,「低減できない偶然的不確定性」等を考慮して,少なくとも2 倍の余裕を持たせるべきである.そうすれば,「F-III~F-IV~F-V 断層(傾斜角60 度)」の耐専スペクトルは1,200 ガル程度に引上げられ,島根2 号のクリフエッジを超える.
(2b) 断層モデルによる地震動評価は耐専スペクトル(内陸補正なし)の1/2 程度と小さく,明らかに過小評価である.
それは,中国電力が,地震調査研究推進本部による修正レシピを採用せず,国内の活断層とは条件の異なる北米中心の地震データに基づく入倉式で地震規模を半分程度に小さく算出しているためである.加えて,「F-III~F-IV~F-V 断層」では「長大な断層」とは言えないにもかかわらずFujii-Matsu’uraによる応力降下量を適用しているためである.修正レシピに基づき,M7 クラスの国内地震の経験から応力降下量を20~30MPa に設定すれば,断層モデルによる地震動評価結果も現在の1.5 倍ないし2 倍に大きくなり,現在の基準地震動を超えることは間違いない.
中国電力は認識論的不確定性については種々考慮しているが,偶然的不確定性については破壊開始点の違いしか考慮していない.偶然的不確定性等を考慮するためには,要素地震の波形を少なくとも2 倍にするなど余裕を持たせる必要がある.
そうすれば,断層モデルによってもクリフエッジを超えることは間違いない.
(2c)これらは,2008 年岩手・宮城内陸地震の1,078ガル(はぎとり波相当で約2,000 ガル)の地下地震観測記録など最近の地震観測記録とも整合している.つまり,最新の知見に基づいて基準地震動を保守的に策定し直せば,島根2 号のクリフエッジを大きく超えることは避けられない.
「規制の虜」を打開すべき司法の責任は重い.

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