本日(9月10日)の原子力規制委員会本会議で、川内1・2号の審査書(案)へのパブコメに対する「考え方」が示され、形だけの報告と議論で審査書が承認されました。原子力規制委員会にとって初めての審査書であり、今後の模範にすべきものであるにもかかわらず、余りにずさんと言わざるを得ません。
私の出した意見は小刻みに細分化され、耐専スペクトルを抜本的に構築し直すべきこと、九州電力が事業者ヒアリングで行った主張は間違っていることなどは引用されず、これに対する原子力規制庁の考え方も示されませんでした。以下に細分化された「意見」、それに対する原子力規制庁の「考え方」、これに対する私の「コメント」を掲載します。
(意見)地震動想定に用いている1997 年5 月13 日鹿児島県北西部地震の地震モーメントについて、九州電力が採用している数値は、複数ある研究結果のうち最も小さいものを設定している。より大きな気象庁CMT 解や、the Global CMT project による値を用いるべきである。(p.23)
(考え方)各種機関及び文献において1997 年の鹿児島県北西部地震の地震モーメントが算出されており、申請者は、菊地・山中(1997)の地震モーメントに基づいて各種のパラメータを設定しています。これは、単にモーメント値の大小のみで判断するのではなく、菊地・山中(1997)の地震モーメントを用いて設定したパラメータに基づく経験的グリーン関数法による評価結果が観測記録と概ね整合する結果となることから選定しているものであり、妥当であると判断しています。なお、申請者は、気象庁のデータについては、CMT 解の理論波形と観測波形の一致が悪く、精度が悪いため、評価には用いないとしています。また、念のため、菊地・山中(1997)の地震モーメントよりも大きいthe Global CMT project による地震モーメントを用いて地震動評価を行った結果、Ss-Lと同等レベルであることを確認しています。
(コメント)長周期側の地震動の「念のため」の確認には the Global CMT project による地震モーメントを採用しているが、短周期側には「念のため」の確認は不要だというのであろうか。九州電力は「地震モーメントを大きくして応力降下量が大きくなっても、市来断層帯などの短周期側の地震動評価結果は変わらない」と事業者ヒアリングで主張していたが、これが間違いであると「意見」には書き込んだ。しかし、これには触れられず、原子力規制庁がこの九州電力の主張を間違いだと気付かなかったのではないかと推測される。こんなずさんな審査で良いのだろうか。
(意見)the Global CMT project による地震モーメントを用いた地震動評価では、長周期側だけではなく短周期側でも大きくなるのではないか。(p.24)
(考え方)Ss-1 については、応答スペクトルに基づく地震動評価と断層モデルに基づく地震動評価を行い、それらを包絡するように策定しています。その結果、Ss-1に対して短周期側は応答スペクトルによるものが、長周期側は理論的手法を併用した断層モデルによるものが支配的な影響であったことから、断層モデルのパラメータである地震モーメントを見直した検討では、長周期側の影響を評価し、Ss-L と同等レベルになっていることを確認しています。短周期側の影響については、1997年5月13日鹿児島県北西部地震が2つの破壊領域を持つ地震であったことから、震源過程を詳しく解析した菊地・山中(1997)の地震モーメントの値に信頼性があり、the Global CMT project のように1つの震源を想定して求めた地震モーメントの値で評価するのは適切ではないと考えます。
(コメント)the Global CMT project の地震モーメントが「適切でない」というのであれば、なぜ、長周期側の地震動評価には不適切なこの値を用いたのであろうか。「考え方」には矛盾があり、一貫していない。ここでの問題は、市来断層帯などの応力降下量の設定とそれによる短周期側の地震動評価が保守的に行われているかどうかが重要なのであって、どの地震モーメントに「信頼性」があるかという議論をしているのではない。では、なぜ、断層モデルに使われる要素地震の地震モーメントにはthe Global CMT project による地震モーメントを無条件で採用しているのであろうか。
(意見)旧JNESが行った震源を特定しにくい地震動の検討で、最大1,340galという計算結果が出ており、これを反映すべきである。
(考え方)震源を特定せず策定する地震動は、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集・検討し、原子力発電所の敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定することを求めています。評価に当たっては、上記のとおり、観測記録を収集し、評価することを求めており、地震調査研究推進本部地震調査委員会の全国地震動予測地図で示したような実際に発生した地震から求めていない震度等については評価の対象としておりません。また、旧JNESが試算した地震動は、地震動評価の際に参照する基準地震動の超過確率が、どの程度の大きさの超過確率になるか確認する目的で、厳しいパラメータを設定して評価した結果であり、試算した地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いるために試算したものでないことから、今回の評価では検討の対象にしていません。
(コメント)「厳しい」というのは、「北米中心の地震データに基づく通常のレシピによる断層モデルより厳しい」という意味であって、JNESは国内地震データに基づく「日本国内の地震動評価に適した断層モデルの設定法」を用いているのである。原子力規制庁は今年3月に統合したJNESの報告書をよく読みこなせていないのだろうか。7月29日の市民との話し合いでは、JNESのこの断層モデルでさえ「過小評価の可能性がある」と認めていたではないか。その際、超過確率を求めるためにも、地震動評価が妥当なものでなければ意味がないと私が批判して、頷いていたのではなかったか。議論を蒸し返すようなやり方は卑怯である。
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