厚生労働省は原子力規制委員会からの提言を受けて、放射線作業従事者の緊急被ばく限度を250mSvへ引き上げようとしており、5月15日から6月14日まで電離則改正案への意見を募集しています。6月9日の市民16団体との交渉でそのひどい実態暴かれましたので、その結果に基づき、下記の3つの意見を厚生労働省へ提出しました。
厚生労働省は、これまで、労働安全衛生法の労働災害防止の目的に反する今回の緊急時被ばく限度の大幅引き上げに慎重姿勢を見せてきましたが、今回の交渉では「重篤な急性放射線障害」または「永久に続く急性放射線障害」が起こらなければ「急性放射線障害が起きても良い」という観点を前面に打ち出してきたのです。これでは、放射線作業従事者の健康は守れません。
そもそも、このような緊急時被ばく限度引き上げが必要になったのは、原発を再稼働させるからであり、たとえ規制基準を満たしていても、原発を動かせば重大事故の発生を防げないという原子力規制委員会の判断に基づいているからです。労働者の犠牲の上に重大事故に備えようという発想は断じて許せません。
原発の再稼働を中止し、緊急時被ばく基準限度引き上げをやめるべきです。
事態は切迫しています。緊急時被ばく限度引き上げ反対の全国署名に、皆さんもご協力ください!(全国署名の署名用紙と呼びかけはこちら)
—-<意見1>——————————————————————————————————
労働安全衛生法の目的は第一条記載の「労働災害の防止」および「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する」ことであり、「労働災害」とは第二条に「労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡する」ことと定義されている。つまり、死亡に至らない「負傷や疾病」のレベルが「重篤」であるとか「永久に続く」とかの限定はなく、治療によって機能が一定程度回復するような負傷や疾病についても、その発生を防止することが法の目的とされている。今回の電離則改正案では、250mSvまでの特例緊急被ばく限度が導入されようとしているが、労働基準局労働者健康対策室長補佐による6月9日の市民団体への回答によれば、250mSvの根拠は「急性放射線障害」(または「確定的放射線障害」)の防止ではなく、「重篤な急性放射線障害」または「永久的に続く急性放射線障害」の防止だということである。250mSv以下でも、たとえば、150mSvの被曝で精子数が減少することがICRPでも認められており、広島・長崎の被爆者の間でも250mSv以下の被曝で急性症状が見られている。これらの急性放射線障害はたとえ一定期間後に回復されたとしても、その後に、その被曝に起因した健康破壊の発生が否定できない以上、防止するのが労働安全衛生法の趣旨である。これは長期にわたる継続的健康管理では回復できない。にもかかわらず、「重篤または永久に続く急性放射線障害」以外の急性放射線障害が許容されるというのは、労働災害防止という目的に反する。たとえ重篤でなく一時的であっても、急性放射線障害の発生は防止すべきであり、250mSvへ引き上げるのはもってのほかである。また、がん・白血病には放射線被曝に閾値はなく、公衆被ばく限度の250倍にも相当する250mSvを短期間に集中して浴びると、他の労働現場における労働災害の年発生リスクを大きく超えることになる。このような緊急被ばく限度の導入は労働安全衛生法に違反しており、導入すべきではない。
—-<意見2>——————————————————————————————————
指針改正案では、生涯線量を1Svとし、18才から68才までの50年間の被曝労働で1Svを超えない範囲であれば、「5年間100mSv以下かつ年50mSv以下」の線量限度を超えて被曝しても許容しようとしている。現在の特定高線量作業従事者に対する7日間100mSvの緊急被曝限度もこの範囲内である。100mSvを250mSvに引き上げれば、通常の被曝労働に対する5年間100mSvの限度を超えるため、これをなし崩し的に緩和しようとしているが、250mSvを被曝した労働者には少なくとも11年間は被曝労働に従事させるべきではないし、68才までのいかなる5年間においても100mSvを超えることは許されるべきではない。もし、これを緩和するのであれば、「5年間100mSv以下かつ年50mSv以下」の通常の被ばく限度を導入した法の根拠そのものを下位の指針で掘り崩すことになる。それは、法体系として許されることではない。また、厚生労働省は放射線被曝のリスクについてはICRPを根拠としているが、ICRPは低線量を分散被曝する通常被曝と高線量を集中被曝する緊急被曝とでDDREF(線量・線量率効果係数)変えており、緊急被曝線量を通常被曝線量と単純に合算してリスク評価するのはICRPに則しても問題である。緊急被曝線量のDDREFをICRPのように2とするのであれば、250mSvは通常被曝線量では500mSvに相当すると見なさねばならない。そうすれば、緊急作業で250mSvを被曝した者は通常被曝限度の観点から25年間は被曝労働から排除されるべきである。いずれにせよ、指針改正案のように、味噌も糞も一緒くたにして労働者に一層の被曝を強要し、急性放射線障害や晩発性障害のリスクを他の労働現場よりはるかに高めるような改正は行うべきではない。
—-<意見3>——————————————————————————————————
緊急被曝限度の250mSvへの引き上げは、原発再稼働に伴う重大事故発生に備えたものである。原発重大事故が発生した状況では、原子炉は制御下になく、労働現場の放射線環境も制御されておらず、労働安全衛生法の対象とする労働現場には相当しない。現在の特定高線量作業従事者に対する7日間100mSvの緊急被曝限度も「年50mSv」の制限を超えているとは言え「5年間で100mSv」の通常被曝労働の範囲内である。ところが、250mSvへの緊急被ばく限度引き上げは通常被ばく限度のいずれをも超えてしまう。労働安全衛生法の下位にある電離則で、通常被曝労働に対する被ばく限度を大幅に超えるような緊急被ばく限度を定めるのは労働安全衛生法違反であり、このような改正はすべきでない。また、このような高線量被曝が必要になるのは原発を再稼働させるからであり、原発を再稼働させなければ労働者を危険にさらすことはない。厚生労働省は、原発重大事故の発生を万が一にも防ぐことができず重大事故に備えて緊急被ばく限度を引き上げなければならないような作業現場での労働は原則禁止すべきであり、少なくとも、労働安全衛生法の目的を達成する観点から、このような緊急被ばく限度の引き上げのための省令改正案を撤回すべきである。
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