「電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ」に8つ目の意見を出しました。
「2.2. ベースロード電源市場の創設」(pp.3-7)について
中間取りまとめにおけるベースロード電源市場創設の最大の理由は、「石炭や大型水力、原子力等の安価なベースロード電源」に対する「旧一般電気事業者と新規参入者のベースロード電源へのアクセス環境のイコールフッティングを図ること」である。しかし、これは時代遅れであり、自由な電力市場という考え方にもそぐわない。第1に、「活発な競争が行われている自由化先進国」では「ベースロード電源」という位置づけをなくす方向であり、ドイツ等では「脱原発」を国家の政策として掲げて原子力をなくす方向をとっている。「卸電力市場の流動性」を高めることこそが重要であり、そのためには旧一般電気事業者の電力のほとんどを卸電力市場に供出させ、すべての小売り事業者が卸電力市場で電力を調達できるようにする仕組みをこそ検討すべきである。そうでなければ、「スポット市場における取引量の国内電力消費量に占める割合」を「英国:約51%(2013年度)、北欧:約86%(2013年度)、フランス:約25%(2015年)」(p.3注)のように高めることはできない。第2に、中間とりまとめでは「同市場に供出することができる電源種は基本的には限定しないこととする。」(pp.4-5)ともしており、そうであれば、「ベースロード電源」という名称は全く不要であり、電源種を問わない「卸電力市場」に旧一般電気事業者から電力を供出させる仕組みをこそ検討すべきである。第3に、原子力を「安価なベースロード電源」と位置づけるのであれば、「3.2. 原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方」、「3.3. 福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保の在り方」および「3.4. 廃炉に関する会計制度の扱い」は全面的に削除すべきである。なぜなら、原子力が安価な電源であるというのであれば、原子力に特段の優遇措置を講じる必要は認められないからである。また、国民の過半数が原発の再稼働に反対している現状からすれば、原発再稼働を前提にして、原子力による電力を「ベースロード電源市場」や卸電源市場に強制的に供出させることは断じて行うべきではない。第4に、石炭火力についても、国際的には石炭火力を削減する方向であり、これをベースロード電源として積極的に活用する政策を打ち出すのはパリ協定締約国として恥ずかしい。最も安価な大型水力を除けば、中間とりまとめが念頭に置いている「ベースロード電源」は原子力と石炭火力であり、「脱原発・脱石炭」の国際的な流れに反する。以上より、「ベースロード電源市場の創設」を断念し、原子力と石炭を可能な限り速やかに削減していくような電力市場の設置・運営方針を検討し直すべきである。
また、本来、東京電力や原子力事業者が負担すべき福島原発事故関連費や廃炉関連費を託送料金によって新電力契約者からも徴収する仕組みを導入するに際して、その代償として原子力の電力を新電力にも提供するとしているが、これは筋が違うので、全面的に撤回すべきである。むしろ、新電力が原子力にアクセスできないようにすべきである。新電力へ契約変更した家庭(低圧電力消費者)の多くは原子力を拒否したいのだから。
たとえば、「3.2. 原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方」の「(3)留意事項」には「原子力に関する費用について、託送料金の仕組みを通じた回収を認めることは、結果として、原子力事業者に対し、他の事業者に比べて相対的な負担の減少をもたらすものである。このため、競争上の公平性を確保する観点から、原子力事業者に対しては、例えば、原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにするなど、一定の制度的措置を講ずるべきである。」(p.20)としているが、「競争上の公平性を確保する観点」と「原子力へのアクセス確保」は無関係である。家庭の電力消費者から見れば、原子力事業者でない新電力の魅力は「再生可能エネルギーなど原子力以外の電力を供給」している点にあるからである。「原子力事故に係る賠償への備えに関する負担」を新電力に義務づけるのをやめ、新電力の原子力へのアクセスを不可能にし、旧一般電気事業者には原子力と石炭火力以外の電力の卸電力市場への供出を措置すべきである。
「3.4. 廃炉に関する会計制度の扱い」の「(3)留意事項」でも「発電に係る費用については、本来、発電部門で負担すべきであり、託送料金の仕組みを利用して廃炉会計制度を継続することは、制度を適用した事業者と他の事業者との公平な競争環境を損なうこととなる。(中略)原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにする」(p.24)としているが、これも同様である。
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