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伊方3号の運転差止仮処分申立を却下した2017年3月30日の広島地裁決定を受け、広島高等裁判所民事部へ下記の意見書を提出しました。

伊方3号の運転差止仮処分申立を却下した2017年3月30日の広島地裁決定を受け、広島高等裁判所民事部へ下記の意見書を提出しました。

伊方3号の運転差止仮処分申立を却下した広島地裁決定は
司法の責任を回避し,「不作為の瑕疵」を容認するもの
2017年4月28日
大阪府立大学名誉教授 長沢啓行

(全文のpdfはこちら)

1 はじめに
2 司法審査の在り方
3 基準地震動策定の合理性:震源を特定せず策定する地震動
4 基準地震動策定の合理性:震源を特定して策定する地震動
 4.1 応答スペクトルに基づく地震動評価
 4.2 断層モデルによる地震動評価
  4.2.1 島崎邦彦氏による問題提起の顛末
  4.2.2 Fujii-Matsu’ura の応力降下量
  4.2.3 壇ら(2011)の応力降下量
 4.3 認識論的・偶然的不確実さの考慮
5 結言

[要旨]
伊方3 号の運転差止仮処分申立を却下した2017年3 月30 日の広島地裁決定には,下記のように看過しがたい重大な誤判断と司法の責任放棄がある.
(1)広島地裁決定は,債務者の主張を鵜呑みにして「合理的」だと判断する一方,「確証がない」と吐露して「主張・疎明が不十分である」ことを認めながら,「さらなる証拠調べは本件のような保全手続きにはなじまない」と司法の責任を放棄し,人格権よりも経済活動の自由を優先させた.
(2)「震源を特定せず策定する地震動」は,「震源を特定して策定する地震動」とは独立して検討すべきものだが,広島地裁決定は,それが「補完的」であり「ミニマムリクワイアメント」だとする債務者の誤った主張を鵜呑みにした.また,「震源を特定せず策定する地震動」の対象とする地震観測記録が少ないことを原子力規制委員会自身が認め,電気事業連合会等での「研究が進まないことが原因だ」として研究を進めるよう懇願している現状がある一方,地震観測記録の不足を補うための地震動再現モデルや断層モデルによる地震動解析がかなり進んでいるにもかかわらず,一切採用されていない.広島地裁決定は,「各種の不確かさの考慮」の一環として後者の採用を促すべきところ,債務者の「仮想に仮想を重ねたもの」との批難を鵜呑みにし,原子力規制委員会の不作為を容認した.
(3)広島地裁決定は,敷地前面海域の54km と69km の鉛直モデルに対する耐専スペクトルについて,(a)「他の距離減衰式」との乖離が大きい,(b)構築時に至近距離の観測記録がなかった,(c)実際に耐専スペクトルに沿った地震動が起こる可能性は示唆されない,との理由から適用外にしても「不合理ではない」としたが,すべて誤判断である.「他の距離減衰式」こそが震源域で地震動を頭打ちにする構造をもっており,構築時の近距離地震観測記録に乏しく,現実に起きた震源域内地震観測記録を大きく過小評価している.他方,耐専スペクトルは遠ざかる方向へ伸びる,あるいは,傾斜する断層に対しては地震動を過小評価する傾向にあるが,広島地裁決定は,上記鉛直モデルを採用しない代わりに,54km,69km 北傾斜モデルや480km 鉛直モデルなど本来採用すべきでないものを採用することを「合理的だ」と判断した.
(4)前原子力規制委員長代理の島崎邦彦氏による問題提起は,「原子力規制委員会は地震動の専門知識に欠け,原子力規制庁による情報操作やレシピ改ざんを見抜けない」という現状を暴露するとともに,その主張は熊本地震によって裏付けられ,地震調査研究推進本部による12 月レシピ改訂でその正しさが認定された.レシピ(ア)で用いられている入倉・三宅式は地下のすべり量分布から推定される「不均質な震源断層」に適合し,レシピ(イ)の松田式等は測地データや変動地形学等から推定される「均質な震源断層」に適合する.地震観測記録のない原発の審査で使われる「詳細な調査に基づく震源断層」は後者であり,「不均質な震源断層」は事前には推定できず,レシピ(イ)を用いるしかない.ところが,広島地裁決定は,「入倉・三宅式を適用したことが合理性を欠くものとはいい難い」とする一方,確信を得るためには慎重な吟味が必要だとしながら,「保全手続きにはなじまない」と司法の責任を放棄した.
(5)伊方3 号の断層モデルによる地震動評価では,Fujii-Matsu’ura(2000) と壇ら(2011) の応力降下量を用いているが,いずれも,「均質な震源断層」と「不均質な震源断層」のデータを混在させて得た結果であり,その妥当性には疑問がある.しかも,断層幅が15km のシミュレーション結果を11~13km 幅の横ずれ断層が主な中央構造線断層帯に準用したものであり,応力降下量を過小設定している.広島地裁決定は,54km モデルをすべり量の飽和した長大な断層と見なすかどうかなど債務者の想定の合理性について「確証を得るには慎重な検討が必要」としながら,「仮処分手続きにはなじまない」と,ここでも司法の責任を放棄した.
(6)広島地裁決定は,偶然的不確実さと認識論的不確実さを分類して評価する必要性を認めながら,偶然的不確実さについては全く言及せず,無視している.両者を分離して定量的に評価した最近の研究では,偶然的不確実さは「平均+標準偏差が平均の1.75 倍になる」との結果が出されており,認識論的不確かさの精度を考慮すれば,「平均+標準偏差を少なくとも平均の2 倍」とみなし,余裕をもった地震動評価にすべきである.

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