原子力規制委員会による「クリアランス規則等の制定案等に対する意見募集」(募集期間2020/3/12-4/10)へ4月9日に下記の2つの意見を提出しました。
—– 意見(1) ————————————————
クリアランス新規則は、現行規則と同様に、IAEAのGSR Part 3 のクリアランスレベルの設定法とその値をそのまま受け入れ、拡張しようとしているが、クリアランスレベル設定の評価基準および設定法に大きな問題点があり、今回の規則改定を機に、少なくとも新規則案の値を1桁以上小さくした値をクリアランスレベルの値とすべきである。 その理由は、次の二つである。
第1に、評価基準の10μSv/年は1985年のICRP Pub.46のリスク評価に基づいており、当時よりリスクが10倍(ないし5倍)と評価される現状では、評価基準を1μSv/年(ないし2μSv/年)にすべきであり、結果として、1桁小さくすべきである。
第2に、IAEAのクリアランスレベル設定法は旧原子力規制委員会による決定グループに対する最悪シナリオに基づく設定ではなく、放射性廃棄物の国際流通を前提として、国による地理的・文化的・生活習慣の違いを捨象した包括的なシナリオを用いており、日本にそのまま適用すれば国際的な平均レベルを超えた被曝がもたらされる危険があり、この面からも1桁以上厳しくすべきである。
以下、これらについて詳しく述べる。
<第1の理由> ICRP Pub.46(1985年)では、ICRP Pub.26(1977年勧告)のリスク評価に基づき、「年あたり10^-6以下のオーダーの年死亡確率は,個人が自分のリスクに影響があるかもしれない行動を決定するさいに考慮されないことを示していると思われる。」「このリスクレベルは100μSvのオーダーの年線量に相当する。」(83)とし、被曝によるガン・白血病等による死のリスクを「10^-2/Sv」と評価している。さらに、「規制免除されたいくつかの線源から一人の個人が受ける年線量の合計は,最も大きな個人線量を与える一つの免除された線源からの寄与分の10倍よりも低いことはほとんど確実であると考えられる。したがって,この観点は,年個人線量の規制免除規準を100μSvから10μSvに減らすことによって考慮に入れることができるであろう。」(84) つまり、「10μSv/年」の基準は死亡率10^-7/年に「10^-2/Sv」のリスク評価を適用して設定されたものである。
ところが、ICRP Pub.60(1990年勧告)では「高線量・高線量率の低LET放射線に関する付属書Bのデータは,男女両性で就労年齢の基準集団における生涯致死確率係数が,全悪性腫蕩の合計について約8×10-2/Svであることを示している。この値を線量・線量率効果係数DDREF=2と組み合わせて,作業者に関する名目確率係数は4×10-2/Svとなる。子供を含む全集団についての対応する値は,高線量・高線量率の場合約10×10-2/Sv、低線量・低線量率の場合5×10-2/Svとなる。」(83)としており、リスクは「10×10-2/Sv(DDREF=2の場合5×10-2/Sv)」と10倍(ないし5倍)へ増えている。
つまり、10^-7/年の死亡率に対応するのは10μSv/年ではなく1μSv/年(DDREF=2を考慮すれば2μSv/年)としなければならない。その結果、クリアランスレベルの値は1桁小さく設定しなければならない。
<第2の理由> IAEAのGSR Part 3 のクリアランスレベルの設定法はIAEAのSRS No.44の方法に基づいている。それは、決定グループに対する最悪シナリオでの被曝量を10μSv/年に抑える放射能濃度としてクリアランスレベルを設定した旧原子力安全委員会の方法とは根本的に異なり、クリアランスされた放射性廃棄物が国際流通されることを念頭に置き、国による地理的・文化的・生活習慣の違いを捨象した包括的なシナリオを用い、「現実的」なパラメータ値を設定して算出されたものであり、低発生確率のパラメータ値の下でも、1mSv/年を超えないこと、および皮膚線量が50mSv/年を超えないことを確認して得られる値とされている。さらに、「0.3~3を1とする」方法で丸めているが、これでは、最悪の場合、算出濃度が3.3(=10/3)倍に緩和される。
旧原子力委員会によるクリアランスレベルの再評価結果と比べると、トリチウムやSr-89、Sr-90、Ni-59、Cm-242、243および244など重要な核種で規制が緩和されることになる。とくに、Cl-36とCm-243は0.3が1へ、Ni-59では30が100へ、Cm-242では3が10へ丸められているが、1桁小さくすべきところである。にもかかわらず、「大部分の核種について1桁以内となっており、両者の値は、ほぼ同等であると言える」との旧原子力安全委員会の評価をそのまま妥当とするのは国民の生命・健康を軽視するものである。
—– 意見(2) ————————————————
放射能濃度についての確認を受けようとする物に含まれる放射性物質の放射能濃度の測定及び評価の方法に係る審査基準 新旧対照表(p.11左1~5行)について 「イ:放射能濃度確認対象物の汚染が表面汚染のみであって建屋コンクリートのように部材が厚い場合には、決定される放射能濃度が過小評価とならないように、適切な厚さ(5cm程度)に応じた当該対象物の重量をもとに放射能濃度の決定が行われていること」とあるが、「表面汚染のみ」または「表面汚染が支配的である場合」には、評価厚さ[cm]によって換算核種濃度[Bq/g]が異なることから、コンクリートを例にあげて「適切な厚さ(5cm程度)」としているが、核種濃度[Bq/g]と表面汚染[Bq/cm^2]を重畳的に規制する基準が必要ではないか。特に、金属表面汚染とコンクリート表面汚染とでは比重が異なるため(鉄7.85g/cm^3、コンクリート2.3g/cm^3、鉄筋コンクリート2.45g/cm^3など)、「適切な厚さ(5cm程度)」で、一律には表面汚染を濃度に換算できないはずである。
IAEAのSRS No.44でも「This aspect has been intensively considered in several studies relating specifically to the clearance of material from nuclear installations. For the purpose of the generic derivation of activity concentration values, however, such factors cannot be taken into account. Therefore it has to be recognized that for specific situations such as the clearance of metal or the reuse of buildings from nuclear installations, additional criteria relating to the surface contamination may have to be applied that are not reflected in the derived activity concentration values. This may lead to a decision of the regulatory body not to release some material even if the activity concentration values are not exceeded for the bulk quantity.」(SRS No.44, p.20)とされており、重量濃度規制とは別に表面汚染を追加的に規制すべきだとされ、重量濃度規制を満足していても表面密度規制を満足していなければクリアランスしてはならないと指摘している。
たとえば、放射線管理区域からの物品持ち出し基準「ベータ・ガンマ核種に対し4Bq/cm^2未満」を満たす場合でも、核種濃度[Bq/g]=(表面密度[Bq/cm^2]×対象面積[cm^2])/(評価厚さ[cm]×対象面積[cm^2]×密度[g/cm^3])の換算式で評価厚さを5cmとすれば、表面密度4Bq/cm^2は、鉄の場合0.10Bq/g、コンクリートの場合0.35Bq/gの核種濃度に換算されてしまう。I-129のクリアランスレベルは0.01Bq/gだから、I-129の表面密度が4Bq/cm^2未満でもクリアランスされないが、Co-60のクリアランスレベルは0.1Bq/gなので、鉄でCo-60の表面密度が4Bq/cm^2未満でも、「5cm弱」ではクリアランスされず、「5cm強」でクリアランスされる可能性がある。
つまり、「適切な厚さ(5cm程度)」の根拠が曖昧であり、これでは表面汚染を規制したことにはならない。 したがって、重量濃度だけでなく、重量濃度と表面密度の両方でクリアランスレベルを定めるべきである。
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