意見1:福島第一原発炉心溶融事故を教訓とするのであれば、事故の原因と結果、国の責任について教訓を具体的に明らかにし、その教訓を活かすことを最優先とすべきである。したがって、第六次エネルギー基本計画の基本精神、すなわち、「安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。」を削除せずに残し、再生可能エネルギーを「主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組」むとの記述の中の「最優先の原則の下で」を削除せずにそのまま残し、再エネで原子力を速やかに置き換える方針をこそ示すべきである。また、「悲惨な事態」による直接の被害者である低線量被ばく者への医療費減免措置の段階的撤廃を中止し、原爆被爆者援護制度に倣い、健康手帳を交付して、将来にわたる医療保障を行うための法制度の整備を謳うべきである。
理由1:第7次エネルギー基本計画(案)の「はじめに」には、福島第一原発炉心溶融事故の原因と結果、原子力災害の甚大さと廃炉の困難な状況について、具体的には全く記載されていない。「II. 東京電力福島第一原子力発電所事故後の歩み」には、「東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、前述した我が国を取り巻く情勢変化も踏まえ、再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入する。その上で、今後も原子力を活用し続ける上では、安全性の確保を最優先とし、『安全神話』に陥って悲惨な事態を防ぐことができなかったという反省を一時たりとも忘れてはならない。」とは記載されているものの、なぜ、「悲惨な事態」を防ぐことができなかったのか、「反省」すべき事故の原因と国の責任が明らかにされていない。福島事故による「悲惨な事態」の具体的内容には一切触れられず、政府として「悲惨な事態」をどのように把握し理解しているのかも不明である。原子力災害に伴う放射線被ばくの被害は14年後のこれから将来に向けて顕在化する可能性が高いにもかかわらず、医療費等減免措置の段階的撤廃を進めるなど被災者切り捨て施策を進めており、「悲惨な事態」を隠蔽しようとする姿勢しか見えない。「福島復興」の名の下に「福島事故の隠蔽」が図られているとしか思えない。低線量被ばくの危険性を暴いた国際核施設労働者調査(INWORKS)の最新論文では、100mSv以下は元より50mSv以下の集団でも、被ばく線量に応じて固形がんが統計的に有意に増えていることが示されている。これを踏まえれば、福島事故被害者への医療保障を将来にわたって講ずるべきであり、「悲惨な事態」に真摯に向き合うべきである。さらに、デブリ除去などの廃炉作業が具体的に進む見通しはほとんどなく、ひとたび重大事故を起こせば数十兆円の経済的損失が生じることが明白であるにもかかわらず、福島事故を経験した日本で、福島事故による悲惨な事態を国内外に知らしめ、原子力推進に警鐘を発すべきところ、「原発依存度を低減する」のではなく、なぜ、「今後も原子力を活用し続ける」のか、その説明が全くない。
このように第7次エネルギー基本計画の基本的考え方が、福島事故を顧みない形で示され、第六次エネルギー基本計画の基本精神、すなわち、「安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。」を削除し、再生可能エネルギーを「主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組」むとの記述から「最優先の原則」を削除し、原子力を再エネと並べて、「今後、再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する。」へ大転換しようとしている。また、「既設炉の最大限活用」を新たに項立てし、「再稼働の加速に向け、原子力事業者を始めとした産業界は、『再稼働加速タスクフォース』の下に連携し、泊、大間、東通、女川、柏崎刈羽、東海第二、志賀、浜岡、敦賀及び島根において、原子力規制委員会による設置変更許可等の審査への適切な対応、使用前事業者検査の的確な実施、現場技術力の維持・向上を進める。国も、事業者間の協力強化等を指導していく。」としている。しかも、原子力規制委員会発足の大前提であった「原則40年で廃炉、例外としての1回限りの20年延長」には全く言及せず、「原子力発電所の運転期間については、GX脱炭素電源法に基づき、運転期間に最長60年という上限を設ける従来の枠組みは維持しつつ、利用政策の観点から、原子力事業者から見て他律的な要素により停止していた期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外することを認める新たな制度が整備された。」とし、既定路線として「40年超運転」だけでなく、「60年超運転」もGX方針を追認する形で導入している。これらは、福島事故を顧みず、フクシマを繰り返すことを厭わない暴挙である。
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