原子力規制委員会は7月17日から8月15日まで、川内原発1・2号の審査書(案)に対する意見募集を行っています。しかも、「科学的・技術的意見」という限定付です。原発再稼働を進めようとする電力会社や原子力メーカーなどはこのような限定があろうとなかろうと、意見募集があろうとなかろうと、関係なく、ありとあらゆる手段で原子力規制委員会に意見を出し、圧力をかけ続けています。一般国民にはこのような機会にしか意見を述べることはできません。にもかかわらず、なぜ、このような限定を課すのでしょう。とても、「原発推進行政から独立した委員会」のやることとは思えません。国民の過半数は再稼働に反対であるとの世論調査が何度も出されている中、その国民の声を封じ込めようとするのは、「国民の世論をバックに再稼働推進勢力による不当な圧力を跳ね返すべき、本来あるべき原子力規制委員会」にとって自殺行為です。
川内1・2号の基準地震動について、私は下記2つの意見を本日提出しました。原子力規制委員会・原子録規制庁に残されている「良識」に期待したいと思います。
2014年8月14日 長沢啓行(若狭ネット資料室長、大阪府立大学名誉教授)
p.18III-1.1基準地震動3.震源を特定して策定する地震動について
市来断層帯市来区間などの活断層による地震について耐専スペクトルおよび断層モデルによる地震動評価をやり直すべきである。
耐専スペクトルについては、このスペクトルが策定された当時は内陸地殻内地震の観測記録が少なく、とりわけ、震源近傍ないし近距離での観測記録がほとんどなかった。最近20年間に収集された観測記録等に基づき、耐専スペクトルを再構築すべきである。原子力規制庁は7月29日の市民団体との話し合いで、耐専スペクトルが震源近傍ないし近距離で過小評価になっていることを認め、また、日本電気協会が耐専スペクトルの見直しを検討していること、原子力安全基盤機構JNESの原子力規制庁への統合を機に研究部門を引き続き強化していくことを表明した。そうであれば、なおさら、最新の観測記録に基づき、また、M6.5で1340ガルと算出したJNESの断層モデルによる地震動評価結果で地震観測記録の不足を補い、耐専スペクトルを構築し直すべきである。その上で、市来断層帯市来区間などによる地震動評価をやり直すべきである。また、耐専スペクトルは観測記録の平均的なレベルを表すに過ぎず、倍半分の偶然的なバラツキがある。これを考慮して、耐専スペクトルを2倍以上へ大幅に引き上げるべきである。
断層モデルについては、パラメータの過小設定をやめ、地震動評価をやり直すべきである。1997年5月13日鹿児島県北西部地震の地震モーメントをいくつかある数値のうち最小の値を用いてアスペリティ平均応力降下量を15.9MPaと設定しているが、これは通常の未飽和断層に対するレシピによる値(15.6MPa)と大差なく、経験的グリーン関数法で用いられた要素地震の21.02MPaよりかなり小さい。ところが、the Global CMT project による地震モーメントを用いれば、1997年5月13日鹿児島県北西部地震のアスペリティ応力降下量は25.1MPaになる。要素地震の地震モーメントもthe Global CMT project による値を用いており、これと整合性をとる上でも、同じ機関の地震モーメントを用いるべきであり、地震動評価を行う基本ケースとして25.1MPaを用いるべきである。原子力規制委員会が「より保守的な震源特性パラメータの設定」だとする一つの根拠は市来断層帯市来区間等の活断層による地震の地震モーメントの値がレシピよりも大きいことを指していると思われるが、これはアスペリティ面積と断層面積の比を36.4%と経験値から大きく外れた異常値に設定し、断層平均応力降下量を5.8MPと大きく逆算した結果であり、見かけ上、地震モーメントが大きく算定されているにすぎない。ところが、1997年5月13日鹿児島県北西部地震のアスペリティ面積を少しだけ小さくして、アスペリティ応力降下量を25.1MPa、アスペリティ面積/断層面積比を22%とすれば、断層平均応力降下量は5.5MPaとなり、経験的に妥当なレベルになる。したがって、これを「基本ケース」としてさらに不確かさを考慮し、基準地震動を策定し直すべきである。
また、原子力規制庁は事業者とのヒアリングの場でこっそりアスペリティ応力降下量を25.1MPaとする地震動評価を6月4日の事業者ヒアリングでこっそり行っていた。ところが、公開資料には短周期側の地震動評価結果は存在しない。1997年5月13日鹿児島県北西部地震の本震と余震の相対関係が変わらないことから、経験的グリーン関数による短周期側の地震動評価では、地震モーメントを大きくしても結果は変わらないと九州電力は主張している。確かに当該余震を要素地震とする1997年5月13日鹿児島県北西部地震に関する評価結果は変わらないが、市来断層帯市来区間など活断層の評価で用いられている要素地震は1984年8月15日九州西側海域の地震であり、この地震モーメントはthe Global CMT project による値であり、菊地・山中とは無関係である。したがって、本震と余震の相対関係が同じという九州電力の主張はこれらの活断層による地震動評価では成立たず、応力降下量の比が15.9/21.02から25.1/21.02へ1.58倍に大きくなる。この1.58倍の影響を長周期側だけについて検討しているが、短周期側でも検討すべきである。そもそも、このような九州電力の誤った主張が通るのであれば、応力降下量を1.25倍に引き上げた不確実さの考慮でも地震動評価結果は変わらなかったはずであり、この単純な事実になぜ気付かなかったのであろうか。
原子力規制庁から提出された資料は下記(pdfはこちら):
九州電力株式会社「川内原子力発電所 基準地震動の策定について(補足提出データ・資料)」,川内発電所1、2号機の地震等に係る新基準適合性審査に関する事業者ヒアリング(35),資料番号TC-C-064(2014.6.4)
p.19III-1.1基準地震動3.震源を特定せず策定する地震動について
原子力安全基盤機構JNESは2001-2009年報告書において、通常のレシピとは異なる断層モデル(未飽和断層の断層平均応力降下量3.06MPa、アスペリティ平均応力降下量(最大)19.1MPa、高周波遮断特性(最大)fmax=11.9Hz)を用いて「震源を特定せず策定する地震動」を検討し、M6.5の地震により震源近傍で1340.4ガルの地震動が起きると算定している。原子力規制庁も7月29日の市民との話し合いで、このような地震動が「確率は低いけれども起こりうる」と認めた。しかし、「すでに発生した地震の地震観測記録なら取り入れるが、このような地震動は実際にはまだ起きていないから採用しない」と主張した。ところが、このJNESの報告書は、加藤ら(2004)の上限レベルが非常に少ない観測記録に基づいており、「加藤らが地震の発生をあらかじめ予測できるとして他の地震観測記録を除外した基準」も曖昧であることから行われたものであり、地震観測記録の不足を補うという重要な意味を持っていた。現在、震源を特定しにくい地震の検討対象として最近十数年間に起きた16地震が列挙されているが、これ自体がごく最近のデータにすぎず、依然としてデータの欠落は著しい。地震観測網が拡充された今、今後十数年間でさらに大きな地震動が観測されることは疑いないが、それを待っていては、後手、後手に回って遅いと言えるし、福島第一原発重大事故の教訓を無視するものと言える。地震観測記録の不足を補うために、JNES報告書にある1340.4ガルの地震動を「震源を特定せず策定する地震動」として採用すべきである。それでも、「このような地震動が起こらない限り採用しない」と主張し続けるのであれば、「15.7mの津波を算定しながら、それへの対策を全くとらなかった」東電幹部の過ちを原子力規制委員会・原子力規制庁が今度は地震動評価で繰り返すことになる。これは、原子力規制委員会による重大な瑕疵につながると言えよう。1340.4ガルをM6.5の震源近傍で算定しているのであるから、それが原発直下で起きる前に「震源を特定せず策定する地震動」として取り入れるべきである。
ちなみに、JNESの断層モデルでは、まず、気象庁マグニチュードを定め、地震モーメントに換算し、通常の入倉式(2001)ではなく国内地震データに基づく武村式(1998)で地震モーメントから断層面積を通常より小さく求め、断層平均応力降下量を3.06MPaと通常(2.31MPa)より大きく算出し、アスペリティ面積/断層面積比を22%プラス・マイナス6%としてアスペリティ平均応力降下量を19.1MPa(最大)という通常(15.6MPa)より大きい値も設定している。しかも、この断層モデルの妥当性については、国内の地震観測記録との整合性で詳細に検討している。つまり、通常のレシピによる断層モデルではこれらの観測記録と整合せず、震源近傍の地震動を過小評価することになるため、JNESは未飽和断層に対してではあるが、独自に通常とは異なる断層モデルを構築したものと推察される。原子力規制委員会は、このような検討を通常のレシピによる断層モデルに対して行うべきである。特に、断層長さから松田式で算出した地震規模と断層面積から入倉式で算出した地震規模とが全く整合していないという現実を直視し、国内活断層(飽和断層)について地震学界で広く使われている松田式による地震規模で断層モデルを構築し直すべきである。