若狭ネット

福井と関西を結び脱原発をめざす市民ネットワーク

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若狭ネット資料室(室長 長沢啓行)
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05月

川内1・2号の地震動過小評価の仕組み(一部訂正)

先に、川内1・2号の地震動過小評価は「九州電力が菊地・山中(1997)論文を曲解している」と書きましたが、誤解がありました。詳細は下記の通りです。(元データ付のpdfはこちら

2014年5月23日
菊地・山中(1997)論文の地震モーメントについて
若狭ネット資料室長 長沢啓行

原子力規制委員会・原子力規制庁へ提出していた5月19日付緊急要請文および5月15日付「川内1・2号の地震動評価等に関する緊急公開質問状」において、菊地・山中(1997)論文に関し修正すべき点が判明しました。それは、「九州電力が菊地・山中(1997)論文を曲解している」という主張についてです。
本論文の第一著者の菊地氏はすでに亡くなっていますが、第二著者の山中氏から第三者を通じて元データの提供を受けました。それによると、1997年5月13日鹿児島県北西部地震の地震モーメント0.90×1018Nmは、二つの断層の地震モーメントの総和になっていました。これまで「東西断層の破壊過程に関連して時間的に重なっている南北断層による地震のモーメントが一部加算されたものであり、東西と南北の全体の地震モーメントではない可能性がある」と主張してきましたが、間違いでした。別紙の通り、元データには東西断層と南北断層のCMT解のほかにTotal(全体)のCMT解が示されており、本来であれば、論文中にTotalのCMT解および東西と南北の共役な断層に関する震源パラメータが記載されてしかるべきところ、Totalの東西方向のパラメータだけが記載されていたため、誤解が生じたものです。また、論文中では断層面積が10km×5kmと記されていましたが、、5km×5kmの断層が東西方向と南北方向に一つずつ存在し、その合計として10km×5kmと示されていたことも判明しました。これは論文中の図3に描かれている断層図面(東西がほぼ10km×5kmに描かれており、南北はその半分程度)とは整合しませんので、余計に誤解を生むことになりました。なぜ、断層面積と異なるこのような図が描かれたのかは不明です。以上より、「九州電力が菊地・山中(1997)論文を曲解して1997年5月13日鹿児島県北西部地震の地震モーメントを過小に設定した」という可能性はなくなりました。
他方、原子力規制庁は、1997年5月13日鹿児島県北西部地震の地震モーメントとして、
(1) 菊地・山中(1997)                0.90×10^18Nm (MW5.9)、
(2) 九州大学理学部島原地震火山観測所(1997)  1.2 ×10^18Nm (MW6.0)、
(3) 防災科学技術研究所 F-Net            1.22×10^18Nm (MW6.0)、
(4) the Global CMT project               1.42×10^18Nm (MW6.0)、
(5) 気象庁CMT解                    2.17×10^18Nm (MW6.2)
の5種類を収集しています。それぞれ、元になる地震観測データとデータの処理法が異なるため違った結果が出ていますが、九州電力はこれらのうち最小となる(1)の値を採用しています。

5月21日の大飯3・4号の運転差し止めを命じた福井地裁判決が述べているように、基準地震動を超える地震が過去に4原発で5回に及び、基準地震動の過小設定は明らかです。あらゆる可能性を考慮して、考え得る限りの最大規模の地震・津波を想定すべきところ、九州電力は最小の地震モーメントを選んで地震動評価にとって最も大事な応力降下量を最小の値に設定しているのです。「論文の曲解による地震規模過小設定」の疑惑は晴れましたが、「数あるうちの最小の地震規模を選択して地震動を過小評価している」という事実は変わりません。この点については、引き続き、追及していきたいと考えています。

福井判決を機に、5月23日に緊急要請文を提出し、改めて5月15日付け緊急公開質問状への回答を求めることにしました。その際に、5月19日付け緊急要請文の要請項目(1)および5月15日付け緊急公開質問状における質問項目1を一部修正することにしました。(緊急要請文はこちら 緊急公開質問状はこちら 呼びかけはこちら
この緊急要請文と緊急公開質問状への賛同は2014.5.23現在 88団体、416個人に上りますが、さらに拡大して原子力規制委員会・原子力規制庁に誠意ある回答を求めていきたく存じます。引き続き、変わらぬご支援、ご協力をお願い申し上げます。

川内1・2号で九州電力が引用論文を曲解し地震動を過小評価

(下記の記載内容のうち菊地・山中(1997)論文の評価についてミスがあり、5月23日のブログで訂正しましたので、詳しくはこちらをご覧ください

川内1・2号で九州電力が引用論文を曲解して地震動を過小評価していることが分かりました。引用されたのは菊地・山中(1997)の論文であり、問題となっているのは「1997年5月13日鹿児島県北西部地震の地震モーメント(地震規模を表す)の値」です。同地震は南北断層と東西断層が数秒の時間遅れで連続的に破壊したのですが、東西断層の破壊過程では南北断層の後段の破壊過程も重なっており、東西断層の地震規模が大きく見えるのです。菊地・山中(1997)はこの東西断層の破壊過程に関する震源パラメータとして速報的に記述していたのですが、九州電力はこれを全体の地震規模だと曲解したのです。これに基づいて、川内1・2号周辺の活断層による地震の震源パラメータが設定されているため、自動的に地震動が過小評価されるに至ったというわけです。

実は、この問題は2008年の原子力安全・保安院および原子力安全委員会による新耐震指針バックチェックでも見逃された問題であり、当時審査を担当した原子力安全・保安院の職員が、今は原子力規制庁の職員として審査に加わっているのです。自分が犯した過ちを自分で暴き出すという「勇気」が彼らにあるのでしょうか?国会事故調の指摘した「規制の虜」状態から原子力規制委員会が本当に脱却できるのかどうかの試金石です。どのように対処するのか、じっくり見守りたいと思います。

詳しい解説はこちら:「川内1・2号の耐震安全性は保証されていない」(2014年5月6日) 長沢啓行(大阪府立大学名誉教授)

注:川内2号のクリフエッジは1,220ガルではなく1,020ガルでした。読者の方のご指摘で、原典からの転記ミスであることが判明しました。謹んでお詫びし、訂正致します。ニュース小論も訂正しております。(2014.8.6若狭ネット資料室長 長沢啓行)

緊急公開質問状はこちら:川内1・2号の地震動評価等に関する緊急公開質問状(2014年5月15日)

緊急抗議・要請文は下記の通り(pdfはこちら

2014年5月19日
原子力規制委員会委員長
田中 俊一 様

回答拒否に厳重抗議し、川内1・2号の地震動評価やり直しを求めます

私たちは5月15日に「川内1・2号の地震動評価等に関する緊急公開質問状」を提出し、「5月26日交渉(回答を受け質疑を交わす場)」を求めましたが、原子力規制庁より「『審査中の案件についてはお答えできない』ので応じられない」との返事が翌日ありました。しかし、審査中であった高浜3・4号、大飯3・4号および川内1・2号の地震動評価に関する3月18日交渉には応じており、事実に反します。もっとも、3月18日交渉では原子力規制庁担当者による回答が全く不十分であり、ほとんど「沈黙」状態に陥ったため、「3月31日再交渉」を求めたところ、今回と同様の「回答拒否」でした。相次ぐ「回答拒否」は、原子力ムラから独立し、国民の安全確保の立場に立つべき原子力規制委員会のあり方として、極めて由々しきことであり、厳重に抗議いたします。
私たちは今回の緊急公開質問状で、「震源パラメータ推定の元になった論文を九州電力が曲解したため、川内1・2号周辺の活断層による地震動が過小評価されている」という重大な事実を指摘しています。しかも、この問題は、2008年の新耐震指針バックチェック時に行われた原子力安全・保安院および原子力安全委員会における審議会合でも見逃されており、根の深いものです。当時の関係職員が原子力規制庁職員として今回の審査に当たっており、「当時下した誤った判断を自ら覆すことはできないのではないか」と、私たちは危惧しています。同じ「瑕疵」を原子力規制委員会で繰り返すことは許されません。
そこで、緊急に以下の要請を行いますので、真摯に対応して頂くようお願い申し上げます。

(1) 川内1・2号で活断層による地震の震源パラメータを設定する際、九州電力が菊地・山中(1997)論文を曲解していることを原典で確認してください。すなわち、①1997年5月13日鹿児島県北西部地震は「最初に破壊した南北断層」と「数秒遅れで破壊した東西断層」の2つで構成されていること、②菊地・山中(1997)論文に記載された「余震」の震源パラメータは東西断層に関するものであること、③その地震モーメントには、東西断層の破壊時間帯に重なった南北断層のモーメントが一部含まれてはいるが、1997年5月13日鹿児島県北西部地震の全モーメントを示すものではないこと、④九州電力は、この東西断層の破壊過程に関連した「余震」の地震モーメント0.90×10^18Nm(MW5.9)を1997年5月13日鹿児島県北西部地震の全体の地震モーメントだと曲解し、the Global CMT project による1.42×10^18Nm(MW6.0)や九州大学理学部島原地震火山観測所(1997)による1.2×10^18Nm(MW6.0)と比べてかなり小さく設定していることを確認して下さい。

(2) 川内1・2号の断層モデル(経験的グリーン関数法)による地震動評価に際して、九州電力は、要素地震の応力降下量21.02MPaを the Global CMT project による地震モーメントで算出しており、1997年5月13日鹿児島県北西部地震の応力降下量についても、過小評価を避けるため the Global CMT project による地震モーメントを用いれば、今の15.9MPaから25.1MPaへ約1.6倍になることを確認して下さい。

(3) 周辺活断層の震源パラメータにおけるアスペリティ平均応力降下量を25.1MPaに設定し直して、川内1・2号の断層モデルによる地震動評価を一からやり直してください。

(4) 川内1・2号に関する審査書(案)ができ次第、5月15日付緊急公開質問状への回答を受ける交渉の場を可能な限り速やかに設定して下さい。

呼びかけ団体:川内原発建設反対連絡協議会、川内つゆくさ会、反原発・かごしまネット、まちづくり県民会議、川内原発活断層研究会、東電福島原発事故から3年-語る会、さよなら原発:アクションいぶすき、原発ゼロをめざす鹿児島県民の会、かごしま反原発連合有志、原子力発電に反対する福井県民会議、サヨナラ原発福井ネットワーク、原子力資料情報室、若狭連帯行動ネットワーク(事務局担当)

賛同団体・個人: 2014.5.15現在 84団体、380個人(5月15日付緊急公開質問状に記載)