若狭ネット

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12月

伊方3号の基準地震動について松山地裁へ意見書を提出しました

伊方訴訟(四国電力株式会社に対する伊方原発運転差止請求事件)における地震動評価問題で松山地方裁判所民事第2部へ意見書を提出しました。
これは、2013年12月26日に提出した意見書に続き、原子力規制委員会の審査書が確定した現段階で、私の意見を取りまとめたものです。
福井地裁では2日前(2015年12月24日)に高浜3・4号の運転差止仮処分命令が取り消され、大飯3・4号と高浜3・4号のいずれについても運転差止仮処分申請が却下されましたが、極めて不当な決定です。
その翌日、私は当該決定へ批判文書を取りまとめ、若狭ネットニュース第158号に投稿しました。詳しくはそちらをご覧下さい。(pdfはこちら
この意見書は伊方3号に即した内容ではありますが、その大部分は当該決定への根底からの批判にもなっていると自負しています。
意見書pdf版はこちら 図表等の別冊はこちら (一部の数式等が表示されない場合には、再読込をして下さい)

「伊方3号の基準地震動は過小評価されている」
2015年12月20日
大阪府立大学名誉教授 長沢啓行 

[要旨]
原子力規制委員会は2015年7月15日,四国電力の伊方3号の原子炉設置変更許可(いわゆる再稼働認可)処分を行った.耐震設計の元になる基準地震動(水平方向)は,2013年7月8日申請時の570ガルから650ガルへ引上げられ,620ガルの「2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の解放基盤波」等が「震源を特定せず策定する地震動」による基準地震動として採用された.
しかし,依然として基準地震動は著しく過小評価されている.
「敷地前面海域断層群69km北傾斜モデル」には耐専スペクトルを適用しながら,「69km鉛直モデル」には耐専スペクトルが「適用外」とされ,耐専スペクトルの地震観測記録との2倍以上の差を考慮していない.
基本震源モデルとして敷地前面海域断層群(中央構造線断層帯)480kmを採用しながら,その断層モデルでは,応力降下量や短周期レベルを過小に設定して地震動を過小評価している.
その結果,断層モデルによる480kmモデルの地震動評価結果は,69km北傾斜モデルの耐専スペクトルより小さく,2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の解放基盤波と比べても小さくなっている.
原子力規制委員会は,この事実を知りながら,耐専スペクトルの「適用外」を認め,断層モデルのパラメータ設定の誤りに気付くことなく,再稼働許可を出したのである.
地震動評価を正しく行えば,基準地震動は伊方3号の「855ガルのクリフエッジ(炉心溶融事故へ至るギリギリの地震動)」を超える.再稼働どころか,伊方3号には廃炉こそがふさわしい.
1984年の伊方3号増設申請時から2013年7月の再稼働申請時点までの各段階において,敷地前面海域断層群の地震動を耐専スペクトルや断層モデルで評価する際に四国電力が行ってきた巧妙な過小評価の手口については,先の意見書(甲107)[38]で詳述した.
基準地震動に関する原子力規制委員会の審査が終了したことを受け,本意見書では,原子力規制委員会による「調査審議及び判断過程が適正を欠くものとうかがわれる事情」および「看過し難い過誤,欠落」に焦点を当てた.
その典型例として,四国電力が地震動評価手法を誤って適用し基準地震動を過小に策定していること,原子力規制委員会もその誤りに気付かず,または,パブリックコメント等で指摘されながら対応を不当にサボタージュし続けていることを具体的に示した.
基準地震動は「震源を特定せず策定する地震動」と「震源を特定して策定する地震動」で構成されるため,それぞれに分けて詳述した.
(1)「震源を特定せず策定する地震動」として,「2004年北海道留萌支庁南部地震M6.1の解放基盤波」が採用されている.
ところが,この留萌支庁南部地震においては,地震計の設置不足を補うため,地域地盤環境研究所が震源断層モデルを用いて地震観測点以外の震源域内での地震動を再現解析しており,その最大値は地震観測記録の1.8倍になる.
これを考慮すれば,留萌支庁南部地震の解放基盤波は1,100ガル程度になり,伊方3号のクリフエッジ855ガルを超える.
さらに,原子力安全基盤機構JNES(現在は原子力規制庁)は国内の地震観測記録を反映した独自の断層モデルによる地震動解析を行い,M6.5の横ずれ伏在断層で1,340ガルの地震動が起こることを明らかにしている.
これを基準地震動に採用すれば,伊方3号のクリフエッジを一層大きく超える.
(2)「震源を特定して策定する地震動」の基本震源モデルとして,敷地前面海域断層群(中央構造線断層帯)480kmが採用され,耐専スペクトルと断層モデルによる地震動評価がなされているが,いずれも過小評価になっている.
(2a)650ガルの基準地震動Ss-1Hを規定しているのは69km北傾斜モデルに対する耐専スペクトル(内陸補正なし)だが,69km鉛直モデルについては耐専スペクトルが「適用外」とされている.
これは,前者が650ガル弱で855ガルのクリフエッジを下回る一方,後者では900ガル程度となってクリフエッジを超えるからである.
また,ここには最近20年間の震源近傍での地震観測記録は反映されておらず,現在見直し作業中であり,改定後の耐専スペクトルを用いるべきである.
さらに,耐専スペクトルは平均的な応答スペクトルにすぎず,地域差以外の偶然変動によるバラツキをも考慮すれば,少なくとも2倍の余裕を持たせるべきである.
そうすれば,69km鉛直モデルで1,800ガル程度,北傾斜モデルでも1,300ガル弱になり,いずれにおいてもクリフエッジを超える.
(2b)断層モデルによる地震動評価は69km鉛直モデルの耐専スペクトル(内陸補正なし)の1/2程度と小さく,明らかに過小評価である.
四国電力は,断層幅を15kmと仮定した壇ら(2011)の手法を「平均断層幅12.7kmの480kmモデルにそのまま用いる」という誤りを冒しており,壇らの回帰線から外れてしまっている.
壇らの用いた国内9地震の平均断層幅が12.0kmであることから,回帰線に載るように断層幅を12kmとして応力降下量を調整すれば,応力降下量は(Δ;Δa)=(3.4MPa,12.2MPa)から(4.3MPa,19.5MPa)へ1.6倍に増え,短周期レベルも1.6倍になり,地震動評価結果は900ガル程度になってクリフエッジを超える.
これは断層モデルによる平均像の評価であり,「地域性とは異なる偶然変動」を考慮していないことから,要素地震の波形を少なくとも2倍にするなど余裕を持たせる必要がある.そうすれば,断層モデルにおいても1,800ガル程度の地震動評価が得られることになろう.
(2c)これらは,原子力安全基盤機構の独自の断層モデルによる1,340ガルの地震動解析結果とも,2008年岩手・宮城内陸地震の地中地震計による1,078ガル(3成分合成,基準地震動と同じ解放基盤表面はぎとり波相当で約2,000ガル)の地震観測記録等とも整合している.
つまり,「震源を特定せず策定する地震動」と「震源を特定して策定する地震動」のいずれにおいても過小評価されており,最新の知見に基づいて基準地震動を保守的に策定し直せば,伊方3号のクリフエッジを大きく超えることは避けられない.
以上のように,四国電力は基準地震動を過小に策定しており,原子力規制委員会はこれを追認し,基準地震動見直しのための対応をサボタージュし続けている.これは重大な瑕疵だと言える.
「15.7mの津波」を試算しながら経済的利益のためにこれを無視した東京電力,貞観津波の危険性に気づきながらこれを放置した原子力安全・保安院および原子力安全委員会−−−これらの過ちを繰り返してはならない.
フクシマを教訓として,再度の原発重大事故による人格権侵害を未然に防ぐため,司法に課せられた責任は重い.