伊方訴訟(四国電力株式会社に対する伊方原発運転差止請求事件)における地震動評価問題で松山地方裁判所民事第2部へ意見書を提出しました。
「伊方原子力発電所の耐震安全性は保証されていない」
大阪府立大学名誉教授 長沢啓行
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要旨
1 緒言
2 1984 年設置変更許可申請と1997年基準地震動再検討
3 2001 年のアスペリティを考慮した非一様断層モデルの評価
4 2001 年中央構造線断層帯の長期評価に伴う2003年中間報告
5 耐震設計審査指針改定に伴う2008年中間報告
5.1 レシピに基づく断層モデルと四国電力による修正
5.1.1 敷地前面海域の42kmモデル
5.1.2 石鎚山脈北縁西部-伊予灘の130kmモデル
5.1.3 2008年の修正レシピを適用した場合
5.2 耐専スペクトルと距離減衰式による応答スペクトル
6 2013年3号炉設置変更許可申請における耐震性評価
6.1 耐専スペクトル
6.2 断層モデル
6.2.1 敷地前面海域の断層群54km モデル
6.2.2 中央構造線480kmモデル
7 強震観測記録による耐震性の確認
8 結言
意見書の要旨:
伊方原子力発電所の耐震設計において四国電力による地震動過小評価には目に余るものがある.それは原子力ムラに共通したものであり,その縮図でもある.原子力規制当局は「規制の虜」となって,これに迎合し,安全の「お墨付き」を与えてきた.本小論では,伊方3 号炉の1984 年設置変更許可申請書以降の四国電力による地震動過小評価への批判を通して,それを具体的に明らかにした.
第1に,四国電力は当初,敷地前面海域の断層群25kmの地震動評価結果をベースに設計用基準地震動S2を設定していたが,岡村の調査で「この断層群が1万年前以降に活動しており基準地震動S1の対象である」ことが判明したことから,1997年に基準地震動を見直した.ところが,「S1を従来のS2に引き上げ,S2をさらに余裕を持って引き上げる」べきところ,同じ断層群の中で「46kmをS1対象,より短い25kmをS2対象」とし,「S1を少し引き上げてS2を変更なし」とした.四国電力は作為的に地震動を過小評価しており,これを通商産業省資源エネルギー庁が了承したのは,明らかに瑕疵である.
第2に,1997年の基準地震動再評価時に,四国電力はSomerville et al.(1993)の論文を引用し,日本国内と北西アメリカとで断層パラメータに大きな違いがあることを認識していたが,同じ断層面積では地震規模が1/3程度に小さくなる北西アメリカの経験式を用いて地震動を過小評価した.その後も,国内と海外とで地震データの断層パラメータに食い違いがあることが示されたにもかかわらず,四国電力など電力会社や原子力安全規制当局はこれを無視し,海外地震データに基づいて地震動を過小評価し続けた.これは,犯罪的であり,不作為の瑕疵と言える.
第3に,2003年の地震調査研究推進本部による中央構造線断層帯の長期評価結果を受け,四国電力は130kmモデルの地震動評価を行ったが,断層平均応力降下量を無限長垂直横ずれ断層モデルで過小設定し,地震動を過小評価した.
第4に,2006年耐震設計審査指針改訂を受け,四国電力は2008年にバックチェック中間報告を出し,断層モデルのレシピと耐専スペクトルによる地震動評価を初めて行ったが,いずれも地震動を過小評価していた.北米中心の地震データに基づく断層モデルのレシピを国内の活断層にそのまま適用すると地震規模が過小評価されることを知りつつ,それを適用し,地震調査研究推進本部が広く用いている松田式で求めた地震規模より1/2~1/5程度に小さく設定した.さらに,応力降下量を楕円クラックモデルで過小設定し,断層モデルのレシピからさらに過小となるように地震動評価を行った.
130kmモデルではカスケードモデルを用いて地震規模を過小算定し,規制当局から通常のスケーリング則に基づいて評価するよう指示された際には,応力降下量を楕円クラックモデルから無限長垂直横ずれ断層モデルに切り替えて,地震動を過小評価した.
耐専スペクトルでは,松田式で地震規模Mを求めるべきところ,断層モデルの地震規模Moを用い,さらに,簡略化したMo−M換算式を用いてMの値を1/4程度に過小算定し,地震動を大幅に過小評価した.また,近距離地震に対しては適用範囲外だとして無視し,保守的参考値としても採用しなかった.
第5に,2013年の伊方3 号炉設置変更許可申請書では,敷地前面海域の断層群54kmを基本モデルとしたが,耐専スペクトルでは,2008年バックチェック時に1.5倍の震源特性を考慮するため内陸補正をしなかったにもかかわらず,内陸補正を行って地震動を過小評価し,54km・90度モデルは適用範囲外として採用しなかった.本小論では,四国電力が参考値として示した54km・90度モデルや69km・90度モデルの耐専スペクトルによれば,1.5倍の震源特性を考慮した(または内陸補正を行わない)耐専スペクトルが基準地震動Ssを大きく超えることを明らかにした.断層モデルでも,松田式で地震規模を算定し,楕円クラックモデルの適用をやめ,スラブ内地震を要素地震に用いた問題点を補えば,地震動が基準地震動Ssをはるかに超えることを明らかにした.
第6に,2013年申請時に、四国電力は480km連動ケースを基本モデルとして再検討しているが,そこでは,断層モデルとして壇ら(2011)のモデルを用い,Fujii-Matsu’ura(2000)のモデルを傾斜ケースで用いている.壇らのモデルは,結果として,国内地震データに基づく武村式と海外データが中心の長大断層に対するMurotani et al.(2010)の式に接するように作成された経験式になっており,Fujii-Matsu’ura のモデルは武村式と長大断層に対するScholz(2002)の式に接するように作成された経験式になっている.本小論では,いずれにおいても北米中心の地震データに基づく入倉式とはかなりずれていること,これは国内の地震データに基づいて適用すべき断層モデルを構築し直さなければならないことの証左であることを明らかにした.また,壇らは,Irie et al.(2010)による動力学的断層破壊シミュレーションの解析結果を地震データで回帰して,応力降下量をΔσ=3.4MPa,Δσa=12.2MPaと導き,四国電力はそのまま用いているが,これは過小評価である.本小論では,正しく回帰すればΔσ= 4.3MPa, Δσa=19.5MPaにすべきことを明らかにした.傾斜ケースについても,四国電力は応力降下量をFujii-Matsu’ura からΔσ= 3.1MPaとしながら,断層モデルのレシピに従うのであればΔσa=3.1/0.22=14.4MPaとすべきところ,アスペリティ面積を大きく設定し,Δσa=3.1/0.276=11.2MPaと意図的に小さく設定していることを明らかにした.
最後に,本小論では,2008年岩手・宮城内陸地震の地下で1000ガルを超える地震波を解放基盤表面はぎとり波に換算すれば2000ガル程度にもなり,伊方原発は耐えられないことを示した.
断層モデルの妥当性は,結局,実際の地震データで検証するしかないが,巨大な地震が起きてからでは取り返しがつかない.フクシマ事故を教訓とし,予防原則の立場に立ち,起こりうる最大限度の地震動を想定し,耐えられない原発は閉鎖すべきである. 伊方原発はその最たるものである.