経団連による1月16日の提言=「電力システム改革貫徹のための政策小委員会(貫徹小委)」の中間取りまとめに対する提言を受け、9つ目の意見を出しました。経団連は「原発再稼働が進まない中では、非化石電力が不足し、電気料金全体の上昇の懸念があるとして、平成29年度の市場創設には反対」(産経新聞2017/1/16)しているようですが、これは原発が再生可能エネルギーの普及を妨げているからです。それを指摘するための意見を下記のように提出しました。
「2.5. 非化石価値取引市場の創設」(pp.11-15)について
非化石価値取引市場の創設については、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(以下、「高度化法」という。)により、小売電気事業者は、自ら調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められている。(中略)取引所取引の割合が比較的高い新規参入者にとっては特に、非化石電源を調達する手段が限定される状況になっており、高度化法の目標達成が困難な面がある。」(p.11)ことから、「(1)非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで、小売電気事業者の非化石電源調達目標の達成を後押しするとともに、(2)需要家にとっての選択肢を拡大しつつ、FIT制度による国民負担の軽減に資する、新たな市場である非化石価値取引市場を創設することが適当である。」(pp.11-12)とされている。後者の(2)については市場の設計と運用次第で国民負担軽減に寄与すると期待されるが、前者の(1)は政府のエネルギー基本計画に強く依存しており、再生可能エネルギーを大幅に拡大するように変更しない限り、実現できない。
とくに、「非化石証書に関して、その由来する非化石電源種は再生可能エネルギー、原子力が考えられる」(p.13)としているが、「震災前の設備利用率で廃炉になっていない全原発が稼働する」ことを想定した上で再生可能エネルギーの「接続可能量」が毎年設定されており、これを超える場合には「無制限の出力制限」が行われるため、再生可能エネルギー開発事業者は再エネの設置拡大を抑制せざるを得ない状況に置かれている。原子力については、国民の過半数が再稼働に反対しているにも係わらず、原子力が再生可能エネルギーの拡大を政策的に抑制しているのである。
原子力を非化石電源種と見なして「非化石証書」の発行を認めるのは、再生可能エネルギーの普及拡大を妨げるものであり、原子力を「非化石証書」の対象から外すべきである。そして、原子力が再生可能エネルギー普及の桎梏となっている現状を打開するため、エネルギー基本計画を抜本的に改定し、2030年の原子力の比率をゼロにするよう勧告すべきである。そうしない限り、再生可能エネルギーの抜本的拡大は望めないし、「非化石証書」が「非化石電源比率を2030年度に44%以上にする」目標達成に寄与することもできない。
原子力は、発電時にCO2を出さないとされるが、核燃料サイクル全体ではかなりの電力を消費しCO2排出源にもなっているし、発電すれば確実に極めて危険な「死の灰」や超ウラン元素が生み出される。この「負の遺産」はCO2以上に深刻な環境破壊をもたらす源泉であり、福島第一原発事故のように原発重大事故の際には直接的な原子力災害をもたらす。それを実際に経験した日本で、原子力を再生可能エネルギーと同列に置き、「非化石電源種」とみなして「非化石証書」まで発行させるのは余りにも非常識であり、許されることではない。福島の原子力被災者を前にして「原子力は非化石電源種だ」と主張できる鉄面皮な人間はいないはずである。
「FIT電源については、2017年度に発電したFIT電気から市場取引対象とし、できるだけ早い時期に取引を開始できるよう詳細設計・システム対応等に努めることとする。」(p.29)としているが、同時に「接続可能量」の撤廃による再生可能エネルギーの普及拡大を政府に勧告すべきである。経団連は原発再稼働の見込みが乏しいことから2017年度の市場創設に反対しているが、むしろ、逆に、市場創設により、非化石証書の絶対数が不足している現状を浮きださせ、再生可能エネルギーの普及を原子力が妨げている事実を明らかにし、再生可能エネルギー普及に向けたエネルギー基本計画の抜本的改定を求めるべきである。これなくして、非化石価値取引市場は機能せず、意味をなさないのだから。